「 自分会議 」


 日々のストレスに押しつぶされそうになると、
今までだったら、映画を観に行ったり、買い物に出かけたり、
外食したり、お菓子をドカ食いしたりしていたが、
これらが、ほんの一時しのぎに過ぎず、
ひとつも根本的解決につながっていない上に、
要らぬ消費と肥満の繰り返しで、
さらなるストレスを生んでいることに、やっと気付いた。

 確かに、目先の楽しいことにお金を注ぎ込んで、
一瞬、いやなことから目をそらすことはできるが、
更にお金が足りなくなり、更に太り、
今まで以上に身動きが取れなくなっているじゃないか。

 大体、なんであたしゃあ、こんなに悶々としているんだ!

 ってことをこの際ハッキリさせようじゃないか。

 原因をはっきりさせなければ、結果は変わらない。

 もう、残りの人生もそう長くないことを考えると、
いつまでも青春時代のように試行錯誤ばかり繰り返してもいられない。

 さあ!
 この悶々の原因は、なんだ!

 思いつくところから挙げていこう!
 自分会議を開こう!!


 「はい、議長!」

 はい、私!

 「夫がノロマで馬鹿です」

 よくわかります。

 「その上、ひねくれ者で、聞く耳持ちません。」

 本当にそうですね。同じ空間にいるだけで血圧が上がっているのがわかります。

 「夫の奇行に抗議すると、無視したり、すねたりして、反抗期の中学生みたいです」

 こっちがストレスで死ぬ前に、死んでほしいですね。はい次!


 「はい! 家が散らかりまくっています」

 そうですね。家族全員、物を持ちすぎていますね。
 みんながみんな、コレクション体質で、
物を整理できないし、捨てられないくせに、物を買いまくりですね。
 これは、もう、切羽詰まった問題です。
 いっそ全部捨ててしまいたいですよね。
 はい、次!


 「はい! 次男なんですが、顔が私に似ているのに、性格が夫似です」

 これは、ゆゆしき問題ですね。
 自分の体に、悪霊が乗り移っている状態です。
 ほとんどエクソシストですね。
 そのエクソシストが、毎晩もれなく
「おか〜さ〜ん、今日の夕飯、なに〜?」って、聞いてきますからね。
 若気の至りに対しての、遺伝子の嫌がらせですね。はい、次!


 「はい、娘の人間関係が、徐々にめんどくさくなってきています」

 うわ〜! ついに来ましたね。
 小4になって、いよいよ女子の世界に突入ですね。
 
 「自分があっさりした友人関係で過ごしてきたので、経験値低くて、怖いです」

 そうですよね。
 もう、これは、わからないので、基本に忠実に、
「いい人」を貫くしかないですね。
 「清く正しく美しく」で、わからないことは、わかる人に聞くことにしましょう。


 はい、それでは、ここからは、
目下、ストレスが原因で陥っている問題について、挙げてください。

 「はい、我慢のしすぎで、無気力になってしまいました」

 そうですね。

 「持ちうる力のほとんどを、「我慢する」という行為に使い果たしてしまっています。
 夫の奇行に我慢、子供の未成熟に我慢、経済的不安定さに我慢、
我慢我慢我慢我慢で、気力、体力ともに限界です。

 ストレス性の病気が体じゅうに現れて、
連日あちこちの病院に通い詰めています」

 我慢が、自分の許容量を完全に超えていることは、確かですね。

 「以前のような、手の込んだ料理を作る気力が出ません」

 はい。

 「掃除をする前の、片づけの段階で心が折れてしまいます」

 はい。

 「オシャレに興味が無くなってしまいました」

 はい。

 「人生を、ノルマとしか考えられなくなっています」

 はい。根が変に真面目ですからね。

 「人に会うのが億劫です」

 はいはいはい、会えば、明るい人を装う癖がありますからね。
 自分がめんどくさくて、いやになりますね。
 「中程度のうつ状態」と「軽いうつ状態」との行ったり来たりで、
重くない分、逆に長引きますからね。タチが悪いですね。
 最後にウキウキしたのは、一体、いつなんでしょうかね。


 はい、それでは、以上の問題の解消について、
何かアイディアは、ありますか?

 「はい!」

 はい、私。

 「先日、20年ぶりに中学時代の友人ふたりに会ったら、楽しかったです」

 おお。

 「苦労しているのが自分だけじゃないと知って、心強かったです」

 はいはい。

 「今度3人でちょいちょい会って、旅行にも行こう、ということになっています」

 お〜〜〜!

 「だから、これからは、友だちと楽しくやっていこうと思います」

 はい、それから?


 「片づけを始めたら、少しだけ家の中がすっきりして、心が軽くなってきました」

 あ、いいですね。

 「これから、どんどん物を捨てていこうと思っています」

 はい。

 「持っているものの、ほとんどがゴミでした」

 そうですね。

 「大切な家族と、少しの物をそばに置いて、シンプルに生きていきたいです」

 おお! いいですね!

 「でも・・・・・・」

 お、どうしました?

 「あ、いえ、何でもありません・・・・・・」

 いえいえ、心にあるものは、何でも提議してみてください。

 「あ、はい・・・・・・」

 どうぞ。

 「それでは、言いますけど・・・・・・
夫に対する尋常じゃない違和感を、どう処理すればいいでしょうか?」

 あ〜〜〜、はいはいはい。

 「経済的にも、便宜的にも、多少、居た方がマシなのですが、
心が夫にアレルギーを起こしています」

 夫が、アレルゲンですね。

 「はい・・・・・・全身症状が出て、苦しいです・・・・・・」

 離婚するなら、経済的に自立して、子供たちから承諾を得ること。
 離婚しないなら、抗アレルギー的な暮らし方をすることです。

 「ええ、そうですね」

 離婚しますか?

 「子供がいなければ、今すぐにでも、します。
 でも、子供がいるので、保留です。

 私は、今、子供の幸せのために生きています。
 だから、我慢もしていますし、きつい仕事も続けています。

 子供たちが、
『お母さんの不幸を僕らのせいにしないで!』
なんて言わなくていいように、
違和感を抱えながらも、楽しく生きられるように、努力しています。

 子供たちがみんな、無事、巣立って行った後に、
『やっぱり夫と離婚しなくてよかったわ』と思えるように、
今は、考え方を工夫しながら暮らしています。

 聞けば、友だちふたりも、そうでした。

 いつもいつもときめいて、
いつもいつもベストの状態でなんていられません。

 今は、いかに、自分の心の平穏を保ち、
心のアレルギー発作を起こさないように過ごすことに集中します。

 友だちと会って、女の人生を語り合い、
毎日、ひたむきに働いて、徳を積み、
コツコツ、ザクザク部屋を片付けて、
心の免疫力を上げていきます。

 そういうことで、よろしいでしょうか?」

 ま、いいでしょう。

 気の持ちよう、解釈の在り方、いい意味での忘れっぽさで、
この局面を何とか乗り切りましょう。 

 次の会議は、来週になります。
 頭の中、心の中のゴチャゴチャが、おもてにチビらないうちに、
またやりましょう! はい、解散!



   (了)

(話の駄菓子屋)2015.5.19.あかじそ作