過去、今、そして明日

  

人間は時の中を生きている。

俺には幾つもの記憶があった。

本当の記憶も……。

嘘の記憶も……。

真実と虚実が混じり合った記憶。

それが俺の記憶。

時の流れの中の、記憶……。

それが過去。

だから、俺には過去があった……。

過去

それは、現在に至るまでの生きた時間。

私にはたった一つの想いがある。

大好きな人……。

何よりも、大切なあの人……。

私は……、あの人を愛している。

それが、私の想い。

それが私を支えてくれる。

一緒にいたい。

離れたくない。

あの人との大切な瞬間……。

それが、私の今。

だから、私は今を守る……。

それは、時の流れの中の生きている時間。

俺は生きていきたい。

私は生きていたい。

俺は彼女と離れたくない。

私は彼と一緒にいたい。

まだ、やり残した事がある。

まだ、やりたい事がある。

だから、死ねない。

だから、死にたくない。

二人で明日を生きていきたい。

明日

それは、全ての可能性を秘めた時間。

ティファ……。

クラウド……。

だから、二人は未来を創る……。

 

 

 

 

 

過去

 

 

 

俺はソルジャーだ。

いや、ソルジャーだった。

世界に魔晄エネルギーを供給する神羅カンパニー。

俺は、そこでソルジャーになった。

魔晄の光を浴び、強い精神力で己を抑える事のできる者。

それがソルジャーだ。

俺はソルジャー……。

強い精神力を持つ、ソルジャー……。

でも、それさえ……、真実ではなかったんだ。

 

 

 

俺の故郷は、ニブルヘイムという村だ。

子供の頃は、そこに住んでいた。

友達は……、いなかった。

周りの子供達は、とても子供っぽかったから。

俺はそれが嫌だった。

つまらない事で、まるで祭りみたいに騒ぐ。

みんなで集まって、何気ないことで遊んでいる。

楽しそうな表情で、嬉しそうな表情で……。

俺はそれが嫌だったんだ。

(自分は、あんな奴等とは違う。)

いつも、心の中でそう思っていた。

いや、違うな。

そう言い聞かせてたんだ。

そう思わないと……、自分が惨めで仕方なくなるから。

俺の家の近所に、女の子がいたんだ。

いつも元気で、明るくて、お転婆だったけど、みんな彼女のことが好きだったんだ。

友達がいない俺は、いつもみんなが遊ぶ所を見ていた。

遠くからじゃなくて、すぐ側で。

もし、誰かが俺を呼べば……、いつでも仲間に入れるように……。

誰からも手が届くところに……、いたんだ。

自分から手を伸ばす事も、出来たのにね……。

俺は、手を差し出されるのを待っていたんだ……。

でも、その女の子以外は誰も俺を見てくれなかった。

その女の子だけだったんだ……。

だから、彼女は俺にとって特別な存在になった。

自分を必要としてくれる。

自分が側にいるべきだ。

自分の側にいるべきだ。

そう思うまでに、時間は必要なかった。

彼女に誘われた時、俺は誘いを断って家に帰った。

素直じゃなかったんだ。

本当は、何より待っていたものだったのに……。

今までの自分ってものが、そうさせた。

(自分は子供っぽいことなんかしない。)

俺は自分の部屋に帰って、ずっと待っていたんだ……。

あの子が追いかけて来てくれるのを……。

他の奴等とは違う存在だって、周りに思わせたかったんだ。

彼女が追いかけて来て、

「どうしても、一緒に遊びたいの!」

そう言って欲しかった、そう言ってくれると思っていた。

自分とは全くと言っていいくらい、仲良くなんてなかったのに……。

結局、彼女は俺を追いかけてはくれなかった。

すぐに、窓から外の声が聞こえてきた。

みんなが俺の事なんかほっておこうと言った。

彼女も、みんなと一緒に行ってしまった。

俺は、泣いたよ……。

彼女との関係が、自分の思っていたものと違った事に……。

結局、彼女が俺より他のみんなを優先した事に……。

みんなにとって、俺は厄介者でしかなかった事に……。

彼女にとっても、俺は必要なかった事に……。

悲しかった……。

何も信じられなくなるくらい、悲しかった……。

それ以来、俺はさらに付き合いが悪くなった。

誰とも、ほとんど口を利かなくなったんだ……。

からかわれたら、相手を殴ってやった……。

喧嘩なら、いくらでも受けて立った……。

(自分の思い通りにならないのなら、全てない方がいい。)

本気で思ったよ……。

自分の弱さが原因だ、なんて考えもしなかった。

周りの奴等が悪い、彼女が悪い、そう思うしかなかった。

自分の為に……、そう思うしかなかったんだ……。

それ以来、何度も彼女は俺に話しかけてきてくれた。

喧嘩をするなって、俺に言う為に……。

俺が変わってしまった、原因を聞く為に……。

俺は彼女が嫌で仕方なくなった。

(あの時は、俺を追いかけてくれなかったくせに……。)

何処かで、そんな思いがあったことも確かだ。

でも、それ以上に……、俺は彼女の存在が嫌になっていた。

いつも俺を見下すような態度をとる彼女が、すごく嫌だったんだ。

(自分は他の奴等とは違う! 他の奴等より優れている!)

