明日への光 〜前編〜
時が溯って30年前。神羅が生まれる前の時代に、ある組織が世界を支配しようとしていた。
その組織とは、アドルフ・ヒットラー率いる思想集団、ナチス=バロン。
ユダヤ人迫害を行い、偏った民族思想を植え込み、民衆を支配して、自分達の力を増大させていった。
しかし、バロンもそれ以前は帝国主義社会の国家ではなかった。
大戦から10年前、かつて世界を救ったパラディンの英雄、セシルとローザの子孫、セシル27世は歴史の解明や領土拡大の為、最近研究の対象とされるライフストリームによる蘇生技術を科学者達に指示をした。当初の目的は国の治安を保とうと
古代人を生き返らせる事だった。西暦時代の過ちを知り、それを教訓に法律や科学の開発を進めようと言うものだった。
ところが、セシル27世を快く思わないある一人の科学者がバロンを手に入れようと、ある独裁者を生き返らせた……。
その独裁者とは、かつてナチス党を率いて世界の帝王になろうとしたドイツ総統アドルフ・ヒットラー。
ヒットラーが蘇生されるとバロンの政府はセシル27世に反発し、彼を追いつめて暗殺し、バロンをナチズムに染め、更に失敗に終わったゲルマン(ドイツ)民族の野望を実現させる為に、ミシディアの独裁者ティド大統領と、バルチカン首相のアント
リノと三国軍事同盟を結び、連合国への戦争を宣告した。
更にナチス=バロンは戦力拡大の為、自分を生き返らせた蘇生の技術を、運動神経や頭脳の抜群な有名人や、世間を騒がせた殺人犯等に駆使し、彼等を生き返らせて1年間の訓練を受けさせた。そしてヒットラーはその後でジェノバ細胞を埋め
込むと、真っ先に彼等を戦場へと送り込んでいった。
特殊な戦闘能力と死体から生き返らせたことから、彼等はソルジャーZと名づけられ、連合国が古文書で彼等の事を調べられないようにと、コードネームも付けられて行った。
彼等は生き返らされるとすぐに訓練を受けさせられ、ナチスに忠誠を誓う兵士として、軍に従わされた。
更にナチスはジェノバ細胞を発見し、その実験台にとソルジャーZ達を危険な戦場へ向わされた。
幹部達の思い通りに動かされ、危険な戦場へと次々に送られる彼等……まさにナチス権力維持の為の人形である。
しかし、そんな彼等にも、人間と同じように意識や感情を持っている。
仲間達が殺され、ナチスに人形のように縛られた怒りに、彼等はナチスに対する反発心を芽生えていった……
その代表的な人物が、一人の将軍の司令に基き、15人の仲間達を率いてナチスに立ち向かったソルジャーZ、"ニンジャ"だった。
"ニンジャ"とはナチスによって付けられたコードネームであり、本名はその親しい人物と彼と同じ時代に生きた人物、そしてコードネームを付けたナチス幹部以外誰も知らなかった。生前に映画俳優の父を持ち、アクション俳優として名を広めた一人
の青年であり、力や頭脳に最も優れたソルジャーZのナンバー1であった。
その彼は残忍なナチスに反発心を持ち、同じ考えを持つ仲間達と共にナチスから脱走し、連合軍やナチス軍に脅えながらも、レジスタンスグループを率いてナチスに立ち向かっていった。
ナチスの基地や同盟国を破壊し、次第に力を弱まらせ、一時は絶望的だったナチス打倒も、たった16人で強大なナチスを追いつめていった……
そんな彼等にも、気を止めずに要られなかった物がある……
それは、ユダヤ人―古代種セトラ達が作り出していった、究極のマテリアである。
聖なる力を秘めている白のマテリア。
宇宙のあらゆる物体を自在に操る黒のマテリア。
そして時間や体を自在に変化できるクリスタル・マテリア。
この3つのマテリアがあれば、強大な力を手にする事ができ、所有者は地上の神となりえる。
彼等はその3つのマテリアを、支配者の手に届かぬよう、自らの意識に封印させ、長い間人々に知られぬようにしてきた。
しかし、ユダヤ人の血が入ったヒットラーはそのマテリアに気づき、そのマテリアを手にしようと軍隊に捜索を命じた。
その事に気づいたニンジャ達は、ユダヤマテリアをヒットラーの手に渡らせまいと、必死にマテリアを探していった。
一時は自分の手に入ったものの、天草四郎なる男にマテリアを奪われ、邪魔者であるヒットラーを始末し、世界を意のままに支配しようとした……
しかし、その一つのクリスタル・マテリアはどうしても天草の手に入らなかった。クリスタル・マテリアとは、人の意識から作られる物で、ヒュージマテリアに選ばれし者しか扱う事ができない。
ニンジャ達はそのマテリアを手にし、真の元凶である天草四郎に立ち向かっていった。
戦いは長く続き、ニンジャ達は深い傷を負いながらも、神となった天草四郎を倒す事ができた。
そしてナチス幹部を全員倒したと同時に、他のソルジャーZの脱走兵と連合軍は遂にバロンの首都ミッドガルへと潜入し、世界の帝国となろうとしたナチス=バロンは、ヒットラーという指導者を失い、戦力もなくなり、連合軍の攻撃を受け、ナチス=
ドイツと同じように跡形も無く崩壊していった。
戦争は連合軍が勝利したその時、ナチスに作られたソルジャーZ達は、自らを束縛し、自分達の存在や名前を抹消させた独裁者の死をきっかけに全員解放された。
その中の、ナチスに勇敢と立ち向かったニンジャが、ナチス=バロンの過ちを繰り返さぬようにと、仲間のスカーレットやシド・バレット将軍、もう一人の理解者だったガスト博士等と共に、政治機関「神羅カンパニー」なる会社を設立した。
彼等はナチスの技術やアメリカの政治体制等をそのまま利用していたが、その神羅カンパニーの当初の方針は、市民達の生活を潤すだけでなく、他の国々との衝突や、紛争の絶えない国々など、第三者の立場に立ち、和平交渉の役割を果たす
事だった。
しかし、その神羅も、ナチス=バロンと同じような過ちを繰り返そうとは、人々は知る由も無かった……
事の発端は魔晄炉の建設計画。魔晄に多大なエネルギーが潜んでいると見出したハインリッヒ・レナルト(後の神羅カンパニーの社長となるプレシデント神羅)は、魔晄による発電を魔晄炉の建設を幹部達に提案を持ち掛けた。魔晄はガスト博士
がまだナチスの科学者だった頃から研究されていた物だが、宝条やレナルトはその魔晄に発電力を見出し、魔晄炉建設を推進させようとした。しかし、社長のニンジャを始め、仲間だった兵器開発部門統括スカーレットや科学部門統括ガスト博士
等は、「魔晄を汲み上げると星に多大な影響をもたらす」と魔晄炉の建設に強く反対し、幹部達は賛成派と反対派に別れ、双方の争いは繰り広げられた。
しかし、争いは日が経つことに激しくなり、ただの魔晄炉建設のいざこざから、遂には権力争いにまで発展して行き、そしてその魔晄炉建設案が出されてから数ヶ月後、社長であったニンジャは、セシル27世と同じ運命を辿っていった。レナルト等数
人の反逆によって暗殺され、権力を乗っ取られたと同時にニンジャの存在は、世間から(そして私たちが住んでいるこの世界でも)完全に抹殺された。
そして、平和機構政府機関会社だった神羅カンパニーは、ナチスのような帝国主義支配の機関と化してしまったのだ……
だが、その神羅も言うまでもなく設立20年で崩壊してしまった。説明の必要なないだろうが、クラウド・ストライフ等9人のアバランチのメンバー達は、神羅に深い恨みや怒りを持ち、同じ考えを持つ同志と結託して、神羅カンパニーに立ち向かって行
き、そして神羅もナチスと同じ運命を辿ってしまったのだ。
そして、ナチス=バロン崩壊から数十年の月日が流れようとしていった……
