「 格闘育児 」

 小2の次男が、今、物凄い反抗期を迎えている。
 「宿題やったの?」
と言えば、
「ふんっ!」
「やってないなら、早くやっちゃいな」
と言えば、
「るせーんだよう!」
と言う。
 
 話しかけても返事もしないし、
やらなければならないことも全然しないので、叱ると、
「ふんっ」
と言ってすぐ家を飛び出してしまう。

 私は厳しく育てられたせいか、どうしても子供には厳しく接してしまう。
 反抗的な態度をとられると、
「なんだ、その口の利き方は!」
と、カンカンに怒ってしまう。

 毎日毎日、次男と私は大喧嘩を繰りかえす。
次男は私に暴力を振るうし、物も壊す。
 すると私は、物凄い勢いで追いかけていき、
何度でもお尻を叩き、大声で怒鳴る。

「家で暴れるヤツは出て行け!」
「親に暴力を振るうヤツは、もううちの子じゃない!」
「悪いことをしたら謝れ! 悪いことするヤツは大嫌いなんだ!」
と、巻き舌で怒鳴り散らす。

 近所には、完全に虐待を疑われているだろう。
 しかし、今、この子とこの家に必要なのは、「世間体」 じゃない。
 真剣に子供を育てていたら、時には鬼にもならねばならぬ。

 とうとう次男はあやまらなかった。
 しかし、お尻を叩かれる次男の泣き声が、
怒りから悲しみに移り変わるのがわかった。
 私はすぐに次男から離れ、
「反省しなさい」
と言って違う部屋に移った。

 遠くで玄関ドアの閉まる音がした。
 次男がまた、家出をしようとしている。
 私は玄関に行き、ドアを開けて外を見ると、
次男が靴下の上に夏のサンダルを履いて野球帽を被り、
口を真一文字に結んでこちらを見ている。
 私の姿を見つけると、「うわあっ」と喚きながら、走って行った。
 私は、腹立ち紛れにカギを掛けたが、
次男が駆け戻ってくる足音が聞こえ、すぐにカギを開けた。
 次男が玄関に駆け込むのと私が次男の手を取るのとは、
ほぼ同時だった。

「おうちに入んな」
「ごめんなさい」

 私は次男の頬を両手で包み、
「キツイこと言ってごめんな」
と言った。
「お母さんはお前が好きだから、悪い子に育って欲しくないんだよ」
と言うと、次男はふたつ三つの子のようにうなづいて、
素直に部屋に入った。

 もしかして、私の育て方は間違っているかもしれない。
 子供に発してはいけないというボキャブラリーを連発しているし、
いつも感情的になってしまう。 
 でも、私の真剣さは伝わっている。今のところまだ、通じている。

 しかし、そのうちこれではダメになるかもしれない。
 先のことはまだわからないが、でも私は絶対に逃げないつもりだ。
 
 父親不在の我が家なのだ。
 怖い人間がいないオスガキだらけの家庭は悲惨だ。
 やりたい放題の無法地帯になってしまう。
 だから私も、なりたかないが、
怖いカーチャンをしなければならない。

 父性を知らない夫と、母性の未熟な私だけれど、
一匹の動物の親として、いい意味での本能にまかせて、
私は格闘していくだろう。これからも。

 (しかし、そろそろ格闘技を習いに行く必要を感じている)

(子だくさん) 2002.11.10 作 あかじそ