「 夏が好きになってきた 」


 ここ数年の猛暑のおかげで、
すっかり夏が怖くなっていたのだが、
その後に必ずやってくる淋しい秋を思うと、
まだ夏の方がマシだと思えてきた。

 「物思い」しすぎる私にとって、
秋は、物を思って思って、思いすぎて、
死にそうに切ない季節なのだ。

 気持ちがひゅるひゅるになっちまう秋よりも、
暑くて暑くて、もう、何にも考えられねえよ、バカヤロー!
・・・・・・という夏の方が、
精神的には、よっぽど楽というものだ。


 そして、驚くことに、
大っきらいだった梅雨時も、
今年からなぜか、「嫌いじゃないぜ」と思えてきた。

 自転車で配達する仕事をしているので、
悪天候は、死活問題なのだが、
昨年までは、梅雨時、気温30度前後の中、
蒸れる雨合羽を着て走り回っていたので、
ムレムレ地獄でぶっ倒れそうだった。

 雨合羽を着ているのに、
仕事が終わって脱ぐと、
外側よりも内側の方がびっしょびしょに濡れていたりする。

 雨よりひどい汗の量。

 意味ねえ〜〜〜!

 どうせ濡れるのに、死ぬほど暑いし!
 毎回、熱中症との戦いだし!
 苦痛しかないじゃん!


 だから、今年の梅雨からは、よっぽどの大嵐でない限り、
合羽は、ズボンしか履かない。
 上半身は、吸汗撥水の紺のポロシャツの上に、
会社のユニフォームである、ナイロンのベストだけだ。

 雨でビッタビタに濡れて肌に張り付いても、紺色なら透けないし、
ナイロンのベストを着ているから、体のラインにピタッとくっつかない。

 しかも、雨がやんだら、
ポロシャツは、みるみる乾いていき、
更に、乾く際、気加熱で結構な涼しさを味わえる。

 そうなると、
「びしょぬれ上等!」
というモチベーションとなり、
ずぶ濡れでも、颯爽と駆け回れるのだった。


 暑いのイヤ、と毛嫌いするから、
「暑さが連れてくる楽観性」を見失う。

 濡れたくない、と合羽を着るから、
返って汗で濡れるのだ。


 暑かったら、「バカになれること」に喜んで、
雨に濡れたら、「水浴びヤッホ〜」と叫べばいいじゃないか。


 ヤツらは、こっちが嫌がるから、つきまとうんだ。

 ヤツらとのちょっとした付き合い方のコツをつかめば、
結構、愉快な友人になれたりするのに。


 そうなってくると、
「物思いの秋」も、「秋の夜長の哲学の友」となり、
「雪深い冬」も、「旨い焼き芋を食す絶好のシチュエーション」と、なり得る。


 嫌なことは、いつも、
怖がって逃げるから、追いかけてくるのだ。
 淋しがり屋の犬っころみたいに。

 立ち止まり、しゃがみ込み、抱きしめて、
犬っころの喉元を、両手でぐりぐり撫でてやろう。

 そうしたら、季節は、いつの間にか、
人生の友になる、ってもんよ!


 何ごとも逃げずに、受け止めてみっか。

 そうしたら、
嫌なこと怖いことも、
人生の楽しいイベントに変わるのかもな。



 (了)


(しその草いきれ)2014.7.15.あかじそ作