想い出にかわる時
窓の向こうには廃墟と化した魔晄炉が、更に奥には寒々しい森と大海が闇の中にたたずみひしめき合う。
この魔晄炉と共存することを拒み自然と共に生きるようとする人々をよそ目に、それは古くなりつつもその時代の痕跡を残すのだった。
「ねぇ・・ティファ・・ねぇってば・・起きて・・」
「う、うん?・・エアリス?・・だってまだ・・こんな時間・・」
そんな窓を見上げながら、まどろみながらもベットの温もりに心地よさを感じるティファ。
暖色の灯火にそっとエアリスを映し出す。
「どうしたの?エアリス。ずっと窓の方向いちゃって」
ベットの温もりをよそにティファもエアリスの隣で窓を見下ろす。
「うん・・。私ね、クラウド達と旅ができて本当に良かったと思うの。こんなにたくさんの仲間ができたし、私のこと知ってくれた。
とっても嬉しい・・。それに何よりも自分のこと少しずつ分かってきたの。自分の使命っていうか・・。」
「・・・・。」
エアリスは奥深い森林や大海原よりももっと先を見つめているようだった。
誰にも分からない未来、それを彼女は見通しているかのように。
「あ・・起こしちゃってごめんね。なんか眠れなかったし、ティファとちょっとお話したかったから。」
「ううん。全然構わないよ。私もエアリスといろんな事話したかったしね。」
今度はベットに向き合って座る2人を映しだす灯り。暖かい灯火は2人を和ませるちょっとした緩和の役割を果たしていた。
「ザックスの生まれ故郷はここなんだよね。」
エアリスが微笑みを浮かべて言った。その表情は優美で、愛しい人を思いだし過去を振り返っているようだった。
そんなエアリスを見て、ティファはザックスの親が言っていた手紙の事を思い出した。
『・・彼女ができました・・』
だが、すぐにザックスという名前に5年前のニブルヘイムを思い出す。
あのけたましく燃え広がる炎の中に古郷が消えていく。そして、セフィロスともう1人のソルジャー。
ティファはザックスという響きに鼓動が速くなる、そんな気がした。
「・・ザックスは私の初恋の人だったの。」
「えっ、そうなの?」
「ふふっ、もう何年前になるかなー。出会いはささいな事だったのに、いつの間にか彼のことが好きだった・・。
ザックスはね、私にとって本当にかけがえのない人だったのよ。いつも悩みを聞いてくれて・・いつも私のこと励ましてくれた。
そうやって彼の事を少しずつ分かっていくうちに、私もいつかザックスの支えになりたいってそう思うようになったの。」
自分にとってかけがえなのない人・・そんな風に言えるエアリスを羨ましくも思い、また、エアリスにそのように慕われていたザックスも羨ましく思えた。
『私にとってかけがえのない大切な人・・それは・・・』
少しうつむき、小声になりつつもエアリスは話を続けた。
「・・・ザックスとはもう5年間連絡がとれないの。ホントはね、とっても心配。何しているのかな?ちゃんとごはん食べているのかな?
他の女の子と遊んでいるのかな?なーんて、いろいろ考えちゃう。最後に会ったのは5年も前のこと。でもね、彼のこととても鮮明に覚えているの。
細かい仕草や癖までね。クラウドに初めてあった時、ちょっとびっくりしちゃった。どこかザックスと似ているの。私の知ってるザックスに・・。
なんでかな・・本当は違うのにどこか彼の面影をクラウドに重ねちゃっていたのよね。」
「・・・。」
ザックスに会えない辛さや不安、そんなエアリスの想いをティファは痛感し、言葉少なげになっていた。
そんな彼女がいつも笑顔を絶やさずに旅を共にしてきた仲間ということを、心から誇らしく思えた。
闇の中に揺れる灯りの中にもザックスを見ているのかな・・それともクラウド?
