「 宇宙においては、みな平等 」




 先週、四男の高校受験の一環として、
併願する私立高校の学校説明会と個別相談会に行ってきた。

 第一志望は、埼玉の県立高校なので、
いわゆる「すべり止め」として、
学力に合った私立高校に行き、
個別相談と称して、中3の成績表や模試の成績表を見せて、
「○○コースの合格を確約します」
というハンコや書類をもらってくるのだ。

 確約をもらったコースに関しては、
試験を受けさえすれば、よほど悪い点数をとったり、
入学までに問題を起こしたりしなければ、
合格を保証します、ということだ。

 まあ、すべり止めにさえ不合格にならないための、
埼玉県の合理的なシステムなのだが、
私立高校に親子揃って出向き、
真剣に入学を希望する姿勢を見せ、
成績の資料を並べて、わが子の価値を問う、
という、この独特なシステムに、最初は、とても違和感を感じた。

 長男、次男の時は、
吹奏楽部で関東大会に出ていたので、
成績が基準に達していたのいうのもあって、
「ぜひぜひうちの高校に来てくださいね!」
と、相談相手の高校の先生もニコニコして対応してくれたが、
三男、四男のときは、そうはいかなかった。

 野球部の練習で、毎日へとへとに疲れ果て、
喘息発作との戦いだった三男は、
体育と美術は、5だけれど、勉強といえば、3ばかりだった。

 長男、次男が併願した私立高の学力に及ばなかったため、
電車を乗り継いで少し遠めの別の私立高校に相談に行った。

 ここなら楽勝で確約がとれるだろう、と、たかをくくって臨んだが、
実際は、成績表をう〜ん、と、うなりながら眺めた先生は、
「基準には、少し足りないのですが、今のところ皆勤ですし、
遅刻も欠席も無いし、野球部も3年間続けてますしねえ、
真面目な生徒さんだということで、おまけで一番ランクの低いクラスに、
オマケで半分ハンコ押しましょうか・・・・・・。
 そのかわり、頑張って勉強して、今後の模試で成績を上げて、
必ず基準以上の成績を持ってきてくださいね。
年末まで相談会を開いておりますので」
と、言った。

 三男は、結局、ここを受験し、合格したが、
後で聞いたら、この高校は、
書類に不備が無く、名前さえ書けば、
ほぼ全員合格にする、と言われているらしい。

 幸い、三男は、第一志望の県立高校に受かり、
この私立高校には入学しなかったのだが、
その時、私は悟った。

 成績優秀者でない者が私立高校に入る時は、
高校の先生が「偉い人」側で、保護者が「下の者」側となる、
という構図なのだ。

 逆に、成績優秀者や、べらぼうにスポーツのできる子は、
どんどん有名大学に入ってくれるので、学校の宣伝になる。
 だから、彼らは、学校にとっては、「お客様」であり、
学費を払わなくてもいいから通って欲しいのである。
 だから、奨学金も出しちゃう。

 要は、大多数のおバカ学生から学費を徴収して運営費を集め、
一握りのお利口な学生に「進学校」という宣伝してもらう、
ということなのだろう。

 学校とはいえ、私立は、会社でもあるのだ。
 潰れてしまったら元も子もないので、
これは、いたしかたないのだろう。


 それにしても、今回の四男の個別相談会は、
酷い目に遭った。

 長男の併願した私立高校の、一番下のランクのクラスなら、
偏差値的に大丈夫だろう、ということで、
成績表を持参して行ったのだが、
これがまた、担当の先生が、大外れだったのだ。

 その年配の先生は、
成績表を一瞥するなり、大きなため息をつき、
「なに? 学校の三者面談で、
すべり止めの確約取ってこい、って先生に言われてきたんだ?」
と、居丈高に言う。

 「いえ。私の仕事の都合で、本日伺いました」
と言うと、
「6月から相談会やってましてね、
今頃初めてくるなんて人は、まあ、ねえ・・・・・」
と、四男の成績表を指ではじくようにして、こちらに突き返してきた。

