全てのはじまり |
壊れた窓から差す日差しにティファは目覚めた。
彼女の身体は確かなぬくもりを感じていた。そう、ティファはクラウドに寄り添って眠っていたのだった。
ティファはハッとした。こんな姿、ユフィに見られてないかしら・・・。
ユフィの告白を聞いてしまった後だけに、自分達の幸せそうな姿を見せるのは余りに酷だと思ったのだ。
だが、ユフィは向こうで無邪気そうに眠っていた。その寝顔は昔のままだった。
ティファはふふっと笑った。ユフィは自分とは違うんだ・・・恋をしてもユフィはユフィ。彼女は極く自然に恋を受け入れている。
きっと彼女は目覚めたらいつものように陽気でチョッピリわがままなユフィなんだろう。
何にも心配する事は無いのかもしれない・・・ティファは思った。
壊れた窓に歩み、外を見る。目の前に広がるは廃墟の都市。そしてそれとは不似合いなくらいに眩しい日差し。
(今日がきっとここでの最後の捜索。何か手掛かりだけでも見つかりますように...)
ティファは心の中で願った。
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「ユフィ、俺達はこれから手掛かりを探しに上の階へ行くが、どうする?」
「もちろん、あたしはマテリア探しに・・・て、言いたいところだけど、今日はクラウド達を手伝ってあげるよ」
「いいのか?無理しなくてもいいんだぞ」
「無理なんかしてないよ。あたし達仲間だろ?困っていたらやっぱり助けるのが当然だろ?だから今日はあたしも手伝うよ」
「そうか・・・悪いな」
「礼なんていいって。あ!そういえば資料といえば・・・」
「どうした?」
「そういえば思い出した。昨日クラウド達に出会う前、途中の階で偶然妙な部屋を見つけたんだ」
「妙な部屋?」
「うん。瓦礫の中を進んでいくうちに壊れた壁の向こうにある部屋を見つけたんだ。入ってみると何か難しそうな本がいっぱいあったよ。
科学とか遺伝子云々とか書いてあった。そいつがクラウド達の言う資料なのかどうかあたしには分からないけどね。
あれ、きっと隠し部屋だったんじゃないかな?」
「隠し部屋、難しそうな本・・・確かに妙ね」
「もしかすると、それは宝条のプライベートルームかもしれない。そういえば宝条は自分の住居を持っていなかったと思う。
研究以外に興味の無い奴だったから、そういう部屋があっても決して不思議じゃない」
「宝条の隠し部屋・・・ねえ、クラウド」
「ああ。もしかしたら、そこにあるかもしれない。俺の知りたい真実が」
ティファとクラウドは互いに頷き合った。
「へへ、あたしも役に立ったみたいだね」
「クラウド、行きましょう」
「ああ、行こう」
ねぐらにした階から数階降りた所にその部屋はあった。
確かに入り口らしきものは見当たらない。ユフィの言った壊れた壁だけが唯一の進入口に見えた。
3人は部屋に入った。
部屋の中は思ったよりも損傷は酷くない。もちろんかなりは瓦礫に埋もれ、書物は散乱していたが、焼失だけは免れたようだ。
散乱している書物の表題を見ると、生物学や科学関係のものが殆どだ。
こんな書物を読んでいた人物は宝条しかあり得ないとクラウドは即座に思った。
早速3人はしらみ潰しに書物や書類などを調べ始めた。
小一時間も経った頃だろうか。
「クラウド!」
ティファの声にクラウドはティファの許に走った。
「どうした?」
「これ・・・」
ティファは瓦礫の中から見つけた2冊のノートをクラウドに差し出した。
表紙にはそれぞれ『研究ノート1』『研究ノート8』と乱雑な字が書いてあり、下のほうには宝条の名が書かれていた。
ノートの損傷は激しく、一部がかろうじて残されているに過ぎなかったが、それでもこれこそが探し求めていたものだとクラウドは直感した。
「宝条の研究ノートね」
「ああ。ジェノバの事が書いてあるかもしれない」
ユフィもティファの声に戻ってきた。
3人は近くに座り、そのノートを読み始めた...
