瞳が見つめた世界
光を吸い込み、映す瞳。
とても澄んだ、澄みきった瞳。
美しい景色を映し、優しい人達を映し、世界を映す瞳……。
初めて見たのは母の微笑み、次に見たのは父の笑顔。
優しい空気に包まれて、生を受けた幸せを見せてくれた。
そうして瞳は世界を映す。
一人一人の小さな世界、それでも大きな人の世界。
何気ない風景も、喜びに溢れる光景も、涙に濡れる情景も……。
そうして瞳は世界を映す。
記憶に刻まれる全てのモノ、その時感じた世界を映す瞳。
瞳に映るモノが記憶になる、瞳で映したモノだけが記憶として刻まれる。
例え漆黒の闇の中でも、瞳は絶望の世界を見せた。
それが眩しい光の中でも、瞳は希望の世界を見せた。
忘れ得ぬ記憶、それは忘れることの出来ない瞳の記憶……。
澄んだ両瞳に映し込まれた、生きる世界を見つめた記憶……。
私はあなたに語る。 初めての出会いを、あの給水塔のことを。 ずっとあなたを待っていた事も……。 切っ掛けは何気ない言葉、あなたの言った言葉。 私の心はあの時に戻ってしまいそうだった。 長い長い記憶、私達の旅。 あなたの言葉はそんなことを私に思い出させた。 あなたは、何処か懐かしそうに言ったわ。 また、一つ歳を取ったって……。 その言葉が、私の記憶を溢れさせていく。 私は語る、長い長い旅の記憶を……。
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俺は黙ってお前の話を聞く。 一目惚れの出会いを、心の支えだった約束を。 ずっとお前が待ってくれていたことまで……。 もう夜も更けたというのに、言葉が溢れる。 絶えることなく俺の想い出が溢れ出していく。 永遠のような、一瞬でしかなかった俺達の旅。 俺の言葉はそんなことを自分達に思い出させた。 何かを思って言ったわけじゃない。 ただ、時の流れに懐かしく思った……。 だから、こうしてお前の話を聞いている。 俺は黙って頷く、お前が見た世界の記憶に……。
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「ミッドガルでのあなたとの再会。」 それに私がどれほど嬉しく思ったことか。 「私ね、本当に嬉しかったの。」 あなたとまた会えて、約束を覚えていてくれて。 「これからはずっと一緒だって思って。」 まだあなたを好きだって、そんな自覚はなかった。 だけど、一緒にいられるだけで嬉しかった。 ずっと離れ離れだったから……。 大切な約束を覚えていてくれたから……。 「私は嬉しかったの。」 でも、わからなかった……。 本当に私の待っていた人なのかを……。 あなたがあなたであることには変わりない。 だから、無理にでもそう信じ込んでいたわ。 「女だてらに一人でバーを経営して。」 「アバランチのメンバーとして戦って。」 「あの頃、私はずっと一人だったから……。」 私、再会した頃からあなたに頼っていたの。 一人で立てなくなって、弱い自分を思い出した。 「今思うと、本当に私は弱かった。」 「もしも私があなたに真実を告げていれば……。」 そう、もしもそれが出来ていれば彼女は……。 「ありがとう、クラウド。」 「でも、これだけはどうしても駄目なの……。」 「だって、彼女がいなくなったのは私の……。」 だから、後悔を忘れたり出来ない。 忘れたりなんかしちゃいけない。 「初めて出会ったエアリスは、綺麗で優しそうで。」 とても笑顔の素敵な人だった……。 「すぐに親友になれたわ、私の最高の親友に。」 今でもそうよ、私の最高の親友。 「ふふっ、いろんな事を話したなぁ……。」 「洋服やお化粧の話、食べ物やお花のことも。」 「それにね、大好きな男の人の話も……。」 いっぱいお話したわよね、エアリス。 「もちろんあなたのことよ?」 「エアリス、すごく大胆に好きだって話すの。」 「私、そんな彼女が羨ましかったなぁ。」 