「 明るいニュース 」

 長男は、頭の回転が速いが、
おっちょこちょいで早合点だ。
 
 小学生のころから、
問題を最後まで読まずに答えを書き、
とっととテストを終わらせて、
裏に絵を描いているタイプだった。

 で、制限時間ぎりぎりになって、
「ちょっと見直しでもしておくか」
と、問題を読み返し、
そこで問題の読み違いをたくさん発見して、
慌てて答えを書き直すが、間に合わず、
悔しい点数を取ってしまう、
そういう子だった。

 問題は、2回づつ読んで、
答えた後は、必ず見直すんだよ、
と、何度もアドバイスしていたのだが、
性格というものは、なかなか直らず、
結局、今でもずっとそんな調子だ。

 落ち着いてやれば、98点だが、
いつも焦って82点、という人生。

 まあ、
【問題を熟読しても、熟考しても、頑張って頑張って78点】
という私には、
それをどうこう言えないのだが、
やはり、アイツは、肝心なところでまた、
その悪い癖を出してしまった。


 今年、2級建築士の資格試験を受験した長男。

 毎日必死に勉強して、何とか学科の試験を受かることができた。

 そして、夏じゅう、それこそ死に物狂いで
図面を描きまくり、今だかつて無いほど頑張って、
二次試験となる設計の試験を受験したが、
そこで、アイツは、やっちまった。

 ハウスレストランの設計をするように、という問題で、
「よっしゃ、もらった!」
と、スラスラ描き、とっとと終わったが、
制限時間ぎりぎりになって、問題文に
「厨房の真上に子供部屋を作らないように」
という条件があるのを発見してしまった。

 思いっきり厨房の上に子供部屋を描いていた長男は、
そこで(イヤ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!)と心の中で叫び、
残り少ない時間で、完成してた図面を消しまくり、
急いで考えて無理矢理子供部屋をずらしたが、後の祭。

 不自然に広い踊り場や、やたら長い廊下などができてしまい、
まったく意に添わない図面に仕上がってしまったのだと言う。

 「落ちた!!」

 長男は、落ち込んで、
「頑張っても、報われないこともある」
という絶望の中でこの秋を過ごした。

 そして、12月5日。
 合格発表の日。

 朝から私もやきもきしていたが、
本人から「絶対落ちてるから!」と聞いていたので、
どうなぐさめたらいいものか、
その言葉をずっと考えていた。

 朝9時過ぎ、仕事で配達している最中、
私の携帯電話に長男から着信があった。

 出ると、
「お母さん! 2級建築士試験・・・・・・何と、受かりました!」
という長男の声。

 「えっ! マジか!!」

 配達中の道端で、思わず叫んでしまった。

 「落ちたと思ってたら、受かってたんだよ! もう僕、木造住宅建てられるよ!!」
と、興奮して叫んでいる。

 「うっそっだっろっ!!」

 もう、驚きしかなかった。

 「ちょっとそれ、確かなの? またおっちょこちょいかもしれないから、
よく確かめなさいよ!」

 と言うと、

 「何度も何度も確かめたよ! 受かってた! 僕、受かってたよ!」

と、言う。

 「お、おめでとう・・・・・・良かったねえ・・・・・・嘘みたいだね・・・・・・」

 電話を切った後も、何だかキツネにつままれたみたいで、
信じられなかった。

 長男の大学校は、2年間の基礎学校を卒業し、
さらに2年間の応用学校に進む形となっている。

 だから、実質大学3年生だが、
実は、一回専門の学校を卒業しているので、
「専門課程を修得する学校を卒業」という、2級建築士の受験資格を得ていた。

 普通の4年制大学の建築科は、二十歳過ぎていても、
「卒業」という条件がまだ得られないので、
2級建築士の受験ができないのだ。

 就職活動では、
有名大学の学生とも肩を並べなければならないが、
長男のような地味な職業訓練大学校出身者の強力な武器として、
「2級建築士の資格を持っている」ということは、強いのだそうだ。


 17年前から、このボロ家のリフォームを夢見て、
毎日、ちゃぶ台でチラシの裏に、
何枚も自己流の図面を描いていた母親の横で、
「ボクも、かく!」
と言って、一緒に「ゆめのおうち」を描いていた長男。

 自分の夢も叶えたが、
一緒に母親の夢も叶えちまった。


 ありがてえぞ、おい!!


 家事育児と肉体労働で、
私の人生のほとんどが埋め尽くされていたが、
願うことすらもう諦めたたくさんの夢を、
子供たちが叶えてくれているじゃないか!!

 「自分で自分の家のデザインをしたい」
という夢を、長男が叶え、
「美術学校に行きたい」
という夢を、次男が叶え、
「大工になりたい」
という憧れを、三男が目指し、
「ものつくりのプロになりたい」
という夢を、四男も追い、
「お兄ちゃんのいっぱいいる、可愛がられる女の子になりたい」
という、子供の頃の夢を、長女が叶えた。

 
 あんまりいいことのなかった毎日が、 
合格を知らせる一本の電話で一変した。

 これからいいことが次々起こるような、
起こらないまでも、希望の持てる人生を送れるような、
そんなこそばゆい予感がしてきた。

 同じ人生でも、
希望をもって生きるのと、
絶望をもって生きるのとでは、
全然違う。

 まったく同じ人生でも、
心の持ちようで天国にも地獄にもなる。

 私の毎日を、
天国に変えてくれる子供たちに、
本当にありがとうと言いたい。


 (了)

(子だくさん)2013.12.10.あかじそ作