×月×日
ガスト博士はこの生物に「ジェノバ」と名づけた。一見してこの生物は明らかに我々とは違う種族に見える。
博士は「古代種だ。いや、もしかしたらこれは古代種の原種かもしれない」と言っていた。もし、それが本当ならば大きな発見だ。
古代種はこの星に深く関わり、そして忽然と消えたと伝えられている。また、彼らは我々には無い特殊な能力を持っているとも。
古代種はこの地には生存していないとされている。古代種と我々との間には歴史上の空白がある
古代種とは一体この星にとってどのような存在であったのか?我々と古代種と間に種としてのつながりはあるのか?
これは科学者にとって大きなテーマだ。それをもし解明出来たなら素晴らしい事だ。
もっとも、私は考古学になど興味は無い。私が最も興味を持つのは、彼等の持つ特殊な能力だ。
この生物を通してそれが解明されれば我々人間は新たな能力を手に入れるかもしれない。
もしかしたら、この生物を細胞の組成から調べる事によって、我々人類が新しい種へ変貌を遂げる事も不可能ではないかもしれない。
私はそれが知りたい。
×月×日
ジェノバプロジェクトが正式にスタートした。神羅は古代種の伝承の中にある『約束の地』というものに興味があるようだ。
彼等に言わせれば『約束の地』には莫大な魔晄エネルギーが眠っているに違いないという事らしい。
それでジェノバプロジェクトが承認されたのだ。
ジェノバプロジェクトの大きな目的は古代種の復活。そして約束の地の探索。
ガスト博士は本気で古代種を復活させようと思っているようだ。博士にとっては魔晄エネルギーなどどうでも良いらしい。
古代種を復活させ、古代種にまつわる様々な謎を解明する、それが第一のようだ。
「ジェノバ」はその為に必要な種であり。博士ははジェノバによって古代種の復活を考えているようだ。
ジェノバプロジェクトで私はジェノバの生物学的分析を任されることになった。
博士の想いはともかく、私はこの生物を生物学的見地から科学的見地から徹底的に調べてみるつもりだ。
×月×日
エネルギーレベル30、活性レベル僅かに上昇。エネルギーレベル0.1、活性レベル微少。
ジェノバはエネルギーを吸収し、その活性レベルを変化させる。エネルギーレベルを0に近づける事により、活動量も限りなくゼロに近づく。
だが、この生物は死んだ訳ではない。この生物は今でも充分に生きている。いわば「冬眠」状態に入っていると言ってもいい。
この生物は与えられるエネルギー量に応じて自己の活動レベルを調節している。驚くべき能力だ。
更に驚くべき事はこの生物の細胞は分裂を起こさない。つまり自己増殖機能が無いのだ。
ただし、細胞レベルでの自己再生能力があり、破壊された細胞を他の細胞が復活させる事が出来る。
これがこの細胞の本質なのだろうか・・・いや、あるいはこの星では自己増殖が出来ないのかもしれない。
ジェノバがこのような状態で発見されたのは、活性レベルが極端に小さかったせいだろう。
充分にエネルギーを与え活性レベルを上げてやる事でこの生物は本来の姿で復活出来るのかもしれない。
だが、この生物が必要とするエネルギーレベルは莫大だ。このようなエネルギーを供給できるとしたら魔晄エネルギー以外にあるまい。
×月×日
私のアイデアをガスト博士に進言した。私の科学的データを見て博士はかなりの興味を示してくれた。
だが、博士は実行をためらった。「危険過ぎる」というのが博士の意見だった。
魔晄炉のエネルギーを注入すればジェノバの復活があり得るというのは博士も分かった筈だ。
だが、博士は復活したジェノバがどのような存在となるのかに危惧を抱いている。
確かにこの生物の能力については未知の部分が多い。復活したこの生物を我々が制御出来るという保証は無い。
