如月辰巳的な小説の書き方

世の中小説を書く方がいれば
その人数分だけ方法があります。

私が小説という媒体を初めて意識したのは
(読んだと言うのでは無く「こういう感じの文章がいいなぁ...」と思ったきっかけ)
氷室冴子」先生の「雑居時代」を読んだ時だと思います。
その時は、なぜか表題に惹かれて前知識も無く買ってしまったのですが
それが今まで続く私の(小説書きの)基礎となるとは思いませんでした。

コバルト文庫の小説ですから世間一般のお堅い小説では無く
今で言う「ラノベ」的な小説なのですが当時の私にはとっても新鮮に感じました。

それまで私が読んでいた小説はキャラクターは当然登場しますが
場所の説明や客観的な描写が多く
キャラの会話よりも「ト書き」の部分が多く
確かに面白い事は面白いのですが読むのに非常に時間がかかるのと
軽く読み流す事は難しい感じの小説が多かったと思います。

また、文章が割とかしこまっていたりと
料理で言えばそれなりのお店でマナーを守って食べる料理という感じでした。

で、氷室先生の小説はというと
会話がかなり多い上に話のテンポが良く
キャラとキャラの掛け合いがメインで、状況説明は最小限に抑えている感じだったと思います。
(注:ドラマでは無くそれの遙か昔に出版された本を記憶を頼りに思い出しながら書いています)

とは言えその本を読んでから「うる星やつら」の小説を書くまでは
更に8年の歳月がかかってます。

その間「ファイナル・アプローチ」という話を書いたのですが
その時はまだ私なりの書き方が確立しておらず
後から思えば禁則の手を使ったりしていたりと良く言えば発展途上の作品でした。
話のテンポも悪いですしね。

その作品を踏まえて、まずはほぼト書きの「夏の陽」を書き
そして次に「アナザーランド」「凝った一日」等を書き上げて
私なりの書き方を確立して今に至ってます。
(注:「ファイナルアプローチ」はノートに書いてから20年位の歳月をかけてネット上で公開しました。
今はジオシティーズが閉鎖されましたので読めませんけど)

と、こんな書き方をしていますが、私の書き方は至って簡単だったりします。

ただ、この手法はキャラの説明や場所等の説明が不要な二次創作に特化していますので
本格的に小説を書きたいという方は
やはり有名な作品を読んで自分なりの作風を確立して下さい。
私の場合はあくまでも「アマチュア」として楽しんで作品を書く為のモノですから。

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さてまず「二次創作」の作品を書く場合
大切なのは
登場するキャラの性格。仕草、考え方等を完全に把握しておく事です。

その昔「劇画村塾」を創設した小池一夫さんが
「マンガはキャラクターが第一である」という様な事を言ってました。
(資料も見ずに書いてますので多少違ってましても笑って許して下さい)
それに従う訳でも無いのですが
書く作品内に登場するキャラの性格をどんな時でもブレない位までに考え抜いて下さい。
勿論二次創作ですから
私が書くハマーンの様に原作と多少?違っても全く構いません。
一番ダメなのは読ませる話を作っているのにメインにする
話の展開でそのキャラが今までの行動からはあり得ない行動をとる事なのですから。
(二次創作の18禁マンガを「読ませる話」として見るとそういう例が多々あります。
ただそれらの殆どは「性欲処理」がメインですからそちらで満足出来れば良いという面もある事は事実です)

ですから、自分の頭の中に登場するキャラがそれぞれいて
自分の性格とは違う
そのキャラ特有の性格、行動で(そのキャラと)会話が出来る様になれば充分です。
ここで多重人格では...とか、そんなの気持ち悪いと思われる方もいるかと思います。
でも、登場する人物全ての性格を把握して話を展開していかないと
絶対に流れる様な会話で話を作る事はまず不可能です。
(注:才能がある方は除きます)

また、キャラを把握して書くのであれば
ある程度の仕草は読む方が勝手に脳内保管してくれますので
事細かく書く必要は無くなります。

例えば諸星あたるは地球の友引町出身の高校生で
ラムという宇宙人と住んでいる...なんて事は
改めて説明する必要は無い訳です。

それと私の場合会話に緩急を付ける場合とか
話題を変える時とか
別の場所へ移動する時とか
会話が長く続く時とかに「...はこう言った」と書き加えています。

あと、当然ながら会話は「話し言葉」です。
そして最低限の事しか話しません。
状況が判る場合は主語を省いたりもします。
毎回相手の名前を言って話す事や手紙を書く様な話し方は普段しないですよね。
それを小説の中でも実行すればいいだけなんです。

そして舞台はパラレルワールドで書くので無ければ
のキャラの舞台である場所を簡単に書くだけ
あとは読者の方で勝手に脳内保管してその場所を想像してくれます。
その作品が好きだからこそ
二次創作の作品を読む方が殆どな訳ですからね。

キャラ、(そのキャラが演じる)そして場所が揃いましたら
次はいよいよメインの「お話」になるのですが
それは大まかに結末だけ考えておけば最初は大丈夫です。

私の場合、登場するキャラをその結末に向けて
自然に会話をさせて展開を作っていくのですが
その際にも、話のテンポが悪かったり
登場するキャラがこの言葉や行動を言いたくないなと思った場合は
頭の中で何通りかパターンを考えて最善の方法を採用します。
(映画や演劇でやり直すのに近いかも知れません)