それだけが、俺の全てになっていたから……。

だから、彼女の態度が嫌だった。

ある日、彼女がニブルヘイムの北の山に向かった。

そこは、とても危険な場所だ。

理由は知らなかったが、そんな所に彼女一人で行かせるわけにはいかない。

俺は彼女の後を追った。

彼女と仲の良い奴等もいたが、そんな奴等に任せてはおけなかった。

どうして、彼女にこだわるのか?

その時は、初恋なんて思わなかったよ。

ただ彼女が危ない目に遭わないように、俺が側にいてやらなきゃいけないような気がしたんだ。

案の定、他の奴等は逃げ出した。

彼女一人を残して逃げたんだ。

それでも、彼女は進むことを止めなかった。

そして、やがて俺の運命を変える瞬間がやってきた。

彼女が崖から落ちたんだ。

俺は直ぐさま、助けに走った。

何とか彼女の手を取った所で、俺まで崖の底に真っ逆様。

力の無さを痛感したよ。

幸い彼女は助かり、俺も……助かった。

事件の後、彼女の親父さんに怒られながら考えた。

俺に力があれば、彼女を助ける力があれば……。

力が欲しい。

俺がソルジャーを目指した理由だ。

彼女を助ける力を、彼女に認められる力を……。

数日後、夜になってから彼女を給水塔に呼びだした。

来てくれるかは、考えなかった。

(彼女に俺の意志を伝えたい。)

自分の事だけを考えるので、精一杯だった。

やがて、彼女がやってきた。

そして、俺は旅立ったんだ。

お前に、俺の意志を伝えて……。

お前と、約束を交わして……。

【俺はソルジャーになって、ティファがピンチの時に必ず守ってみせる。】

これが、俺の唯一の真実だった。

 

 

 

自分を律する強い精神力があるだって?

俺には……、そんな物はない……。

俺はただの臆病者だ……。

自分すら守れない、情けない男なんだ……。

でも……。

エアリス……。

俺は行くよ。

君の願いを無にしない為に、あいつと決着をつける為に、

ティファとの今を失わない為に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、戦う……。

あなたと一緒に、世界を守ってみせる……。

それがあなたの決心だから……。

それが彼女の意志だから……。

それが私に出来る全てだから……。

 

 

 

今はあなたと私、二人だけ。

他のみんなは、それぞれの大切な所に還っていった。

バレットも、シドも、ヴィンセントも、ユフィも、レッドXIIIも、ケットシーも、

みんな……、いなくなってしまった……。

正直言ってしまえば、不安でいっぱい。

これから戦う相手は、普通じゃない……。

かつての英雄、あなたの憧れの対象、私達のエアリスを殺した奴、星を壊そうとする者……。

そんな相手に、私達二人では勝てないかもしれない。

私が怖いのは、世界が滅びてしまう事じゃない。

エアリスの想いが消えてしまう事、あなたの未来が消えてしまう事……。

私の……、気持ちが消えてしまうこと……。

怖い。

怖いの!

