「 口を出さない手も貸さない 」


 大学3年生、21歳の長男が、
日曜日にちょっと車を貸してくれ、と言うので、
「いいよ。気を付けてね」
と許可したのだが、よく聞くと、
午後から夜にかけて、
彼女を乗せて佐野のアウトレットまでドライブするのだと言う。

 初心者マークの付いている間は、
私が隣に座って、細かいコツを教えながら運転させていたのだが、
今年に入ってから、長男がひとりで運転し始め、
市内ではあるが、国道を走ってあちこち行っていた。

 ところが、急に彼女を乗せて、
県をまたいで栃木県まで行くと言うので、
心配になってしまった。

 確かに、長男の運転は、慎重で、
割と安全運転だとは思うが、
時々、車間距離が短すぎたり、
急に飛び出してくる車に対して、対応が遅かったりするので、
何だか、やはり危なっかしい。

 そういう、まだまだ初心者レベルの運転技術なのに、
妙に自信を付けてきているのが余計に危ない。

 高速道路には乗らないで行く、と言うが、
彼女を乗せて行くというので、
事故ったら怪我をさせてしまうリスクも伴うじゃないか。

 「もっと近くにしたら?」
とか、
「帰りが夜になるって言うけど、目が悪いんだから、明るいうちに帰ったら?」
などと、いろいろ言ってみたが、
彼女ともう計画を立てた後のようで、
「ダイジョブ、ダイジョブ。安全運転するから」
と言ってかわされた。

 まあ、それなら、心中穏やかではないけれど、
不安な気持ちを無理矢理忘れて、
仕事や家事や趣味に没頭して過ごすしかないじゃないか。

 だって、彼は、もう、成人した大人なんだから。

 いつまでも、あれはダメ、これは危ない、と、
親が先回りして過保護にしていたら、
彼は、大人になる機会を失ってしまう。

 心を無にして、
あれこれ口を出すのをぐっとこらえる。

 いろいろやってやらない。
 ぐちゃぐちゃ細かいことまで教えない。
 
 そこで多少危ない目に遭っても、
難しい局面になっても、
それは、自分で解決していきながら、
本当の大人になっていくんだから。

 これからどんどん子供たちは、成人していく。

 あいつもこいつも、
親の目も手も届かないところへ、
どんどん出て行く。

 危ないことも、わからないことも、
難しいことも、哀しいことも、起こるだろう。

 子供が危ない目に遭うかもしれないところに、
あえて「さあ行け」と言う難しさ。

 その先にある、
楽しいこと、嬉しいこと、幸福なことにたどりつくために、
いばらの道に向かう子供の、その背を押す苦しさ。

 子育ての最終段階、ここにあり。

 心配だし、危なっかしくて見てられないけど、
そこをあえて、
口を出さない、手も貸さない。

 ぐっとこらえて、知らんぷりだ。

 心配性の私には、これが結構しんどいんだなあ、う〜〜ん。



 (了)


(子だくさん)2013.12.24.あかじそ作