昇る太陽


 

 

崩れていく。

俺の心が……。

崩れていく。

僕の存在が……。

崩れていく。

仲間達との絆が……。

崩れていく。

彼女の祈りが……。

崩れていく。

あの娘との関係が……。

みんな、みんな崩れていく。

この洞窟と一緒に、全てが崩れていく。

オレはどうなる?

ボクはどうすればいいの?

俺は一体何を信じたら良いんだ?

教えてほしい、エアリス。

助けてよ、ティファさん。

もう一人になってしまったのかな? みんな、いない……。

ここも、すぐに崩れ始めるだろう。

でも、どうしようもないんだよ。

ごめん、みんな……。

お前を守れなかった。

貴女を傷つけてしまった。

みんなを騙して、裏切ってしまった。

全ての原因は、

自分自身の、

弱すぎる心。

すまない……。

ごめんなさい……。

許して欲しいとは言わない、ただ…すまなかった……。

緑色の水が押し寄せてくる。

緑色の海に飲み込まれていく。

緑色の世界に、消えていく……。

これで、お別れだ。

これで、さよならだね。

これで、死ぬんだな……。

もうすぐ、お前の所に行く。

もう二度と、貴女に会えない。

もう、世界が全てを失ってしまう……。

慈愛に満ちた月も、

明るい優しさに包まれた太陽も、

希望の星々も……。

偽りのオレ。

嘘しかないボク。

一つの真実もない俺が、消えていく……。

 

 

大氷河に包まれたガイアの絶壁のさらに奥深く……。

星から集められたライフストリームが渦巻く場所があった。

俗に竜巻の迷宮と呼ばれていたその場所は、まさにたった今その存在を失った。

大きな崩落が起き、内部の空洞はもはや完全に姿を消した。

緑色のエネルギーが荒れ狂い、全てを飲み込んでいく。

飲み込まれたものが、どうなるのかは知られていない。

しかし、形あるものがそこから発見されるような事はあり得ない。

一つの例外もなく、その奔流に消えてしまうのだ……。

だがある一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、その奔流は意志を持った。

守るべき存在の為に……。

全てを引き替えにしても、守りたかった存在の為に……。

 

 

何処かから、声が聞こえた。

それはひどく懐かしい声……。

全身が、何かに包まれていく。

優しい、あの暖かさに……。

そうか、また会えたんだな。

もう、消えてしまったと思っていた。

オレの心を支えてくれた、優しい月は……。

お前の姿が見えない、どうしてだ?

(……………。)

そうか。

だが、お前が傍にいてくれる、それだけで十分だ。

あの時、お前を守ってやれなくて……すまなかった。

(……………。)

そうだな、じゃあ今度何処かに行こうか?

(……………。)

ああ、そうしよう。

しかし、ここは何もない所だな。

(……………。)

考えればいいのか?

そうだな、お前と初めてであった時の事を思い出してみよう。

確か、壱番魔晄炉の爆破の後だったか。

見えてきた、あの時の風景が……。

そうだ、薄暗くなった街路でお前に出会ったんだ。

不思議な瞳をしていると思った。

とても無垢で優しい、そんな瞳に一瞬心を奪われた。

(……………。)

ああ、お前が売っていた花を買ったな。

あの時のお前の表情、本当に嬉しそうだった。

始めは不安そうにしていたくせに、一転してあの笑顔。

思えば、オレ達はあの時から再会する事が決まっていたのかも知れないな。

懐かしい、お前の姿……。

栗色の長い髪を後ろで結って、ピンク色のロングスカートを着ていたな。

花かごに、いっぱいの花を詰めて……。

(……………。)

そうだな、再会の時も随分おかしかった。

オレは伍番魔晄炉のプレートから落ちて、お前のいた教会の屋根を突き破って落ちたんだ。

その時、お前が育てていた花が落下のショックを和らげてくれた。

しかし、あの言葉には驚いたな。

報酬はデート一回。

あんな事を言われたのは、お前が始めてた。

(……………。)

いや、約束は果たされたよ。

ゴールドソーサーで、デートしたじゃないか。

色々あったな……。

イベントスクエアで劇をやらされたり、一緒に観覧車に乗ったり……。

今になってみれば、あの時の言葉の意味がよく解る。

『あなたを捜してる』

結局、お前は本当のオレを見つけられたのか?