想像しただけで、震えてきてしまう。

私はあなたが好き。

愛している。

何時の頃からはわからないけど、あなたは私の心にいた。

昔は、子供の頃はそんな事なかったと思う。

だって、あなたの思い出は余りないから……。

でも、その数少ない思い出が……、私の中のあなただったの。

あなたの思い出は、いつも夜の給水塔から始まる。

私とあなたは面識があった。

友達、そう呼べるほどの物ではなかったけど……。

だから、あなたから呼び出された時はホントにビックリした。

一緒にいても、ホントにいるかどうか分からないような人だったから……。

あなたに呼び出された時の事、今でもハッキリと覚えているわ。

あなたの表情まで……。

思い詰めたような、でも確かな意志が感じられた。

あなたは言ったわ。

ソルジャーになるって。

それから、十年以上……。

私はセブンス・ヘブンを開いた。

バレット達と出会った。

そして……。

ソルジャーになったあなたが、私の前に現れた。

本当に強くて、たくましい男の人になって返ってきた。

まるで別人になったみたいに、あなたは変わっていたわ。

でも、私は信じていた。

だって、あなたにはあの時の思い出があるんですもの。

だから、あなたは私の知っているあなただって……。

でも、もう一つの思い出は……。

私の記憶にはない私の姿が、あなたの中にあった。

5年前のニブルヘイム……。

私は怖かった。

もし……。

色々な想像が浮かんでは消えた。

私は必死にその不安と戦った。

ううん。

ホントは負けてたのかもしれない……。

私は、自分の記憶を押し殺したわ。

でも、私が話していれば……。

結果、あなたは自分を見失ってしまった。

エアリスの死。

セフィロスの言葉。

あなたの記憶。

何もかもが、あなたを嘖ませた。

あなたが姿を消してから、どれくらい経っただろう……。

私も自分を見失いそうになりながら、全てを失ったあなたを見つけた。

ライフストリームに巻き込まれて……。

魔晄に冒されて……。

あなたは重度の魔晄中毒になっていた。

私に出来た事は、あなたの看病だけ……。

話しかけても、何も返事をしてくれない。

目を見つめても、私を見てくれない。

手を触れても、私の存在を解ってくれない。

苦しかった、辛かったよ……。

あなたがそんなになってから、私は自分が生きていないような錯覚を受けた。

その時初めて、あなたの存在が解ったの。

私の中での、あなたの存在が……。

……………。

全てだったのよ……。

家族を失った私が信じられる、たった一つの存在。

ただの幼馴染みなんかじゃない!

私を支えてくれる、大事な……、大事な人……。

ライフストリームに巻き込まれて、私とあなたは一つになった。

あなたの気持ちが手に取るようにわかったわ。

寂しかったんだね。

辛かったんだね。

私を、想ってくれてたんだね……。

私に出来た事は、きっととても小さな事だと思う。

それでも、あなたは私の想いを受け取ってくれた。

必死に言った私の記憶を、受け止めてくれた。

本当の自分を、見つめてくれた。

そして……、還ってきてくれた。

昔の、私と約束をしてくれたあなたに戻って……。

私、やっとあなたに会えたの。

大好きだった、愛しているあなたに会えたの!

こんな所で終わりたくない。

まだ死にたくない。

あなたと一緒にいたい!

これからも、ずっとあなたの傍に……。

だから、勝たなくちゃいけない。

絶対に勝たなくちゃいけない!

あなたと一緒に生きていたいから。

あなたと離れたくないから。

私の気持ちを死なせたくないの……。

私の大切なあなたを守りたいの……。

だから、絶対に勝とうね。

セフィロスに勝とうね。

ねっ、クラウド……。

 

 

 

私に出来る事は小さな事。

でも、あなたがそれを望むなら……。

それで、あなたの力になれるのなら……。

私は戦う。

戦ってみせる。

どんな相手だって、逃げたりしない。

だって、クラウドが傍にいてくれるから……。

 

 

 

 

 

そして、明日

 

 

 

「これから……か。」

「どうしたの、クラウド?」

空が色付き始めた。

今日が始まったのだ。

後数時間後には、戦いが始まっているだろう。

他の仲間は来てくれるだろうか?

自分たちはこの星を守る事が出来るだろうか?

そんな不安に駆られながらも、クラウドは明日のことを思っていた。

(もし、戦いが無事に済めば……。)

それは、今考える事ではないかもしれない。

それでも、クラウドは明日に想いを馳せた。

彼の腕の中にいる、最も愛しい存在ティファ。

自らの気持ちを言えずにいたクラウドに、言葉以外の選択肢を与えてくれたティファ。

そんな彼女の存在が、クラウドに明日の事を考えさせたのだろう。

「なにか、むずかしい顔してる。ホントにどうしたの?」

彼の腕の中、寄り添うようにティファは寝ていた。

先程までの安心しきった表情は、今は見る影もない。

それ程までに、彼の一喜一憂はティファを左右する。

「何でもないよ。」

クラウドは彼女を一層強く抱き締めながら、優しく言い切る。

そこには、

(浮ついた気持ちを悟られたくない。)

そんな想いもあっただろう。

「そう……。」

ティファとて、クラウドのことは良く理解している。

彼が自分に何かを言わなかった事も、気付いてはいる。

しかし、それを問い質そうとはしなかった。

クラウドが自分に隠し事をする。

それは彼女を不安にするが、彼女は何も訊かなかった。

(彼がそれを望むなら、自分は耐えるだけ……。)

ティファの一途なまでの想い……。

それにクラウドは気付いただろうか?