素直に気持ちを伝えられる彼女。 そんなエアリスに憧れてた。 「私ね、よく嫉妬しちゃって……。」 「ちょっとした意地悪を言ったりするの。」 「だけど、彼女はいつもこう言うのよ。」 『クラウドのこと大好きなんだもん!』 「それで、好きなら好きって言わなきゃって。」 「そう言われちゃうの。ふふっ、懐かしい。」 いつもそうして、私に教えてくれた。 自分の気持ちは伝えないと駄目だって。 絶対に、伝えないといけないんだって。 「今ならちゃんと言えるのにね。」 「誰よりも、あなたのことが好きだって……。」 今はちゃんと言えるようになったよ、エアリス。 「そんな時のエアリスはすごく子供っぽく見えて。」 「まるで純真で無垢な少女みたいだったわ。」 屈託のない笑顔、優しい気持ち。 今でも忘れたりなんてしてないよ、エアリスのこと。 「うふふっ、嬉しいでしょ?」 「すっごくエアリスに愛されてて。」 ふふっ、優柔不断な所は相変わらずなんだから。 「大切な親友で、恋のライバル。」 「だけど、エアリスのこと大好きだったのよ。」 「ずっと友達でいようねって。そしたら……。」 『うん! でも、クラウドのことで遠慮はしないわよ。』 『将来、どっちがクラウドのお嫁さんになっても…。』 「それで、突然真剣な表情をして言うの。」 『ずっと、ずっと親友だからね……。』 「無邪気な妹みたいで、優しいお姉さんのようで。」 「私の心の中の、とても大切な存在……。」 同じ人を愛した、私の大好きな親友。 そして、もう一人の私……。 エアリスはずっとここにいるよ。 ずっと、いつまでも私達の心の中に。 「楽しかったな、みんな一緒だった時は。」 「あなたがいて、エアリスがいて……。」 エアリスと一緒だった時間、永遠に覚えている。 「世界中を旅したわ。」 「ねぇ、どんな所に行ったか…覚えてる……?」
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語る彼女は何処か儚げで。 寂しそうな光を称えた瞳を見せる。 嬉しかった、と言う彼女。 だが、俺にはそんな彼女が寂しそうに見えた。 彼女は儚げでも笑みを見せてくれる。 俺の心を締め付けるくらいに……。 テーブルに置かれた二つのティーカップ。 それを黙って見つめる彼女は何を思う? きっと、あの頃の……。 彼女は誰かに言い訳をするように話した。 テーブルに置かれた紅茶を手にとって……。 彼女がそっと口に含む。 悲しそうな表情をしていた。 一瞬、また俺のために微笑んでくれる彼女。 そうして微笑みながら、俺を気遣ってくれた。 彼女を心配する俺と、昔を蔑むような俺を……。 彼女の話す孤独、それは俺もずっと感じていた。 そして、何かが違うとも……。 本当の俺を彼女に救って貰うまで、ずっと……。 弱いのは俺の方だ、自分に負けた俺の方なんだ。 彼女の告げた言葉。でも、それは違う。 「エアリスの死はお前の所為なんかじゃない!」 俺は違うと声を大にして叫んだ。 だが、彼女の涙が止まることはなかった。 俺の指で彼女の涙を拭いて……。 それでもまた溢れてくる涙だけはどうしようもない。 頼むから、もう泣かないで欲しい。ティファ。 そう話す彼女の涙化粧に隠れた表情が変わった。 少しだけ明るく。それは、きっとエアリスの……。 涙はいつの間にか止まっていた。 嬉しそうに語る顔は、エアリスの隣にあった笑顔。 毎日、俺に見せてくれる微笑み。 そう、そうだったな。本当に悲しくて忘れていた。 エアリスの想い出は悲しいことばかりじゃないんだ。 思い出したよ、エアリスとの幸せな記憶を…… 突然、悪戯っぽい笑顔で言われた。 話の内容は嬉しいやら恥ずかしいやら。 でも、温かい空気が感じられた。 彼女の顔には穏やかな笑みが見える。 きっと、俺も同じ表情をしていることだろう。 彼女の話に思い出す。大切な記憶の風景を。 