最終話 明日への光
神羅=バロンの崩壊からちょうど1年の歳月が流れていった。
その発展していくアメリカの新しい首都の大都市、ニュー・ケネディの中、とある少女が糸の切れたマリオネットのように、歩道の脇でぐったりと倒れていた。
手も脚も動く力を失い、目も耳も情報を受け入れることができなくなり、ただ、腹の虫が絶えずに鳴き続けているだけだった……
と、とある瞳の赤い、黒く艶の出て、顔も10代の少女のように幼顔で、それでいて胸のやたらでかい女性が少女に気付き、どうなっているのかと近付いてきた。
「どうしたんだ?」
続いてツンツン頭のハンサムな男性も少女に近付いてきた……
どこからとなく、2人は少女に関心を高めていたんだが、別に少女を追い回す様子もなく、ナチズムに傾倒しているわけでもない……
この街に来たのは、憩いの時を過ごす為だけの、ただのデートだろう……
2人の右手の薬指には、指輪がはめられている……。この2人は夫婦で、休日にニューケネディーへとデートに来ていたのだ……
「……誰かが倒れている……。」
「死んでいるのか?」
夫は脈を量ってみた。
「死んでいないみたい。心臓、動いているみたいだから……。」
2人はどうしたんだろうと、倒れている少女をじっと見つめると、夫の方が前から興味あるかのように、胸に彫られた数字に目をやった。
「何だこれ?イレズミ……?」
妻の目もそのイレズミに、前から関心があるかのように集中した。
「ナンバリングが彫られているわね……。この娘は「Z」……。この娘もセフィロスと同じソルジャー1stの実験台なの?」
ナンバリングの刺青を彫るのと言えば、宝条が実験台のソルジャーにサンプル番号を入れる事ぐらいだろう……
しかし、夫はきっぱりと否定した。
「いや、こいつは神羅のソルジャーではなさそうだ。ナンバリング入れられた人達はレッド]V除いて皆、セフィロスに殺されたんだ。それに神羅が右手の手甲に鉤十字(ハーケン・クロイツ)のイレズミなんて彫るか?」
夫がそういうと、妻に手甲に彫られたハーケン・クロイツを見せた。
「そう言えば……。ハーケン・クロイツだったら、神羅と言うよりナチスのソルジャーね……。」
「こいつ、家に連れて行かないか?」
「家に?」妻は夫に疑りの目を向けた。「どういう目的で!?もしかして、この娘にホレちゃったとか!?」
自分の魂胆を見破られて、戸惑う夫だが、手を妻に向けて必死に弁解をした。
「違う!そんなんじゃない!ナンバリングにハーケン・クロイツってのが気になるだけだ!」
しかし、浮気性のある夫に、妻の眼は疑り深かった。
「ふ〜ん、何か怪しいけど……。あなたったら、いつも浮気するからね……。」
「とりあえず、家に連れて帰ろう!死にそうな奴を見ていると放って置けない!」
「ふう〜〜〜ん……。」
妻の軽蔑したような目を向けられながら、夫は少女を担ぎ、予定より早くニュー・ケネディ街を後にした。
こうして夫婦は少女を家に連れ、自分達の家で看病することになった……
それから3日。ずっと眠ったきりだった少女はぼんやりと目を覚まし、周りの風景がぼやけながらも映し出された……
「……起きたみたいね。」
女性が少女の顔を覗き込んできた。
しかし、少女のぼやけた目には、ラップ系のミュージシャン風で、カーリーヘアーの男の姿が映し出された。
「ファイアー!?」
いきなり聞き慣れない名前を聞かれ、女性は声をかけた。
「……どうしたの?」
女性の声を聞くと、ぼんやりと映し出されたカーリーヘアーの男の姿が、ブラウスを着ている赤い瞳で黒い髪の女性の姿へと変わって行った……
(違う……この人、ファイアーじゃない……。)
少女は違う人だとガックリしたが、その後よく考えて、ファイアーはどうなったんだろうと思いあてていった……
(そうだよね……。ファイアーももう死んじゃったんだよね……)
どうやら、ファイアーと言う男は既に死んでいた……
改めて女性の存在を受け入れると、少女はまず始めに、何となく聞きたい事を女性に聞いてみた。
「ここどこ?」
少女の質問に、女性は何気なく答えていった。
「ここはラベット州のニブルヘイムよ。」
「……ニブルヘイム?」
少女は辺りを見回した。
家は新築されたのか、壁が異様に新しく、部屋には古くなったクマのぬいぐるみや洋服ダンス、電話と〈LOVELESS(Written by Pannacotta Caparzo)〉と題された本の乗っかっている机、そして弦を左用に張り替えられた古いギブソンのSGスタンダ
ードが内装を作っていた。
「そうよ。ニュー・ケネディで、ビルの隙間に倒れたのを見つけたの。あなた、3日間ずっと眠ったっきりでいたわ。」
「3日間も!?」
少女はビックリしたような顔になると、リヴィングルームから男の声が聞えてきた。
「どうしたんだ?」
男の声に、女性は返事した。
「この娘、目を覚ましたみたいなの!」
男の声に返事すると、女性は敵意のない笑顔を少女に向け、自己紹介を始めた。
「あ、自己紹介しておくね。私、ティファ。ティファ・ストライフって名前なの。旧姓はロックハートだけど……。あなたは?」
ティファ・ロックハート?何所かで聞いたような名前だが、少なくても生前に聞いた名前ではなさそうだ……
おそらく、ナチスのソルジャーZだった頃に、ファイアーがよく口にしていた名前が頭に染み込み、その幻影がファイアーに見えてしまったんだろう(ファイアーとは全然似ていないけど)……
しかし、女性は本当に敵意がなさそうだ。少女は安心して、名前を名乗ろうとした。
「あたしはヒロコ……。」
自分の本名を全てあげようとしたが、途中で口が止まり、自分の本名を名乗っていいものなのかを考え込んだ……
ナチス=バロンのソルジャーだった頃、自分達は西暦時代の死体から生き返らされた生命体兵器(バイオ・ウェポン)であるがため、ナチスの決められたコードネームしか名乗れず、本名などは当然御法度。名乗った場合はその場で処刑されてしま
うのだ。
その為、ソルジャー達はコードネームで呼び合い、嫌々ながらもその名前を名乗っていった。
しかし、今はナチスどころか神羅さえもない。本名を名乗っていても処刑されない。
それでも、少女は最も名残のある、よく呼ばれていた名前を名乗った……
「ううん、あたし"マーメイド"。マーメイドって名前なの……。」
「マーメイド?」ティファはその名前におかしく、意識もせずに微笑を浮かべた。「フフフ、変な名前ね。」
「皆そう言うんだけど……、生き返った時からずっとこの名前だったの……。」
マーメイドの言葉に、ティファは再び妙な反応を示した。
「『生き返った』?」
「え、いや、とにかくずっとこの名前を名乗らされたの。昔は嫌だったけど、今は何だか気に入っちゃって……。」
自分の名乗った名前に微笑するマーメイドに、ティファも薄笑みを浮かべた。
お互いに薄笑みを浮かべ、少し楽しい雰囲気になっていくと、マーメイドの腹の虫がいきなりギューとなった。
「お腹、空いたの?」
「う…うん。」ティファがそう聞くと、マーメイドは首を縦に振った。「1ヶ月間、何も食べてなかったから……。」
「1ヶ月間も!?」ティファは驚愕した。「そんなんでよく生きてられたわね!?普通だったら飢え死にしていたわよ!?」
「うん。でもあたし、普通じゃないから……。」
「でもいいわ。なにか食べていらっしゃい。」
「い、いいよ!何か、ティファさんに悪いし……。」
