「 花を植えます 」

 毎日、仕事と家事育児に忙殺され、
きちんと丁寧に生きることを忘れていた。

 猫の額ほどの庭も、雑草は抜いているものの、
前に植えた多年草の花や草が、
誰にも手をかけられることなく、
自力で生き残っているだけだ。

 この時期、学校の家庭訪問があるので、
毎年、慌てて花をいくつか買ってきて、
取ってつけたように並べているのだが、
冬になるころには、それらは、すっかり枯れてしまい、
また庭は、色気のない、ただの地面になる。

 これじゃあ、いかん。

 部屋は、心をそっくり映す、と言われるが、
庭もまた、そうなのかもしれない。

 うちの庭は、主の私の心の内を、
恥ずかしいまでにありありと近所の人たちにさらけ出している。

 殺伐。

 色気もそっけもなく、花ひとつ咲いていない。

 かろうじてアイビーが
敷地の塀にそってぐるりと生えているだけで、
家の壁面も雨どいも玄関周りにも、
住宅設備だけが、冷たく存在するだけだ。

 ああ! いかんいかん!
 この庭は、往来の人たちに向かって、
大きな声でこう叫んでいるのだ!

 「この家のママは、心に余裕がありませんよ〜!」
 「庭に回す予算もありません!」
 「色気も無いです!」
 「女捨てちゃいました!」
 「人生を楽しむ、なんて、どこの世界のことですか?」
 「淋しいです・・・・・・」
 「虚しいです・・・・・・」


 うわあ〜〜〜〜〜! 恥かしっ!!
 赤裸々すぎるって〜〜〜〜〜!!!

 寝起きで顔も洗わず、すっぴんで、
寝巻のまま授業参観に出席しちゃうくらい、
はずっ!!!!!


 嗚呼・・・・・・、
私、花植えます・・・・・・

 中身、ほぼおっさんの母ちゃんです。
 キャラじゃないけど、ガーデニングします。

 季節の寄せ植えいたします。

 ハーブ植えて、お料理にひとつまみ入れちゃいますよ。


 だってだって、そうでもしなきゃ、うちの庭が、
らくだの股引きに腹巻巻いた、
おっさんみたいな私の実態を、
大声でみんなに言いふらしちゃうんだもの〜〜〜〜!!!

 も〜〜〜!!!


   (了)


(話の駄菓子屋)2014.4.29.あかじそ作