「 ふんわりランドの王子様 」 |
中3になった四男は、小さいころからニコニコしていて、 何かトラブルに遭っても、その愛されキャラゆえ、 いつも、ふわりふわりとかわしてきた。 ひとりでニコニコ笑いながら自転車を漕ぐ奥さんとすれ違ったと思ったら、 それは、奥さんではなく、四男だった、 ということもあった。 そのニコニコふわふわ感は、 どう見ても中学生男子の雰囲気ではなく、 完全に昼下がりの主婦のものだった。 まあ、小学校までは、それでもよかったのだが、 中学に入り、定期試験が始まると、 どうも四男のふんわりを笑えなくなってきた。 「答案用紙に一個づつずれて答え書いちゃって、 ホントは、95点取れたのに、35点になっちゃった」 と、ニコニコしながら報告する姿に、 「お前は、悔しくないのかよ〜!」 と、あんぐりしてしまう。 試験勉強は、一応、ワークの宿題をする程度で、 積極的にいい点を取ってやる、という気概は、無い。 それでも、そこそこ勉強の理解は、していたようだが、 定期試験になると、決まって 「インフルエンザで欠席」とか、 「名前を書き忘れて0点扱い」とか、 大事な提出物も、 「学校には持って行ったのに出し忘れた」とか、 そういう理由で、毎回ひどい成績をとるのだ。 そのことを、本人、まったく気にすることもなく、 「またやっちゃった、テヘ」 くらいに思っているから、恐ろしい。 お兄ちゃんたち3人の受験の経験から、 定期試験の成績がどれだけ入試に重要か、 実に沁みて知っている私は、 最近、そういう四男の緊張感の無いところを、 徐々に不安に感じるようになってきた。 「今年は、受験生だよ。言いたかないけど、もうちょっと勉強しようか」 と、言うと、 「うん」 と言って、30分くらい机に向かい、 いつの間にか、趣味のペーパークラフトを始めているのだ。 何度言っても、素直に、「うん!」と言い、 そして、ちょっとやって、すぐやめる。 「いやいやいやいや、土日なんだから、最低3時間くらいやろうよ」 と言っても、 「うん。わかった!」 と言って、やらない。 決して悪びれたり、反抗的な態度を取らないので、 叱るきっかけが無い。 しかし、まったくこちらの思うようには動いてくれないのである。 「塾は通わないで、自分で頑張る、って、言ってたよねえ?」 と言っても、 「うん、頑張る!」 と、さわやかに言って、そして、決して頑張らない。 あ〜〜〜! 扱いにくい! からみにくい! まるで・・・・・・ まるで・・・・・・ ああ! 言いたくないけど、 まるで、夫の性格そっくりじゃないか!!! そう、彼は、【ふんわりランドの王子様】。 がんばらない。 いや、本人は、がんばっているらしいが、 ふんわりとしたがんばりなのだ。 欲張らない。 今、みんなが楽しければ、ボク、それで幸せ、って感じ。 怒らない。 いやいや、怒っていても、 元の顔が笑い顔だから、全然怖くない。 そして、どう見ても、弱い。 世知辛い世間の風も、 彼にとっては、 「強い風だね! みんなボクのおうちに入って入って〜!」 ってな感じで、何だか、ほんわか。 いじめや嫌がらせを受けても、 「君は、淋しいんだね? ボクと話そう」 みたいな感じで、いつの間にか、 周囲の人間が、みんな、ほんわか。 ああ、これって、いいことなんだと、 本当は、母親の私にもわかっている。 この子は、特別な子なんだ、と、 本当に、日々実感している。 子供が大好き。 おむつも替えちゃう。 お友だちも助ける。 親も、兄弟も、助ける。 いつもニコニコ。 友だちたくさん。 これって、いいことづくめだけど、 高校受験の内申書には、 それらのことは、一切書かれないから、 その一点が心配なのだ。 行きたい高校に無事入って、 やりたい工業デザインの仕事に就けるようにしてあげたいけど、 その前に立ちはだかる受験に、 そのふんわりは、若干、障壁になっちゃいないだろうか? ああ、心配。 ふんわりランドの王子様。 ハラハラする私の横で、 ふんわりランドのおじいさん(夫)が、 くうくう寝息を立てて眠っている・・・・・・ 将来、あんたの嫁が苦労するから、 だから、あとちょっとだけ、 エンジン掛けてくりょ〜!!! (了) |
(子だくさん)2014.4.15.あかじそ作 |