「大丈夫よ。うち、そんなに裕福じゃないけど、困っている人は放って置けないから……。」
「そ、それじゃ、お言葉に甘えて……。」
マーメイドは3日間ずっと眠っていたベッドからようやく起き上がるが、空腹と運動機能の衰退で体がふらつき、思うように動けない。
「だいじょうぶ?一ヶ月何も食べてないんだから、体なんて動ける訳もないわ。」
体をよろけさせるマーメイドはティファに支えられながら、夫のいる1階のリビングルームへと向っていった……
3日ぶりに目を覚ましたマーメイドは、ティファに体を支えられて階段から降り、玄関からリビングルームへと向っていった。
そして、リビングルームへと入り、ティファはソファーに座って新聞を読む男性に声をかけた。
「クラウド。」
「ん?」クラウドは振り向いた。
「ニュー・ケネディで倒れていた女の子、たった今目を覚ましたわ。」
「女の子が!?」
クラウドは新聞をテーブルの上に置き、ソファーから立ち上がった。
ソファーから立ち上がり、自分を見詰める男の姿を見ると、マーメイドの目に再びクラウドの人物像がぼやけて見え、ツンツン頭の男がサラサラのロングヘアーの女性へと映し出されていった。
「……パラディン?」
「え?」
「"パラディン"!?」
2人は反応し、マーメイドの方へ振り向いた。
クラウドがマーメイドを見つめると、ぼやけて見えた女性の姿が男性の姿へと戻っていった。
(この人も違う……)
ティファと言う女性と同じように、クラウドの姿がかつての仲間が走馬灯のようにぼやけて映し出された。
しかし、クラウドと言う男はパラディンと言う女性によく似ている……。マーメイドのぼやけた意識には、まだクラウドの姿がパラディンとして認識されたままになっていた。
マーメイドがまだ醒めぬ、仲間の妄想にボーっと立ち尽くしていると、ティファはどうしたのかと声をかけてきた。
「……マーメイド!?」
ぼやけた意識が急に鮮明に戻っていった。
「どうしたの?クラウドを見て、ボーっと立ち尽くしちゃって……。」
「ううん、何でもない……。ただ、知っている人に似ていたから……。」
(確かに、パラディンにすごく似ている……。)
「きっと、お腹空いているから、意識もぼやけているのね……。」
ティファは髪を縛り、向いの部屋のキッチンへと向っていった。
「ごはんの支度、今するからしばらく待っていてね。」
「うん。」
マーメイドは絶えずに鳴く腹の虫を堪えながら、ソファーに座って待つ事にした。
それから1時間経った食事の時間。
マーメイドとクラウドは椅子の上に座り、ティファの作る料理を待っていた。
調理も終え、ようやくキッチンから現われたティファは、テーブルの上にスープ鍋を置き、蓋を開けた。
スープを器によそう前に、ティファはクラウドを紹介しようと、手を向けた。
「クラウドの紹介はまだだったわね?この人は私の夫のクラウド・ストライフ。」
ティファに紹介され、クラウドは挨拶にと頭を縦に振った。
クラウドの紹介を終えると、今度はクラウドにマーメイドを紹介した。
「この娘はヒロコ・マーメイド。この娘は分からないけど……、ニュー・ケネディで倒れた所を見つけて、うちで介抱した娘よ。」
「"ヒロコ"はいらないよ。"マーメイド"だけでいい。」
「そうだったわね……。」
ティファはスープをよそい、皿に盛られた料理をテーブルの上へと並べ、巧みな飾り付けを施して、それぞれの席に料理を置いていった。
そして、料理は全て並べられ、マーメイドはクラウド達(以下ストライフ夫妻)とともに手を合わせ、「いただきます。」と食事の挨拶を交わした。
穏やかな食事が始まり、二人はいつも通り静かに食していた。
すると、食事が始まると同時に、マーメイドは急に激しくなり、餓えた獣のように料理を貪り尽くした。
その光景に普通は「みっともない」と思うが、1ヶ月何も食べてなかった事を知っていたストライフ夫妻は、「……相当お腹空いていたのね……。」と少し身の引けたような表情で黙ってみていた。
マーメイドの食事が少しずつ落ち着き、周りの事が入れるようになっていくと、ティファはもっとも気になる事をマーメイドに聞き出してみた。
「ところでマーメイド。」
「なあに?」
マーメイドは激しく口に運んでいたフォークを止めた。
「あなた、ニューケネディに行って何をしていたの?」
そう聞かれると、マーメイドの手に食事が止まり、下を向いて悲しそうな表情を浮かべた。
その様子にティファは、気の毒そうに顔をして、下を向いているマーメイドに「……聞かない方がよかったのかな?」と謝った。
「ううん。そんな事ない。」マーメイドは気にしないでと笑顔で首を横に振った。「ちょっと思い出して、落ち込んでいただけだよ……。」
マーメイドは再びフォークを手にし、食べている途中で、激しい食事で原形のとどめなくなったハンバーグに手を付けた。
「……古の森へ行こうとしたんだけど……。」
「古の森!?」
「……うん。ニンジャ達の墓参りに行こうとしたけど……、場所もわかんなかったし、どうやって行くのかもわかんなかった……。数ヶ月前から家を出て、仲間の墓参りへ行こうとしたけど、その周辺に向かう電車と飛行機がなくて、迷っているうちにお
金なくなっちゃって……、それで何も食べてなかったの……。」
「それで行き倒れになっちゃったってわけね。」
「……うん。」
マーメイドの何も考えない行動に、クラウドは深く溜め息を吐いた。
「はぁ。けど古の森なんて、電車や飛行機でいけるか?」
「そうよ!チョコボも飛空挺もないのにどうやって行くつもりだったの?」
「分からない……。けど、どうしても行かなければならないの……。」
「どうして?」
「私達の仲間が……、そこで眠っているから。」
「仲間達が?」
夫妻はその言葉に気にかかり、食事の進んでいた両手をぴたりと止めた。
夫妻が食事を一旦止めると、マーメイドはその仲間達についての事を、その発端から説明を始めていった。
「ねえ、ティファ達はナチス=バロンって言うのを知ってる?」
「ナチス=バロン?」
「知っているよね?クラウド。学校の歴史で習ったんだから……。」
「ああ……。アドルフ・ヒットラー率いる、あのナチス=バロンだろ?たしか、生き返ったヒットラーがそれまでバロンを統治していたセシル27世を暗殺に追いやって、国を乗っ取ったって言うやつ……。」
「そうそう。私のだいっきらいな、あのナチス!」
その名前自体に不快を持つかのように、ティファは顔を歪めた。
「罪のないユダヤ人達を次々と殺していったんでしょ?私、そういう理由もない差別や虐殺は大嫌い!」
「で、そのナチスとマーメイドとどう関係があるんだ?」
マーメイドは少し戸惑った。
自分を介抱してくれた親切な人はナチスが大嫌いで、逆らったとは言えナチスのソルジャーだって事には変わりないから、その人の前で「私はナチスだ」とは言う事もできなかった。下手に言えば、自分を敵視し、武器を向けられて殺されてしまうとマ
ーメイドは直感した。
しかし良く考えてみれば、手甲の刺青は既に見られている。ナチスの行動が嫌いでも、なる意思もないのにナチスにされてしまった人まで憎まなければ、自分を助ける事などないはずだ。
言葉を選びながら、慎重に説明して、ストライフ夫妻が理解してもらえば、そんな心配も杞憂に終わる。
マーメイドは言葉を選びながら、勇気を出してストライフ夫妻に告白した。
「……実はあたし、ティファの大嫌いなナチスのソルジャーだったの……。」
「え!?」ストライフ夫妻は驚愕した。
