「 愕然育児 」

 子わがまま→親叱る→子暴れる→親お仕置き→子家出→親叱る→子ふて寝

 ここ一ヶ月、このパターンを繰り返す私と次男は、
完全に「他校の不良中学生同士」といった関係に陥っていた。
 顔を合わせれば喧嘩。そして、バイオレンス&絶叫。

 これでいいのか?

 次男に蹴られて痛めた右足の親指をさすりながら、
ため息をつき、首を何度も横に振る。
 
「それでも親かよ!」

 次男の放ったことばが胸を突く。

 まだ小2、されど、もう小2。
 「お母さんお母さん」とまとわりついてくる時期も、もうすぐ終わる。
 いや、もう終わりかけているのかもしれない。
 そんな貴重な時期に、私はヤツと取っ組み合いばかりしていていいのだろうか?
 このまま一生体も触れ合わなくなってしまうかもしれないというのに。

「反抗期なのよ」

 私の母は、孫の困った暮らしぶりを見て笑う。
 
「反抗期が無い子の方が怖いのよ」

 母は、そうとも言う。
 私自身、小3から中3までの6年間、凄まじい反抗期で、
親を「馬鹿野郎」呼ばわりし続けていたことを考えると、ちと怖い。
 ヤツは私に似ている。
 あのぶっとい体で、私や夫を「ババア」だの
「クソジジイ死ね」だのと罵るのだろうか。かつての私のように。

 ヤツの暴力を叱る時、私も暴力をふるっている。
 これでは悪循環ではないか。
 が、しかし、興奮して兄弟の首を締めたり、
暴れて家具を壊すヤツに、ことばで対抗するのは難しい。

 もうひとつ、とても気がかりなのは、次男が私の父にそっくりなことだ。
 父は、私たち兄弟が二十歳すぎるまで、気分次第で家族を殴る蹴るしてきた。
 彼は「しつけだ」と言うが、我々は理不尽な暴力としか思えなかった。

 次男もそうなってしまうのが、私は本当に嫌なのだ。
 子供時代は、友だちや親兄弟に暴力をふるい、結婚したら、妻子を殴るのか。

 ダメだ!
 そんなことは、絶対に許さない!

 「悪気ない」

 そんなひと言で片付けられない。
 
 いつもはいい人。純粋な人。
 でも、思い通りにならないと興奮して人に危害を加えずにはいられない。

 そんなのダメに決まってる。

 静かに諭せば何とかなるのか?
 怒鳴りたくなるのをグッとこらえて、
静かに抱きしめてゆっくり諭せば、
少しは人間らしくなってくれるのか。

 私は、愕然とする。

 困った父に育てられ、傷ついて、立ち直った頃にまた、
困った父そっくりな息子に困惑する。

 これはタタリなのか?
 血の呪いか?

 とりあえず、この一週間は、次男を静かに諭してみよう。
 どんなに興奮しても、強く抱きしめて、目を見て、
「こんなことではお母さんは困る」と言い続けてみよう。

 父・私・次男。
 同じ血がぐるぐる巡る。
 そっくり3世代。

 泣くもんか泣くもんか。
 私は父から生まれた娘、次男を産んだ親。
 この血のオトシマエ、私がつける。

 次男が人を殴らない大人に育てば、私の大きな仕事は終わるのだ。

 さて、つかみ合う次男と私の側には、
なぜかいつも長男・三男・四男がつかず離れずついている。
 格闘のリングがどこに移ろうと、兄弟たちはぞろぞろぞろぞろついてくる。
 これが何を意味しているのか、よく考えよう。
 私たちは血がつながっているのだ、ということを。
 血のつながった者同士が戦うことの愚かさを、もっももっと考えてみよう。

 兄弟たちは、どうしてそこに居るのか。
 どうしてつかみ合う家族の側に、ついていずにはいられないのか。

 思ったより早く来た反抗期に、愚かな私は、ただただ迷い、
今日もシップを取り替えるのだ。

(子だくさん) 2002.11.12 作 あかじそ