「 子供との相性 」

 人と人とに相性があるように、
親と子にも相性があるのは、当然だと思う。

 ただ、世間には、脈々と
「親なんだから、自分の子供のすべてを愛しているんでしょ!」
という雰囲気がある。

 そりゃあ、愛してますよ、もちろん。

 影も形も無い状態から、
命がけで産み出して、
もちゃもちゃして自分で何もできない、
ちっちゃいアカンボの頃から、
ずっとずっと、自分の事を後回しにしまくって、
毎日毎日、毎日毎日、
世話し続けてきた存在ですからね。

 しかし!

 しかしね?!

 (おや? コヤツのこの性質ってどうなんだい?)
 (ちょっと! こういうところ、なんかイヤ!)
 (夫の親の嫌いなところに酷似してるじゃないか!)
 (いや待て、自分の嫌なところとそっくりだぞ!)
 (許せない、こういう性格!)

 という部分が、育てている過程でどんどん出てきたりする。

 時には、愛するわが子に
「あんたなんか大嫌い!!」
と、叫びたくなることもある。

 可愛さあまって憎さ百倍。
 愛憎は裏返し。

 愛情が凄い分、「キライ!」と思う力も相当だ。

 私には、子供が5人いるが、
そこを乗り切ることに大変な苦労があった。


 まず、長男。

 今でこそ、親の気持ちから、下の兄弟たちのしつけ、
家族の経済状態まで、
空気を読んで、しっかり頑張ってくれている。

 しかし、幼児期は、物凄く神経質で、
異常なほどの人見知り、
幼児健診や予防接種のたびに
病院じゅうに響き渡りほど号泣し、暴れ、
親子共々、ぐっちゃぐちゃになった。

 おまけに、2歳下に次男、4歳下に三男がいて、
それらを私がおんぶに抱っこしている状態で、
長男がひっくり返って凄まじく暴れてグズるので、
日々の買い物や病院通い、銀行での手続きなど、
毎回毎回、いちいち大パニックになり、
本当に毎日、凄まじく疲弊した。

 頭がよく、勘がいいだけに、
学生時代も、ちょっとしたことでいちいち傷つき、
優しさゆえに友だちも多かったが、
いじめられることも多かった。

 ともかく、長男に関しては、
体が弱く、たびたび入院や手術をしていたこと以上に、
情緒面でのフォローが大変だった。

 今でも、時々、
「どうしよう、どうしよう」と言っているので、
「お前なら絶対大丈夫だよ」
と言い続けている。

 実際、今まで、大丈夫だったのだ。

 この子は、何といっても、我が家の第一子で、
私の【親になる研修】にずっと付き合ってくれた恩人だ。

 しかし、そう思えるまで時間がかかった。

 そう思えるまでは、
「あたし、この子と合わないよ!」
と、何度も夫に泣きついた。

 でも、そう思っていた間も、常に常に、
この子を愛していたのは、変わりない。


 次に次男!

 こいつは、もうさらっと一言じゃ語れない。

 もう・・・・・・

 もう・・・・・・

 この野郎には、ホント、もう、半端じゃない苦労をかけられている。

 次男は、私の父に顔も性格も酷似していて、
父という人間は、問題山積みの人間なのだ。

 父から解放されるために夫との結婚に逃げ込んだ、
というところもあったのに、
生まれた子供が、また「父のミニ版」だったのだ。

 これは、地獄だ。

 生まれてから1歳になるまで、
起きている間じゅう、
【私】が、【立った状態】で、【右胸に立て抱き】していないと
近所から苦情がくるほどの異常に狂った泣き方をするのだ。

 座ったり、左腕に持ちかえたり、
横に抱いたり、私以外の人が抱いたりすると、
タバコの火を押し付けられたかのごとく凄まじい泣き方をするので、
1年にわたり、3つの苦行、
【私】が、【立った状態】で、【右胸に立て抱き】を続けた。

 食事も、立ったまま、左手で掻き込んでいた。

 そして、その間、ずっと、
「抱っこ! 抱っこ!」
と、2歳の長男が号泣し、暴れていたのだ。

 2歳の長男も可哀想だったし、
私も心身ともに、本当につらかった。

 そこで一生分甘えた次男は、
今では、漫才の相方のように私と話が合うヤツになった。

 手に負えないバカ野郎の父と違い、
父よりだいぶ相手の気持ちのわかる人間になった。

 ただ、そう思えるまでは、ずっと、
「コイツ、ホント、イヤ!!!」
と思っていた。

 愛嬌があり、
いつも我が家に笑いをもたらしてくれる面白い男ではあるが、
時々、父からの遺伝で、自己中全開になり、
血の気が多い三男が掴みかかりそうになる。

 そんな時、瞬時に私が、
「アイツは、【ミスターむかつく】だ! ホント、むかつくよな!」
と、三男に全力で共感してやることで、
ギリギリ三男の怒りを制することができている。