このオレさえも本当のオレなのかはわからない。

自分で本当の自分を見つけられれば、あんな事にはならなかったかも知れないのに……。

(……………。)

あの時、オレは間違いなくお前を殺そうとしていた。

仲間が止めてくれなければ、それは実際に起こっていたかも知れない。

そして、オレはお前を守ってやることが出来なかった。

あいつから、お前を守れなかったんだ……。

(……………。)

でも、こうしてお前と同じ所へ来られて、本当に良かった。

また、こうしてお前と話せて、本当に良かった。

これからは、ずっと一緒だ。

もう、お前の傍を離れたりしない!

ずっと、ずっと一緒にいよう。

(……………。)

何故だ?

何故なんだ!?

どうしてオレを拒むんだ!?

オレをお前の傍にいさせてくれ!

ずっと一緒にいてくれ!

(ダメ……。)

どうしてっ!?

(ダメなの……。)

何故だッ!? 理由を教えてくれ!

(あなたには、まだしなければいけない事があるから……。)

オレは死んだんだ!

もう、何も出来ない!

(あなたは、死んでないわ……。)

馬鹿なッ!

オレはあの洞窟で、緑色の光に飲み込まれて!

(あなたは死んでない。 私が、あなたを死なせたりしない!)

しかし、オレはもう……。

(あなたを待っている人がいる。 私はこれからあなたを連れて、待っている人達の所へ行くわ。)

嫌だ!

オレはお前の傍にいる!

もう、絶対に離れたくないんだッ!

(ありがとう。 あなたの気持ち、本当に嬉しい……。 でも……。)

でもじゃない!

オレの事はオレが決める!

オレはここにいる! お前と一緒にいるッ!

(クラウド……、うぅ…クラウドぉ……。)

一緒にいよう、これからずっと……。

オレは永遠にお前の傍にいる。

(ダメッ! 絶対にダメッ!)

どうして……、お前は泣いているのに……。

オレに、泣いているお前を一人にしろと言うのか?

オレには、できない!

(これは私の我儘、私の傲慢。 だけど、あなたを死なせたりしない。)

(あなたを待っている人の所へ、私の友達の所へ、彼女の元へ……。)

どうして!

何故だ!

(あなたが好き、愛している。 だから、あなたに幸せになって欲しいの。)

待ってくれ!

待ってくれぇ!

(あなたの気持ち、本当に嬉しかった。 あなたを好きになって…良かった……。)

話を!

話を聞いてくれ!

(お願い、この星を守って。 大好きな人達がいっぱいいる、この星を……。)

嫌だ! 行きたくない!

(あなたが生きている、この星を……。)

待ってくれッ!

行くなぁ!

オレの傍にいてくれぇ!

(大好き……、これからもずっと、私はあなたを見守っているから。)

(大好き……、私はあなたの幸せを祈っているから。)

(大好き……。 愛してるわ、クラウド……。)

エアリスぅぅぅ〜〜〜!

 

 

緑の奔流にその身を任せ、またその身を守られ、彼は世界に戻ってきた。

星の命から、その生命を守られたのだ。 その生命を与えられたのだ。

彼が流れ着いた場所、そこはミディールと呼ばれる小さな村の近く……。

彼はその村で、しばらくの間生活することになった。

しかし、一人でいるのは、そう長くはない時間だった。

なぜなら、ここが星の決めた再会の場所だから……。

月が望んだ、太陽との接触点。

彼女は何かに導かれるように、この場所にやってきた。

それから、彼は一人ではなくなった。

 

 

「やっぱり……、今日も曇りだね……。」

あなたの声が聞こえた気がした。

何処かに流れ着いたように感じてから、しばらくは何も感じなかった。

ただ、キコキコという音が聞こえ続けていた気がする。

それは今も変わらない。

でも少し前から、あなたを傍に感じることが出来るんだ。

太陽のような暖かさ、そして優しさ。

すごく安心できる。

真っ暗なボクの心に浮かぶ、明るい太陽。

どうしてだろう……。

ボクは自分の身体の事さえわからないのに……。

なのに、あなたの存在を感じるんだ。

すごく暖かくて、優しい。

ボクはまだ生きてるの?

それすら、ボクにはわからない……。

ボクはみんなを裏切って、あなたを裏切った。

悲しい、悲しいよ。

もう、ボクには誰もいない。

一番大切な、あなたがいない。

なのに、それなのに、あなたを近くに感じるんだ。

どうしてだろう?

死んでしまったから?

それとも、生きているから?