悲しそうな表情を浮かべる彼女の髪に、彼はそっと手を忍ばせる。

サラサラという音が聞こえそうな、美しい髪を指で梳く。

少しでも、彼女の不安を取り除こうとした行為だ。

彼には、他の方法が思い浮かばなかった。

最も簡単な解決法が、思い浮かばなかった……。

ティファは何かに耐えるように彼に縋り付く。

それは言葉にならない気持ちの表れ。

(話して欲しい……。でも………。)

そんな想いだけではない。

(私はあなたが好き。あなたは? あなたの気持ちは……?)

(私、あなたの何? あなたにとって大切な存在なの?)

(私に話してくれない。つまり、私なんかに……、聞かせる必要がないって言うの?)

幾多の想いを抱きながら、彼女は彼を抱き締める。

彼も、彼女を抱き締める。

……………。

しばしの時が流れた。

お互いの想いを抱き締めて、二人は言葉を交わさない。

そっと、クラウドが口を開いた。

「考え事をしていたんだ……。」

遙か空を見ながら、クラウドはつぶやく。

ティファは何も言わない。

ただ、彼と同じ方向を見つめるだけ……。

「戦いが終わったら……。そんな事を考えていた。」

ティファを抱く力が、少しだけ強くなった。

(こんな事を考えてたって知れたら……、ティファはどう思うだろう……?)

クラウドは言葉を続ける。

「ティファには、夢があるかい?」

彼の視線が、ゆっくりと世界を変えていく。

そして、世界には彼女の姿だけが映し出される。

優しさの中に、幾ばくかの不安が感じられる彼の表情。

ティファは、彼に微笑みを返す。

「うん。たくさんあるわ。」

彼女の笑みは、容易に彼の心に入り込む。

「俺もある。だから、先の事を考えてたんだ。」

クラウドの目は、再び空へと還っていく。

「先のこと?」

彼にはティファが見えない。

ティファの表情が、母性を象徴する様な優しさに包まれているのも……、わからない。

「ティファの夢、聴かせてくれないか?」

クラウドの言葉には、若干の含みが見られた。

そこには、彼の気持ちが込められている。

(自分の夢も聴いて欲しい。)

何となくだが、ティファにはそれが解った。

「じゃあ、クラウドの夢も聴かせてくれる?」

「……ああ。」

クラウドはティファの言葉に、ティファもクラウドの答えに、心が温まるのを感じた。

「私の夢は、ニブルヘイムで暮らすこと。」

「えっ? ニブルヘイムで暮らすこと?」

クラウドの反応は、実に間が抜けていた。

「フフッ…、そうよ。私達の故郷で暮らす。それが私の夢。」

ティファはおかしそうに笑みを浮かべながら、心の中でクラウドに謝った。

(たまには、こんな事をしてもいいでしょう? あなたを焦らしてみたかったの……。)

一瞬ティファに目を向けた彼だったが、すぐに彼方へ視線を移す。

「………。それなら、今までだって出来たんじゃないのか?」

少し歯切れの悪いクラウドの言葉。

ティファは、すぐに反応した。

彼の言葉の裏を読みとったのだ。

(俺は……、お前に必要ないのか……。)

「そんな事ないっ! 私は、あなたとそうしたいの!」

激しすぎるくらいの後悔に駆られながら、ティファは声を荒らげる。

「ティファ……。」

再び、彼の世界を彼女が占めた。

「ごめんなさい、クラウド……。初めから、こう言えば良かったんだよね。」

ティファはうつむいてから、申し訳なさそうにクラウドをのぞき込む。

彼女の瞳は不安に彩られている。

彼もそれを感じて、優しく彼女を引き寄せた。

「俺の夢も、ティファと同じだよ。」

彼が初めに考えていた事。

自分から言えなかった事。

彼女の言葉と、今の自分の気持ちが言葉にさせてくれた。

「クラウド……。」

ティファが強く、彼を抱き締める。

クラウド自身も、彼女を強く抱き締める。

それが二人の関係だった。

支え、支えられる。

お互いがいてこその自分。

「それだけかい?」

「えっ?」

クラウドの瞳には、ティファが映っている。

ティファの瞳にも、クラウドがいる。

「ティファの夢、他にはないの?」

優しく問いかける。

「私の夢……。」

見つめ合いながら、彼女は明日を思う。

(クラウドと一緒に……。それしか考えてなかった。)

(クラウドと一緒にニブルヘイムに帰って……、それから私はどうしたいの?)