 その三男に関しては、
これもまた、一筋縄では、いかない。

 長男に輪を掛けた神経質で、いつも気分に支配されている。
 高校2年になった今でも、
ぐずり方は、尋常じゃない。

 「友だちにどう思われるか」をいつも気にして、
外で自分の言いたいこともやりたいことも抑えているので、
家に帰ってきてからの不機嫌ったらない。

 小さいころから器用で、丁寧な仕事をし、
職人気質そのものなので、
もう、職人になるしかない人間だと思う。

 気難しい職人の子供時代、
そんな感じの子供だった。

 幼児のころから、
「不器用ですから」
みたいな、ミニミニ高倉健だった。

 だから、いつも私は、心のどこかで、
ずっとずっと三男の機嫌をとろうと神経を使ってきた。
 そして、それは、大変なストレスなのだ。

 しかし、間違ったことをしたら、
やはり他の子同様、全身全霊で叱ったし、
いつまでもしつこくぐずっていると、
「男のくせいに、ぐじゅぐじゅ言ってんじゃねえぞ、このガキャ〜!」
くらいの事は、言った。

 しかし、細かくてしつこい性格だからこそ、
妥協のない完璧な仕事ができる。

 それが職人なのだ。

 しかし、そう達観できるまで、ずっと私は、
「もう、こいつ、ホント、イヤ!」
と、思っていたのだ。


 さて、四男。

 この子は、なんだろ。

 今までの3人が猛烈に手の掛かるヤツだったおかげで、
物凄く育てやすかった。

 愛嬌があるし、優しいし、可愛いし、
ニコニコしながら、楽しんで育てられた。

 ここへ来てやっと、
「あら、子育てって楽しいんだねえ?」
と、思った。

 もろ、夫のDNAが優勢なので、
私の血筋の【業の濃さ】がまるで感じられず、
ふわっとした子で、単純に「楽」なのだった。

 この子に激怒したことも無いし、
むかついた事も無い。

 相性がいいのだと思う。

 しかし、最近、夫に似てきた。
 優柔不断で、はっきり物を言わず、
何かうまくいかなくなると、
ひとりでイライラしたり、べそをかいている。

 「どうしたの?」

 と聞いても、何も答えず、
ピッチリと心を閉ざして、
ひとりでイライラして、べそをかく。

 そんな時、私は、
一番言ってはいけない言葉、

【お父さんみたいになっちゃうよ!】

を、速攻で発してしまうのであった。

 いかんいかん。


 そして、最後に長女。

 この子は、待ちに待った初めての女児なので、
存在自体が宝物なのだが、
ハッキリ言って、私に似ている。

 いや、私の母に似ている。

 見た目も、性質も、私に似ているのだが、
詳細を言うと、「整理整頓が好き」とか、「ファッションが好き」とか、
女子力的には、私ではなく、母の方にそっくりだ。

 この性格には、慣れているので、
扱い方もわかるし、なじみがある。

 だから、何を考えているのか、
どういう状態が心地いいのか、
どういう進路なら最善なのか、
何でもかんでも、物凄く見通せる。

 だから、相性もいいし、わかりあえる。

 5人の中で、誰が一番相性がいいか、と聞かれたら、
長女だと答えると思う。

 しかし、どの子もどの子も、
人一倍手が掛かっただけあって、
大きな愛着がある。

 子供たち全員と相性抜群、なんてことは、
まず絶対にないと思うが、
私は、間違いなく、子供たち全員に愛着がある。

 私は、母親として、全然優等生ではなく、
子育て上手でもない。

 優等生ママなら、「愛情たっぷり」なのだろうが、
私は、そうじゃないので、「愛着たっぷり」ってところだ。

 相性は、イマイチでも、
愛着は、満点だ。

 それでいいじゃないか。

 愛しているぞ、お前たち!

 死ぬまで、いや、死んでも、ずっとずっと、
お前たちの味方だし、
お化けになってもお前たちを見守る。

 ひ〜〜〜ひっひ!
 わかったか!


 (追記)

 子供の方から見たら、
気分屋で、すぐキレて、ガサツで凶暴な私は、
全然いい母親では、無いだろし、
「この親、自分と相性最悪!」
と思っているだろう。

 しかし、自分にとっては、たったひとりの母親で、
留守がちな父親の分まで頑張って立ち働く姿を見て、
「仕方ねえな」
とも、思っていることだろう。


 親子も、そして、もしかしたら夫婦も、
どちらかと言うと、
【愛情】より【愛着】でつながっているのかもしれない。

 脱ぎたくても脱げない、
真冬のクタクタ肌着みたいに・・・・・・



 (了)

(子だくさん)2013.10.29.あかじそ作