「   見て見ぬふり期  」


 長男21歳。

 あちこちから漏れ聞くところによると、
高校から付き合っている彼女がいて、
寮からちょいちょい家に帰ってくるのも、
こっちに彼女がいるからだ、という噂。

 そう言われてみれば、
高校の時の友だちと会ってくる、
高校の時の友だちと旅行に行く、
高校の時の友だちと、高校の時の友だちと、
と、よく言っている。

 私の知っている男の友だちともよく会っているようだが、
その子とは別の子と遊んでくる、ともいう時がよくある。

 詳しいことは、口ごもって言わないが、
これは、きっと彼女なのだろう。

 私も野暮なことはしたくないので、それ以上詮索しないが、
帰省しても、荷物を置いてすぐ出かけ、
そのまま友だちのところに泊まってきて、
荷物を取りにまた家に来て、すぐ寮に引き返す、
という、意味不明の行動も、
彼女と会っているというのなら、合点がいく。

 去年の正月だったか、
両親のところに来ていた弟が、
酔って長男に
「おう、もう童貞捨てたか?!」
と、からむと、
「はい」
と、まじめに答えている長男を遠くから目撃したことがあった。

 ベロベロに酔った勢いとはいえ、
親戚の集まりの席でデリカシーの無い質問を繰り出す弟も弟だが、
それに、まっすぐ「はい」と答える長男も長男だ。

 バカだろ、お前ら!

 あ〜〜〜! 
 あ〜〜〜!
 あ〜〜〜〜〜〜!!!
 見て見ぬふり!!!
 気付かないふり!!!

 長男も、21歳の健全な青年なんだし、
我が家の中では一番イケメンなんだから、
全然おかしく無いことなんだってば。

 うろたえない、うろたえない!


 ま、それは、それとして、
弟のバカが次男に
「お前も頑張れよ、兄ちゃんは、もうヤッタぞ」
と発破を掛け、次男がショックを受けていたのは、この間のこと。

 その次男も、この春専門学校に入学し、
先日19歳になった。

 次男のスケジュール帳を勝手にいじっていた小2の長女は、
次男が女の子とツーショットで写るプリクラを発見し、
即時、私にそれを持ってきて、見せた。

 見ると、気持ち悪いくらいに目がデカく加工された次男と見知らぬ女の子が、
二人で手でハートを作っていたり、
腰を抱き合っているツーショットプリクラだった。

 「気っ持ちわり〜〜〜〜〜っ!」

 思わず、叫んでしまった。

 まず、一重の次男の目が、不自然にデカすぎることが気持ち悪かった。
 次に、高校3年間、女子クラスでイジラれキャラに徹した次男が、
一人の男子として見てもらえていることにも違和感があった。

 そして、何より、
女子高生っぽい文字で
【やっちまったね?】
なんて書きこまれていることに、激しく引いてしまった。

 「マ〜〜ジかよ〜〜〜(゜_゜)」

 顔をひしゃげて不快感を隠さない私に、
長女は、すかさず、
「母としては、ふくざつだよね」
と言った。

 そして、私と長女が
カウカウのネタを歌い出したのは、ほぼ同時だった。

 ♪ 次男が女と抱き合っている〜〜〜、ヒクッッッ!

 次男の時は、長男の時と違って、
私は、即、みんなに言いふらした。

 三男にプリクラのことを報告し、
長女と一緒に、♪ ヒクッッッ! の歌を歌うと、
三男は、心底気持ち悪がり、
「アイツがか?! 気持ち悪! うっ! マジで吐きそう!」
と、本気でオエッ、となっていた。

 四男にも同じように報告すると、
「ま、いいんじゃない? いろんな趣味の人がいて」
と、彼らしく優しく、やんわりと、
「次男が女と付き合うこと」への違和感をもらした。

 そして、次男をペットのように愛玩する私の両親にも、
すかさず報告すると、
父も母も、ひっくり返って大笑いし、
「気持ち悪ぃ〜! でもいいんじゃな〜い? 面白いから!」
と、また笑った。

 そして、次男本人に
「気持ち悪いプリクラ見ちゃったよ!」
と言うと、
「バレた〜?」
と、嬉しそうに身をくねらせるのだった。

 ほ〜らね!
 この人は、言いふらされたい人なんだから!
 噂されたがり!

 「この俺様は、今、すっげえラブラブなんだぜ」って事を、
世界中のみんなに叫びたいタイプなんだから!


 シャイな長男の秘め事は、見て見ぬふり。
 わかりやすい次男の秘め事は、みんなで一緒に祝って(?)やる。

 恋が終わった時も、おそらく、
長男の方は、そっと見て見ぬふり。
 黙って、食卓を大好物の家庭料理で埋め尽くしてあげよう。

 そして、次男の時は、盛大に「なぐさめパーティー」だ。
 みんなで次男をからかって、
みんなで次男の肩を抱き、
みんなで次男の背中をバンバン叩いて、
ちょっとだけ酒を舐めさせてやるだろう。

 長男は、静かに時間を掛けて立ち直り、
次男は、ワンワン泣いて騒いで、また次の恋におちるだろう。

 これから、子供たちが次々とお年頃になり、
どんどん心も体も【大人】になるだろうが、
取り乱すこと無く、いや、絶対、その都度取り乱すだろうが、
取り乱していることをひた隠しにして、
シラッとして、大人の階段を昇らせてあげよう。

 見て見ぬふり期、っていうのかな、こういうの・・・・・・。

 結構、大変。
 こういうのって、初めての感覚だわぁ。
 親って、やっぱ大変ね・・・・・・

 (女の子のこういう時期、
世のパパは、気が変になるんじゃないかしら?)



 (了)


(子だくさん)2013.5.21.あかじそ作