子だくさん 「親の引き算」
昨年の4月、
4年間大学の寮に入っていた長男が、
地元に就職して、自宅に帰ってきた。
昨秋には、工務店に就職した三男が、
半年間入っていた会社の研修センターから帰ってきた。
5人兄弟で押し合いへしあいして育った彼らは、
それぞれ寮ではじめての個室を与えられ、
今まで知らなかった「プライベート」とか「プライバシー」というものを知ってしまった。
知らなきゃ知らないで共同部屋で不自由していなかったが、
知ってしまった以上、もう、個室が無いことをつらく感じ始めてしまったようだ。
特に、長男は、
男だらけの建築の学校で過ごし、
男だらけの職場で現場監督をしているせいか、
私の知らない間に、すっかり喫煙者になっていた。
休日も、家族と過ごすどころか、
家にもあまり居つかなくなった。
深夜に寝に帰ってくる程度だ。
そう。
私が家を出る直前の状態と同じだ。
長男は、精神的には、もう、独立している。
経済的に心細いから家を出られないだけで、
もう、とっくに親離れしているのだ。
それでも、そそっかしい性格は、相変わらずで、
財布や、家の鍵や、保険証を年がら年中失くす。
だから、親としても放っておけずに、
ついつい小言を言ってしまう。
私は、今、心配性をこじらせて、小言ババアと化しているのだ。
就職活動が出遅れた21歳の次男にも、
一年生大工の三男にも、
高校1年生の四男にも、
小学4年の、しっかり者の長女にも、
いつもいつも、細かい小言を機関銃のように撃ちまくっている。
私が、子供の立場だったら、うんざりだ。
実際、今年50歳になろうとしている今でも、
細かいことにごちゃごちゃ干渉してくる父親に反抗的な態度を取っている。
子供のためにも、
自分のためにも、
機関銃を撃つのはやめよう。
みんな、母親の小言が多すぎて、ほとんど聞き流しているじゃないか。
小言に紛れた超重要な忠告すらも、
すっかり軽く聞き流す癖がついているのだ。
これでは、いけない。
細かいミスは、あえて冒させて、
痛い目に遭ってもらって、
ちゃんと、しっかり懲りて、自ら思い知って、
各自、経験値を上げてもらおう。
子供が気付かぬうちに、
子供のゆく道の先々の危険を取りはらってやっていたら、
子供自身が自らの身を守れない人間になってしまうではないか。
可愛い子供たちが一歩家を出た途端に、
あらゆる危険が彼らに降りかかってくるけれど、
自分に降りかかる火の粉を自分で振り払える大人になってもらうために、
私は、震えながら遠巻きに眺めることにした。
心配性なので、
これは、地獄のような苦しみだが、
子育ての最終段階の試練だ。
いくつもの言葉を飲み込もう。
そして、いざという時にだけ、
重い一発を発し、
子供たちの魂に一生残る言葉の杭を打ち込んでやろう。
これが、親の引き算というものだ。
つらいなあ〜!
これって、子育ての卒業検定だよな〜〜〜!!
(了)
(子だくさん)2016.1.26.あかじそ作