「 いいなそれ@ 」

 くっだらないことなんだけど、
「いいなあ〜〜〜それっ!!」
と思ってしまうことがよくある。

 NHKの連ドラか何かで、
戦時中に、もんぺ姿の娘さんが、
「そうそう、いいお肉が手に入ったのよ」
と、義理のお姉さんにひそひそニコニコ囁かれて、
お姉さんが茶箪笥から新聞紙に包んだ肉の塊を出すシーンとかを見ると、
「いいなあ〜〜〜、それっ!」
とテーブルの天板をバンバン叩いてしまう。

 「タンスから肉!」

 感動だよね!

 いい時代だ!

 田舎の婆ちゃんの家でも、
「おお、リカ、いいの食べるか?」
とか何とか言って、茶箪笥から考えられないような物を取り出すのが楽しみだったなあ。
「えっ? 茶箪笥からゼリーかよ!」
みたいな。  
 それは、一種のイリュージョンだった。


 それから、身近であった「いいなそれ」は、
長男の幼稚園入園直後に体験した。
 第1子の入園、そして、初めての保護者参観は、母の日参観だった。
「それでは、お母さんにありがとうの気持ちをこめて歌を歌いましょう」
と、先生が言い、
3つ4つの子たちが、まだまだ赤ちゃん声を精一杯張り上げて、
♪おか〜あさん、なあ〜に? おか〜あさんっていい匂い〜♪
なんて歌った日にゃあ、あっちこっちで洟すすり音が湧いて来る。
 そして、その後、先生が、
「みんな〜、お母さんはみんなにいつもご飯を作ってくれたり、
いろいろなお世話をしてくれて、本当に大変ですよね〜」
と言うと、子供たちのリアクションが薄く、父兄一同ずっこけて、苦笑が湧いた。
 先生は、必死でフォローしようと、
「あれ? じゃあ、お母さんがいなくなっちゃったら、みんなどうかな〜?」
と言うと、間髪入れず、うちの長男が、大きな声で

「さむしい〜!」

と、言った。
 「淋しい」じゃなくって、「さむしい〜」っていうのがドキ―ンと来た。
ヤツは、私がいなくなると、寒くなっちゃうくらい淋しいらしい。

「いいなあ〜〜〜それ!」

 教室のあちこちで、お父さんお母さんがグッときていた。

 ほんの一瞬の、ほんのワンシーン。
 でも、一生忘れられない「いいなそれ」。

 これからもどんどん感じていたい「いいなそれ」。
何だかわくわくじんじんしてくるもんね!


(しその草いきれ) 2002.06.16 作 あかじそ