我々の行為はパンドラの箱を開ける事になるのかもしれない。
だが、科学とはそういうものではないのか?科学はいつでも未知の扉を開いてきた。
失敗を恐れていては科学は発展しないのだ。
×月×日
博士はこの生物の復活ではなく、他の生物との融合を試みようとしていた。
そうすればリスクを押さえられると思ったからだ。
むしろそれは私にとっては好都合だ。この生物は調べれば調べるほど非常に興味深い。
最近分かった事だが、ジェノバは細胞それ自体が一個の生物のように意志を持って生きているように見える。
私の意見としてはこの生物は古代種ではなく、この星以外からの未知なる生物に見えて仕方が無い。
だが、私にはどうでも良い事だ。
私はこの細胞によって様々な実験を試みたいと思っている。古代種よりも私にはこれこそが興味をそそられるテーマだ。
他の生物の持つ能力、そして他の生物と融合させるとどうなるか・・・そして人間には...。
×月×日
ジェノバの細胞と他の生物の細胞の融合を試みる。ジェノバ細胞はそのどの細胞と融合する事は無かった。
その代わり、ジェノバ細胞は細胞に取り付き、まるで自分の細胞の奴隷にするかの如く行動する。
結果的に実験用細胞はジェノバ細胞に支配され、その一部として生命活動を行っている。
これはジェノバ細胞の興味ある反応だ。
×月×日
ジェノバの細胞をさまざまな小動物に注入してみた。
これは非常に興味深い事なのだが、実験体は例外なく身体能力が著しく向上するのだ。
明らかにジェノバ細胞が生物の細胞に寄生し、その生物の持つ潜在能力を引き出しているようだ。
ただ、残念だが実験体はやがて発狂し、衰弱死してしまうのだ。
恐らくこうした劇的な変化、限界を超えた能力の発動に肉体が耐えられないのだろう。
これ以上の研究にはジェノバ細胞にも耐えうる生物を見つける必要がある。
私はその可能性を人間に感じるのだ。
×月×日
私は古代種復活のために、人間の胎児レベルでのジェノバ細胞との融合が必要であると提案した。
ガスト博士は私のアイデアに古代種復活の可能性を見出したようだ。
だが、これには大きな問題があった。実験台となる女性をどうするかだ。
私は神羅に要請すれば問題ないと言った。神羅ならば犯罪者かあるいは市民の一人くらいどうにでもなる筈だ。
しかし博士はそれは出来ないと拒否した。
科学には犠牲が必要なのだ。人間愛など無駄な感情に過ぎない。
私にとって研究の最大の障害は博士だったようだ。
×月×日
私はガスト博士の助手のルクレツィアに目を付けた。
彼女は博士と研究に従順な女だ。ああは言っても博士が古代種復活を諦め切れない事を私は知っていた。
彼女が進んで実験体となってくれれば博士も承諾するだろう。彼女を決心させる可能性は充分にある。
私は彼女に近づき、そして古代種復活の夢を語り合った。彼女に興味なんぞ無いがこれも研究のためだ。
×月×日
ルクレツィアの心は確実に傾きつつあるようだ。もう少しだ。
×月×日
まだルクレツィアは決心がつかないようだ。
彼女には好きな男がいたらしい。タークスに所属する、名前は確かヴィンセントとか言っていた。
相手が悪い。さすがにタークスでは手が出せない。
もはやルクレツィアを落とすより他ない。
×月×日
神羅はジェノバプロジェクトの成果が上がらない事に苛立ち始めたようだ。博士にプレッシャーを掛けてきた。
だが、これは思わぬチャンスかもしれない。
ルクレツィアは博士のために、研究のために自分が役立てるのならと考え始めたようだ。
私もそろそろ実験の準備をするとしよう。
×月×日
遂に彼女は古代種復活の母体となる事を決意してくれた。
私もそれには協力しようと思う。新しく生まれる生命体の父となろう。これもまた興味ある事だ。
