「 凶暴な夏 」 |
夏と言えば、 スイカ、とか、海、とか、蚊取り線香、とか、花火、とか、 風流なことを言っていられた昭和は、よかった。 もう、今や、梅雨明けと同時に36度だ37度だの猛暑の連続で、 殺人的な気象状態になっている。 私は、一年中野外で仕事をする人間のひとりとして、 この暑すぎる夏に、毎年、おそれおののいている。 一回、仕事中に熱中症にかかってからというもの、 もう、配達に出かける前には、念には念を入れて、 水筒、塩飴、濡らして冷やすネックタオルや帽子など、 完全防備で出発しているのだが、 それでも、炎天下で何時間も駆けまわっていると、 毎回、朦朧としてくる。 8月や9月になれば、 体も心も、暑さへの耐性ができているので何とか乗り切れるが、 6月7月の、まだ体が慣れていないときがヤバい。 それでも、仕事が終われば、 家でシャワーを浴びて、エアコンの効いた部屋で昼寝できるので、 体力回復できていい。 しかし、公立の学校に通っている子供たちは、 相変わらずエアコン無しで風通しの悪い部屋で 高い人口密度の中、一日じゅう勉強しているのだ。 これは、きついと思う。 おまけに、部活では、炎天下で何時間も走ったり、 閉め切った暑い体育館で卓球をしたりして、 過酷な環境の中で長時間激しい運動をしているのだ。 毎年の事だが、 秋頃になると、完全に根性が座って、 「いやあ、夏が終わるのが淋しいもんだね」 などと、余裕のコメントを吐けるのだが、 まさに今、7月の初めは、もう、弱音しか出てこない。 「夏が怖い」 「暑くて死んじゃう」 「もうすでに疲れが溜まってる」 「夏から逃げたい」 「こんな気温は、異常だ!」 「何とかならんのか!」 「助けて」 「マジでイヤだ、ホントにイヤだ」 ・・・・・・と、もう、 いつもいつも夏への恨みごとや恐怖感を語っている。 梅雨明けと同時に37度の猛暑日になった、まさにその日、 私は、思わず遠い目でつぶやいてしまった。 「逃げたくなるような過酷な状況へと、これから確実になるというのに、 誰も何も助けてくれない・・・・・・。 当たり前のことだから、と言って、平常のこととしてやり過ごされる。 これって、きっと、最晩年と似ているんじゃない? 自分は、マジで、死ぬほど苦痛(超マジのヤツ)なのに、 周りの人間は、極めて平気な顔をして、 『歳だし、そういう病気なんだから、仕方無いよ』とか、 『今日は、顔色がいいですね』とか言って、 全然助けてくれやしない。 医者も、医者のくせに、全然自分を楽な状態にしてくれない。 誰か、助けてよ! 何とかしてよ! マジで死にそうなのに! マジで!!」 ・・・・・・って。 金でどうにかなるものでも無し。 人情でやり過ごせるものでもなし。 仕方ないこと。 仕方ないことなんだよ、あんたが苦しんで死ぬことは。 自然なことなのだよ、はっはっはっは、自然の摂理。 ・・・・・・なんて、こちとらマジで死にそうになってるのに、 救急車もICUでもない。 「人は、みな死ぬものなのだから」 なんて、まるで人ごとで、 朗らかに私の生を見捨てようとしている。 た〜〜〜すけて〜〜〜〜! 私は、今にも死にそうです! 誰か、私の、一生で一番のピンチを助けてくださ〜〜〜い!! ・・・・・・でもきっと、誰も助けられないだろう。 私は、自然の摂理でもって、 あったり前のように死んじゃうのだろう。 やっだ〜〜〜〜〜ん(T_T) 淋しい〜〜〜〜〜(*_*; 怖い〜〜〜〜〜〜〜(>_<) こんなリアリティがシュンシュン沁みる実感が、急に来た。 夏からどうしても逃げられない今の私に、 急に差し迫ってきたのだった。 よし、決めた! ・・・・・・いよいよ親が伏せった時、 私は、親に空々しい気休めを言うのをやめよう。 ここが痛い、と言われたら、 その痛みがほんの少しでも和らぐように、 医者に本気で掛け合うし、民間療法だの漢方だの、 1ミリでも2ミリでも楽になる努力をしよう。 私が、親の苦しみを本気で何とかしようとしている姿を、 親に見せよう。 ひとりで苦しんでいるんじゃないよ。 おねえちゃん(私)は、いつも、 パパやママの苦しみに寄り添っているよ、と、感じてもらおう。 ごくごく自然な「死」という現象を、跳ねのける力なんて無いけど、 寄り添おうと思う。 死にゆく親の心を 一人ぼっちにさせないようにしよう、と思う。 死んでいくことは怖いけど、横におねえちゃんが居てくれる、と、 安心してもらおう。 「怖さ」が何よりつらいのだから、 怖さを誰かと分け合って、 怖くなく今生を終えられればいいんじゃないか。 自分もそうありたいと願うから、 親にもそうしてあげたい。 自然な現象とは、 人に何かを施してくれるもの、癒してくれるものなんかじゃなく、 人間の事情も人情も全然関係なく、 何の意図も意識も無く、 動植物の命をつかさどっちゃう、超クールなものなのだ。 猛暑から逃げられないのも、 死ぬことから逃げられないのも、 だから、そんなにヒーヒ―嘆かなくてもいいのか。 なんとなく、何の意図も意識も無く、 自然に身を任せれば。 とは、いうものの・・・・・・ 暑すぎるの!!!!! (了) |
(しその草いきれ)2013.7.9.あかじそ作 |