hana 20100番 キリ番特典 テーマ:道 |
「ここは歩道だっ!」 |
妊娠中は、歩くのが一番の運動だ、ということで、 私は、今まで4度の妊娠中、とにかく歩きまくった。 と、いうのも、もともと小太りなのが、 つわりが終わったとたんに、恐ろしく急激に体重が増加し、 病院の看護婦に激怒されたからだった。 「このままじゃ、30キロ増だからね! 死ぬわよっ!」 と、半ば脅迫され、歩くのが嫌いな私だったが、 しょうがなく、毎日毎日、万歩計をつけて歩きまくった。 はじめは、 「ただ歩くなんて意味ねえ〜(-_-メ)」 と、思っていたが、歩くのが習慣になってみると、 季節の移り変わりを眺めたり、草花に頬を寄せてみたりと、 散歩自体が結構楽しくなってきた。 ひとり目妊娠中は、桃の花、梅の花、ああ、もう桜か、 空気が生ぬるいわ〜、と、余裕の散歩だった。 日々ふくらんでいく腹に戸惑いを覚えながらも、 外気浴を満喫した。 二人目妊娠中は、記録的な猛暑だった。 妊娠直後からひどいつわりで、「妊娠悪阻」というヤツになった。 ゲロゲロがやっと治まってきたのは、妊娠7ヶ月ごろだったか。 外に出たら、熱帯だった。 しかし、体重もやばい感じに増えている。 1歳の長男をベビーカーに乗せて、特急電車がよく見える陸橋や、 一駅先の駅前スーパーまで卵1パック買いに、など、 それでも「素敵な散歩」ができたと思う。 第三子妊娠中の散歩は、ちょっと様子が違った。 1歳の次男をベビーカーに乗せ、3歳の長男と手をつないで、 のっしのっしと歩いたのだが、ここで問題が発生した。 歩道を歩くのは、 @関取状態の妊婦。 A旧式の、どでかいベビーカー Bまっすぐ歩かない幼児 この3人連れは、幅をとる。 どんなに平べったくくっ付いて歩いても、 最低1メートル四方を占領してしまう。 しかも、動きが異常に緩慢である。 したがって、歩道を全速力で走ってくる自転車に、 異常なイラつきで、ベルをリンリンリンリン鳴らされる。 自転車は、人が居ようが、電柱があろうが、 スピードを決して緩めず、とにかくリンリンリンリン人を威嚇して行く。 「あっ、すみません!」 「ほら、もっとこっちに寄って歩こう」 「縦に並んで歩こうね」 私も、必死によけるが、子供は自転車にかすって何度も転んだ。 そんな時、自転車の人は、きまって、 「チッ!」 とか、 「どけよ!」 とか、捨てゼリフを吐くのだ。 若い人は、意外と礼儀正しく、人が居ると、スピードを緩めたり、 「すみませ〜ん」 と、声を掛けて通り過ぎたりする。 しかし、問題は、「おばちゃん」と「じいさん」である。 大抵、彼らは、えらくイライラしていて、馬鹿に急いでいる。 老い先短いから焦るのもわかるが、 「ここは、歩道だろ!」 と、言いたい。 が、言えない。 言う間もなく、激しいベルの音と共に去っていってしまう。 舌打ちの音も聞こえる。 連日、チッチッチッチッ舌打ちされ、 リンリンリンリンベルを鳴らされているうちに、 妊婦の私は、ぶち切れた。 「歩道は、【歩く道】と書くんだよっ!」 「私らは、横に自転車2台分の隙間を空けて、 生垣に体擦りながら、細くなって歩道を歩いているんだぞ!」 「捨てぜりふ吐くなっ!」 しかし、言い返したところで、ヤツラは速いから、 もう全然聞こえていない。 (畜生・・・・・・何とかしてヤツラを懲らしめたる!) そこで私は、考えた。 スピードを緩めないで、突っ込んできた自転車に、 一瞬で褐を入れるのなら、長文はダメだ。 ひとことでキメなければならない。 そして、ある日、いつも通りリンリンリンリン突っ込んできた自転車に、 すれ違いざま、大声で叫んでみた。 「アブナ〜〜〜〜〜〜イッ!」 そのじじいは、ちょっと振り向いたが、ケッ、という顔で去っていった。 次の自転車には、 「いた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!」 と、叫んでみた。 そのおばはんは、ちょっと止まって、振り返ったが、 こともあろうに、「邪魔なんだよ」と逆切れしやがった。 おばさんとじいさんは、自分が一番偉いと思っているヤツが多い。 自分最優先だから、相手に何を言われても、絶対に自分の非を認めない。 いい人は、凄くいい人なのに、 悪い人は、凄く悪い。 そうだ。 そういう悪いヤツには、もっとキョ―レツな作戦を立てなければならない。 全速力で歩道を走ってくる自転車に、 私たちは、素早く気配を察して立ち止まり、(フォーメーションNO.1) 道の端でぴったり平たくなって待つ。(フォーメーションNO.2) @妊婦(すげえ睨んでいる) A3歳児(すげえ無表情) B1歳児(すげえ鼻水) の、3人が、ビシッと横に並んで、 シンクロナイズド・スイミングの如く、 自転車運転手の顔面を鋭く指さしているのだ。 3人に超ハイテンションで見つめられ、指差されて、 みな一様に、ハッとして、目を反らしたり、 びっくりして一瞬止まってしまう。 「なんだよっ!」 と、言ってくる者には、 「道路のルールを子供に教えているんです(^○^)。 悪い見本を見つけると、子供が指差してしまって(^○^)。 指なんて差してしまって、失礼しました〜(^○^)」 と、ニッカニカ笑って言い返す。 これで大抵、むっつりされながらも撃退できる。 そんなこんなで第三子も無事生まれた。 第四子妊娠中の散歩は、3歳の三男と手をつないで歩いたが、 相変わらず、歩道をすっ飛ばしていく自転車は多い。 しかし、もう、私は、指を差さなった。 自転車は、目で制す。 男児をいっぱい育てているうちに、どんどん人相も悪くなり、 ガラも悪くなったせいか、 ひとにらみで、大抵、スピードが落ちるようになった。 スピードが落ちない時は、 逆に自転車に突っ込んで行くふりをしてみる。 ほとんど当たり屋だ。 当たってもいないのに、 「ああ〜〜〜〜〜〜んっ!」 と、倒れて見せたりもする。 めちゃくちゃタチ悪い。 倒れている私をチラリと見て、まだ捨てゼリフを吐くヤツもいる。 そう。だから、この戦いは、まだ終わっちゃいない。 暴走自転車は、シャレじゃなくて、ホントに危険なのだ。 ヤツラの暴走を止めるため、 私には、「妊婦の散歩」を続ける義務がある。 ハラんで、歩く! 歩道を正す! ハラんで、歩く! 歩道を正す! んっ? 別にハラまなくったっていいのか。 |
(しその草いきれ) 2002.04.30 作 あかじそ |