「 欲することと求められること 」





 着たい服や好きな服が、
必ずしも自分に似合うとは、限らない。

 また、したい仕事、好きな仕事が、
必ずしも自分に向いているとは、限らない。

 自分の欲すること=自分に求められること

・・・・・・である可能性は、
どちらかというと、むしろ低く、
したいことが自分に向いていて、
しかも、その仕事に就いている、
ということは、ほとんど奇跡なんじゃないか、と思う。

 好きというほどでは、ないけれど、嫌いでもなく、
向いているかどうかはわからないが、
とりあえず、続けていても、まあ、苦じゃない仕事、
というものに就ければ、オンの字じゃないか、と。

 「サッカー選手になりたい、できれば、日本代表に」
と思う子供は、たくさんいるが、
実際、ほんのひとつかみの人間しかそうなれないように、
「平凡だが幸せな暮らしを送りたい」
というような、ささやかとも思える願いも、
手に入れられない人たちだって、大勢いるだろう。

 そしてまた、やっかいなことに、
自分のしたいことを、報酬付きで人から依頼され、
望む仕事に就けたとしても、
必ずしも彼が幸福である、という確証は、ない。

 夢破れて、挫折しても、
自分の思い及ばぬ何かに出会い、
知らなかった何かを手に入れ、
結果的に幸福な人生を送る人々もたくさんいる

 したいことをしようと努力すること。
 欲しいものを手に入れようと頑張ること。

 それは、貴重な体験だ。

 したいこと、欲しいものが、
頑張っても頑張っても、
全然手に入らない経験をすること。

 それも、大事な経験なのだ。

 自分が、こんなにも一生懸命に熱く想いをぶつけても、
相手が、または、社会が、
冷たくその想いを弾き返してくることは、
残念ながら、よくあることで、
なんなら、人が生きる上で、
一度や二度は、必ず通る道だったりもする。

 切ないけれど、それは、よくあること。

 そして、また、はたから見たら、
ほのぼのしちゃう「ふつうのこと」でも、ある。



  (了)


(話の駄菓子屋)2014.6.24.あかじそ作