微笑んでいるエアリスが、俺の記憶に甦る。 花のような笑顔で、俺を見つめてくれていた。 『クラウドのこと大好きなんだもん!』 笑顔のエアリスが…いや、ティファが言った。 懐かしい、その言葉の意味を改めて噛み締める。 言葉で言えば簡単で、何気ない会話の一部。 だけど、こんなに優しくて心を潤す言葉はない。 たくさんの記憶、過去。それを忘れない言葉。 「ああ、そうだな。俺ももう言葉に出来る。」 「俺もお前を、ティファを愛している。」 懐かしい過去があるから、幸せな今がある。 彼女の話す懐かしい過去、俺も見た過去。 エアリスがいてくれたから、今の俺があるんだ。 脳裏に浮かぶ柔らかいエアリスの微笑み。 ずっと覚えているよ、いつまでも永遠に……。 「えっ、嬉しいって何が?」 「…………ノーコメントだ。」 どうにも分が悪い。何と答えて良いものか……。 そんな幸せな会話の中で不意に気付いた。 エアリスの話をしても、楽しい気持ちでいられる。 彼女は満面の笑みのまま、話を続けていた。 『うん! でも、クラウドのことで遠慮はしないわよ。』 『将来、私がクラウドのお嫁さんになっても……。』 楽しげに語るティファと、記憶の中のエアリス。 『ずっと、ずっと親友だからね……。』 かつて、そう語った二人。俺の知らない過去。 それでも、知ることが出来た記憶にないエアリス。 その姿は、俺の知る彼女とよく似ていた。 ティファの記憶の中でも、彼女は生きているんだ。 もちろん俺の記憶の中でも、心の中でも……。 ずっと、永遠の時を超えて俺達の心の中に。 夜ももう随分と更けてきた。 だが、俺達の想い出は止まることなく溢れ続ける。 エアリスと一緒にいた時間、消えることなんてない。 語る彼女の瞳を真っ直ぐに見ながら……。 今度は俺が、ゆっくり想い出の欠片を集め始めた。
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「ミッドガルから南にカーム、ジュノン。」 「海を渡ってコスタ・デル・ソル、コレル。」 「ゴールドソーサーから西にニブルヘイム。」 「ロケット村に着いてからは海路だったな。」 本当にいろんな場所へ行った。 海を越えて、空を駆けて、世界中に。 「偽りの俺だったけど、確かに俺はそこにいた。」 嘘の自分、偽物の自分、俺じゃない自分。 だけど、それでも俺は覚えている。 みんなと共に戦った、あの日々を……。 この両目で見つめた、あの世界を……。 「いろんな所へ行って、いろんな事と戦った。」 敵とだけじゃない。自分達の何かと戦った。 自分の中の、とても複雑な何かと……。 「バレットの悲しく辛い過去。」 「レッド]Vのすれ違った親子の絆。」 「ユフィの気持ち、父親との確執。」 「シドが長年抱いた宇宙への夢。」 「ヴィンセントの救えなかった大切なモノ。」 そう。仲間達もみんな、何かと戦っていた。 逃げ出したのは俺一人だけで……。 エアリスだって、押し付けられた運命と……。 ティファだって、悪夢のような現実と……。 「あの旅で、きっとそれぞれに掴んだと思う。」 「戦う理由、守る理由、生きる理由。」 「一人一人じゃ、わからなかった。」 「だけど、仲間がいたから……。」 俺も、やっとそれに気付くことが出来たんだ。 俺の戦う意味と、守りたい存在。 そして、俺の生きていく夢を……。 「あっ、もうなくなっていたのか。」 「どうする? もう夜も遅い。」 「……わかった、もう少しだけな。」 カチャッ。 「ありがとう、美味しいよ。」 「ほら、今度はお前の番。」 「……さてと、何を話そうか?」