1冊目のノートはここで終わっていた。
その内容に3人は言葉を失っていた。重苦しい雰囲気が3人を包んでいた。
ティファはユフィをチラッと見た。特にユフィにとっては辛い内容だと思ったから。
ユフィにとってルクレツィアはかつて(今もそうかもしれないが)ヴィンセントが愛していた女性というだけの存在だった。
だが、今は違う。ユフィは知ってしまった。文面には書かれていなくともユフィには分かった。
ヴィンセントの想い、ルクレツィアの想いを。歯車さえ狂わなかったなら、二人は今頃幸せに暮らしていた筈だという事を...。
クラウドはこの重苦しい雰囲気が耐え難いものになってた。正直、ノートを破り捨ててしまいたい気分だった。
たぶん、ティファとユフィもそうだろう。
だが、それでも読まなければならない。
「・・・次のノートを読もう」
クラウドは続けて2冊目のノートを開いた。
×月×日
セフィロスは古代種としての能力は何も見い出す事が出来なかった。そういう意味で奴は失敗作だったようだ。
それでもこの実験では意外な成果を得ることが出来た。セフィロスの超人的な身体的能力だ。
その働きはプレジデントも満足している。私としてもジェノバ細胞と人間との融合の成果に満足している。
セフィロスはある意味新たな種であるといっていいだろう。
しかし、セフィロスはもう実験対象とはなり得ない。
新たな実験対象を探さねばなるまい。
×月×日
未だにジェノバは私の最大の研究テーマだ。そしてその私にチャンスが訪れたのだ。
今、神羅はウータイとの戦いと、レジスタンスに頭を悩ませている。私は其処に目を付けたのだ。
私はそのためには特別な兵士が必要であると進言した。特別に体力が強化された人間「ソルジャー」が必要だと。
セフィロスという成果を見ているプレジデントも私の提案に興味を示した。そして私に実験の機会を与えてくれたのだ。
×月×日
早速私は何人かの兵士を選び、彼らに「肉体強化剤」と称してジェノバ細胞を注入した。
予想された通り殆どの者は間もなく発狂したが、何名かの実験体はジェノバ細胞に支配される事無く「ソルジャー」となった。
ソルジャーの能力は素晴らしかった。常人を遥かに超えた身体能力。戦場で彼らは期待通りの働きを見せてくれるだろう。
そしてこれを機にソルジャー計画は本格的にスタートしたのだ。
ガスト博士は古代種復活に熱中してソルジャー計画には関心を示さなかった。彼にとってはソルジャーは所詮古代種などではなかったのだ。
まあ、私にはそのほうが都合がいい。今や彼は私の研究にとって邪魔なだけの存在だ。
いづれ彼にはここから出ていってもららねばなるまい。
×月×日
私はジェノバ細胞を人間以外の生物に作用させてみたいと思った。
所詮人間は生身の状態では弱い生物だ。しかも兵器として考えれは非常に扱いづらい。
私はジェノバ細胞をモンスターや動物などに埋め込んでみた。
だが、肉体的には強靱な彼等もジェノバの作用には耐えられないようだ。
今のところジェノバ細胞に耐えうるのは人間だけのようだ。
×月×日
人間を通した実験はほぼ出来る限りはやり尽くしてしまった。
とりあえずモンスター製造ボックスに魔晄とともにジェノバ細胞を加えてみているが、思うような成果は得られない。
所詮あの程度のジェノバ細胞では劇的な変化を見出す事など出来ない。
やはりセフィロスのように細胞レベルで融合させた生物を作らねば意味が無い。
×月×日
面白いアイデアが浮かんだ。
召還マテリアにジェノバ細胞を作用させてみたらどうなるだろうと思いついたのだ。
召喚獣とは不思議な存在だ。あれ程の力を持ちながら所有者の守護神となり戦う。
召喚獣は所有者とシンクロし、所有者の意志によって活動する。