「……正確には、死体から生き返らされた人造人間のソルジャーなんだけど……、あたし達、ナチスの戦闘兵器として生き返らされて……、ヒットラー達の意のままにずっと操られて、危険な戦場へと立ち向かわされたの……。」
マーメイドは手甲に彫られた刺青と、その番号である、胸に彫られた「Z」のナンバリングをストライフ夫妻に見せた。
「ジェノバ細胞知ってる?再生能力を高め、決して死なない体にしてしまう細胞なんだけど、あたし達、生き返って1年ぐらい訓練させられて、ナチスの科学者達に細胞を埋め込まれた……。」
言葉を出す事に、マーメイドの心は怒りと悲しみに満ち、仲間達の無念に眼から涙がこぼれでようとしていった……
「正直、あたし達は嫌だった……。せっかく生き返ったのに、実験台だからって戦場へ送られて……、何も知らないまままた死なされて……、あいつ等の権力に利用されるままに……、人形のようにこき使われる……、辛い日々をずっと送ってきた…
…。新しい人生も歩んでないのに、また死なされる事がすっごく嫌だった!!!あたし達はナチスの都合で生まれてきた人間じゃないのに……!」
マーメイドの悲しみに、ストライフ夫妻もつられて涙ぐんだ。
「……じゃあ、マーメイド達は実験台として戦場へ送られた訳?」
「……うん。ジェノバ細胞の効果を示す為に、あたし達を戦場へ送り込んだんだよ……!」
「ひどい……。自分達の権力の為に、何の関係もない時代の人達まで戦争に巻き込むなんて!」
怒りのこもる無念に、ティファの怒りも爆発しそうになっていた。
「そいつ等、狂っている!狂っているとしか言いようがない!」
「でも一度ジェノバ細胞を埋め込まれた人間は絶対に死ぬ事なんてない筈だ。何故実験台の兵士達やマーメイドの仲間達が……?」
「分からない……。けど…、皆死んじゃったの……。神羅達に攻撃されて……、皆殺されちゃったの……。」
言葉を出す事に記憶がよみがえり、悲しみにこらえ切れないマーメイドはついに涙を流し、しゃべる事のできないほど泣き崩れてしまった。
その涙に、ストライフ夫妻も黙り込み、リビングルームは静寂に包まれ、マーメイドの泣き声だけがこだましていった……
重苦しい静寂は数分続き、止まっている食事も進む事なかった……
少しすすり泣く事に出ている涙は少しずつ止まっていき、ある程度落ち着きを取り戻すと、ティファがその仲間の居場所についてのことを聞き出してきた。
「マーメイドの他に生き残りは?」
「……あたしの他に、2人生き残りがいる……。けど……。」
「けど?」
「……これ以上言えない。その一人、クラウド達もよく知っている人なの……。」
「俺達のよく知っている人?」
「うん。クラウド達、神羅も嫌いそうだから、その人に会ったら絶対に襲いかかると思う……。」
ストライフ夫妻は他の2人の事を考えながら、止まっていた手を再び動かし、ゆっくりと食事を進めていった……
それから数日後。マーメイドとクラウド夫妻は海チョコボを使って、ソルジャーZの戦士達が眠る古の森へと向い、共に戦士達の供養をしようとその墓場へと向うことになった。
クラウド夫妻はこの森に一度来たことあるが、墓らしきものは一度として見たことなかった。
3人は行くのが困難な森から洞窟へと入ると、進んでいた足がぴたりと止めた。
「ここか?マーメイド。」
「そんな所に戦士達の墓なんてあるの?」
「……うん。」
マーメイドは奥の方にある壁へと向っていき、そばに置いてある空の宝箱の前で立ち止まった。
「ここにニンジャ達の眠る墓があるの……。」
クラウド達にそういうと、マーメイドは宝箱に頭と右腕を入れ、底にあるでっぱりを力一杯親指で押した。
すると洞窟から大きな音が振動とともに響き渡った。
開いた入り口から3人は洞窟を出ると、目も眩みそうな光がきつく射し込んできた。
「ここが……。」
「……私達の仲間が眠る、戦士達の墓……。」
クラウド達の目に明るさが慣れてくると、墓のような石板がこの地を埋め尽くすように立てられていた。
その墓にはソルジャーZの名前と本名が刻まれていた。
『ナンバリング「]T」コードネーム「JFK」
本名 リー・ハーヴェイ・オズワルド
かつてはバロン軍の腕利き狙撃兵。ナチス崩壊後、ファイアーとともに賞金稼ぎを営んだが、神羅兵の襲撃に遭い、ニブルヘイムにて死亡する』
『ナンバリング「Y」コードネーム「スパイダー」
本名 アラン・ロベルト
ナチス崩壊後、生前と同じようにビルを上っていったが、神羅ビルでの侵入の途中でモンスター襲撃に遭い死亡。』
『ナンバリング「]W」コードネーム「マジシャン」
本名 ハンス・クロック
華麗なトリックと、撹乱させるマジックで敵を翻弄し、レジスタンスグループでも多大な活躍を見せる。ナチス崩壊後、マジシャンとなるが、ジュノンにて神羅軍に逮捕され、3日後毒ガス処刑にかせられる。』
『ナンバリング「[」コードネーム「クイック」
本名 シャロン・ストーン
高い知能と巧みな作戦でチームを動かしたが、ナチス崩壊後、一流企業のキャリアウーマンとなり、会社の経営を支えてきたが、神羅による企業崩壊と共にソルジャー1stによって暗殺される。』
『ナンバリング「W」コードネーム「レインボー」
本名 リッチー・ブラックモア
アメリカ軍のスパイで、ゴルベーザ参謀総長の指導の下でナチスに潜入し、伝説のユダヤマテリアをナチスから奪うが、天草四郎とのサイムーンでの決戦により死亡。』
『ナンバリング「V」コードネーム「ファイアー」
本名 ジミ・ヘンドリックス
ソルジャーZの格闘兵で、変則技や強力な打撃を繰り出すが、ナチス崩壊後、仲間達と離れて賞金稼ぎを営んだが、数年後ニブルヘイムにて、神羅兵の銃撃にあい死亡。』
ストライフ夫妻は仲間達の墓をじっと見つめ、悲しそうに墓標を読み上げていく……
「これが、あなたと共にナチスと戦った、戦士達の墓なの?」
マーメイドは首を縦に振った。
「うん。コードネームと本名が書かれてあるでしょ?……ここにあたし達の仲間が眠っているの……。」
そういうと、マーメイドの眼から涙が数滴流れ出てきた。
ある程度墓標を読み上げると、ティファがある墓に目がはいった。
「この人が、本当の神羅カンパニーの創立者ね……。」
「アバランチの創立者でもあるけど……。」
ティファはかなしげな声で、神羅カンパニーの真の創立者で、反ナチスグループのリーダーである、「ニンジャ」なる男の墓標を読み上げた。
『ナンバリング「T」コードネーム「ニンジャ」
本名 ケイン・コスギ
バロン軍ソルジャーZのナンバー1として、兵士達を指揮していたが、ナチスに反発し、仲間達を連れて脱走を企て、ダムシアンのフィラレにてアバランチを結成。終戦後、神羅カンパニーを創立するが、幹部達の反逆に遭い、暗殺される
と同時にその名を消される。』
墓標を読み終えると、ティファは聞いた事のない国や都市に、再び目をやった。
「ダムシアンのフィラレ?聞いたことのない街ね……。」
ティファがそういうと、マーメイドはかなしげな声で、フィラレがどうなったかをストライフ夫妻に話した。
「無理もないよ……。フィラレもアルテアも……、皆大戦中に天草に消されちゃったんだから……。」
大戦中の事を思い出し、マーメイドは黙り込んだ。
確かに昔はフィラレやアルテアも存在していた。しかしヒットラーを始末した後、ユダヤのマテリアを手にした天草は、その力を民衆に見せ付けようと、フィラレ等の幾つかの都市にホーリーやメテオで消し去り、一部の都市は神羅崩壊した後で再建
