「 三男、訓練所に入寮する 」


 この春、地元工務店に就職した、18歳の三男。

 今日から、大手ハウスメーカーの訓練所に入寮する。

 今さっき、大きな荷物をたくさん持った三男を
最寄り駅まで車で送ってきたところだ。

 大学の寮から戻ってきた長男と入れ替わる形で、
三男が我が家をひとまず出て行ったのだ。

 半年間、みっちり施工技術を訓練されて、
またこちらに返ってくるのだという。

 初めてひとり部屋で暮らすことになるため、
浮かれて初任給でたくさんの生活グッズを買ってしまったらしい。

 訓練の間も、給料が出るらしく、
こちらも仕送りの心配をしなくていいので、安心だ。

 また、食事も、三度三度食堂で一斉に食べるようで、栄養面も安心だし、
病院も、コンビニも、スーパーも、郵便局も、周囲にたくさんあるので、
長男を送り出す時ほどオロオロしないで済んだ。

 しかし、三男は、ぜんそく持ちなので、
建築作業中の粉じんで発作が出ないか、それが心配で、
気管支拡張剤や抗アレルギー剤をたっぷり持たせた。

 更に、毎日家族で飲んでいる、ビタミンBの錠剤や整腸剤を、
三男用に、ひと揃え購入して渡しておいた。

 そうやって、あれこれ先回りして揃えていて、
はたと思いとどまった。

 待てよ。

 あいつは、もう、月給取りなんだぞ。

 暮らしていくうちに、生活に必要な物を、
自分自身で発見し、用意し、
揃えていくのが大人になる工程じゃないか。

 その成長の過程をカーチャンが邪魔しちゃいかん!

 まだまだいろいろ、
用意してやったり、アドバイスしてやりたいことは山積みだが、
ぐっと我慢して、三男を送り出してきた。


 駅前のロータリーで、私の車を降り、
両手と背中に大荷物を持って、改札に向かって歩いて行く三男。

 その後姿を途中まで見送ったが、あえて最後まで見送らず、
私は、車を発車させた。

 行ってこい!

 カーチャンの知らないところで、大人になって来い!

 まだ二十歳にもなっていないけれど、
お前は、自分で働いて、自分の生活を営んでいくんだ。

 赤ちゃんの時は、アトピー性皮膚炎で皮膚が常にずるむけで、
血だらけだったね。
 痒くて痒くて、眠れなかったよね。

 幼稚園の時は、重症の喘息で、
毎晩のように夜中に病院に行って、点滴と酸素吸入したね。

 小学校では、お兄ちゃんたちと弟妹の陰に隠れて、
淋しくて淋しくて、毎日毎日、暴れちゃったね。

 一緒に精神病院に行こうか、って泣きながら話したもんね。

 中学の時は、野球部で頑張ったけど、
よくない仲間とつるんじゃって、
毎日喧嘩やいじめで学校に呼び出されたり、
よそのお母さんから罵声を浴びながら謝って回ったっけ。

 あちこちやられて大怪我いっぱいして、
男の先生たちは、見て見ぬふりだったけど、
なぜかママさん先生たちには、可愛がられて、
円満な中学生活を取り戻したよね。

 工業高校に入ったら、テニス部で活躍して、
かけがえのない友だちがいっぱいできたね。

 喘息を抱えながらも、毎日がんばって練習して、
一年中、真黒だったね。

 外ではひょうきんなお前も、実は、繊細な性格で、
家では、疲れて不機嫌だったりしたけど、
就職したら、急に大人になっちゃって、
お母さんにも、兄弟たちにも優しくなったね。


 さあ、行ってらっしゃい!!

 楽しんでおいで!

 傷ついておいで!

 知らなきゃよかった理不尽な世界をも、知ってきな!

 カーチャンも、兄ちゃんふたりも、弟も、妹も、頼りないけどトーチャンも、
ジーチャンもバーチャンも、みんなみんな、お前の味方だ!

 きっと、オジチャンも、オバチャンも、親戚一同も、
みんな、お前の味方だよ!

 頑張っておいで!

 「頑張らないで♪」なんて流行りの言葉は、わしゃ、言わん!

 頑張って、頑張って、
歯を食いしばって、頑張りまくって来い!!!

 そして、お前の幸せを、
お前の手でつかみ取るんだぞ!!!



  (了)


(子だくさん)2015.5.12.あかじそ作