「すました顔してメメンメーン」の巻
中学、高校と、ずっと同級生の、可憐な美少女がいた。
彼女の家に遊びにいくと、必ず食事に麺が出た。
ある、夏の暑い日、例によって、彼女の家で、昼食を御馳走になることになった。
「暑くって食欲ないから、冷やし中華でも食べようか」
そう言うと、彼女は、おもむろに居間の隅のダンボール箱から、
インスタント冷や し中華6袋を取り出し、「これぐらいでいいよね」と、微笑んだ。
(2食入り)と、袋に書いてあるのがチラリと見えたので、
「それ、2食入りだよ。」
と、笑うと、
「やっぱり足りない?」
と、切なそうに小首をかしげた。
「いやいやいやいや、多いっしょ。2かける6は、12食だよ」
と、くすくす笑うと、
「足りないよねー」
と、更にダンボールから袋を取り出し始めた。
「え」
彼女は真っ白いワンピースをひるがえしながら、踊るように袋を破り、歌うように
麺を熱湯のなべに投入した。−−−そして、20分が過ぎた。
「ね、ねえ。茹ですぎじゃない?」
「だ・い・じょ・う・ぶ」
30分後、[それ]は、ゆっくりとダイニングテーブルへと搬入されて来た。
映画「未知との遭遇」で、主人公が、何かにとりつかれたように作り上げた、
あの山 の模型のような物体が、4体、しずしずと、そこに並べられた。
「ひとり2皿づつね」
その後のことは、あまり覚えていない。
人間の脳は、思い出したくない怖い経験を、記憶の底へと追いやってしまうらしい。
ただひとつ、覚えているのは、きゃしゃな彼女の放つ、あのセリフだけだ。
「デザートに、ところてんでもどう?」
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