しているんだが、その殆どの都市は、人々の記憶から消え去っていたままなのである……
「スパルトのアイオロスやトロイアのレイファは今、そこの政府が再建している途中だけど、俺もその事を聞くまでそんな街があったなんて知らなかった……。」
「ニンジャも消された街を全部再建しようとしたんだけど、その前に殺されちゃって……。」
マーメイドは説明を続けようとしたが、思い出すと涙が溢れ出し、言葉は止まり、涙をできるだけ流さない様にと堪えていった……
マーメイドの様子にクラウドは目をつぶり、やり切れなさそうな表情で首を横に振った。
「皆、神羅の裏切りに遭って死んだのか……。」
「ずっと前の社長も、幹部達に裏切られて死んじゃったのね……。」
「何ともやりきれない話だ……。」
ティファはマーメイドの方へ振り向いた。
「ねえ、マーメイド。」
マーメイドは振り向いた。
「他の生き残った人は?」
「…………。」
マーメイドは答えようとしたが、涙はまだ止まらず、言葉も出せなかった。
と、後ろから声が聞えてきた。
「マーメイド。」
マーメイドは涙を止め、入り口の方へと振り返った。その声は懐かい感じがしていた。
あの低い声の関西弁……。マーメイドはその声の主が誰だかを、瞬時に理解した。
「やはりここやったんか……。」
「……モンキー。」
マーメイドは懐かしそうな目をモンキーと言う男に向けた。
生前お笑い芸人で、機敏な動きとスピード、そして身軽い動きの出来るナイフを武器とした、ナンバリング「]U」軽業師の"モンキー"。
しかし、「その一人は神羅関係の人で、クラウド達も知っている」と言われたストライフ夫妻だが、モンキーの事は神羅関係の人間で見た事がない。どうやら彼ではなさそうだ。
と、マーメイドはモンキーを涙目で睨み付け、感情を込めて怒鳴ってきた。
「ひどいよ……!お墓参りに行くからって、待ち合わせ場所ぐらい、言ってくれたって!」
マーメイドに怒鳴られ、モンキーは後ろずさりながら、手を合わせて謝った。
「ワリィ、ワリィ。言うの忘れとったんや……。」
「でも遅すぎだよ!連絡ぐらいくれたって……。あたし、ニュー・ケネディでずっと待っていたんだよ!待っているうちにお金がなくなって、途中で行き倒れになったんだよ!!」
ある程度文句を言うと、マーメイドはモンキーに近寄り、両手をぶん回して殴った。
「悪い!悪かったよ!」
女の子の殴りは痛くないだろうが、こう見えてもマーメイドはナンバリング「Z」でもグループの中では最強なので、その一発が金槌で殴られたかのように、体中至る所に重い痛みが走っていった。
マーメイドの重い攻撃にモンキーは耐え切れなく、両手を止めて必死に頭を下げた。
「ホンマに悪かった!マーメイドに悪いと思ったんや!」
「……バカ!!」
怒りが収まると、もう知らないとマーメイドはモンキーにそっぽ向いた。
無責任極まりない約束にマーメイドはいじけ、モンキーの表情は後悔の念でいっぱいだった。
と、モンキーの眼に他の2人が映し出された。
当然知らない人間だったが、何処かで見た事がある……
「それより、マーメイド。こいつ等誰や?」
モンキーは見ず知らずのストライフ夫妻に指を指し、いじけて座り込んでいるマーメイドの肩を置いて聞いてみた。
モンキーとは話したくないと誓ったマーメイドも、質問に答えていった。
「この人?クラウドさんとティファさん。ほら、知ってるでしょ!?すっごい有名なゲームのキャラクターの……。」
確かに、この二人はモンキー達が"普通の人間"として生きていた、西暦時代にはファイナル・ファンタジーZというゲームキャラクターとして存在を知られていたが、現実に出てくるなんて有り得ない……モンキーの頭は混乱していった。
「そんな事言うたって分かるかい!ゲームのキャラクターが現実に出て来るはずないんやで!」
「もう現実に出てきているんだけどね……。現に"ヴィンセント"って人にも会ったし、FFZの世界にいるし……。」
「確かにそうやけど……。」
ただのゲームキャラであったはずの"クラウド"と"ティファ"との対面に、モンキーはますます頭を混乱させていった。
と、ティファが頭を抱えるモンキーに声をかけてきた。
「あなたは?」
「俺か?」モンキーはもうどうでもいいとFFZの事を頭に入れず、初めて対面する実在のストライフ夫妻に、自分に指を向けて元気よく答えた。
「俺はソルジャーZ16戦士の一人、ナイフ使いのアキラ……いや、ナンバー「]U」コードネームの「モンキー」や。」
「モンキー?」
「野生の雄叫び、猿飛びサスケのモンキーやで!」
モンキーはそう名乗ったが、外人の2人に"猿飛びサスケ"の意味が分からなかった……
「でもこいつ、何所かで見た事ないか?」
「何所かでって……?」
ティファはモンキーと言う男に着いて、思いあててみた。
「あ――!あの、ゴールドソーサーの人気コメディアン、リマー&モンキーのモンキー!?」
「お前等、知ってんかい!?」
モンキーは驚いた表情を浮かべ、ナチス崩壊後の自分を語った。
「そりゃそうやな……。俺等、コメディアンとして売れているんやからさ……。ナチスが崩壊した後、相方を探して、またお笑いコンビを結成したんや。戦争で失った悲しみをお笑いで癒そうと生前に組んだ奴とやろうと思うてたんやけど、あいつとはも
うソリがあいそうになくてね、それで新しい相方に、「レッドドワーフ」のリマーことクリス・バリーって奴と組んだんや。新しい相方はええで。ハッキリと俺のボケに突っ込んでくれるんや……。」
にっこりとした表情で、自慢げに新しい相方の事を語る……
ある程度、墓地の空気が明るくなっていくと、モンキーはクラウドの方を向いて、ある墓に指を差した。
「そや、クラウドはん。こいつもみときいや。」
「こいつか?」
クラウドはモンキーの言う通りに墓標を読み上げた。
『ナンバリング「U」コードネーム「パラディン」
本名 ジャンヌ・ダルク
生前からの熱心なキリスト教徒で、バロン軍騎士兵団で名を挙げるが、良心に耐え切れず脱走に参加する。レジスタンス活動中にある米兵と恋に落ち、大戦後ニブルヘイムへ移り住み、一人息子を出産したが、その16年後、狂乱したソ
ルジャー1stによる虐殺事件によって死亡。』
クラウドはこの墓に不思議な感情を覚えた。
「この人は……?」
「クラウドのお袋や。あの戦いの後、パラディンはある米兵の故郷へ行って、一緒に暮らしたんや。それから米兵の元に嫁いで、子供も産んだって話しやったが……。」モンキーは墓に近づき、墓標の一部に指差して、クラウドに説明した。「ここに「レ
ジスタンス活動中にある米兵と恋に落ち、大戦後ニブルヘイムへ移り住み、一人息子を出産した」って書いてあるやろ?確か、あの米兵の名前、"ジェイ・ストライフ"っていうニブルヘイム出身の兵士やった……。」
「ニブルヘイムのジェイ・ストライフ?」クラウドはその名前に心当たりがあった。「親父の名前も"ジェイ"で、ニブルヘイム出身だった。そして俺の母さんも"ジャンヌ・ストライフ"だった……。けど、母さんは何時も本名を名乗っていた……。コードネーム
みたいな名前を名乗ったのは一度もなかったが、まさか母さんもその一人だったとは……。」
「お袋さんどうなったか知っておるやろ。パラディンの奴、あの大虐殺の時にセフィロスって奴と戦かったんやけど、しばらく剣を握っておらへんかったせいか、剣に戸惑ってセフィロスにあえなく破れたんや……。」
「そうだったのか……。」
