「 四男、オーストラリアに行く@ 」


 中2の四男が、学校から帰るなり、
「ぼく、オーストラリアに行っていい?」
と聞いてきた。

 「なに? どうしたの?」

 びっくりして聞くと、

「友だちに誘われてさあ」
と言いながら、学校で配られた一枚のカラーチラシを渡してきた。

 それは、私たちの居住している市が、
オーストラリアのある市と姉妹都市となったことを知らせるもので、
市内の中学生20人を親善大使として派遣する、というものだった。

 中学生は、それぞれ、
オーストラリアのホストファミリーの家に1週間ホームステイし、
地元の学校に通学したり、
地域の歴史や文化を体験学習したり、
市長のところへ表敬訪問したりするらしい。

 ちらりと代金を見ると、22万円代となっており、
次男が高2の時ホームステイした38万円と比べると、
格安なのだった。

 市の国際活動の一環としての企画ということで、
その金額で実現できているのだろう。

 「いい機会だから、行ってくれば?」
と、軽く言うと、
「やった〜〜〜〜〜っ!!」
と、四男が思った以上に喜んでいるので、こちらが驚いてしまった。

 (えっ? 本気で行く気なの? 英語、からっきしダメなのに?!)

 よく読むと、市内各中学校から応募してきた中学生の中から、
面談や英語面接などで選考されるらしい。

 それなら、まあ、
英語面接の時点で落選するだろう。

 なにせ、四男の英語力ときたら、
中2にもなって、アルファベットも怪しいくらいで、
まったく、本当に、全然英語の成績も振るわないのである。

 受かるわけがない。

 こういうのは、
日本語もままならないバブバブの赤ちゃんのうちに英会話を習い始め、
何年もずっと外国人の先生について習い続けている、
【ええとこの子】が行くものなのだ。


 ところが・・・・・・

 これが・・・・・・

 なんと・・・・・・
 なな、なんと・・・・・・

・・・・・・受かっちまった!!!

 アルファベットもおぼつかない、うちの四男坊が!


 ニコニコと愛嬌のある四男。
 面談も、面接も、
何が何だかわからないけれど、
ニコニコしながら乗り切ってしまった。

 英語は、できないけど、
この世界共通言語である感じのいい笑顔。

 それこそが、合格の理由であったらしい。


 「えええええっ?! 受かっ(ちゃっ)たのぉ?!」

 私は、叫ばずには、いられなかった。

 「受かっちゃったの?!」

と言うのは、さすがに気がひけたので、
何とか口元ぎりぎりで(ちゃっ)を飲みこみ、

「受かっ・・・・・・たの?!」

と、言い換えたが、
(22万円超の経費をどこからどう捻出したらいいのだ、この野郎!)
という二の句を継がないようにするのは、
かなりの苦労が要った。

 「よ・・・・・・よかったね! オーストラリアに行けるんだね」
と、一応、わが子の奇跡の合格を喜んでもみたが、
やはり、「英語力ゼロなのに」と「金も無いのに」という不安が、
胸の中をぐるぐるぐるぐる駆け巡るのだった。

 応募したのが、4月。
 合格したのが5月頭。

 パスポート発行手続き。
 ホストファミリーへのお土産の購入。
 全編英語での家族の履歴書記入。
 やはり全編英語での自己紹介文記載。

 ニコニコしながら「わからん」と言っている四男を横目に、
母である私の方が、四男の分まで焦りに焦り、
和英辞書や翻訳アプリなどを駆使して英訳を調べ上げ、
必死に四男をつついて各種書類を英語で書かせた。

 月に何回か、
子供たちは、オリエンテーションで集まり、
ホームステイのルールや、オーストラリアの生活習慣、
言葉の特徴などを勉強していたようだが、
四男は、遠足気分が盛り上がるばかりで、
一向に英語を話すところを見たことがなかった。

 大丈夫なのだろうか?

 たったひとりで、1週間も、
ことばの通じぬ見知らぬ国の見知らぬお宅で、
生活していけるのだろうか?!

 あちらのお宅でも、迷惑なんじゃないかしらん?!


 でも、本人の遠足気分は止まらない。


 7月。

 夏休みに入った。

 四男は、次男のお下がりのドでかいキャリーバッグを引きずりながら、
オーストラリアへと旅立った。

 身長145センチの小柄な中2の四男が、
英語がしゃべれない、聞き取れない、わけわからない四男が、
友だちとケタケタ笑いながら超無自覚で夜の成田を飛び立った。

 私の運転で、ちょっとそこまで買い物に行くのも酔う四男が、
国際線の飛行機に乗り、その後、あちらでは、国内便に乗りかえ、
そして、半日バスで揺られて目的地に向かう長旅だ。

 あの、ひとりで駄菓子屋にも行けないヘタレなチビスケが、
諸々超無自覚でグレートバリアリーフに行くってか?!

 今まで財布を20回以上落とした「貴重品失くし魔」の四男が、
パスポートをウエストポーチのポケットにピロッと突っ込んで、
へらへらしながら、青い海を越えるのかよ?!

 あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
 マジか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!

 マジなのか〜〜〜〜〜〜〜〜っ?!

 ああ・・・・・・めまいが・・・・・・

 心配しすぎて・・・・・・
 心配しすぎて、神経摩耗しすぎて、死ぬ・・・・・・



   (つづく)


(子だくさん)2013.8.6.あかじそ作