この小説は2002年12月28日に発表された作品です 

クロコダイルダンディー

 これは、クロコダイルが王家七部海を含むの全ての特権を剥奪され、海軍本部地下深くにある特一級犯罪者専用の監獄に投獄されていた時、訪問者と面会した時の会話を、そこにいた看守が後に証言したものを基に再現したものである。

         *         *         *

 その日も彼…クロコダイルは、いつもと同様に食事をし、監獄の天井の一点を見つめながら、いつ下されるかも知れない処刑の日を待っていた。
 私はそれを見つつも、ひたすら交代の時間を待っていたのだが、その時地上に繋がる階段を、誰かが降りてくる音が聞こえた。その男の名前は…『鷹の目のミホーク』。
 言わずと知れ王家七部海の一人だ。
 対面して判るのだが、彼は何ともいえない威圧感があった。投獄されているクロコダイルもそうなのだが、修羅場をくぐり抜けて来た者というのは、そういうオーラを持つもつのだろう。

「鷹の目のミホークさん…ですか?」
 私は恐る恐る聞いてみた。

「いかにもミホークだが…何か?」
「いえ、こんな所に何の用かと…」
「用事で海軍本部に来たのだが、ついでにそこにいるクロコダイルと話がしたくてな。もちろん、本部に許可は申請した」
 ミホークはそう言うと、クロコダイルとの面会を許可した証文を私に差し出した。
 私には拒む理由が無いので、彼を牢獄の中に入れた後再び鍵を閉め、流し目と聞き耳だけは立てながら、表向きはいつものように看守としての仕事に努めた。
 最初に口を開いたのはクロコダイルの方だった。

「よお…久しぶりだなぁ…いつ以来だ?」
「さぁ、忘れてしまう位昔…だろうな」
「ふふ、まぁいいだろう。…で、こんな俺に何の用だ?笑いにでも来たのか?」
 クロコダイルは、あぐらを組みながら右手を顎に当てて、ニヤリと笑いながら言った。

「…昔の友に会いに来た。それだけだ」
 その言葉に、クロコダイルは嬉しそうな…懐かしそうな表情をしながら答えた。

「ふふっ…友…か。そんな時代も確かにあったな…。お互い七部海に選ばれる前の事…だ」
「お前も俺も、まだ怖い者知らずの若造だったな」
「俺達より強いヤツなんていないと思ってたっけなぁ…」
「そうだな…」
「あの時は色々なヤツがいたが、俺とお前は性格ばかりか考え方までもが正反対だったが、不思議と気があって、よく酒場に飲みに行ったっけ」
 クロコダイルは、懐かしそうに言った。

「俺は酒を飲むのが好きだったが、お前は女を口説くのが好きだったな。お前はよく他の客と揉めて暴れたものだった」
「その割には、よく加勢してくれたっけなぁ…逃げても良かったんだぜ」
「一緒に酒場に入った時点で諦めてたよ」
「お前も、負けん気が強いからなぁ…」
「良い時代だったよ。お前とは極める道が違ったので、ある時期から別々な道を歩む事になったが、それでも心のどこかでは気にはしていた。しかし…お前ともあろう者が何故七部海の特権を棒に振るようなバカな事をしたのだ?」
「棒に振った?バカな事をしただと?そっちこそバカ言っちゃいけねぇぜ。俺は一度たりとも七部海に入りたいと思った事はないし、入らせてくれと言った事も無い。あれはヤツらが勝手に決めた事だぜ。それになぁ、俺は今の今までずっと自分のやりたいように生きてきただけさ。お前らの様に世界政府の傘の下で安穏と暮らすという事は出来ないのさ…。俺はどこまでいっても海賊…ただそれだけの事よ」
 そう言うと、クロコダイルはゴロンと横になって話を続けた。

「しかし、麦わらの一味は強いぜ。ヤツらは戦いの中で成長していきやがった。…正直俺でさえ羨ましいとさえ思ったね。しかし、ヤツらのお陰で数年かけて綿密に計画したアラバスタの乗っ取り計画が、潰されてしまうとはな…。あいつさえ現れなければ…上手くいった筈だったのによぉ…」

「ふふっ、お前ともあろう者が…後悔してるのか?」
「そんなもんはしねぇよ。俺は、俺の持てる力の全てを出し切って、あの麦わらの野郎と闘って負けたんだ。俺がヤツより弱かったって事さ。悔しいが、それだけは認めなきゃならんだろう?」
「成る程…」
 ミホークはそう言うと、クロコダイルの前に座り葉巻を一本差し出した。

「お前の好きなヤツだ。もちろんこれも許可は取ってある」
「おおっ、こりゃすまねぇな。ここに来て以来、一本も吸わせて貰えねぇからな…」
 クロコダイルは、感謝しながらミホークに火を着けて貰っていた。
 その後、しばらくの間二人は何事も話さないまま時間だけが過ぎていった。二人の間には、言葉がいらない程通じ合えるものが有るようだが、私にはそこまで二人の事を理解するだけの知識は当然ながら持ち合わせてはいなかった。
 やがてクロコダイルがタバコを吸い終わりそうになった頃、ミホークの方からポツリと話し始めた。