母と村の事を思い出し、クラウドは深く落ち込んでいった。
しかし、その事実に最も衝撃を与えたのは、幼なじみであり妻でもあるティファだった。
夫が人造ソルジャーの腹から生まれた子供で、事実上"普通"の人間ではない事だ。
過去にもセフィロスに「人造人間だ」と告げられた事もあるが、どちらの意味でもクラウドは人造人間である……ティファはその事実を認める事ができなく、ショックのあまり口に出す事さえもできなかった。
その2人にモンキーは真剣な目でその事実を証明させようと、まずクラウドがどんな事になったかを説明した。
「それよりあんた、意識が離れたり、セフィロスって奴に操られたりした事あるんやろ。」
「え!?」クラウドは驚きの表情を見せた。
「ファイナル・ファンタジーZ……というてもあんた等にはわからへんか。生前に流行っていたあるゲームで見た事もあろうて、俺達はあんた等の事全部知っているで。ジェノバ細胞は知っておるんやろ?」
モンキーは賢者のような目つきで、ストライフ夫妻を見つめた。
クラウドは虚を衝かれたような表情を浮かべ、頑な言葉でモンキーの質問に答えた。
「……ああ。」
「マーメイドから聞いたと思うが、俺達やあんたの母親も皆、そのジェノバ細胞を埋め込まれたんや。」
ストライフ夫妻はモンキーの説明に真剣に耳を傾ける……
「……最近知った事なんやが、ジェノバ細胞には強力な再生能力の他にも、レベルによって違うけど、互いに通じ合うテレパシー能力って言うのもあってな、埋め込まれた者同士で互いに思いを通じ合う事もあるんや。あと、その細胞のDNAは遺伝
するみたくてな、その母親のお腹から生まれた子供にも僅かながらジェノバ細胞の能力が遺伝するんや。」
モンキーはクラウドの顔を真剣に見詰め、まずはその始めの段落としてクラウドの経歴を口に出していった。
「で、あんたは確か、神羅軍の経歴はあるんやけど、ソルジャー1stにあこがれて入ったって言うたよな?けど素行上に問題がありすぎて、任務先でも何度か同僚ともめとうて、それでソルジャー1stになれへんで、一卒兵止まりになったんや。」
「何故知っている?」クラウドは不思議に思った。
「だから言うたやろ?俺達はあんたの事、全部知っとるってね。素行が悪い事はゲームにはでておらへんかったけど、それはカパーゾから聞いたんや。」
モンキーはクラウドに近寄り、2人の周りをグルグルと回っていった。
「兵舎学校の間でクラウドはものすごい不良だと言うので評判で、ケンカ問題はもちろん、未成年(バロンでは16から喫煙は許されているが、実世界のドイツでも喫煙年齢が16からである)の喫煙、金品窃盗、上官に対する態度の悪さ……いくら上
げてもきりがないほど前科があろうて、上官の間では危険人物扱いで、ソルジャー1stどころか退学の話まで持ち上がっていた。」
モンキーの話に、ティファはクラウドに軽蔑の眼を向けた。
「……その頃から煙草吸っていたの?しかも物まで盗んで……。」
ティファの軽蔑に、クラウドは焦りながら弁解した。
「……ティファ…、その……いろいろな訳があって……。」
「クラウド、ケンカをしていた事は知ってたけど、窃盗や喫煙までやっていたなんて……クラウドって最低!」
ティファはワルのクラウドにそっぽ向いた。
クラウドもそれで落ち込んでしまい、手で顔を抑えながら、知られたくもない過去をベラベラとばらすモンキーを密かに睨み付けた。
「それでソルジャー1stになれへんかったんやろ。見た目はクールでも結構キレやすいから、ソルジャー1stのチャンスを何度もフイにしたんや。」
ティファは腕を組みながら、首を縦に何度も振ってうなずいた。
「俺はずっと、何でクラウド、ソルジャー1stになれへんかったんやろうと思うてたんやけど、生き返った後に、その"クラウド"のデータをカパーゾにアクセスさせたんや。意外にも気性が荒ろうとはね……。」
モンキーはクラウドの表情を見てみた……
するとクラウドは顔をピクピク動かして、今にもキレると青筋を浮かべていった。
モンキーはこれ以上気を悪くしたらと思い、クラウドの話を打ち切った。
「で、話をジェノバ細胞に戻すが……、確か神羅では、ジェノバ細胞を埋め込まれるのは、ソルジャー1stだけやろ。と言うことは、一卒兵のクラウドには埋め込まれるってことはないんや。そやけど、致命的なダメージがあたっても平気でいられるし、
傷の治りも速ようて、どんな重体もんの傷でも、一晩寝れば全て全開しよる。魔晄を10年浴びとうてもそこまでいかへんし、セフィロスという奴からのテレパシーもうけへんねん。」
ジェノバ細胞の推理に、ストライフ夫妻はその謎に頭を過ぎらせた。
「それなのに、一卒兵のクラウドはんはジェノバ細胞の特徴である、超速復再生能力やテレパシー能力が備わっておる……。」
モンキーはクラウドをじっと見詰める……
「それは何故か……、答はただ一つ。そのジェノバ細胞を埋め込まれた母親の胎内から生を受けたからや!」
モンキーの答に、ストライフ夫妻は驚愕した。
「ソルジャー1stでもあらへんのに、ジェノバ細胞の特徴が見られるのは、その産んだ母親がジェノバ細胞を埋め込まれたソルジャーしか考えられへんのや!」
「……そうだったのか。俺が死にづらい体になったのは、母さんがジェノバ細胞を埋め込まれたソルジャーだったからか……。」
「そうや。今までそんな事知らへんかったから、クラウドはんはセフィロスの言う事をまともに信じて、宝条に作られた人造人間だと思いこんだんや……。しかしそのジェノバ遺伝を利用して、ソルジャー1stになりきるとはな……。」
モンキーの一言に、クラウドは「何故知っているんだ?」とグサっと刺されるような表情を浮かべた。
「けど、幸いな事に、クラウドはんのテレパシー能力が他のより劣っていたんで、ジェノバのリュニオンに参加せえへんかった。テレパシーは脳の前頭葉にまで達するんで、ジェノバはそれを利用して、実験台にリュニオンさせたんや。結局は全員、セ
フィロスに殺されおったんやけどな……。」
モンキーは推理を全て挙げ、ジェノバ細胞の話を打ち切った。
モンキーの明確な推理に、ストライフ夫妻は言葉を失い、驚愕を覚えたと共に明かされた推理に呆然となった。
「そう言えば、あなた達の生き残りって3人いたわよね?」
ティファはこの前の生き残りの話をいきなり持ち出してきた。
「後の一人はなんて名前だ?」
クラウドも再び、そのもう一人の生き残りの事をマーメイドに聞き出した。
その質問に、モンキーもマーメイドも、後一人の生き残りの名前を挙げようとした……
だが、2人は気まずそうに黙り込んでいった。
その"もう一人"はクラウド達も知っている……
マーメイド達はその名前を出すことができない……
その"もう一人"は、おそらくクラウド達に憎しみを持たされている人……
マーメイド達の気分は重くなり、出ようとする言葉も出せずにいた……
4人は黙り込んでいると、入り口からまた誰かが姿を現してきた。
「"私もその一人"って聞いたら?」
マーメイド達は形相を変え、声の聞こえた入口のほうへと振り向いた。
その声に、クラウド達の憎しみがどんどんと高まって行った……
聞き覚えのある声……太股に「]」のイレズミ……。クラウド達もマーメイド達も、この声とイレズミに憎しみと怒りを持っていた。
「……スカーレット……。」
姿を現したのは、三人目の生き残り……兵器の構造に詳しく、鞭を武器とした生前女優の、元神羅カンパニー兵器開発部門統括、ソルジャーZナンバリング「]」の"スカーレット"だった。