 そして、四男の方には、一瞥もくれず、
書類に、必要以上のでかい字で、
ゆっくりと、【基準に足らず】と書いた。

 「うちも、最近レベルが上がりましてね、
以前のような感じで来られても、そうそう簡単には入れませんからね」
と、完全に見下した表情で踏ん反り返った。

 その無礼なオヤジは、書類に今日の日にちを書きこんで、
「ま、今日来た印に取っておいてください。
成績が万一上がるようなことがあったら、
この書類を持ってまた来てくださいよ」
と、渡してきたのだが、11月ではなく、間違って10月と書いてあったので、
「あの、今は、10月でなくて、11月ですけど」
と、今度は、私が書類をジジイに突き返してやった。

 四男の中学3年間の活動実績欄に書いてある、
国際交流関連のボランティア活動や、
市の代表団の一員としてオーストラリアに親善活動に行ったこと、
3年間、小学校に算数を教えに通っていたこと、
卓球部で県大会に行ったことも、
一切、見ようともしなかったのだ。

 この子がどんな子か、なんて、まるで興味なくて、
成績だけしか見ないのなら、
こんな学校、頼まれても入らねえよ、と思った。

 受験すれば、四男のような、「平均点」君でも、
ラクラク合格できる学校なのだ。

 ちょっとスポーツで脚光を浴びたからって、威張っちゃって、
こっちからお断りだよ!


 へこんでいる四男に、私は言った。


 「悔しいけど、世の中っていうのは、
目に見える基準でしか判断されない、ってこともあるんだよ。

 どんなに「いいヤツ」でも、どんなに「働き者」でも、
その人の事を何も知らない人にとっては、
「出身校名」とか、「成績」とか、
そういう目に見える判断基準しかないんだよ。

 お前みたいな、のんびり屋のいいヤツは、
そこんところをわかってくれる学校を選んで、
目に見える実績を、これからコツコツ積み上げていくしかないんだよ。

 頑張れる?」


 「うん・・・・・・うち帰って勉強するよ」


 第一志望の県立高校の合格率は、
今のところ、40〜50%。
 最近、やっと、合格圏に入ってきたところだ。

 あと100日もないけれど、がんばれ、四男。


 さて、今週行った別の私立高校では、
下から2番目のランクのクラスで確約が取れた。

 学校説明会に参加したところ、
偏差値は高くは無いけれど、先生たちが、みんな庶民的で、
一生懸命立ち働いているように見えた。

 生徒たちも、楽しそうにしていた。


 同じ高校生活でも、全然違う環境がある。

 どうなるのだろう? 四男の受験は? 高校生活は?

 まあ、彼の事だから、どんな環境でも、
マイペースで楽しみ、友だちもたくさんできるだろう。

 それを信じて、心騒ぐ受験シーズンを、
少しでも穏やかに過ごせるように心がけよう。


 (追記) 

 四男とふたり、
先の私立高校から侮辱的扱いを受けた後、
最寄駅に帰りついたら、すっかり夜になっていた。

 駅の改札を出ると、 
澄んだ秋の夜空に、月と星がクッキリと見えて、
自分たちが宇宙の一角にいるということが、よくわかった。

 「おい、わが四男よ」

 私は、着慣れないスーツの上着をバサッと脱ぎ、
タイトスカートで可能な限り大股開きして、仁王立ちして言った。

 「なに、お母さん」

 四男も立ち止まって、こちらを見た。


 「ほら、空を見て! この広い宇宙においては、みな平等! わかる?」


 「あ〜〜〜、・・・・・・はいはい」


 ぼくの事や自分自身のことを、
一生懸命なぐさめようとしているカーチャンの、
とっぴで必死な発言に、
優しい四男は、逆らうことなく、
苦笑まじりに、ただ、うなづくのだった。


   (了)


(子だくさん)2014.11.25.あかじそ作