ニブルヘイム村の一角に評判の店がある。カクテルと料理が美味しく、そして美人のマスター。
そんな評判を聞きつけて店はいつも繁盛していた。
店の名は「セブンス・ヘブン」という。
...そう、かつてミッドガルでティファが切盛りしていたあの店の名である。
ティファは再びこの地で店を開いていたのだ。
そしてやはりこの地でもカクテルと料理が旨くて評判の店になっていた。
あの戦いの後、みんなそれぞれ帰るべき場所へ帰っていった。
そして、クラウドとティファは生まれ故郷であるニブルヘイム村に帰っていた。
ニブルヘイムはゴーストタウンと化していたが、それでも二人が帰る場所は此処しかなかった。
二人はそれぞれかつて住んでいた家に移り住んだ...
それから2年。
ニブルヘイムにも少しずつ移り住む人が増え、今ではかつてクラウド達がいた頃以上になっている。
移住してきた人の殆どはミッドガルのスラムの住人だった。
ミッドガル崩壊によって住む場所を失った人達にティファがニブルヘイムに来ることを薦めていたのだ。
「何も無いつまらない田舎の村だけど、少なくとも住む家はあるから」と..
「いらっしゃいませ..あ、クラウド」
クラウドはカウンターの一番端に座った。そこは彼の席であり、必ず空けてある。
「キツイの、くれないか」
「ちょっと待っててね...はい、いつもの」
ティファはそう言ってカクテルを差し出す。そのカクテルはティファの瞳のように澄んだ赤色をしている。
プレミアムハート・・・ティファはこのカクテルをそう呼んでいる。
クラウドはそれをぐいと飲みほす。そうして一息ついたといった風でいた。
「今日はいつもより早いのね」
「ああ、今日は近かったからな。それに、新政府が出来たせいか、最近は治安も良くなったようだ」
ミッドガルの崩壊、そして神羅カンパニーの消滅は多くの人々の生活を大きく変えてしまった。
魔胱エネルギーは失われ、人々は昔の少し不便な生活に戻っていた。
多くの人々が住む家を奪い、かつて神羅カンパニーで仕事をしていた人々は職を失い、盗賊に身をやつす者もいた。
最近までは旅行者や商人達はモンスターや盗賊から身を守るため、ボディガードを帯同させるのが常識になっていた。
クラウドはこのボディガードを職業としていた。
「新政府っていえば、大統領は..」
「ああ、大統領はあのリーブだ。」
「私たちにとってはリーブって、やっぱりケットシーなのよね。なんか変な感じ」
「きっと声を聞いたら、ケットシーとしか思えないだろうな」
クラウドとティファはお互いに大統領の演説姿を想像した。それはやはり「ケットシー」そのものだった。
二人は顔を見合わせふふっと笑った。クラウドは最近はずいぶん感情を表に出すようになっていた。
クラウドとティファは、まだ、結ばれてはいなかった。
かつての仲間達も、そしてセブンズヘブンに来る客達も二人が結ばれるものと思っていた。
しかし、実際はニブルヘイムへ戻って2年経ってもそのようにはならなかった。
ティファはクラウドの言葉を待っていた。でも、ティファはその言葉を求めたりはしない。
ニブルヘイムへ帰った頃、ティファはクラウドの中あるエアリスの存在を感じていた。
だからティファはクラウドの思うままに従おうと思っていた。
エアリスがクラウドにとってどれ程大きな存在だったかをティファは知っていたし、
彼女にとってもエアリスは大事な友達でもあったから。
ティファは今のままでも良いと思っていた。
クラウドが自分の側にいてくれる。何よりそれが一番大切な事だったから..。
ティファがそう感じていたように、ニブルヘイムへ帰った頃のクラウドの中にはエアリスがいた。
エアリスの最後の笑顔が頭から離れなかった。
エアリスを愛していたからか?それとも彼女が目の前で死ぬのを何も出来ずに見ていた罪の意識なのか?
あの頃は、自分でも分からなかった。
しかし、2年という歳月はクラウドに冷静に自分を見つめさせる時間を与えてくれた。
クラウドは少しずつ自分を理解していった。
なぜあの日ティファの家に行ったのか?なぜソルジャーになろうとしたのか?
エアリスを愛していたのか?自分は何のために戦っていたのか?
これから自分のなすべき事は...
今ではエアリスを素直に思い出すことが出来る。
彼女は死んだのではない、星に還っていったのだ。
今はきっとザックスに再会し、二人で幸せになっているんだと思える。
そしていつか自分も星に還り、彼らに再会できるのだと..
そして理解した。
「今の俺にはティファがいる。そうだ..始まりは全てティファなんだ。」
「ティファに認めてもらいたい、ティファが尊敬するような男になりたい。」
「全てはそれが出発点なんだ...。」
今、ティファは自分の側にいてくれる。ティファは(きっと)自分を愛してくれている。
だが・・・・
そう思えたとき、クラウドには別の不安が襲ってきた。
「俺の身体は..普通の人間とは違う。俺とセフィロスは同じなのかもしれない。」
ジェノバは確かに倒した。だが、自分の身体にはジェノバ細胞が生きているかもしれない。
かつてクラウドはセフィロスの狂気を見た。そしてルクレツィアの悲しい運命も見てきた。
そんな自分がティファを幸せに出来るのだろうか..と。
「どうしたの?」
訝しげにティファが訊く。
「いや、ちょっと考え事をしていたんだ。..それより何か食わせてくれ。」
「今日は特別製よ、いい野菜が手に入ったの」
「それは楽しみだな」
クラウドはいつものようにティファの手料理を食べる。
それはクラウドにとってもティファにとっても幸せな時間だった..。