わからない、何もわからないよ。

わかるのは、優しさだけ……。

あなたがボクにくれたような、そんな優しさだけが感じられる。

でも、その度にボクは辛くなる。

あなたの優しさを裏切った自分。

それを思うと、心が張り裂けそうになる。

「少し寒い? 上から着れる物、取ってくるね。 ここで待ってて。」

あなたの声のようなものが聞こえて……。

そして、ボクから全てがなくなった。

ボクの全てになっていた、あの感覚がなくなった……。

感じない! 感じられない!

いつもあったあの優しさが、あの暖かさが、全然感じれない!

どうして!?

どうして、突然なくなったの!?

ボクは必死に、もがいた。

何とかあの暖かさを取り戻そうと、出来る限りの力を出した。

自分がどうなっているかなんて、ボクにはわからない。

身体が動いているかどうかも、全くわからない。

でも、そうせずにはいられなかった。

ボクの心からなくなった、あの優しさと暖かさを取り戻したい。

どれだけの間、そうしていたんだろう……。

とても長い時間が過ぎたのかも知れない。

ほんの一瞬だったのかも知れない。

ボクはもがくことすら諦めていた。

今のボクの心にあるのは、虚無だけ。

心に何もないわけじゃない。

虚無だけが存在するんだ。

何もかもがすごく遠くて、すごく寒くて、すごく淋しい。

さっきまで感じていたはずのあなたの事までが、すごくすごく遠いんだ。

ボク、どうなったんだろう……。

何故か、目の前に崖が見えた気がした。

ボクの身体がそこへ向かっているように感じた。

でも、もうどうでも良い……。

ボクにあるのは虚無だけ。

大切だった全てを失って、あの人を傷つけて、今ではあの人の事も感じなくなった。

もしこの崖に落ちれば、何も考えずに済むかな……。

悲しい想いをしなくて済むかな……。

辛く感じなくなるかな……。

もしそうなってくれるのなら……、ボクはここから落ちてしまいたい。

崖が迫ってくる気がする。

もうすぐ、全てから解放される。

クラウドぉ〜〜!

あの人の声?

その声が聞こえた途端に、ボクの中にあの感覚が戻ってきた。

やっぱり、ここから落ちたくない!

あの人の所へ行きたい!

ボクの望みは叶った。

あの人をすぐ傍に感じる。

あの暖かさが、ボクを包んでくれる。

あの優しさが、ボクの心に入ってくる。

そんな事させない! 絶対に、そんな事させない! もう、絶対にあなたを離したりしない!」

ボクの心から、虚無が消えていくのを感じた。

もう、何も考えたくない。

ずっとこの感覚に浸っていたい。

辛いことを全部忘れていまいたい。

ただ、太陽の光に触れていたい。

ああ、なんて気持ち良いんだろう。

あなたを近くに感じていられるなんて……。

まるで、本当にあなたが傍にいてくれているみたいだ。

本当に、傍に……。

ボクがティファさんの傍にいるのだったら、嬉しいな……。

 

 

二人の時間がどれくらい続いただろう……。

その間は、紛れもなく二人の時間だった。

だが、至福というわけではない。

彼の意識は、いまだ覚醒できない。

彼女は二人でいながら、一人の孤独に耐えていた。

一人の孤独というのは、少し語弊があるだろう。

しかし、何かの孤独感に耐えていた。

彼女の心には、まだ太陽が昇っていなかったから……。

 

 

俺は、なんて弱い男なんだろう……。

いつまで経っても、自分の力で立てない。

いや、立とうともしない。

あの優しい月が見守っていてくれるのに……。

あの明るい太陽が光を与えてくれているのに……。

俺はどうして自分で立ち上がれない。

失敗作だって、いいじゃないか!

ジェノバ細胞なんて、関係ないじゃないか!

俺は俺だ、俺なんだ!

優しい月が笑いかけてくれる、明るい太陽が傍にいてくれる、俺を認めてくれたんだ!

だから、俺が何だっていいじゃないか!

俺はクラウドだ!

元ソルジャーでもない! セフィロスコピーでもない!

彼女達が認めてくれたクラウドだ。

他に名前はいらない。

だから、俺がクラウドだから、自分の足で立ち上がらないといけないんだ。

それなのに……、俺は自分一人では何も出来ない。

自分の殻から抜け出せない。

怖れる事しかできずに、前に進むことが出来ない。

でも、俺は全てを失った訳じゃない。

俺の心には、まだ光がある。

太陽も月も、輝いている。

だから、希望を捨てちゃいない。

必ず、必ず自分を取り戻してみせる!

