ゼウスを手にしてから二週間後、ゲイルはミッドガルを後にした。
ミッドガルでの神羅カンパニーの調査もほぼ終えていたし(さしたる成果はなかったが..)、
何よりもゼウスを手に入れたのだから。
あれから何回か強力なモンスターに遭遇し、その度にゼウスを召還したが、ゼウスの力は素晴らしかった。
これさえあれば何者も恐れる必要は無いと思えた。
数日後、ゲイルはカームの街にいた。
だが、カームの街で、ゲイルは虚脱感に襲われていた。
なぜなら、復讐すべきターゲットが存在していなかったのだ。
彼が調べた限り、神羅カンパニーの主立った幹部のその殆どは既にこの世にはいなかった。
生き残った者達といえば、都市開発責任者や租税管理者といった、彼にとっては「小物」でしかなかった。
「リーブ」という名の幹部だった人物が生存していたが、神羅の資料によれば彼は都市開発責任者であり、
性格は神羅の幹部としては例外的に誠実な人物だとしてある。
しかも、神羅の重役会ではその誠実な人柄ゆえ重く見られていなかったとされている。
ゲイルは復讐心には燃えてはいたが、無差別に復讐しようとまでは思っていない。
彼にとってはリーブは復讐のターゲットであるようには見えなかった。
「仇は既に無し...か」
酒場のカウンターで酒をあおりながら呟く。
念願の力・・召還獣を手に入れながら、自分を支えていた「復讐」という目的を失いかけていたゲイルがそこにあった。
「復讐」が彼を支え、そして生きる糧だったのだ。
だが、既にその対象は存在しない...そんな虚脱感を紛らわすための酒だった。
「あんた、大丈夫かい?もう、大分飲んでるが...」
酒場のマスターが尋常でないゲイルを気遣って声を掛ける。
「ああ、すまない...もう少し、飲ませてくれ」
ゲイルは更に一杯、グラスの酒を一気に飲み干す。出来ることならこのまま酔いつぶれてしまいたい、と。
「おいおい、新政府の話、知ってるか?」
「ジュノンに出来た都市の事だろ?何でも今はホーリーシティと呼んでるらしいな」
向こうのテーブルで客がそんな話をしている。
「ああ。そこを首都にして新政府を樹立するそうだ」
「何でも来月に予定されてる新大統領の演説で宣言するんだよな」
「大統領はリーブという話だ」
「おい、リーブって神羅の幹部だった奴だろ?」
リーブ..神羅の幹部..ゲイルはそのキーワードに彼らの話に耳を傾けた。
「ああ、最初は俺もまた神羅みたいのを作るのかと思ったよ。だが、そうではないらしい」
「どういう事だ?」
「神羅が消滅してから電気も何も無くなったろう?」
「ああ、ありゃ酷かったな」
「今、こうして何とか前と同じように生活していられるのもホーリーシティのおかげなんだぜ」
「電気はホーリーシティから供給されているのか?」
「知らなかったのか?しかも、驚く事に電気は無償で供給されているらしい」
「そういえば電気代取られてないな。神羅の時は高かったもんな」
「電気だけじゃない、燃料石もホーリーシティの依頼でコレルからここに運ばれているっていう話だ」
「ふ〜ん」
「最近野盗も出なくなったろ。あれもホーリーシティのおかげだそうだ」
「確かに最近は隣の街にも行き来出来るようになったなよな」
「つまり、今の俺達の生活はホーリーシティに支えられているって事だ」
「しかし、お前、そんな事よく知ってたなあ」
「実は...叔父の町長から聞いた話なんだ」
二人の客は大きな声で笑った。
「でも、今一信用出来ねえな。元神羅の幹部っていうのが」
「俺もそうだった。でも、俺達一度奴を見ているんだぜ」
「え?」
「ミッドガルが崩壊して、あそこの住民が一時この街に避難してきたろ?」
「ああ、覚えてる」
「そのときミッドガルの住民を引率していたのがリーブだったらしい」
「へえ、奴がリーブだったのか。懸命にミッドガルの連中のために水と食料を集めていたなあ」
「俺もその時は知らなかったが、後で奴がリーブだと知って、今は信用してみようという気になったよ」
「そうだな。あのときの男なら信用出来そうだ」
「とはいえ、大統領となるとな...」
「とりあえずは、お手並み拝見っていうことですかね」
「そういうことだ。まあ、とりあえずは新大統領に乾杯かな?」
「そうだねえ」
二人の客は再び大きな声で笑った。
ゲイルは既に店の外にいた。二人の会話を全て聞かずに。
神羅の元幹部、リーブ、新政府樹立、大統領、そしてホーリーシティ...それだけで充分だった。
消えかけていた復讐の炎が彼を包み込んでいた。
「見つけたぞ...復讐すべき相手を」
翌日、彼はホーリーシティへ向け旅立った...。