「 緩急大作戦 」




 結婚してから24年、子供が生まれて22年以上経つが、
ど〜〜〜〜〜うも、12月から1月前半にかけての出費がひどい。

 巷でクリスマス気分が盛り上がっていると、
スーパーのチラシも赤や緑の分量が増えてきて、
特売品も、クリスマスっぽい贅沢食品が増えてくる。

 そうなると、気分に支配されて生きている私は、
12月中盤くらいから、献立が肉中心になってきて、
クリームシチューやら、ドリアやら、パスタやらが目白押しになる。

 そして、半月かけてすっかり欧米化した食卓は、
クリスマスイブともなると、
ごっつい持ち手つきのチキンとか、ピザとか、
リッツに生クリーム乗せたオードブルとか、
カマンベールチーズに生ハムを巻いたやつとか、
ケーキをホールごととか、
そういうものを盛りだくさん並べないといけない感じになってくる。

 そして、その舌の肥えた、
というか、胃がでかくなった家族は、
そのまま巷のお正月ムードに飲み込まれ、
正月までだらだらと、高カロリー&高価格食品を採り続けるのだ。

 そして、正月に入り、
これまたおせち料理、酒、
おせちに飽きたらカレーもね、
カレーにも飽きたら、回転ずしよね、
いやいや、もっとだ、ファミレスだ、
もっともっとだ、食べ放題のバイキングだ、
となっていき、
3学期が始まる頃には、
みんなデブ、そして、家計火の車、なのだ、毎年!!!



 これが悪循環だということに、20年かけてやっと気が付き、
今年は、画期的な作戦を開発したのだ。

 名付けて、「緩急大作戦」。


 これは、我ながらよくできた作戦だと思う。
 みなさんにお勧めしたい。

 作戦の目的は、3つ。

 @家族の健康を守る。
 A家計を守る。
 Bメリークリスマス&ハッピーニューイヤ―感を演出し、日常を楽しむ。

 作戦の内容は、こうだ。

 12月に入ってから、学校の給食最終日くらいまでの期間は、
ひたすら、和食中心の献立とする。

 鍋物、煮物、漬物、味噌汁や吸い物、
子供たちの大好きな甘辛おかず、
たとえば、きんぴらゴボウやカボチャの煮物、煮魚などを
要所要所に組み込み、
鍋も、いろいろなバージョンを日替わりで出し、
マンネリにならないように気を付ける。

 「な〜〜んか、最近、ガッツリしたもの食ってねえな〜」
などと子供が言い始めたら、
すかさず唐揚げやてんぷらや、鉄板焼きなどの
脂っぽい、ガッツリしたものを出す。

 そして、そこからまた、和食に戻す。

 そうやって12月20日くらいまで引っ張り、
学校が午前中に終わって早帰りするくらいからは、
「普段食べないもの」を食べる。

 普段スーパーで買うものは、だいたい決まってくるのだが、
ここからは、
「高価ではないが、普段あまり買わない食材」を選んで買い、
あまり作ったことのない献立にする。

 すると、御馳走ではなくとも、
「お? いつもと違うな」
ということで、何となくクリスマス前のわくわく感が出せる。

 そして、いよいよ、クリスマスイブだが、
ここで大事なのは、あくまでも、
「子供が学校に行っている間に買い物を済ませておく」
ということだ。

 「サンタさん」のクリスマスプレゼント調達行為同様、
子供たちには秘密裏に進めなけれなならない。

 給食が無いから、子供らは早く帰ってくるので、
のんびりとは、していられない。

 ある程度のメドを付けて買い出しに出かけ、
店にお買い得品があれば、
臨機応変にメニューを変更していくことも大切だ。

 今までだと、学校から早帰りした子供たちと連れだってスーパーに出かけ、
「これ買って〜」「これ食べたい〜」
という声に引っ張られ、
割高なチキンに、ケーキに、ジュースに、お菓子に、と、
猛烈に予算オーバーの買い物をしてしまう。

 以前、その反省から、
「予算は、○○○円ね」と宣言してから子供たちと買い物に行ったが、
その予算だと買いたいものが全然変えず、
「買って」「ダメ」の繰り返しで、
親子共々ストレスをためるだけのイライラする時間を過ごしてしまった。

