「ローテンションな1日」 |
よくわからないが、バイオリズムかホルモンの関係か、 何だか知らないけれども、恐ろしくテンションの低い日がある。 機嫌が悪いわけじゃない。 嫌なことがあったというわけでもない。 ただただ、気が乗らないのだ。 しかし、そんな日に限って、周りの人間は、ノリノリで迫ってくる。 なぜだ。なぜなんだ。 私は、ここ2〜3日、じっと口もきかずにぼんやり過ごしていたいのだ。 放っておいてくれ、そっとしておいてくれ、頼むから。 洗濯もしていない。皿も洗ってない。動けない。 しかし、鳴ってる電話は、鳴り止ませたいから受話器を取る。 「お姉ちゃん! ヨーカドー行こっか! ヨーカドー!」 母である。 「あ・・・・・・うん・・・・・・。行こうか・・・・・・」 気分転換にでもなるかと思い、のらりくらりと承諾。 自転車に2歳児を乗せて、母とツーリングでスーパーへ。 「何買う? どこ見る?」 母は、いつも元気だが、今日は、いつもに増して元気だ。 私は、別にどこも見たくないし、何も買いたくない。 完全に鬱なのだ。 やる気ゼロなのだ。 結局、母の大好きなゲームコーナーで、 母のやるゲームを、だま〜〜〜って見ていた。 その後、2歳児がどうしてもと言うので、 食事コーナーのラーメンを食べる。 「ねえねえ何食べる? ギョーザ食べる?」 母は、どんどん注文し、私は、減っていない腹に、 ラーメンを黙々と流し込む。 2歳児がテーブルで悪戯しても、いつもなら「こるぁ!」と、怒鳴るのに、 今日は、肩を落として横目で見ていた。 結局、全然盛り上がらないので、とっとと帰宅し、 実家で、ぼんやりとテレビを眺めていた。 父と一緒に、日曜大工をしなさいよ、と、母に言われて、 言われるがまま、ぼんやり手伝う。 父は、思ったようにいかないらしく、 チッチッチッチッ舌打ちしながら人に当たってくるので、 私は、黙って縁側に出て行く。 今日は、いつものように、激しく言い返す気力もない。 半開きの目で、庭の植木を見るともなしに見ていた。 鬱なのだ。 気力ゼロなのだ。 そのうち、学校から子供たちが戻ってきて、 実家にどかどかと上がりこんで来た。 「お母さん、宿題見て〜!」 「今日ねえ、学校でねえ!」 私は、力を振り絞って「うん」とだけ答えたが、 子供たちは、いつもの5割増しの勢いで、私に迫ってくる。 視線を上に上げられない。 だって、今日は、鬱なのだ。 気力がゼロなのだ。 それから、重い腰を上げて、何とか子供たちを家に連れて帰った。 部屋に入り、洗濯も皿洗いもしていないのを改めて見て、 ますますガク〜〜〜〜〜ッ、となる。 これから、6人分の夕飯を作らなければならないのだが、 全然やる気が起こらない。 米を研ぐ気も起きない。 元気ないのだ。 何もしたくないのだ。 別に理由はない。 テンションが、異常に低いだけだ。 玄関チャイムが鳴り、出て行くと、新聞の勧誘だった。 「ごめんなさい」 と、すぐにドアを閉めた。 その後、すぐ、また玄関チャイムが鳴り、 出ると、宗教の勧誘だった。 「こんな素晴らしい本がありまして・・・・・・」 と、ドアの隙間から本をぐいぐい差し込んでくるので、 「興味ありません」 と、本を押し返し、ドアを閉めた。 その後、牛乳屋が来て、回覧板が来て、 集金が来て、子供の友だちが来た。 誰とも会いたくないし、何にも話したくないのだ。 元気ないのだ。 ああ・・・・・・。 米も研がないまま、午後6時を回ってしまった。 このまま布団にもぐって眠ってしまいたい。 しかし、腹へった腹へった、と子供たちみんなで騒ぐので、 炊飯器の中に、冷凍してあった刻み野菜とツナ缶と、塩コショウと、カレー粉を、 米と一緒に突っ込んで、早炊きモードにセットした。 後は、時間が来たら、勝手にカレーピラフになっているだろう。 多分。 ピピッピピ、ピピッピピ、と、炊飯終了の電子音が鳴り、 私は、意識を取り戻した。 ああ・・・・・・。 居間で畳に突っ伏して、眠っていたようだ。 ちっとも気がつかなかった。 長男に、「よそって食べてて」とだけ言い、 そのまま、また眠ってしまった。 疲れているのだ。 身も心も、疲れがたまっているのだろう。 いつもいつも、頑張れるだけ頑張ってしまう私だが、 頑張りすぎて、時々こうなる。 はっきりと、電池が切れてしまう。 多分、私は、理想の生活目指して頑張って、 気になるところをほじくり返して、いじくりたおして、 自分だけでなく、家族にも激しくぶつかっていた。 自分の持つエネルギー以上のものを、放出しまくっていた。 そして、それらは空回りに空回りを重ね、 イライラがイライラを呼び、ジレンマがジレンマを呼んでしまっていた。 もう、これからは、あんまり頑張らないようにしよう。 怒るのも、いい加減にしよう。 こんな風に突然腑抜けてしまうのは、どこかに無理が来ている証拠だ。 異常にローテンションな日、私は、畳に顔を貼り付けて考えた。 いくら血の気が多いタチでも、もう若くない。ハタチじゃない。 エネルギーは無限じゃない。 省エネで行こう。 夫に、「ビッグ・ダディ」を求めて、イライラするのは無駄。 子供に、理詰めで言うことをきかせるのは無理。 親に、包容力を求めるのは無謀。 今まで私のやってきたことは、ほとんど力の無駄遣い。 もっと力を倹約しよう。 心の家計簿つけて、限られた気力を大切に使おう。 ああ、ローテンションな1日が終わっていく。 炊飯器のフタが開けっ放しだが、それをどうすることもできずにいる、 どうしようもなくローテンションな1日が、終わっていく。 |
(しその草いきれ) 2002.05.09 作 あかじそ |