今は無理かも知れない。

でも、いつかきっと……。

俺はいくら惨めでも、足掻き続けてやる。

いくら情けなくても、足掻き続けてやる。

自分を取り戻すまで、足掻き続けてやる。

絶対に諦めたりしない。

エアリスの為にも、ティファの為にも、自分の為にも……。

俺の中に、たくさんの罪の意識が入り込んでくる。

だが、俺は負けない。

全てを受け止めて、それでも自分を守ってみせる。

もう、俺じゃない奴になんかに負けない。

いくら辛くても、逃げずに俺でいてみせる。

罪の意識が俺の中で暴れ回る。

俺を壊そうと、暴れ回る。

俺は必死でそれに耐える。

エアリスの人形が殺される。

ティファの幻が俺の元を去っていく。

セフィロスの影が俺を嘲笑いに来る。

様々な罪が、弱い俺を殺しに来る。

それでも、俺は死なない。

罪の意識を振り払うことは出来ないが、俺は死なない。

俺の弱い心では、奴等に勝てない。

だけど、弱いからって負けたりはしない。

勝てないけど、絶対に負けたりはしない!

この苦しみがいつまで続くのかは解らない。

でも、いつまででも闘ってやる。

俺の心から光がなくならない限り、闘い続けてやる。

そして、俺の心から光がなくなる事なんてない。

だから、俺は闘い続ける。

俺は傷つき続ける。

永遠にも思える虐待に耐え続ける。

だって、俺は死んでいないから。

想いの証を果たさないといけないから。

また会えるかも知れないから。

諦めなければ、きっと何とかなるはずだ。

俺は諦めない。

見ていてくれ、エアリス……。

見ていてくれ、ティファ……。

俺は負けたりしない!

絶対にだ、絶対に負けたりしないから!

俺はクラウドだ。

エアリスやティファが認めてくれた、クラウドなんだ。

 

 

彼の闘いは続いていた。

それは決して自分だけの闘いではない。

二人の女性の気持ちが彼を支えている。

彼は負けないだろう。

だが、このままでは勝つ事も出来ない。

大き過ぎる罪の意識は、彼だけの光では消し去ることの出来ない闇。

その闇は大きくなることはあっても、消えてしまうことはない。

だから、彼の心の中にあった光達は、その闇に立ち向かおうと時を待っている。

彼の心の中に、直接その光を注ぎ込もうと時を待っている。

その時は、すぐ側まで来ていた。

 

 

「今日は晴れたね。」

私はいつもと同じように、彼を乗せた車椅子を押している。

朝は、こうして二人で散歩する。

村の中を歩いて、それから少しだけ外に出てみた。

美しい緑に包まれた森の中、私達は話をしながら散歩をする。

私は色んな事を口に出して、彼に伝えていく。

日の光に透けた葉がすごく綺麗、

木の合間から差し込む光はなんて幻想的なんだろう、

こんな日は空気がとてもおいしい、

ほら正面に見える花がすごくかわいい、

こうやって、私達は会話をしていく。

彼は何も話してくれない。

でも、傍にいてくれる。

だから、私は寂しさを我慢できる。

「もう少し歩いたら、帰ろうか?」

私はそう彼に伝えて、また森の奥に進んでいった。

私が立ち止まって辺りを見ていると、不意に彼の手が動いた気がした。

たくさんの希望と共に振り返ってみたけど、彼の手は動いた様子なんてなかった。

その時までは……。

「ク、クラウド……。」

彼の手が、少しだけ動いた。

それは指が動いただけ、彼が意識してしなくても起こる現象。

でも、私はそうは思わなかった。

彼は私に何かを伝えたがっている。

私は必死に考えを巡らせながら、彼を見つめる。

彼の指が何処かを指し示した、そう私は感じた。

その指が指し示した方向、それはミディールの村のある方向……。

「何? 村に何かあったの?」

彼は答えてくれない。

でも、その指はさっきよりも伸ばされている。

それで私は確信した。

「村に何かあったのね。」

私は彼の車椅子を押して、急いでミディールの村へ戻った。

車椅子の通れるルートを使わなければいけないので、いくら急いでも時間が掛かる。

彼の様子に注意しながら、先を急いだ。

森を抜け、村が見えてくる。

私が村に戻ってみると……、いつもと何も変わった所がない。

「どういう事? ここがどうかしたの?」

彼は治療所に指先を向けた。

「あっちね。」

私達は治療所に急ぐ。

しかし、治療所でもおかしな事は起こっていない。

私の勘違い? さっきの行動に彼の意志はなかったの?