「裏切り者が生きていたなんて、ガッカリしたでしょうね……。」
驚きのあまりにモンキー達の口から何の言葉も出てこなかった……
だが、一番因縁を持っているティファは、スカーレットに食って掛かってきた。
「スカーレット!何しに来たの?!」
食って掛かってくるティファに、スカーレットは見下したような目で見上げた。
「ふん、小娘もまだ生きていたとはね。見て分かるでしょ?仲間達のお参りに来たのよ。」
「信じられないわ!自分の権力の為に、一緒に戦ってきた仲間を売ったくせに、いまさら善人面!?」
怒りの感情の抑えれないティファは、スカーレットの胸座を掴み、拳を上げた。
「どうせ死んじゃった仲間達を笑いに来たんでしょ!?ここから出ていって!」
「ティファ、止めんかい!」
モンキーは駆け付け、暴れるティファを押え込んだ。
「俺だってスカーレットの事が許さへんかったんや……。レナルトやハイデッガーなんかと手を組んで、何の罪もないコレルの人達を殺しおったし、こいつはニンジャや仲間達を、あんな金と権力に餓えたブタに売り払ったんねん!」
モンキーの感情の高まった言葉に、ティファは少し正気を取り戻した。
「七番街の時だって、知った時には落ち込んだんや!怒りと失望が心に込み上げたんねん!こんな奴、今すぐにでも殺してやりたいと思うたわ!俺達と一緒にナチスに反抗したくせに、ニンジャから権力を奪おうて、ナチスのクソ野郎みたく人を支配
しおって、のうのうと暮らしおったこいつは許せへんかったんや!」
モンキーの怒りに、スカーレットは顔をかしめ、クラウドやマーメイドからも目をそらした。
「でも、もう神羅もあらへんし、スカーレットもそれまでの罪を意識し始めたんや……。もう憎しみを捨てようで。こんな所で言い争ってもしょうがないんや……。」
落ち着きを取り戻したティファは口を閉ざし、スカーレットに目を背けながらも掴んでいた胸座から手を放した。
「で、後の生き残りは?」
クラウドがそう聞くと、モンキーは無念のこもった声で答えた。
「……マーメイドが言うた通り、生き残りは俺等3人しかおらへん。皆……神羅軍によって殺されたんや!」
思い出すたびにモンキーの怒りは小爆発させていった……
「……やりきれへん話やろ?できれば思い出しとうもないんや……。」
無念や悲しみがモンキー達の心に込み上げ、深く落ち込んだ……
その様子にストライフ夫妻は気まずいと思い、先に墓場を後にしようとした。
「……ちょっと待て。」
ストライフ夫妻は振り向いた。
「もう少し俺等と付き合わへんか?墓参りも終わったし、ここじゃ殺風景なんで場所を変えよう……。」
モンキー達はストライフ夫妻の後を追い、墓場を後にしていった……
場所を変えて、コスタ・デル・ソルのバーへ移動したモンキー達とストライフ夫妻の一行。モンキー達はとある計画をクラウド夫妻に持ち掛けていた。
まずクラウドが、いきなり墓参りに行こうと思ったのか問いだしてみた。
「まず始めに聞くが、何故今ごろになって仲間達の墓参りに?」
モンキーはかたくなにその理由を答えた。
「神羅崩壊直後、俺はスカーレットに会いに行きおって、ミッドガルから数キロ離れた山小屋へむかったんや……。そしたらスカーレットの奴、神羅がなくなったせいか抜け殻になりおって、こっちの話を全く聞こうともせえへんかった。」
モンキーは神羅崩壊後の事を回想していった……
「返事をしたとしても「出ていって!」と追い返すだけやし、俺達とは待ったく会おうともせえへんかったんやけど、俺はそれでも数ヶ月間スカーレットの山小屋に居座って、必死に説得をしたんや。スカーレットの心を開かせるのに結構手間かかった
んやけど、2〜3ヶ月前にようやく説得に応じてくれて、それから罪滅ぼしの為にマーメイドと一緒に墓参りに行こうときめたんや。」
「そうか……。」
ストライフ夫妻は哀れんだような目で、スカーレットを見渡した。
しかし、意地っ張りのせいか、スカーレットはその目に不快を僅かに感じ、目を背けた。
「……フン。ジロジロ見ないでよ……。」
スカーレットは煙草を取り出し、頼んだウィスキーをグラスに注ぎ、一口飲んだ。
「そういや、クラウドはん達、ヤマギシって奴、知っておるか?」
モンキーは話の話題を変え、エブラーナ選挙の話を持ち掛けた。
「ヤマギシ?ああ、ユフィの国、エブラーナ当主選挙候補者の一人だろ?」
「そうや。エブラーナの首都のウータイって所や。」
クラウドは知っている限りのエブラーナ選挙を口に出した。
モンキー達は当然の事、クラウドもその選挙の事を知っていたが、ティファだけがそのヤマギシの事を知らなかった……
「そのヤマギシって人、誰なの?」
「ティファはん、ニュースとか見ておらへんのやな……。さっきいうたやろ。エブラーナの当主選挙候補者の一人やって……。」
「悪かったわね!家事が忙しくてニュース見ている暇がないのよ!」
「ワリィ……。」
モンキーは手を縦に向けて、目を背けた。
と、スカーレットと目が合ったのか、モンキーの耳元にティファの悪口をささやかせた。
「モンキー。この小娘は頭が悪いのよ。話たって理解しやしないわ……。」
しかしその言葉がティファの耳に届き、オレンジジュースの入ったコップを叩き付けて、怒りを表した。
「人の悪口を言うのだけは変わってないわね……。」
「あたしは事実を言っただけだよ……。胸がでかいんだから、その分脳みそも悪いんだよ……。」
「何よそれ!人にケンカを売ってる!?」
ティファは怒鳴り出し、スカーレットも喧嘩腰に入っていった。
「よせ!くだらない事で争うな!」
2人の気まずい雰囲気に、モンキーは割り込んでいき、2人を落ち着かせようと仲裁を試みた。
モンキーが割り込んだ事に2人は落ち着きを取り戻し、食って掛かってきたティファは自分の咳へと戻っていった。
スカーレットの失礼極まりない態度に、モンキーは立ち上がって喝を飛ばした。
「スカーレット!この前何て言うた?憎しみを持ち掛けるなというたんや!ティファはんだって家事が忙しくてニュース見る暇もあらへんし、知らなかった事でいちいち見下すな!」
モンキーの怒鳴り声がバーの中へと響き、客達はその騒ぎに騒然とした……
モンキーに喝を飛ばされたスカーレットは、当然不快を感じていたんだろう……
しかし
「……悪かったよ。つい神羅の時の癖が出て……。」
スカーレットは言い訳もせず、潔く自分の非を認めた。
この様子を見て、ストライフ夫妻は明らかに神羅時代と変わっていると思った。
夫妻の知っているスカーレットだったら、怒鳴ったモンキーと口論になり、それが発展して殺し合いを演じていただろう……潔く自分の非を認めたということは、スカーレットは明らかに変わっている。
「分かったんならそれでええんや。もうケンカ売るなよ……。」
スカーレットが何もしてこないと分かったモンキーは怒りを静め、再び腰を下ろしていった。
スカーレットも今の態度に反省し、ウィスキーを飲みながら、説明を始めた。
「……小娘なんかに教えたくないけど、ヤマギシはエブラーナ当主選挙の候補者の一人で、カリスマの凄さに国民への多大な支持を得ている、ウータイで最も注目するべきの候補者よ。」
ティファはスカーレットに反感を持ちながらも、首を縦に振ってうなずいた。
「でもそいつが当主なんかになりおったら、かなり最悪やで。」
モンキーは気分悪そうに語った。
「どういうこと?」
