召還獣ゼウス

ゲイルは神羅ビル跡に来ていた。
何年か振りに見る神羅ビルはその様相を一変させていた。
しかし、メテオに破壊されたとはいうものの、下層はかろうじてその形を保っている。
無論内部は瓦礫の山と化してはいたが、それでも内部を進むこと位は出来そうだった。
彼がここを訪れたのには理由があった。
ここには今は無き神羅カンパニーに関する貴重な資料を見つけることが出来るからだ。
彼は神羅については殆ど何も知らなかったといっていい。
勿論主だった幹部の名前と顔くらいは知っていたが、実際に誰の手によって彼の村があのようになったのかを彼は知らなかった。
ここに来れば何かしらの手がかりが得られる、ゲイルはそう思ったのだ。
瓦礫の下からは様々な神羅の資料が見つかった。
神羅の魔胱炉計画。その中にはコレル村での魔胱炉建設計画もあった...

ある日、いつものように神羅ビル跡へやって来たゲイルは地下に秘密の通路らしき物を見つけた。
通路を抜けるとそこは大きな部屋になっていて、シェルターのようだった。
どうやらこれはプレジデント神羅専用らしく、広い空間を彼の趣味らしき物で飾っていた。
ゲイルは中を丹念に調べ始めた。そして後で此処を破壊するつもりだった。
やがて、彼は立派で大きな椅子の後方に隠し金庫らしき物を発見した。
金庫に鍵は掛かっていなかった。金庫の中には鈍く光る石があるだけだった。

「これは..マテリア?」
ゲイルは恐る恐るそれを手に取った。マテリアを手にするのはこれが初めてだった。
それは確かにマテリアだった。
マテリアは思ったよりも軽く、そして生き物であるかのように温かさが感じられる。
「何故プレジデント神羅がマテリアを...」
初めて手にするマテリア。それが彼の望む召還獣のそれであるかは分からない。
しかし、プレジデント神羅の持つマテリアである以上、これが特別な物であることは彼にも分かる。
ゲイルはマテリアの使い方も知らなかったが、持っていた剣にとりあえずマテリアを装着した。

その時、背後で大きな物音がした。

ゲイルが振り返ると目の前には巨大なヘビのようなモンスターがいた。
この地下空間はモンスターにとっても絶好の棲み家でもあったのだ。
目の前のモンスターは明らかにゲイルを獲物として狙っているようだった。
ゲイルは対モンスター用に所持していた銃でモンスターを攻撃するが、このモンスターには通用しなかった。
弾を使い果たし、逃げ場の無いこの空間では彼の助かる余地は無かった。
「これまでか..」ゲイルは覚悟を決めた。

『我を開放せよ』
その時、ゲイルに不思議な声が聞こえてきた。モンスターの声ではない。
『我を開放せよ、そして戦うのだ』
それはマテリアから直接ゲイルの心に語りかけてくる。
「誰なんだ?」
『我が名はゼウス、お前の望んでいた召喚獣だ』
「どうすればいいんだ」
『精神を集中し、我が名を心の中で呼べ』
選択の余地も迷う余地も無かった。ゲイルはマテリアを装着した剣を額に当て、精神を集中させた。
そしてその名を呼んだ。
「出でよ、ゼウス!」

...ゲイルが我に返ると、目の前にいたモンスターは跡形もなく消え去っていた。
不思議な体験だった。
あの瞬間、自分と召還獣は一体となっていたような気がする。
マテリアが輝き、ゲイルの身体を包み込む。そしてゲイルの身体からもう一人の自分が実体化し、召還獣に変化する。
召還獣が放った光の玉はモンスターを包み込み、そして時空の彼方に消し去った。
戦っていたのは確かに召還獣なのだが、ゲイルの身体には自ら戦っていたという実感がある。
「これが...召還獣なのか」
再びあの声が聞こえた。
『そうだ。お前が呼べば我はお前と一つになり、究極の力を発動出来るのだ』
確かにあの力はかつて見た召還獣を遙かに凌駕するものだった。
「俺は究極の力を手に入れたのかもしれない..」
ゲイルはこみ上げてくる笑いを抑えることが出来なかった。