子だくさん 「なんちゃって旅行」
子供たちの小さい頃は、
盆と正月の年2回、夫の田舎に帰省していたが、
ここ数年は、帰れずにいる。
まず、一家7人、北陸まで往復する資金が無い。
今までは、夫の母が交通費を負担してくれたのだが、
もういい加減その甘えも通用しなくなった。
それから、北陸新幹線開通にともない、
激増した観光客に混じって移動するエネルギーが余っていない。
連日の猛暑の中の仕事で、体調の良くない者が多いのだ。
また、高校に入った四男が、アルバイトを始め、
小学生の長女以外の6人が働いているため、
家族7人全員の仕事の休みを合わせるのが困難なこと。
長男が、中学時代の友人、高校時代の友人、大学時代の友人、会社の同期と、
それぞれ別々の仲間と、各地へ旅行へ出掛けるため、
お盆のスケジュールがびっしり埋まっていること。
一方、夫の田舎では、
同居中の【夫の弟夫婦】VS【義母&義妹】が、
もめにもめている真っ最中で、
大家族がのんきに訪問できる状態ではないのだった。
「今年の夏休みは、どこにも行かないの?!」
と、小4の長女に、切ない表情でたずねられ、
非常に困ってしまった。
実は、先週、愛車のバモスが当て逃げされて、
修理代15万円を自腹で支払うことになった。
結果、貯金を大幅に減らすことで、
この夏は、経済的に動きが取れなくなったというわけだ。
長女は、少し言いづらそうにこう言った。
「温泉に入りたいんだけどなあ・・・・・・」
もちろん、温泉旅行に行く金なんて無い。
「無理無理」と、私が言おうとすると、それを遮るように、長女は、
「健康ランドは?!」と聞いてきた。
健康ランドか・・・・・・。
そういえば、手元には、10名まで使えるクーポンがある。
ひとり1000円程度で夜間利用できる、とも書いてある。
「これだ!」
と思い、友人と旅行中の長男以外の子供たちに提案すると、
みな、「行く行く!!」と、乗ってきた。
健康ランドに泊まろう!
旅行気分で、夜中と早朝に、ひと気の無い大浴場に入ろう!
夜の露天風呂で、リフレッシュしちゃおうじゃないか!
働いている子供たちにひとり1000円づつ出させて、
夜の9時過ぎに、健康ランドに乗り込んだ。
帰る心配をせずに遊ぶ、この解放感!
普段なら絶対にありえない「屋外で全裸」となり、
お肌つるつる効果のある露天風呂に浸かり、
「あ〜! 気持ちいいね〜!」
と、長女とうなづきあう。
夫と次男、三男、四男も、
男風呂でひと通りリラックスした後、
風呂上りのフルーツ牛乳を飲み、
夜中のゲームセンターでエアホッケーで盛り上がったようで、
写真を数枚、家族のグループラインに貼り付けていた。
私と長女の、女性軍は、
早々に仮眠室に入り、
大勢の知らない人たちに混じって横になった。
しかし、なかなか眠れない。
すぐに眠ってしまった長女の横で、
私は、すっかり眼が冴えてしまった。
ワンフロアに、老若男女が、何十人と寝ころび、
いびき、歯ぎしり、うめきがそこここで聞こえてくると、
ここのところ連日見ている戦争映画の
「空襲を受けて、無数の人々が一面に倒れている映像」
が、頭の中で重なり、眠れたもんじゃなかった。
戦後70年だと、
テレビや新聞で、いろいろ報じられているけれど、
この時期放映される戦争映画やドラマは、
ほとんどが戦争を知らない世代が作っているようで、
何か上滑りしたきれいごとばかり描いているように思えた。
ドキュメンタリー番組で観た、
硫黄島での体験を語る元帰還兵の話は、
聞きしに勝る地獄の描写で、
震えがくるほど恐ろしかったのに。
「戦争」に「正義」なんて無い。
人殺しを正当化することは、絶対に許されない。
「戦果」とか言って、大量殺戮を大喜びすることなど、
断じてあっては、ならないのだ。
悶々としていると、あっという間に朝になってしまった。
朝6時に露天風呂に浸かり、
長女と朝日を浴びて笑い合う。
嗚呼、絶対に、戦争反対!
戦争中だって、何だって、
可愛い我が子を殺し合いの地獄に
喜んで送り出す母親なんて、いるものか!
戦争したい人間は、
個人的に、どこかの無人島で取っ組み合いでもしてろ!
庶民を巻き込むな!
マ! ジ! で!!!!!
午前8時にロビーで男性軍と合流し、
ロッカーのカギを返しにフロントに行く。
と!
深夜追加料金、計9500円を請求される。
「マジか!!」
深夜2時以降、在館していると、
深夜料金が発生するのだという。
夫と私の財布の中をほじくり返して、やっと足りたのだが、
大ショックだった。
そりゃあ、そうだよな・・・・・・
温泉三昧で、一晩泊って、
いくらなんでも1000円てこたあ、そりゃあ、無いわな!
がっくりと肩を落として帰る道すがら、
「まあ、旅行に行ったと思えば、安いもんだよね」
とか、言ってみたものの、
車を当て逃げされて15万円の損害を受けたばかりの心は、
傷口に塩を擦り込まれたかのようなヒリヒリ感を禁じ得なかった。
まあ、車は、大怪我したけど、人間は、無事だったし、
温泉旅行に格安で行けたと思えば、お得だったし、
良かった、良かった! ははははははははは!
・・・・・・と言いながら、
(もう1個仕事増やさなきゃな)と、
覚悟を決めざるをえなかった。
戦争で、この子たちを、
むごたらしく殺されることを考えたら、
痛くもかゆくもない!!!
金が無いことくらいなんだってんだ!
健康ランドで永遠の平和を祈る!
祈りまくる!!!
(了)2015.8.18.あかじそ作