「 リアル怪談 」


 霊感も遺伝するのだろうか?

 どうやら母方の血筋は、霊感が強いらしい。

 母は、子供の頃、
よその家からヒトダマが飛び立つのをよく見たと言い、
後日、その家の人が亡くなったことを知り、
「ああ、やっぱりね」と、平然と思っていたと言う。

 また、数十年前には、
ふと虫が知らせて大姑のもとへ駆けつけてみると、
今まさに亡くなるところだったらしい。

 いとこが子供の頃は、
普通にお稲荷さんの霊的ないたずらを見て笑っていたらしいし、
同じくいとこのhanaは、
亡くなったじいちゃんばあちゃんからのメッセージを
夢の中で年がら年中受け取っている。
 それは、決して夢ではなく、
私の難産を知らせるものだったり、
父の交通事故を忠告するものだったり、
かなり現実的な【連絡】だったりするのだった。

 私も、子供の頃から【そういう気配】がわかっていたし、
実際、何度も見たけれど、
人一倍怖がりなので、
【気合いで気付かないふりをする】というのを続けている。

 一番きつかったのは、
中学の頃住んでいた社宅の子供部屋だった。

 墓場だったところに、ろくにお祓いもしないで建てられた建物らしく、
子供部屋でひとりでいると、必ず、
ドアのところに寄りかかってこちらを見ている中年の男性がいたし、
勉強をしていると、いつも、
人差し指で背中をぐい〜〜っ、と押してくるのだった。

 恐ろしさのあまり、心の中でお経を唱えるようになり、
部屋では、常に早口でお経を唱え続けることが日常になっていた。

 後で聞いたら、となりの部屋に住んでいた幼馴染の男子は、
毎晩寝るときに耳元で、
「お前はもうすぐ死ぬ、お前はもうすぐ死ぬ」
と、低い声でささやかれていたらしく、
心底つらかったらしい。

 弟は、子供部屋があるにも関わらず、
絶対にひとりで部屋にいたがらず、
「絶対何かいるから!」
と怯えていた。

 社宅専用駐車場の奥にある、小さな遊び場の砂場には、
着物を着た女の人がいつも立っていたし、
こちらがそれに気付くと、
彼女は、目を合わせようと、ものすごく凝視してきた。

 本当に、本当に、あの時期は、しんどかった。
 毎日が、めちゃめちゃ怖かった!!

 それからずっと、私は、
「気付かないふりしかない!」
と心に、誓ったのだった。


 しかし。

 悪霊とか、呪いとか、
そういうたぐいのものは、
怖くて、攻撃的で、
積極的にこちらに仕掛けてくるけれど、
ほとんどの場合、そうではないのだ。

 日本人は、世界の中で見ると、
シャイな国民性だと言われているが、
それは、生きている間だけでなく、
亡くなった後も、そういう傾向があるみたいだ。

 外国の、自己主張の強いエクソシスト的なものは、ごく少数で、
多くは、奥ゆかしく、おとなしく、礼儀正しい在り方をしていると思う。

 私が高校生の時、よく見たのは、
いつも同じ交差点に立っている、
赤と黒の大きめのチェックのシャツを着たお兄さんだった。

 髪には、いつも、ほほえましい寝ぐせがあり、
私が「え?」と、彼を二度見すると、
(あ、見えてました? すんまっせ〜ん)
みたいな感じで、慌てて姿を消していた。

 おとなしい人だった。

 他にも、小さい子が遊んでいるのを、
前掛けをしたおばあちゃんがニコニコしながら眺めていたが、
次の瞬間、いなくなっていたこともある。

 三男が3歳の頃見たのは、
電柱の上から、三男の名を呼び、
陽気に手を振るおじさんだった。

 四男が赤ちゃんの頃、
私は、亡くなったじいちゃんのあやす声を確かに聞いた。
 四男は、キャキャキャ、と笑った後、すぐ、人見知りの泣き方をした。

 じいちゃん、来てくれたのか〜、
と、普通に思った。

 そんなもんなのだ。

 ほとんどが、普通の人の普通の雰囲気だ。

 それが、リアル怪談だ。


 でも、長女が3歳頃に見た、
「台所の天井付近を巨大な女の人が両手を広げてクルクル回りながら飛んでいる」
というのには、久しぶりに【気付かないふり】で対応したのだった。


 (了)

(話の駄菓子屋)2014.8.12.あかじそ作