鬼ばば母ちゃん 20300番 キリ番特典
テーマ:男の子を育てる


「イテエンダヨ!」

 うちには、今のところ、4人の男児がいる。
「今のところ」と書いたのは、これからもっと産む予定だからだ。
 女児も産まなくては、私は、納得できない。
 理由は簡単。
「男って、とほほ!」
だからだ。
 女の子のお母さんは、
「女は性格がキツイし、口うるさいよ〜」
とか、
「男の子は、単純で優しいし、いいじゃん」
とか言ってくれるが、
でもやっぱり男ばかりじゃバランス悪いったらない。

 体弱いし、弱虫だし、甘えんぼだし、
そこが可愛いといえば可愛いのだけれど、
とにかく恐ろしく手がかかる上に、ヤツラ、痛いのだ!

 なんせ、いつもいつもムリムリムリムリ人に体を押し付けてくる。
突然、何の脈略もなく、
「わお〜〜〜〜〜〜〜〜」
とか叫んで、人に飛び掛ってきたりする。

「なにすんねん!」の連続である。

 いつも走ったり飛んだり、組み合ったり、小突きあったり、
とにかく、落ち着きないったらない。
「なんでそんなに動きまくるんだ!」
と、不思議でならない。
 しかし、ま、そういう生物なのだろう。

 でも、百歩譲って、ばたばたしているのが生理だとしても、
それは男同士でやってくれ、と思う。
 女の私に、しかも、世の中の「ぼんやりさん」トップ1万人に入るほど、
「いつも上の空」の私に、突然襲い掛かるのはやめて欲しいのだ! 
心から!

 いきなり襲われるのが一番多いのは、
テレビで「ちょっといい話」みたいな番組が終わった瞬間だ。
 それまで、みんなで息を殺してテレビに釘付けになり、
微動だにしなかったのが、番組が終わった途端に、急に我に返り、

「だは〜〜〜〜〜〜〜っ!」
などと叫んで、人に飛び乗ってくるのだ。

 感動するなら静かに感動しやがれっつんだ!
「だは〜〜〜〜〜〜〜っ!」
って、突然人を襲うな!

 大体、一番痛いのは、次男のヤロウなのだ。

 生まれてから4年間、一晩中、ずっと添い寝する私の髪を、
片手でグワシ、とつかんで眠っていた。
 これは、痛い!
 
 私か次男のどちらかが寝返りするたびに、
自然と私の髪は激しく毟り取られ、
朝起きると、何百本も抜けている。
 四男が生まれて、添い寝を解放されてから、
やっとムシリからは逃れられたが、
この次男という男は、とにかく母親の体に密着したがる。

 ゴムマリみたいなムチムチの体で、ぶりんぶりん擦り寄ってきて、
すぴーすぴー鼻息を人に吹きかけながら、
「おかーさんおかーさんおかーさんおかーさん」
と、追い掛け回してくる。
 暑苦しいわ、買ったばかりの新しい靴を踏んできて、どろどろにしちゃうわ、
もう、うっとおしいったらない。

 ある日、突然ヤツは、わけもなく手を振り回し、
伸びまくった指の爪が、私の目にグサッと差し込まれた。
 あんまり痛いから目医者に行ったら、
黒目が削り節みたいに削れてると言われた。
 オカカじゃないんだから、削るなよ、母の目を!

 で、次男には、合計3回、目をやられた。
 毛を抜かれ、目を削られ、
むっちんぱっちんむっちんぱっちん汗ばんだ肌をぶつけられ、
(今だけだから。大きくなったら、離れてしまうんだから)
と、じっと我慢をしているが、
そろそろ私のイライラも最高潮になっている。

 うちの4人の男児は、全員、ひどい癇癪持ちで、
その泣き方も半端じゃなく、近所の人に虐待を疑われているのは確実だ。
 しくしく、なんて可愛い泣き方をしたことがない。
 泣く時は、いつも絶叫だ。

 特に三男の暴れ叫び泣きは、絶対誰かを負傷させる。
 泣き止ませようと近寄る者の、眉間に、こめかみに、
鼻っ柱に、股間に、みぞおちに、重いパンチを食らわせる。
 いいコブシを持っていやがる。
 急所急所を狙ってくる。
 おまけにキックも鋭どい。
 
 ヤクルトの託児所に預けていた時も、
「どしたの〜? 泣いちゃったね〜」
と、微笑みながら抱きしめた年配の保母さんが、突然、
「はんっ!」
と、体をふたつに折ってうずくまったと思うと、
鼻血をたら〜っ、と垂らしながら顔を上げたことがあった。

 むごい!

 何をカマシタのか知らないが、保母さんも、いつも負傷していた。

 私は、この三男に眼鏡を3本破壊され、
もう諦めて裸眼で過ごすことにした。
 
 その後生まれた四男も、暴れ方が三男以上で、
ニコニコ笑いながら、お兄ちゃんたちを流血の惨事状態にしている。
 
 男の子を育てて10年。

 手がかかるのは、慣れた。
 でも、怪我は、イヤ!
 
 目んたま突かれ、
鼻折られ、
唇切って、
歯を折って、
毛を毟られて、
首締められて、
喉を蹴られて、
肩噛まれ、
乳首両方噛み切られ、
みぞおちキックに、
恥骨に頭突き、
膝のチョウツガイ逆に曲げられ、
すねでジャンプされ、
グリコのオマケを踏んじゃって、
足裏パッカリ割れちゃっても、
母は、母だよ。恨みません。

 だけど、聞いてね、小さな望み。
女児のひとりも欲しいのよ。
 痛いのは、イヤ(*_*)

 だって、だってだって、君らはいつも、
イテエンダヨ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!


(子だくさん) 2002.04.30 作 あかじそ