 これらの反省から、
この作戦は、単独での買い物に徹する。

 まず、金銀に輝く持ち手の付いたチキンを7人分買うのをやめた。

 見た目が派手な割には、食べるところが少なく、
子供たちも残しがちだった。

 今年は、長女のリクエストもあり、
鳥の手羽先や手羽中を大量に照り焼きすることにした。

 クリスマスっぽさには欠けるが、
いつもは買わないサラダ菜を大皿に敷いて、
その上にドバ〜〜〜ンと盛りつければ、それっぽくなる。

 それから、ケーキも7〜8人分買ったり、ホールで買うと、
数千円単位になるのだが、
今年は、事前に輸入食材店で特売していたチョコの焼き菓子を買ってある。

 これに、ホイップクリームで可愛くデコレーションし、
いつもは、あまり買わない、
ちょっとお高い箱入りチョコを盛りつける。

 そして、ちょっといいイチゴでも買って乗せてしまえば、
ちょっとした高級デザートっぽいビジュアルになる。

 サプライズの好きな子供なら、あらかじめ親が密かに作っておき、
「高かったよ、これ〜!」と、ほざき、
作ることが好きな子供なら、
「今年は、パティシエ役頼むよ! どんなセンスを見せてくれるかな?!」
と、おだてあげ、子供に飾り付けてもらう。

 そして、あとは、クリームシチューやら、ミートグラタンとか、
いつも作るんだけど、今年は、しばらく作っていなかった「洋食」を出せば、
久しぶりの「欧米化」にだまされて、
「御馳走なんじゃないか? これは!」 ・・・・・・と、子供の脳を騙せるのだ。


 要は、クリスマスなのに、
いつものおかずを、いかにいつものおかずと気付かれずに
クリスマスっぽく演出できるか、なのである。


 「和食」「和食」「和食」「和食」「和食」・・・・・・・・・・・・・
そして、いきなりの「洋食」!!

 ひさしぶりの「欧米」!

 これだ! 緩急の妙!


 そして、クリスマスが終わって、冷静になり、
子供に「あれ? なんか違うぞ」と、気付かれる前に、
わあわあ言いながら正月料理の仕込みをこれ見よがしに始める。

 鶏の八幡巻き! ごぼうと人参に鶏肉巻いて甘辛で煮て!
 焼き豚! 豚のカタマリ買って、タコ糸巻いて、やっぱり甘辛!
 できれば、子供にタコ糸巻かせて! 

 栗きんとん! 栗の甘露煮買って、サツマイモ和えて和えて!
甘み付けの水あめ、容器に残ったのを親子で仲よくぺろぺろ舐めちゃえ!

 酢ダコ、酢ばす、紅白なます、甘めで好評!
 伊達巻き、市販品のほかにも、量が要るぞ。
 卵とはんぺん混ぜて焼いて、手作り伊達巻き、巻いちゃえ巻いちゃえ!

 かまぼこ、高くなる前にクリスマスくらいに買っとけ買っとけ!

 サトイモ、人参、こんにゃく、レンコン、ごぼう、しいたけ、
とにかく、煮ろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!

 いっぱい煮とけ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!

 正月に料理さぼるために、今、まとめて煮とけ〜〜〜〜〜っ!

 わあわあわあわあ大騒ぎして、大量に御馳走ストックを作り、
食欲をじらしてじらして正月を待つ!

 そうだ。年末は、地味めの献立で、じりじりと贅沢生活を待て!

 肉野菜炒めやら、カレーライスやらを食べながら、
「元旦には、あの肉食べようね!」
「二日目の夜には、いっぱい仕込んだ例のあれを食おうぜ!」
と、じらすじらす!

 じらすことで、地味な和食も付加価値がついて御馳走と化すのだ!


 しかし、餅だけは、美味しいものを買っておこう。

 いつもの特売品でなく、
ちゃんとした餅を買って、
子供らに、米の旨さを思い知らせてやるのさ!

 正月って、いいな〜!
 餅が旨いな〜!
 なんだか、ほっこりしやがるぜ!

 と、思わせる。
 これぞ、なにげに「日本文化の伝承」じゃないか。


 近場の神社に初もうでに出かけ、
去年のお守りをお返しし、今年のお守りをいただき、
受験生のいる年は、学業成就のお祈りもして、
出店でイカ焼きでも買って食べ、
夜は、一杯ひっかけて、家族でテレビの特番でも観よう。

 だんだん子供が大きくなってくると、
やれ「年越しライブ行ってくる」
やれ「友だちと初もうで行ってくる」と言い、
子供たちが年越しを外で過ごしてくることも増えてくるが、
そうやって、子供たち全員が
この家以外で正月を誰かと幸せに過ごしてくれるようになれば、
子育て終了だ。

 おめでたいことだ。

 健康と、家計と、日常の幸せな気分を守る、
カーチャンの仕事も、これで一段落となるのだ。



 (了)


 (子だくさん)2014.12.23あかじそ作 

(子だくさん)2014.12.23.あかじそ作