「 なんだこれ 」

 四男の14歳の誕生日のお祝いをしに、
私、三男、四男、長女の4人で、
近所のファミレスに行った。

 入店したのは、昼過ぎだったが、
オープンしたての店で混んでいたので、
15分以上、待たされた。

 待っている間、
三男四男は、ぞれぞれスマホをいじり、
小2の長女は、いつも持ち歩いている小さな手帳を見ていた。

 私は、いつものように、
周囲の人々の観察をするともなしにしていると、
今日に限って、いろんな人がいろんなものを落としていた。

 入口の前のオープンキッチンで、
大きな釜に大量の米をザッサ〜ッ、と入れる若いバイトのお兄さん。

 ガサツな動きをしていたので、何かやるなとは思っていたが、
やっぱりやった。

 米を、釜の向こう側にだいぶこぼしたのだった。

 釜の向こう側、というのは、
つまり、入口の客が待っている床だ。

 バイトくんは、全然こぼしたことに気付いておらず、
床に生米が数十粒ぶちまかれているままになっていた。

 その上を、会計を終えて出て行く客が踏みつけて歩いて行く。

 入ってきた客が、また、踏みつけて行く。

 (あ〜あ〜あ〜あ〜)

と、見ていると、
今、その米を踏みつけて出て行ったおじさんが、
店の外に出て、胸ポケットからタバコを出したのが、ガラス越しに見えた。

 食事中、ずっとタバコを我慢していたのだろう。

 おじさんは、急いでタバコを出した時に、
一緒に千円札を数枚、外の地べたに落とした。

 タバコを吸いたい一心のおじさんは、
そのことに気付かないまま、
どんどん駐車場に歩いて行く。

 「あ! お金落とした!」

 私だけがそれを目撃していたので、
私は、急いで店を駆け出て、おじさんを追い、
お金を拾って「これ落ちましたよ!」と、渡した。

 「やれやれ」
と、店内に戻り、
「お母さんおせっかいだから、見て見ぬふりとかできないのよ」
と、高校生の三男に言った。

 その三男ごしに、今度は、入ってきた客が見えた。

 中年の女性が歩きながら、
ビニールに入った薄いおしぼりをバッグから落とした。

 「あ、落としましたよ・・・・・・」

と、言う間もなく、女性は、店の奥に入っていってしまった。

 どうやら、駐車場の車の中で順番を待っていて、
店で一人で待っていた夫に呼ばれて、
夫が案内された席に直接向かったようだった。

 その床の上には、
生米と、おしぼりとが、ジャラジャラ落ちていた。

 (う〜〜〜ん、気になるなあ!!)

と、思ったが、客である私がしゃしゃり出て行って、
そそくさと掃除するのも何かおかしい気がする。

 かと言って、
混んでいる店で、てんてこ舞いする店員を捕まえて、
「ここ、散らかってますよ」
と、えらそうに指摘するようなこともしたくない。

 (でも、ここ、ひどいぞ・・・・・・)

 もやもやしてると、順番が来て、名前が呼ばれ、
後ろ髪引かれる思いで席に着いた。

 子供たちとランチを食べ、
ドリンクバーやサラダバーを何度もおかわりし、
「ここ、安いね」
「サラダバー充実してるよね」
「あ、中学の時の同級生がバイトしてる」
などと話しているうちに、
みんながいろんなものを落としたことなどすっかり忘れ、
会計し、ドリンクバー無料券などを渡して店を出た。

 店を出て、子供たちとバカっぱなしをしながら帰路についていると、
店でもらった「次回使えるサービスクーポン」を失くしたことに気付いた。


 落としたのだ!!!


 ひとは、みな、
知らないうちに何かをポロポロ落とし、失くしている。

 何か、ちょっとしたものを、知らないうちに失くし、
そのことにも気付かないまま生きて行く。


 って、・・・・・・なんだこれ。

 深いのか、深くないのか。
 それもよくわからん。



  (了)


(話の駄菓子屋)2014.2.11.あかじそ作