「 グラデーション 夏休み 」

 今年の夏休みのふわふわ感は、前代未聞だった。

 今までの夏休みは、
5人の子供たち全員、7月の20日前後に、
「いっせーのせ!」で一斉に始まって、
8月31日に、「ザクッ!」と終わったものだが、
今年は、違った。

 長男の通う大学(正確に言うと大学校)は、
とにかく、「エンジニアの即戦力育成機関」なので、
夏休みは、8月第1週から、第3週までで、
実質3週間しかない。

 その上、もうすぐ2級建築士の試験があるので、
休みに入っても、学校と寮で受験勉強を続け、
家に全然帰ってこない。

 勉強の合い間に、
単発で、夏フェスの警備員のバイトなどを入れているらしく、
帰省する暇などないらしい。

 8月の中旬に、
「少しは運転しないとペーパードライバーになっちゃうから」
と、数日間だけ帰ってきて、
昼間少しだけ車を運転し、
ほとんどの時間、茶の間で設計図を描いていたけれど、
また、あっという間に寮に戻ってしまった。

 大学3年の長男にとって、この試験は、
就職に関わる大事な資格試験だし、
夢を実現するためにどうしても必要な過程なので、
そりゃあ、真剣だ。

 だから、この夏は、「休み」ではなく、
「勝負」の時であり、
「夏休み」なんてものは、無いのであった。


 次に次男だが、
デザイン専門学校に通う次男の夏休みは、
8月の頭から、9月の第1週までだった。

 小学生の長女、中学生の四男、
そして、高校生の三男の夏休みが、
従来通りの7月20日前後〜9月1日までなのに対し、
微妙に1週間づつずれているのがミソだ。

 小中高校生が夏休みに入ったということで、
すっかり「夏休みモード」に入った親は、
朝、次男を何度も起こし忘れた。

 「ちゃんと自分でアラームセットして、自分で起きなさいよ!」
と、言ってあるにも関わらず、
次男は、エアコンの効いた茶の間で、夜、テレビを観ながら寝てしまうので、
毎日遅刻してしまうのだった。

 「ちょっと! 僕、まだ夏休みじゃないんだってば〜!」
と抗議する次男に、
「うちは18歳成人制だよ。19歳は、もう大人。自分のことは自分でしな!」
と、私も言い返したが、
内心は、(やべえ、忘れてた!)と、舌を出していた。

 しかし、なぜわざわざ1週間休みをずらしているのだ、専門学校。
 世間が平常モードに戻っている閑散期の観光地に、
職員旅行にでも行こうってのか?!

 みんなが高速回転で支度している9月2日月曜日の朝、
次男ひとりだけ、部屋着のままのんびり茶の間に座して、
「今日、友だちと映画観てくるわ〜」
などと言っている。

 全員が一斉に新学期になってくれないと、
やはり、調子が狂う。

 最近は、8月の最終週から新学期が始まる学校も増えたと聞く。

 新しい教育課程で、勉強することが増えたために、
まだまだ35度超の猛暑日が続いている中、
前倒しで始まる新学期だが、
エアコンがまだ入っていない学校も多いのに、
勉強になるのだろうか?

 人口密度が猛烈に高い教室。
 体感温度が40度にもなろうという部屋だ。

 暑さをしのぐのがやっとの環境で、
何か新しいことを脳に刷り込んでいく作業ができるものなのだろうか?


 ああ、学校ごとに違う夏休み期間。

 パラパラといつの間にか休みが始まって、
パラパラといつの間にか終わる。

 その間、中2、高2の四男、三男は、
部活で、毎日学校に行く。

 弁当と、でかいジャグを持って、
一日中、猛暑の学校で運動をしてくる。

 夏休みに入ってからの方が、
朝も早いし、学校に居る時間も長い。

 試合だ、遠征だ、と、
連日の4時起き、5時起き。

 バカにならない遠征費こと、交通費。
 毎日3000円、4000円と、持ってゆく。
 合計すると、大変な金額だ。


 ああ、子供たちが小さい頃は、
「夏休み中の昼ごはんが大変〜!」
と、愚痴をこぼしていたが、
そのころが、もはや懐かしい。

 今や、夏休みとは、
連日、まだ暗いうちに起きて、弁当水筒を準備し、
毎日、数千円づつ持っていかれる、という日々。

 去年までは、親が仕事で家を留守にする間、
四男が長女を見ていてくれたのだが、
今年は部活で選手になったため、それもできず。

 小学校低学年の長女を預ける先を毎日探し、 
どうしても見つからない日は、
夫の仕事先の隅っこで過ごさせる。

 私の仕事が終わった後に、
大汗かきながら夫の職場に娘を迎えに行く、という作業も増えた。

 もう、今となっては、
どうやって切り抜けたのか思いだせないのだが、
預け先も見つからない上に、
40度以上の高熱が出た長女を
医者に連れて行ったり、仕事で大量の配達をしたり、
しっちゃかめっちゃかの日もあった。

 でも、どうにか、やり過ごすことができた。

 やれやれ!!


 きっちりとした線引きもなく始まり、
いつの間にか終わった夏休み。

 今年流行りのファッションの、グラデーションのようだった。


 「全員休み」という日は、ほぼ無し。
 したがって、誰かしら子供を送り出す親には、
実質、休みなし。

 無理矢理調整して作った「全員休み」の3日間は、
夫の故郷に帰省して、
「夫のマイペース」に振り回され、疲れ果てて終わった。

 殺人的な連日の猛暑。
 一日中外で配達の仕事をしているので、
毎日、倒れないようにすることだけでやっとだった。


 あのねえ。
 この夏休みを、一言で言うなら、こう。

 「ダメだこりゃ!」



  (了)


(子だくさん)2013.9.2.あかじそ作