従って召喚獣の強さは所有者の力(特に精神力)に比例する。
召還獣については未だに謎が多い。謎の生命体同士の融合がどのような結果を生むのか非常に興味深い。
ジェノバ細胞ならば、所有者の力に頼らず己の意志を持ち、全てを凌駕する力を持った召喚獣を作れるかもしれない。
今私が手にしているマテリアには召喚獣が宿っている。
この召喚獣は闇の力を持ち、知的能力は高く、魔力は非常に強いが、肉体的には全く弱い。
研究材料としてはうってつけの召喚獣だ。
私はこのマテリアにジェノバ細胞を注入してみた。
どのような結果になるかは分からない。だが、私を失望させるような事はないだろう。
後はこれをソルジャーにでも使わせるだけだ。
×月×日
なんという事だ。
プレジデントが例のマテリアを私の手から奪っていった。
恐らく奴にとっては護身用のつもりだろうが、奴にあれを使える訳が無い。
...まあ、いいだろう。プレジデントには実験台となってもらおう。
奴があれを使うとき、何が起こるかは予測不明だが、恐らくただでは済まないだろう。
楽しみが一つ増えたという事だ。
それに、そろそろ古代種の親子も迎えに行かなくてはな。
古代種...充分興味のある対象だ。
これにジェノバ細胞を注入するとどうなるか違う結果が出る事を楽しみにしよう。
父親はもう用済みだ。彼は多くを知り過ぎた。消えてもらわねばなるまい。
2冊目のノートはここで終わっていた。
「全ての始まりは宝条がジェノバを手に入れた時だったんだな・・・」
ようやくクラウドが口を開いた。
「ひどい...」
ティファはそれ以上言葉が出なかった。
「酷すぎるよ。読んだだけで気分が悪くなってくるよ」
ユフィが吐き捨てるように言った。
「ルクレツィア、ヴィンセント、そしてセフィロス。みんな宝条の犠牲者だったのね。
これ読んでいると、セフィロスさえも許したくなるわ。何だかセフィロスが可哀相に思えてくる。
クラウドだって宝条さえいなければこんなに苦しむ事なんて無かったのに...」
「俺は自ら進んでソルジャーになったから仕方が無いが...。
恐らくルクレツィアはセフィロスの生後間もなく引き離されたのだろう。セフィロスの記憶に彼女は無かった。
セフィロスは両親の愛、いや、その存在さえも知らずにただ戦うマシーンとして実験材料として育てられたんだろう。
あいつは心の何処かで愛を求めていたのかもしれない。・・・だが、それは許されなかった。
今思うとセフィロスは全てを、たぶん自分自身さえも憎んでいたのかもしれない」
「たった一人の犯した過ちが多くの人の運命を狂わせ、この星の危機をも作り出してしまったのね...」
「宝条さえいなければヴィンセントとルクレツィアは一緒になっていた筈だったんだ。
あいつのせいで今でもヴィンセントは苦しんでいる。ルクレツィアも・・・
宝条は死んだけど、あいつの悪業だけは今でも残って二人を苦しめてるなんて不条理だよ」
ユフィは精一杯涙を見せまいとしていた。
「ユフィ・・・」
そんなユフィの健気な姿を見てティファはかつての自分をなぞらえていた。
もちろん置かれている状況は全く違う。でも、ユフィの気持ちは痛い程分かる。
愛する人を助けたい。けれどその苦しみから救い出すには余りに小さい自分の力。
それでも愛していたい、信じていたい、そして愛する人がいつか救われる事を...。
「怒りを新たにするばかりの内容だったが、少なくとも希望は見えた気がする」
「クラウド、希望が見えたの?」
「ああ。少なくとも俺の中のジェノバ細胞は俺自身の細胞とは融合していない。
俺はセフィロスコピーとしてジェノバ細胞を注入されたが、俺はセフィロスのようにはなっていない筈だ。
俺の細胞、そして遺伝子は守られている筈だ」