「古代遺跡の記録を見て分かった事なんやけど……、俺達が死におってから百何年後の日本って国にも、国民の絶大な支持で内閣の権力を得た独裁者や。」
「つまり、そのヤマギシって奴もモンキー達と同じ、古代から生き返った人物だって事だな。」
「そうや。誰が生き返らせたかわからへんけど、ヤマギシってやつだけは絶対に生き返らせてはならない奴なんや。と言うのもヤマギシが内閣だった頃、ゲームや映画の影響による殺人事件が未だに絶えへんかった頃で、政府はその事で頭を悩ま
せておったんや。それでヤマギシは最初、マンガや映画など自主規制法を制定しおったんやけど、「治安がよくならない」と言う理由から、マンガも映画も法律で一切禁止にし、ただ一つ、伝統の娯楽を残して、日本から娯楽を消しおったで……。」
「一つ残して?」
「その残った娯楽ってなんなの?」
ストライフ夫妻は興味深そうに聞き出してみた。
「お笑いや。どんな娯楽がなくなろうと、お笑いだけは絶対に消せへんのや。お笑いは関西人の伝統そのものやから……、どんなことあっても絶対に消せへんのや……。」
モンキーは一言を言う事に、声から無念の涙と怒りが表われていった。
「そしたらヤマギシの奴、お笑いは関西が発端だと、あの関西人迫害までやりおったんや!奴は関西人の事を「お笑いと言う愚行を広め、他民族に悪影響をもたらす劣等民族の寄生虫」と呼び、民族浄化と言うて関西人を絶滅させるつもりやった
んや!それで沢山の関西人がユダヤ人のように強制収容所へ送られ、無念のうちに死んでいった……!!はっきし言うて、俺はヤマギシが嫌いなんや。」
モンキーの無念がティファに伝わったのか、感情を現してヤマギシに怒りをぶつけた。
「それ分かる。私もナチスみたいな偏見的な思想集団、大っキライなの!神羅やヒットラーって聞いただけで虫酸が走る!」
「そいつのおかげで、日本は東西に分かれ、あの忌まわしい第三次世界大戦が起こったのよ……。」
バーの空気は一瞬静寂に包まれた。
「でも、戦争まで引き起こした独裁者の事だろ?いくらなんでもそんな危険な人間は、ユフィの親父だったら間違っても生き返らせたりしないぞ。」
それもそうだ。あの武の精神を持ちあわせているゴドーだったら、ヤマギシみたいな人種差別を正義とした独裁者を生き返らせる事など絶対に有り得ない。そういう疑いがあるだけでも生き返らせたりはしない……
「確かにそうや。今の当主のゴドー・キサラギって人やったら、ヤマギシみたいな独裁者は絶対に生き返らせたりせえへん。」
「でも、現にヤマギシはこうして生き返って、ウータイの選挙に出馬しているわ……。」
「ああ……。」
モンキーは誰がヤマギシを生き返らせたのか、推測を始めた。
と、生き返らせそうな人物を一人、閃いたかのように思い当たった。
「多分、ハイデッガー辺りの奴が、ヤマギシを生き返らせおったんや……。」
「ハイデッガー?」
「マルティン・ハイデッガーって言う思想家の人。元々は神羅の治安維持部門の統括を勤めていたんだけど、その前にはナチスの治安省にいて、私達と同じ死体から生き返った人なの。」
「あいつは生前からナチズムに傾倒していてね、ヒットラーの言われるままにナチスを賛美するような事を書いたんだよ……。」
気分悪そうにスカーレットが言うと、ティファは顔色を変えて聞き出した。
「待って!ハイデッガーって確か、シスターレイの時の戦いで死んだんじゃなかったの!?」
「残念なことに、ハイデッガーもまだ生きているわよ。奴はプラウドクラッドが壊れるずっと前に、私を置いてすぐ逃げたわ……。」
「でもスカーレットとハイデッガー、常に行動を共にするほど仲がよかったんだろ?」
確かにそうである。スカーレットとハイデッガーは常に2人で行動する事が多く、社員やその他の幹部から見れば、仲がよさそうに見える。
しかしスカーレットは、苦虫を潰したような表情で、ハイデッガーに対する本心を打ち明けた。
「あんた達から見れば、私とハイデッガーは仲良さそうに見えるけど、実際はハイデッガーなんて奴、顔を見たら殺してやりたいと思うほど大嫌いだったのよ。名前を聞くだけでも虫酸が走るわ……。」
「どういうこと?」
ティファは再び聞き出してみたが、スカーレットは目をそらし、ウィスキーを飲んで口を閉ざした。
ティファが聞き出した事は答えても何の支障も来さない質問である……。話してもどうって事ないし、別に崩れ落ちてしまうほど落ち込むような質問ではない。それに、スカーレットは神羅時代で思っていた心境を詳しく打ち明けている……。それなの
に、何故スカーレットは答えようとしないのか……
何も答えようとはしないスカーレットに代わって、モンキーがその質問に答えた。
「実を言うと、スカーレットはハイデッガーなんかじゃなく、前々社長やったニンジャの方に恋を抱いておったんやけど……、そのニンジャを殺しおったのが、あのハイデッガーなんや。一番思うてる奴を殺されたスカーレットにとっては、ハイデッガーこ
そが最も憎むべき仇なんや……。」
「じゃあ、スカーレットが想っている相手って、本当はハイデッガーじゃなく、一緒にナチスに立ち向かった仲間の"ニンジャ"って人だったのね……。」
「ふん、もう過去の事だけどね……。」
スカーレットはこんな話忘れてしまおうと、ウィスキーを一気に平らげた。
「でも、そんな風に見えない……。そんなに憎かったら、離れていればよかったじゃない。」
「……小娘には関係ないことだよ。」
スカーレットはウィスキーを並々に注ぎ、再び一気に飲み挙げた。
一方、ウータイ東地区のヤマギシ事務所では、5人の男が在しており、5つの机と一つのテーブルはその活動の役割を果たしていた。
「……今宵の満月は格別に美しいな……。」
中年の男がウィスキーを片手に、空を見上げた。
「このエブラーナもこの満月のように美しく仕上げたいのう……。」
「はあ……。」4人の部下達は首を縦に振ってうなずいた。
そして、男がウィスキーを一口飲むと、グラスを机の上に置き、4人の方へと振り向いた。
「で、エンドウ。国民の支持率は?」
「はい!」ボクサーのように細いからだの男は支持率表を読み上げた。「国民の支持率では、スタニフ・ツキカゲ候補者がダントツ一位で、先生はその2番目に位置しています!」
「スタニフ・ツキカゲか……。」中年男はグラスを再び手に取り、月夜に照らし出された五強の塔をじっと見つめた。
「現当主のゴドー・キサラギの側近で、保守党の党首も努めている、最も期待されている候補者……。」
「はあ……。」
「奴は私の正体に薄々気付いている……。何時も通りに、エンドウを送り込んで密かに暗殺することも不可能ではないが、相手は五強の塔"武の強聖"……。ゴドーの次に強い奴だ。エンドウだったらまともにやっても歯が立たない……。」
中年男は振り返り、一人の部下にじっと眼を向けた。
「よし、仕事だ。ヨネクラ。」
「はっ!!」
オールバックの若い男が席から立ちあがった。
「元ナチスのソルジャーZ、『アーセニック(ヒ素)』と『インシュレンス(保険金)』を呼べ……。」
「……はい!」選挙参謀は携帯を取り出し、「アーセニック」と「インシュレンス」なる2人に暗殺を依頼した。
「ククククク……。失敗に終わった計画遂行の日が近付いてきている……。ユダヤ人、黒人、関西人……。社会に害を与える劣等民族をこの世から抹殺してやるぞ……。私こそが次期当主に相応しいのだ!!!!」
中年男―ヤマギシの高笑いが暗いウータイの夜に響き渡った……