脳裏をよぎるバージンロード。

タキシードのクラウド。

純白のドレスを纏った自分。

笑いの絶えない、温かい家庭。

可愛い子供。

ふと、クラウドの目を見つめる。

青い色をした、とても澄んだ瞳。

見つめ合っていると、思わず自分の想像が見透かされたような気になってくる。

「ま、またお店を開きたいな。」

真っ赤な顔を隠すように、ティファはクラウドの胸に顔をうずめる。

照れ隠しに言った一言。

しかし、それは実に現実的な答えだった。

真っ赤なティファを見ていると、彼の心の奥から愛しさが溢れてくる。

それと同時に、さっきの言葉がクラウドを悩ませた。

(俺はどうすれば良いんだろう……。何か、仕事を探さないと……。)

命を懸けた戦いの前に悩む事ではないだろう。

それは束の間の休息。

今に固執するのではなく、先を考える事の出来る強さ。

それこそが【生きる】ということの、最大の原動力。

彼はそんな幸せな、そして切実な悩みに彼女のことを忘れてしまった。

「クラウド?」

不思議そうな顔をしたティファが、クラウドに声を掛ける。

「ん? どうしたんだ、ティファ?」

我に返った彼が見たものは、心配と思案が入り交じったようなティファの顔だった。

彼女の微妙な表情に、何故かクラウドに笑みが浮かぶ。

「心配してたの。突然、黙り込んじゃったから。」

ティファの言葉は、さらに彼の笑みを呼ぶ。

「もうっ! どうして笑ってるの? 私、ホントに心配したんだからね!」

拗ねたような彼女の顔は、クラウドにとってどう映っただろうか?

(本当に忙しいな。悲しんだり、拗ねたり……。)

原因は彼自身だ。

(でも、俺はそんなところも……。)

今度はクラウドが照れる番だった。

ティファの瞳に捉えられ、クラウドはそっぽを向く。

「クラウド……。今、何考えてたの?」

悪戯っぽい眼差しで、ティファはクラウドに詰め寄る。

彼女も解っているのだ。

彼が自分の事を考えていた事が……。

「何でもない…。」

空を仰いだ彼だったが、すぐに彼女の瞳に捕まる。

ティファはクラウドの上に乗り掛かるようにして、彼の視界を塞いだ。

突然のティファの行動。

すぐ側にある彼女の顔。

動悸をさらに早めながら、彼はティファの視線を逃れようと首を背ける。

そんなクラウドにティファは愛おしさを感じながら、そっと彼に身体を預けた。

目を瞑ると、彼の息遣いが、彼に匂いが、彼の鼓動が感じられる。

クラウドもティファを抱き締めて、ようやく顔を戻した。

「クラウド……。」

何かを思って言ったわけではない。

「ティファ……。」

何かを言おうとして言ったわけではない。

自然に出た言葉。

自然にとった行動。

そして、自然に交わす口づけ。

 

 

 

「勝ってみせるよ。」

「絶対に、死んだりしないわ。」

「エアリスの……。」

「彼女の為にも……。」

「みんなの……。」

「仲間の為、大事な人達の為にも……。」

「そして……。」

「何……?」

「俺の為、ティファの為にも……。」

「私の為にも、何?」

「セフィロスに勝ってみせる!」

「うん……。一緒に、帰ろうね。」

「ああ。」

「ニブルヘイムに、帰ろうね。」

「ああ。」

「明日からも……、ずっと……。(傍に……。)」

「行こうか?」

「うんっ!」

 

二人は、未来を創る

そして明日へ

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

初めまして。

私は鳥の翁と申します。

この度はTOMOさんのホームページへの初投稿ということで、ご挨拶させていただきます。

私はFF7のSSを書くのが初めてなので、もしかすれば不可解な点や間違った点があるかもしれません。

もし御座いましたら、どうかご容赦下さい。

 

では、この話についての記述をさせて頂きます。

私は幾つかアイデアを考えたのですが、出来たのはこれだけでした。

しかも出来上がってみれば、TOMOさんのお書きになったあるSSと非常に似た造りになっていました。

意識したつもりはなかったのですが……。

結果はこうなりました。

中央寄せのものは、それぞれの心境。

最後だけは…、まぁ、気分的なものです。

それから黒い文字の部分は本編という形で、三部構成にしました。

始めのパートは、クラウドが過去を振り返って『心の中』でティファに語っている。

次のパートは、ティファが今までを思い出して『心の中』でこれからの決意をクラウドに語る。

最後のパートは、二人でこれからを考える。

…とは言っても、イチャついているだけでしたが……。

そういった構成です。

場面は、最後の決戦の前日。

抱き合って眠っていた、とイメージして作りました。

分かり難ければ、誠に申し訳御座いません。

またキャラクターのイメージを崩してしまったならば、

お詫びのしようが御座いませんが、どうかご容赦下さい。