「クラウド」
「確証は無いよ。でも、今、俺はジェノバの影響を受けていない。例えジェノバ細胞が生きていたとしても、俺の身体は奴に支配されていない」
「クラウド、希望が見えたのね」
「今はまだロウソクの灯のようなものだが、確かに光は見えてきた気がするんだ」
「見えるわ、クラウド、あなたの中に確かな光が...」
「ありがとう、ティファ」
クラウドは2冊のノートを丁寧に懐にしまった。
「さあ、暗くなるまで探そう。他にも何かあるかもしれない」
ティファとユフィは頷き、再び部屋の中を探し始めた。
結局、それから見つかったのは表題の無いノートが一冊だけだった。
3冊目のノートには数式や記号が乱雑に書き込まれていた。
「これ、何かしら?」
「これはきっと化学式だ。俺にはこれがどういう意味を持つのかは分からないが」
クラウドは基本的な化学記号くらいは神羅から教えられていたが、化学式を理解出来る程の知識は無かった。
「リーブさんに相談してみたらどうかしら?」
「そうだね。リーブさんならこれを解読出来る科学者を紹介してくれるかもしれない。
でも、今はとにかく北の大空洞まで行こう。今はリーブさんも忙しいだろうしね」
「ユフィ、有り難う。あなたに出会わなかったら私達何も手掛かりを見つけられなかったわ」
「へへ、いいって。あたしだっていろいろ知る事が出来たんだし」
ユフィは嬉しそうに笑った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
翌日、3人はこの廃墟の都市を後にする事にした。
「じゃあね、クラウド、ティファ」
「今回は助かったよ。ユフィがあの部屋を見つけてくれなかったら、俺達は何の手掛かりも掴めずにいた所だった」
「礼なんかいいって。仲間だろ」
「ユフィ、これから何処に行くの?」
「う〜ん、特に考えてないけど、この辺りをもう少し探したら、一度ウータイに帰るつもりだよ」
ユフィはティファに向かってそっとウインクをした。ティファにはその意味が分かった。
「そう。無理をしちゃ駄目よ」
「へへ、分かってるって。それじゃ又ね〜」
ユフィは手を振って歩いていった。クラウドとティファも手を振ってそれを見送った。
「クラウド、私達も行こう」
ユフィの姿が完全に見えなくなったのを確認してからティファが口を開いた。
「・・・」
「どうしたの?」
ティファが怪訝そうに訊いた。見るとクラウドはユフィが去っていった方角をまだ見ていた。
「ユフィは、これから行くんだよな・・・あいつの所へ」
「クラウド」
「すまない。俺、聴いてしまったんだ。ユフィとの会話を」
「・・・そうだったの」
「ユフィには辛かっただろうな、あのノートの内容は。あいつの恋は結果的にヴィンセントからルクレツィアを消すことになるんだ。
ルクレツィアの想いを知らなければもっと素直に愛せた筈なんだよな」
「私もそう思うわ・・・でも、ユフィならきっと乗り越えられるよ。ユフィ、私と違って強いもの」
「そうだな・・・でも、ティファだって充分強いさ」
クラウドはそっとティファの肩に手を置いた。
「だから俺は今こうしていられる。ティファの強さが俺を救ってくれたんだ。だから・・・ユフィもきっとヴィンセントを救ってくれるよな」
「うん、きっと、そうだよね」
ティファはユフィにもこの幸せを掴んで欲しいと心から願った。どんなに辛くても、この幸せが全てを報いてくれるのだから。
「ティファ、行こう。俺達も真の幸せを掴むために」
「うん、クラウド」
廃墟の都市には暖かい風が吹いていた。風は廃墟の都市に生まれた小さな花を優しく包んでくれるだろう。
いつか此処が忌まわしい過去を忘れさせてくれるくらいに花はこの廃墟の其処此処に咲くだろう...。