「 藤沢周平【蝉しぐれ】を読んでみよう 」


 今、藤沢周平の著作を全部読む、ということを目指して、
日々、読書に励んでいるのだが、
今の時点で、一番好きなのは、「蝉しぐれ」だ。

 一人の少年の成長が、
淡い恋や友情、苦難と忍耐をからめて書かれているのだが、
これが・・・・・・いいんだよ〜!

 まず、主人公の文四郎がいい。
 友だちがいい。
 切ない恋が、またいい。

 打たれて打たれて、打ちのめされても、
文四郎は、塞ぎ込むことなく、ひたむきにまっすぐ生きる。

 人生を転げ落ちそうになっても、
家族や友人が彼を抱き上げてどん底から引き上げる。

 それは、彼自身が、
地獄のような状況でも、
腐ることなく、甘えることもなく、
自力で懸命に生きて行こうとする姿に、
周りが放っておけなくなるためだ。


 また、もうひとつの大きな見どころは、
彼の剣がめちゃめちゃ強く、
胸のすくような小気味よい打ち合いシーンだ。

 これが、カッコいい。
 めっちゃめちゃ、強い。

 どんだけいいとこ盛り込むの、
周平ちゃんてば、もう!


 藤沢周平の文は、
尋常じゃないほど「いい文」で「上手い」のだが、
それが前面に押し出され、
「オレって、文章上手いだろう?」という、
【作家の自己顕示欲】に邪魔されることなく、
内容に集中できるのだ。

 つまり、中途半端な表現力だと、
「上手い文ですね」
が第一印象となり、
作品よりも、作者の力量しか印象に残らないのだが、
職人技とも言える優れた文章は、
目の前に臨場感たっぷりに物語が展開されるので、
「文がうまいこと」に気付けない。

 それが、本当のプロの本なのだと思う。

 目の前に、住んだこともない時代の、
住んだこともない町が広がり、
今、ここで本当に見ているかのようになる。

 その場に自分が居合わせてしまうのだ。


 これ以上書くと、
もう、内容を全部言ってしまいそうだ。
 細かく、「このシーンは、ここがキュンキュンしちゃうよぅ!」と、
ネタばれさせてしまいそうだからやめておこう。

 ただ、ひとつだけ、はっきり言うとしたら、、
「悲劇の主人公気分でいじけながら生きるの、やめよう!」
ということだ。

 世の中、平等でもないし、
幸福に満ち満ちてもいないが、
それぞれが与えられた人生の舞台上で、
どう生きるか、
そう、どう生きるか、が問われているのだ。

 一見、不幸な人生のように見えても、
そこには、蒼い春があり、男と女がいて、
肩を並べ、今を生きる同志がいる。

 決して、不幸一点張りではなく、
人は、その生き様によっては、
人生をかけて、一瞬のきらめく光を放つ。

 長い時間軸の中での、
チリのように小さな存在の一人の人間が、
目のくらむような閃光を、
一瞬だけ放てる、という希望がある。


 いろいろあるけど、
さあ、明日も生きてみようぜ、
という極めて明るい希望が持てる読後感。



 読んでみて!
 読んでみてみて〜!!!

 そして、感想、寄せちゃって〜!



 (了)



(話の駄菓子屋)2012.11.20.あかじそ作