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彼がゆっくりと話し始める。 何処か遠くを見るような瞳で……。 聞こえてくるのは地名ばかり。 だけど、私にはそんな所が彼らしく思えた。 たくさんの地名が結びつける過去の記憶。 きっと彼にも、あの日々が見えているはず。 悲しい事を口にする彼。それは自分への贖罪。 でも、もうそんな想いはして欲しくない。 だって、あなたは覚えているから。 大切な記憶を、仲間との想い出を……。 その瞳で見つめた世界を……。 彼はまた、ゆっくりと話し始める。 万感の想いを込めて、私達の想い出を。 仲間達と過ごした、時間の軌跡を……。 みんなそれぞれに、心の闇を持っていた。 でも、それまでは逃げてばかりだった。 とても一人では立ち向かえないから。 立ち向かうだけの勇気がなかったから。 勇気がなくて、ただ逃げていただけ。 そして、心の闇に脅えてばかりだった。 あなたと出会うまでは……。 あなたとの出会いが、みんなに決意させた。 自分と向き合うことを、もう逃げないことを……。 彼の強い光を称えた瞳が私を捉える。 その一言一言が、力強くて温かい。 力強くて温かくて、私の心を締め付ける。 切なく、優しく締め付ける。 彼を愛して良かったと……。 彼と出会えて良かったと……。 不意に彼がティーカップを口に運ぶ。 その事実に、照れたような表情で微笑んだ。 私の返答は言葉ではなく行動で示す。 熱い紅茶をいっぱいに彼のカップへ注いだ。 カチャッ。 彼は微笑んで、そう言ってくれた。 そして、私のカップにも紅茶を注いでくれる。 優しい瞳は、ジッと私を見ていてくれた。
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俺はお前に語った。 その後の旅の想い出を、俺が感じた様々な事を。 そして、この瞳が見つめてきた世界を……。 俺が見た世界なんて、それは真実の側面だ。 でも、それが俺の感じた世界。 たくさんの顔があった。 仲間達の微笑みを見た。 エアリスの、ティファの微笑みを感じた。 これからも、俺はこの両目で見つめていくだろう。 自分の生きる世界を、彼女の生きる世界を。 二人が生き続ける世界を……。
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私は黙ってあなたの話を聞いた。 一緒に旅した想い出を、あなたの感じた気持ちを。 そして、あなたという人間の世界そのものを……。 同じモノが見えるなんてことはありえない。 でも、分かり合うことは出来るかも知れない。 この瞳で見つめた世界と……。 彼の瞳が見つめた世界とが……。 叶うことなら、同じ世界を見続けられるよう……。 これからも、私はこの両目で見つめていくだろう。 自分の生きている世界を、彼の生きている世界を。 二人が生き続ける世界を……。
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光が反射して網膜に焼き付けたモノ
物体に反射してその形を電波信号に変換し、それを脳が読み取り映像化したモノ
それが目に見えるモノ
でも、本当の意味で目に見えるモノは違う
その虚像の世界で、心に残ったモノが見えたモノ
世界は一つ、けれども見えた世界は人の数だけ
見える世界と見えた世界
そして、見えた世界は記憶になる
心に残る懐かしい想い出として、心に残る永久の記憶として
思い出せば、それは……
瞳が見つめた世界
後書き
作者の鳥の翁です。
この度はTOMOさんのHP、25000hitおめでとう御座います。
何か御祝いが出来ればと思いまして、このお話をお送りさせて戴きました。
今回は「懐かしい想い出」をテーマに作ったのですが、御覧戴ければ御理解下さいます通り、大変テーマの
薄すぎる内容となってしまっております。
特定に何かを取り上げてしまう事が難しかったので、何度試行錯誤してもこれ以上は出来ませんでした。
タイトルの通り二人がそれぞれに見つめた世界を書いたのですが、少しでもわかって戴ければ嬉しく思います。