彼を見てみる。

彼は今までと同じように、表情一つ浮かばせていない。

さっきまで伸ばされていた指は、今は普通に握られている。

ううん、普通にじゃない。

強く、強く握り締めている。

ここでいいの? あなたはここに来たかったの?

そう私が心の中で彼に問いかけた時、治療所のドアが勢いよく開かれた。

その勢いをそのままに、ドアから飛び込んできたのは……。

 

 

仲間達との再会、だが彼はそれを伝えたかったのではない。

彼が伝えたかったもの、それはライフストリームの暴走のことだった。

ミディールの地下を流れるライフストリーム。

その流れの強さに、ミディールの地盤は耐えきれなくなっていた。

限界が近い。

大きなショックが加われば、今にも崩壊してしまう。

彼はそれが伝えたかった。

しかし、それは彼の意志ではない。

彼の意志は、まだ闘う事で精一杯なのだ。

ならば、彼の身体を反応させたものは……。

彼の体内には、大量のライフストリームが蓄積されている。

それは地下で起こっている同質のエネルギーの暴走に反応した。

全てはライフストリームに帰する。

すなわち、彼の体内のそれも元の流れに戻りたがったのだ。

ティファは彼の変化を敏感に感じ取った。

それが彼自身のものではなくとも……。

運命は、そのエネルギーの奔流を地上に解き放つことを選んだ。

星の危機に現れ、全てを無にするウェポン。

その内の一体であるアルテマウェポン。

星はその存在を彼等の元へ送り込んだ。

仲間達は必死に応戦する。

だが、それは星が描いた運命そのものだった。

戦いにより、大きな力同士がぶつかりあう。

そして、その力は破裂寸前の大地に大きな衝撃を加えた。

大地が裂ける。

亀裂の生じた大地から、緑の奔流が吹き出してくる。

その場にいた全員が逃げだそうと走り出した。

アルテマウェポンはその役目を終え、既に姿を消している。

仲間達は何とか非難する事ができた。

だが、クラウドとティファはその大地の裂け目に飲み込まれていった。

それも、星の描いた運命だったのだろうか?

再びその身をライフストリームに飲み込まれたクラウドは、不思議な感覚を味わっていた。

暖かい、寒い、安心できる、ひどく孤独を感じる……。

それは、彼の心に太陽が昇り始めた証だった。

それは、月の魔力が彼の心に太陽を連れてきた証だった。

彼はまだ闘いに負けていない。

その心の一部が、すぐに太陽の存在を確認する。

そして、その光を求めて太陽に近づいていった。

彼の心に太陽が昇る。

罪という名の闇が、光によって振り払われる。

彼は心を取り戻すことが出来るだろう。

今の彼には、太陽の光がたくさん降り注いでいる。

気付かないかも知れないが、月の光も同様に存在する。

それに呼応するように、幾つもの希望の星も輝き始める。

彼は光を得たのだ。

どんな闇にも負けることのない、二つの光を……。

彼が目覚めた時、それは彼女達に認められたクラウドの生還の瞬間だった。

彼は微笑んだ。

今度はティファの闇が払われる番だった。

彼の微笑み、本当の彼の微笑み。

それが彼女の中で太陽が昇った事を、実感させた。

二人の心からは闇が消え、光が溢れている。

明るくて優しい、そして強い太陽の光……。

月の輝きは、太陽の前では霞んでしまう。

それでも、月は満足げに輝いていた。

 

慈愛に満ちた月に見守られ、二つの太陽は昇ったのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

どうも、鳥の翁です。

「昇る太陽」、如何でしたでしょうか?

この作品は、TOMOさんのホームページのお引っ越し祝いという事で作成しました。

時期がずいぶんとずれ込んでしまいまして、申し訳ありませんでした。

今回は心情を強く描写しました。

それに幾つかの比喩を用いて書いてみたのですが、結構大変でした。

状況の説明をさせて頂きますと、

始めは、竜巻の洞窟が崩れ始めた所。

次は、ミディールに辿り着くまでのライフストリームの中。

その次は、ミディールでティファに看病されている所。

次の場面も同じくミディール。

最後はライフストリームに飲み込まれる前と後です。

解りにくかったかも知れません。

余談になりますが、この話は「消えた星々」という小説と関連性を持たせています。

もし興味がお有りになりましたら、そちらも読んでやって下さい。

私のホームページに掲載しています。