話の駄菓子屋 「リア充アピールしなさんな」
 
 

 ハウスメーカーで新入社員をやっている長男が、
毎晩のように仕事の後の飲み会を仕切らされて、
ふらふらになっている。
 
 飲み代で給料の多くを失い、
何のために仕事をしているのか、
わからなくなってしまうことがあると言う。
 
 行きたくもない飲み会や、
先輩から誘われたキャバクラ通いなど、
もう、夜のお付き合いで疲れ果てているように見える。
 
 同じ建築業界でも、
全然飲み会のない会社に就職した大学の友人たちは、
遊ぶ時間も、お金を使う暇もないくらい忙しくて、
ざくざくお金が貯まっているらしく、
そういう話を聞くたびに、長男は、
「就職する会社間違えた!」
と、叫んでいるのだった。
 
 そんな中、やっととれた連休で、
午前中に同期入社の友人たちとオシャレな店に行き、
中学時代の友人と地元でランチをし、
高校時代の友人たちと横浜で飲み会をし、
大学時代の友人たちと名古屋を旅行するのだと言う。
 
 「疲れ果てているのに、体も休めずに、
ずいぶん無茶なスケジュールなんじゃない?」
 
と、言うと、
「いやいやいや、すきまを見つけて精一杯遊ばないと、
全然遊ぶ暇がないから」
と、息子は、言う。
 
 「いやいやいやいや、何もしないで、ゆっくりする、というのも、
余暇のひとつの過ごし方なんだよ。
ましてや、今、あんたは、心身ともに疲れきっているんだから」
 
と、言うと、
 
「いやいやいやいやいや、遊ばないと、やってられないから」
と言って、結局、バタバタと出かけていってしまった。
 
 そして、仲間たちとの集いを、バンバン写真に撮って、
バンバンネットに上げている様子。
 
 いやいやいやいやいやいやいやいや、息子よ!
 
 そんなに必死にリアル生活の充実をアピールしなきゃ、
精神が持たないなんて、なにか、おかしいぞ〜!
 
 百歩譲って、「リア充」を目指してもいいけれど、
それをいちいちみんなに連絡しないと、
自分の価値が下がると思って怯えているとしたら、
それは、非常に疲れる生き方なんじゃないのかい?
 
 これは、うちの息子に限った事では無く、
今の若者の多くが、いやいや、若くもない人たちも、
強迫観念に取り憑かれているんじゃないのかしらん?
 
 誰かとつながっていないと、淋しい仲間はずれだと思われるんじゃないか、
どこにも行かずに、ひとりでじっと過ごしている人間は、
価値の無い人間なんじゃないか、と、自分自身が思い込んでいるとしたら、
それは、違うんじゃないかしらねえ?
 
 ひとりでも、どこにも行かなくても、
生活を充実させることは、できるのに。
 
 誰にも、何もアピールしなくても、
自分自身が、生活を満喫していれば、
それでいいんじゃないないの?
 
 まあ、こういうことを言うと、子供たちに、
「お母さんは、古いから」
と言われるだけだろう。
 
 古いかもしれないけど、
お母さんは、お前たちに囲まれて暮らしていることに、
「リア充」感じているんだけどねえ〜〜〜。
 
 
 
 (了)

 (話の駄菓子屋)2015.10.13.あかじそ作