ふとティファはそんな言葉が頭をよぎり、更に、今までエアリスはクラウドの中にザックスを見ていた、でも今は違う。
今のエアリスはクラウド自身を受けとめている!そう確信した。
「ティファはクラウドとまた会えた時は嬉しかった?」
「えっ?!私・・・私は・・うん・・嬉しかったけど・・・」
そう、ティファは再開したときから持ち続けているクラウドへの不安を隠しきれずにいた。
『クラウドは・・本当にニブルヘイムのクラウドなの・・?』
外は闇。大きくうねりを繰り返す波の音とそこに吹く風の音で、さっきまでの静寂さとは反対に、村はまるで何かおぞましいものでも抱え込んでいるかのようだった。
そんな彼女たちの会話を、風と共に闇に連れ去っていく。
エアリスは何かに怯える表情に優しい面立ちで向き合い、ティファの両肩に手を置いた。
そしてじっと瞳を見つめながらゆっくりと言葉を発した。
「ティファ・・・・あなたしかいないの。クラウドを、本当のクラウドを見つけられるのは。
きっと私には見つけられない・・たとえ私がクラウドのことを愛しても・・。」
「 ? えっ・・?」
ティファはエアリスの意外な言葉を耳にして、呆然と目を見開いて首を傾げていた。
『本当のクラウド?・・愛していても・・?やっぱりエアリスは・・』
いつの日か、エアリスにクラウドへの想いを聞きたいと思っていたのに、あまりにも突然に言明されてしまい、エアリスの言葉に動揺を隠せない。
ティファの両肩にさしのべられている手が、微妙に力が入るのを感じとりティファの視線が肩先に動く。
「・・・。ティファが信じてあげなきゃクラウドは誰を信じるの?あなたの一言一行が彼の本当の姿へ導いていけるの。
辛いことも受けとめる強さを持って、正面からぶつかってみて。希望を持って進めば道は必ず切り開くのよ。そこでティファもクラウドも真実に出会えるから。
ティファの知っているクラウドに・・出会えるから・・。クラウドを信じてあげて・・。彼を受けとめてあげて・・・」
「エアリス・・」
そんなエアリスの言葉が今の彼女に何を意味しているのか知る由もなく、ただ、勇気を持って真実を見つめようと、辛い過去にも目をそらさずに向き合おうと固く決心するのであった。
いつの間にかエアリスの手は肩から離れ、涙混じりの瞳をぬぐっていた。
その手を握りしめ、涙で頬をぬらしながら彼女は言った。
「ありがとう、エアリス。エアリスの言葉で勇気づけられたよ。私、頑張るから。過去に正直に向き合うから。私が力になってみせるね。私がクラウドの支えに・・・。」
「本当のクラウドを見つけてあげてね」
『クラウドを守ってあげて・・。私は星を守ってみせるから。』
エアリスは今までうつむいていた頭をあげて微笑みを見せた。それはいつも、そして誰にでも見せてくれる満面な笑顔であった。
ティファもそれに答えるような笑顔を見せた。
「エアリス・・私エアリスと知り合うことができて本当に良かった。私達いつまでも友達でいようね。」
「えぇ。・・・私のこと忘れないでね・・・」
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「ティファ・・おい・・もう起きた方が・・・」
「う、うん?・・エアリス?・・だってまだ・・こんな時間・・」
ベットの温もりは至福の時を約束してくれた。頬にふれているクラウドの暖かい手がいっそう心地よさを際だたせる。
「・・クラウド?!あれっ???夢・・・・・?」
「どうしたんだ?」
ベットの傍らにクラウドが腰掛けながら、まだまどろみの渦中にいるティファの顔をのぞき込んでいた。
「うん。エアリスの夢を見たの。」
「エアリスの?へぇ、どんな夢だった?」
「私のこと忘れないで・・・って最後に言ってた。それに・・・」
ティファは夢の内容を事細かにクラウドに伝えた。
「ふ〜ん・・なぁ、それって現実にあったことなのか?」
「ふふ・・どうかな?クラウドには、な・い・しょ。夢かも知れないし、あの時本当にエアリスと話したことかも知れないし・・・。教えないよーだ。」
そんな無邪気な一面をのぞかせるティファに、クラウドの口元がほころぶ。
「ねぇ、クラウド。一つ聞いていい?」
「うん?」
「私がいて良かった?」
「何言っているんだ・・」
「ねぇってば!!」
「当たり前だろ!・・ティファがいなかったら・・・俺は・・。
・・・・。考えられないな、そんなこと。だいたい俺がソルジャーになるって決めたのも、もとはと言えば・・・」
『こんな事を聞けたのもエアリスの夢を見たからなのかな?。普段は聞けないことも素直に聞けることができてしまう・・。そんな不思議なエアリスの夢。』
まぶしい光が窓を貫き2人を照らし出す。そんな光を浴びながら2人はエアリスの想いを再び想いめぐらした。
「エアリスは星を守ったんだよな・・・もしかしたらエアリスは自分の運命をそのまま受けいれたのかもしれないな。」
「そうね。・・・でも私、エアリスは戻ってくるって信じていたよ。たとえそれが運命だったとしても。きっと私達のところに、クラウドのところに帰ってくるって。
エアリスはね、現実をしっかり受けとめて未来に希望を持つことを教えてくれた。だからね、
今こうしてクラウドと一緒にいることができるんだと思うの。」
突然クラウドが目の前の窓を全開に開き、2人は並んで風光明媚な外を眺めながら大きく息を吸い込んだ。
ティファの艶やかな長い黒髪も、窓から入ってきたさわやかな風と共に舞っている。
心地よい風と直射するまぶしすぎるほどの光が交錯し、そこにエアリスのあの笑顔が舞い降りてきたようだった。
「俺達の未来は、きっと・・・」
「きっと?」
「幸せな未来が待っているさ。」
ティファの肩をそっと抱き寄せ、窓の向こうの未来に自分の運命を託していた。
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あとがき
ここまで読んで下さった皆様本当にお疲れさまです♪
クラウド脇役になっちゃた〜。だから最後には彼の言葉で締めくくらせて頂きました。
クラウドがティファに聞いていた「これは現実にあったのか?」という質問ですが、これは 皆様の想像にお任せします。それと、クラウドとティファがいた場所や2人がいつこの会話 をしているのか、セフィロスと戦う前なのか、それともずっと後のことなのか?これも想像 にお任せします。(^^;)
感想を聞くのがコワイです・・。
城乃でした。O(*^^*)o