「 越路吹雪という歌手 」 テーマ:歌手 |
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私の一番好きな歌手は、越路吹雪だ。 あの人は、自分の魂を削って歌にしていた。 歌うためにできている生き物だった。 平穏に日常生活を送れるようにはできていなかった。 心身ともに日常という毒に当たってしまい、 酒で何とか心を保っていたが、ついに病み、逝ってしまった。 彼女は、歌う機能しかついていない、不幸な天才だったのだと思う。 だからこそ、彼女の歌は、聴く者の魂をワシヅカミにし、 ギリギリの命を感じさせてくれる。 そんなのは今じゃちっとも流行らない生き方かもしれないが、 私は、彼女の悲しさ切なさ苦しさこそが、 皮肉にもその歌に命を吹き込んでいたのだとも思う。 彼女の歌を聴いた人は、みんな大なり小なり感じるだろう。 その声が、そのブレスが、その歌が、彼女の血肉でできていることを。 彼女は、自分の羽を抜いて織物を織る夕鶴のごとく歌を紡ぎ、 そして、赤剥けの丸裸になって死んだ。 短い命だったが、残された彼女の歌を聴くたびに、 その都度越路吹雪は蘇り、また聞く者の魂を揺さぶる。 歌うことで、永遠の命を得たのだ。 越路吹雪は、「歌手という生き物」だった。 何かの間違いで、普通の人と同じ心と体を生まれ持ってしまった、 「単なる歌手」だった。 聴こう。 彼女の歌を。 そして、命がけで生きる激しいドラマを見よう。 命を削って歌った歌だ。 聴く方も、少しくらい命が削れるくらいの覚悟で聴こう。 そして、生きよう。確かに生きよう。 厚紙で包み込まれた魂を手のひらに取り出して、 一瞬だけでも、本当に生きよう。 |
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(しその草いきれ) 2002.06.22 作 あかじそ |