「   エア引っ越し  」


 自分ひとり「断捨離」しようとしていても、
自分以外の6人の家族が、
凄まじく物を溜めこむタイプの人間だとしたら、
これは、もう、なかなか片づけが進まない。

 ここのところ、
長らく「保留」にしていたモノ達を、
バシバシ捨てているのだが、
仕事に疲れて休んだり、
気力や体力が湧いてこない日が続くと、
とたんに、また、バカスカ物が溜まってくる。

 片づけても片づけても、
いつの間にか、子供たちが、居間の隅に
各自の仮置き場を作り、
脱いだ服やカバンなどを置いていく。

 日々、確実に増殖していく、
次男のディズニーグッズ、
三男の漫画全巻セット、
四男のアイディア文具、
長女のオシャレアクセサリー。

 あんなに必死に片づけた茶の間が、
あっという間に足の踏み場も無くなっていく。

 時々大学の寮から帰省してくる長男が、
「うちって、こんなに散らかってたっけ?!」
と、立ちすくんでいる。

 家を出て、寮の個室をきれいに片づけて暮らしている長男に対して、
私は、恥ずかしくていたたまれなくなる。

 親として、女として、幻滅されるのを恐れている。
 夫に幻滅されるより、息子に幻滅されることの方が怖い。

 いやいやいやいや、これじゃあ、ダメだ。

 一番自分に幻滅しているのは、自分自身なのだ。
 自分の生活、自分の人生に幻滅している毎日に、バイバイしなくちゃ!

 何とかしなくちゃ!
 何とかしなくちゃ、このプレゴミ屋敷を!!!

 家族一人一人にとっては、どれもお宝なのだが、
本人以外にとっては、もう、ゴミでしかない、この大量の物たち。

 これら、「見る人が見ればお宝」も、
公共の場に置いている限りは、無価値なゴミなのだ。

 何としても、とっとと各自のテリトリー内に納めなくては!!!

 もう、「片付けなさい」と、口で言ってもダメ!

 片づけやしない。
 いや、片づけられない。

 しまう場所を、各人が持っていないからだ。
 各自のテリトリーは、もうすでに「お宝」で満タンだのだ。

 「捨てなさい!」と言っても、ダメ!

 各自が、真剣に宝物だと思っている物を、
簡単に捨てるとも思えない。
 残すものを選別できないほど、どれも愛しているらしい。

 じゃあ、どうするの?

 まともな文化的生活を、
すっきりしたシンプルライフを送るために、
この「物」をどうすりゃいいのさ!!


 もう・・・・・・、引っ越すしかないな。

 私は、日々の片付けやメンテナンスは苦手でも、
引っ越しとなると、燃える。

 子供のころから、父の仕事の関係で、
3年ごとに引っ越していた。

 「荷造り」というものが、
私の血肉の中に「生きるための基本的作業」として
組み込まれている。

 そうだ、そうだ。引っ越そう!

 「エア引っ越し」しよう!

 「エア」で、南の島に引っ越ししよう!

 南の島の、高床式住居みたいなコテージに引っ越すぞ。

 最低限の荷物を持って、ここを旅立つぞ!

 「エア」で!


 考えたら、「エア」でなく「リアル」に、
数年後には、子供たちは、ここを巣立ち、
数十年後には、親も「南国」でなくて「天国」に引っ越すわけだから、
もう、現実的な引っ越しとして、
マジで引っ越し作業しようじゃないか!

 澄んだ気が流れる、ガランとした部屋。

 そんな整理された空間で、
「リアル引っ越し」までの期間を、
整理された心で過ごそうではないか!

 そうしよう、そうしよう!


 引っ越します! うち!

 「リアル引っ越し」の前哨戦として、
マジのレベルの「エア引っ越し」します!

 マジで!
 エアで!


  (了)

(話の駄菓子屋)2013.6.18.あかじそ作