「そう言えば…お前が人を信じない冷酷な人間になったのは、その左手をやられてからだったな。それ以前のお前は、仲間からの信頼も熱く、強さと慈悲に溢れる海賊の見本の様な人間だった」
 懐かしそうに昔を語るミホークに対して、クロコダイルは半ば呆れながら、しかしやはりどこか懐かしそうに答えた。

「ふん、そんな昔の話なんざ忘れちまったよ。俺は左手を失った代わりに、弱いヤツの限界ってのを嫌という程悟ったのさ。そして誰も信じられなくなって一人っきりになった時、俺は悪魔の実を食って得た能力を基に、焦らず、確実に、そして自分のこの『頭』を武器にして成り上がる事にした。それがお前と揉める原因になったし…そんでその結果がこのザマだが…悔いなんかありゃしねぇよ。ホント、いい人生だったぜ」
 その言葉に、ミホークは多少笑いながら言い返した。

「はははっ、人生を閉めるにはまだ早いだろう?」
「さぁな…」
「まぁいい…お前の事だ。このままおとなしく処刑される筈は無いと、私は思ってるがね…」
「…俺を買いかぶってくれてありがとよ」
「なぁに、一瞬とは言え、昔同じ道を歩いた仲間だ。期待して待ってるさ」
「そうか…ならその時は、真っ先にお前を捜して、この顔の傷のお返しをさせて貰うことにするぜ」
「ああっ、期待して待ってるよ。はははははっ…」
 ミホークはそう言うとスックと立ち上がり、 牢屋の出入り口へと向かって来たので、私は慌てて鍵を開けると、彼は一礼した後無言のまま階段を昇って行った。
 私は無事に事が終わったので安堵の表情を浮かべていたのだが、その時クロコダイルが私に向かって話しかけてきた。

「おい…兄ちゃん」
「はいっ!」
 私は緊張しながら答えた。

「今の会話…聞いてたか?」
「…はい…聞くまいと思いながら…聞いてしまいました」
「ふふっ…正直だな。確かに海軍にいるにはそれで正解だが、こんな世の中だ。利用されて早死にしないように気を付けるんだな。…はははっ!!」
 私はその言葉には返答しなかったが、しばらくしてから恐る恐る牢獄の方を見ると、彼は横になりながら再び天井の一点を見つめていた。
 その後、私は交代の時間が来てその場を後にし、人事異動で二度と彼の牢獄の看守を務めることは無かったが、今でもあの時の会話は鮮明に思い出すことが出来る。
 偉大な男達の、つかの間の会話を…。

         *         *         *

 これを語ってくれた元看守は、この取材後に軍艦乗りに転属となり、レッドライン海域にて消息不明となった。
 尚、クロコダイルのその後の処遇についてなのだが、海軍本部から提出された記録に処刑の日時は記録されておらず、その事に対する明確な回答が今現在得られていない事を付け加えておく。

                     〜 了 〜


題名:クロコダイルダンディー
公開:2002年12月28日
同人誌「ニコ・ロビンに花束を!」内に収録

解説

 長い間封印状態だったお話を公開します。当時(2002年)は、クロコダイルの再登場なんてものは誰も考えてなかったと思いますので、このような話が浮かんだ次第です。

 ニコ・ロビンの話も、私が書いた時はまだ過去の話が出てなかった時ですし、色々と想像力を膨らませて楽しく書く事が出来ました。でも、今ではその辺を原作の方で残らずやられてしまいました。これは嬉しい事ではあるのですが、その反面、私が想像力を膨らませて書く事が無くなってしまったのは残念と言えば残念です。でも、よく続いてるよなぁ...。

 そんな訳で、この話は原作を通して見た後では矛盾してる所もあるのですが、218話(たぶん2002年頃)位までの話の時点での展開から想像して頂ければ、それなりに読める作品ではないかと思ってます。

 あと、悪役の話を書くってのは、割と好きなんですよね。だって、アニメって正義側?の視点から見た表現の仕方ばかりですから...。最近は商業誌も同人誌のレベルまで下げてきましたから、そういう敵側の視点での話を書いたり(描いたり)もしますが、Zガンダムで言えば、ジャミトフやバスク、ジャマイカン辺りのキャラの話を書いて「悪役列伝!」というタイトルで発表してみたいとは思ってましたけど...ね。

 余談ですが、ボトムズのカン・ユー大尉本、ダグラムのデスタン本は私と同じ様な考え方(と思われる)を持った人々によって世に出てます。(他にはライダーマン本とかもあったりする)こういう本を作る人がコミケにいる限り、私は出来るだけ参加して、そういう本を発掘していきたいなぁ...と思ってる次第だったりします。



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