「 2014 夏休み 」



 今年の夏休みは、特別な夏休みなのかもしれない。

 大学4年の長男と、高校3年の三男の、最後の夏休み。

 来春、彼らは、就職し、社会人になる予定なのだ。

 同時に、中3の四男の受験勉強が真っただ中であり、
働く母親のもとで、小3の長女が過ごす夏休みでもある。

 専門学校2年の次男は、東京の飲食店でバイトをするかたわら、
学校の課題である「イスのデザインと製作」に取り掛かっている。

 「学生最後の夏休みなんだから、思いっきり遊ぶぞ!」
と豪語する長男は、バイトの合い間合い間に、
中学時代や高校時代の友人と飲み会をし、
泊りがけで海水浴に出かけ、
「友だち」と言ってはいるが、たぶん「彼女」とお出かけしている。

 しかし、受験生の四男に数学の特訓をしてもらうため、
私は、長男をひっ捕まえ、
「こいつをなんとかしてやってくれ!!」
と、頼みこんだ。

 四男は、基本的に賢い子なのだが、
いかんせん「やる気」や「根性」に乏しく、
勉強でわからないところがあっても、
「ここわかんないけど、ま、いっか」
で済ませてしまうところがある。

 で、悲惨な点数を取り、
母親にヤイヤイ言われて少し問題集をやってみるが、
一向に「わからないところ」を「わかるようにする」という行為をしない。

 そこで、私や長男が隣に座って、
「ここは、こうだ」「それは、こうやって解くんだ」と説明すると、
すぐにできるようになる。

 「やりゃあできるじゃん!」
と、安心し、
「じゃあ、ここからは、自分でやってごらん」
と言うのだが、一人だと急にできなくなる。

 昨日教えたことを、今日には、きれいに忘れているのだ。

 ぐんぐん吸い込むが、どおどお忘れる。

 「何なんだ、こいつは!」

 私や長男が、熱血で教えれば教えるほど、
四男は、「は〜!!」と、心底やる気のないため息をつき、
すきあらば、逃亡をはかる。

 イライラして
「あんた、何になりたいの?! どの高校に行きたいの?!」
と問いただせば、
「文鳥を飼いたい。文鳥が好き。」
と、キラキラした瞳でとんちんかんなことを答え、
余計に私や長男をイライラさせる。

 「こんな成績じゃあ、どこの高校も入れないんだよ!
 塾に行きたくないって言うから、みんなでちゃんと教えてるんでしょ。
 頼むからやる気出して、がんばろうよ!」
と言っても、
「え? まだやんなきゃだめなの?」
と、まるで猛勉強している者のような言いようだ。

 「『何時間勉強すればオッケー』ってもんじゃないんだよ。
 できないところをできるようになるまでやるのが【勉強】でしょ?」

と、言うと、

「できる問題だけやって、それで入れる高校に入れればいいじゃん」

と、悪びれもせずに言うので、

「その点数で入れる高校なんかあるか、バカチンがぁ!!」 

と、私も長男も激昂してしまう。


 そうなのだ。
 四男は、まぎれもなく夫似だった。

 絶対に無理をしない。
 やりたいことだけやり、やりたくないことは、やらない。

 人ともめるのがおっくうなため、
もめごとを避けるために、
「やれ」といわれりゃあ、仕方なくやるけれど、
明らかに身が入っていない。

 「お前がお前らしく生きて行くために、
向いている仕事、好きな職業を選べるように、
今は、やりたくないことや面倒なことも、やらなくちゃいけないんだよ」

と、イライラを必死に抑え、切々と訴えてみたが、

「ああ・・・・・・うん・・・・・・・」
と、父親譲りの「イエスでもノーでもない応答」をする。

 勉強机の上には、常に、
スマホと、音楽プレイヤーと、タブレット端末。

 これが、今どきの受験生の机上である。

 イ〜〜〜〜〜ッ!!!


 


 一方、真面目な小3の長女は、
7月中に宿題をほぼ終わらせ、
あとは、図画工作と自由研究と書道を残すのみだ。

 私が配達の仕事から戻り、疲れてぐったりしていると、
絵を描く長女にアドバイスを求められるのだが、
ぬり絵のようなべた塗りを好む長女と、
写実的な塗り方を教える私との間で、
いつも【画風】をめぐる喧嘩になってしまう。

 娘の絵なのだから、娘の好きなように描けばいいのだけれど、
あまりにも事務的に、「一作業」として冷めたテンションで絵を描くので、
ついつい頭に来てしまうのだった。


 


 「魂の仕事」を好む私は、
ふんわり受験生の四男にも、
やっつけ仕事で絵を描く長女にも、
イ〜〜〜〜〜〜ッ、となってしまい、
体調を崩してしまうほどだったが、
当の本人たちは、ケロッとしていて、
「お母さ〜ん、だいじょうぶ?!」
と、私の背中をやさしくさすってくれる。

 一人で勝手に、
怒ったり、嘆いたり、しょげたり、
自己嫌悪に陥ったりしている暑苦しい母親を、
ほほえましげにふかんで見つめ、
余裕しゃくしゃくで、なぐさめているのだ。

 はあ・・・・・・・。


 長男は、今、高校時代の友人と飲み会に出かけている。
 次男は、巨大な段ボール紙と格闘中で、
三男は、有名店で爆盛りラーメンを完食したとかで、居間で爆睡中。

 四男は、「社会科の暗記」と言いつつ、文鳥の動画を観ているし、
長女は、明日着る服のコーディネイトに夢中だ。


 嗚呼、2014年の夏休み。

 私は、と言えば、
肉体は、猛暑の中の配達でバテバテ、
精神は、子供の個性を認める作業で超バテバテなのである。



  (了)

(子だくさん)2014.8.19.あかじそ作