「元旦から馬鹿」の巻 今や「ハレとケ」という概念がなくなって、いつでも街に出ればお祭りだ。 コンビニや100円均一という「縁日」も年中開いている。 年末に慌てて正月の食料をストックする楽しみもなくなった。 しかし、かろうじて正月くらいは「つんつくつくつくつん」といった気分が漂ったりする。 去年犯した数々のあやまちがリセットされたような、新しい気持ちになれる。 「一年の計は元旦にあり」などと言って、今年こそいい感じの一年にしようと、少しは思う。 んがっ。 元旦から馬鹿な奴がいた。 我が弟「あおじそ(仮称)」である。 彼は、普段はとても優しく、温厚だ。しかし、元旦は、違う。 親戚一同が集まって、花札やオイチョカブなどを始めると、あおじそは、豹変する。 学校に上がるか上がらないかのチビッコが、コイン代わりのマッチ棒を握りしめて、 片膝立てて、真剣勝負だ。 負けそうになると、泣きながら札をひっくり返し、暴れまくる。 テーブルの上にあった果物ナイフをわたしに投げつけ、見事鼻の頭の骨に突き刺さった。 まさに、目と目の間にジャストミートである。 (あたしゃダーツじゃないっつーの) また、彼が中学生になったある年の元旦、つまらない事で、父vs弟vs私の大喧 嘩になった。 いつの間にか、敵の大事にしている物を頭上高く掲げ、 「たたっ壊してやるっ!」 と、一触即発状態で1時間以上、3人でにらみあっていた。 「その釣竿を床に置け!」 父が私に叫んだ。 「その前にそのスケボーを床に置け!」 弟が父に叫ぶ。 「先にそのホルンを床に置いて!!」 私が弟に叫ぶ。 「早く置け!」「てめー、ふざけんなっ!」「壊したらぶっ殺す!」 「誰に食わしてもらってると思ってんだ、このやろう!」 「産んでくれなんて頼んでねえよっ!」 「ホルン壊したら、ほんとに許さないよっ! 早く下に置いてっ!!!」 3人とも、命の次に大事な宝物を人質(モノジチ?)に取られているから必死である。 「じ、じゃあ、いっせえのせ、で下に置こう」 「わかった!」 「いっせえの・・・・・・」 一瞬、父の動きが怪しかった。 「てめー! きたねーぞ! 裏切るなよっ」 弟が再びホルンを高々と掲げた。 「親に向かって、てめーとは何だ! 折るぞ!」 父もスケボーを掲げた。 「うわーっ! 待て待て! 悪かった悪かった!」 弟が叫ぶ。 「落ち着いて! 落ち着いてもう一度!」 私が音頭を取る。 「いっせえのぉ」 3人は、ゆっくりとかがむ。しかし、視線はあくまで自分の宝に集中している。 と、弟がホルンを裏返しに置こうとした。 「やめてよっ! 壊れちゃう!!」 私の叫び声に合わせて、3人同時に、モノジチをまた両手で高々と揚げた。 そんな事を1時間以上続けていたのだ。 「元旦から馬鹿ばっか」 母が皿を洗いながらつぶやいた。 ―――――待てよ。私も馬鹿なのか? そして父も・・・。 この間の元旦も、臨月の私と、30歳過ぎた酔っ払いの弟は、泣きながら、 あわやつかみ合いの大喧嘩をした。 馬鹿遺伝子、顕在である。 (おわり) |