その方法は、小物だったり、追加キャラだったり
話し方を変えてみたり
場所を変えてみたりと様々ですが
そこでも
キャラの性格上絶対にやらない様な事は貫きます。
その結果、自分の考えとは違う方向に行くのでしたら
その方向で話を進める様に変更するか
自分の考えた方向に戻す為にはどんな手を使えば自然に展開出来るかを
何パターンも考えます。

そういう場面でキャラに無理矢理ストーリーに沿う話し方や
展開を強要しても
嫌がっているというのが文章上から何となく判るものです。

そして、そこまでやっても煮詰まる様でしたら、
しばらく放置して自然に展開が浮かぶまで待つ事です。
それは数日かも知れませんし年単位になるかも知れません。

その時の自分の人生経験が未熟なだけで
後年「ああ、こう書けばいいのか」となる事が多々あります。
なんでこんな展開が浮かばなかったんだろうと思う事もありますが
自分が(体験でも知識としてでも良いですが)経験してない事は
想像出来ないというのが私の持論です。

勿論その間、何もしない...という訳では無く
別な趣味で楽しむのも良いでしょうし
別な作品を書くのも良いかと思います。
そういう経験が自分の糧となって
やがて実を結ぶ日が来るのですから...。

一番大事なのは
(途中で中断しても良いので)継続して想う事
...なんです。


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では次に、私の書いた作品を例にして具体的に説明してみます。

私が書いた「ラムの乙女記念日」という作品は
他の作品も同じなのですが
最初からあんな展開を全て考えていた訳ではありません。
私があの話で書きたかったのは
ラムがしのぶに「今でもダーリンの事が好きなんだっちゃ!?」と言わせたいだけだったのです。

そしてその展開に持って行く為には
あたるがいない展開を作らなければならない。(いるとドロドロの展開になってしまう可能性があるから)
女性だけで会う...買い物に出かけるという展開にすればいい。
買い物だったらあたるが一緒に行きにくい下着を買いに行くのがいいかも。
そうするとあたるがしのぶに頼む展開を作る...喫茶店で話して納得させる。
その際に今までの二人の関係を会話に混ぜれば過去の話と繋がって作品に幅が出る。

と、こんな感じで書きたい事から逆に考えていって大まかな展開を把握したら
あとはキャラを絡ませて話を順に作っていきます。
その際、シーンとシーンの繋ぎが上手くいかないようでしたら
そこは放置しておきましょう。

書いていく内に、自然と浮かんでくるかも知れませんからね。
まずは書いて書いてキャラ達が生き生きと作品内で動き回るのがメインなのです。

話を戻しますが、そうしている内に
下着を買いに行くのでしたら「かぼちゃ&ワイン」の二人の店に行くというのも私らしいと思いましたし
移動に電車を使えばランとクラマを登場させて
(この二人は以前書いた話で友達になっている)
他愛も無い会話に花を咲かせる事が出来れば
宇宙人のラムと地球人のしのぶの考え方の違いがより一層判りやすくなるかな...と思った次第です。

そして一応の結末を書きましたら
余韻を残す為にエピローグを書きました。
これは私の考えと言うよりも
その話を書いた事によって
登場したキャラ達がこういうエピローグがいいという流れになったから...という方が正しいかも知れません。

とこんな感じで「ラムの乙女記念日」は完成した訳ですが
この様に話がポンポン作れるようでしたら苦労はしない訳で
今は年に1作浮かべば良い感じになってます。

やはり仕事として作業をしてる訳ではありませんし
書きたい時に書きたいモノを書きたいだけ楽しく書くからなのでしょうね。
それで良いのかと言われれば
私としては「趣味」の範囲でやってる事ですから充分なのです。

それにそれをするのはライフワークなのですから
飽きて他の作品へ移る事は無いですし
仮に他の作品を書いたとしても
それで今までの好きだった作品を否定する事もありませんからね。

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と、こんな感じなのですが
いきなり長い話を作るのは大変だと思う方もいるかと思います。

でしたら、単純にキャラを二人にして
場所もありふれた場所にして
二人が会話をする「きっかけ」を投入して
どんな展開になるかを色々と書いてみて下さい。

貴方がそのキャラで何を書きたいのか
どんな展開にしたいのかを軸にして
そこから枝葉を付けて話を作れば良いだけの事なのです。

キャラ達も現実の私達と同じな訳でありその話の世界の中の住人というだけなのです。
ですからキャラ達にもその話までの人生がある訳ですし
その話以降の人生も当然存在するのです

そうやって「影の暮らし」までキャラを踏み込んで考えれば
やがて自然とキャラの方から動いてくれる事でしょう。

プロの作品でしたら
世間のニーズと合わなくなるという危険性がありますが
アマチュアですから
そこまで深く考えなくても良いという利点があります。
バージョン違いで別に発表しても良い訳ですし
書き直した所で誰にも迷惑をかける事は無いのです。

生活に直結してないからこそ
楽しく活動して作品を生み出すという事が重要なんですね。
(書きたくなくなったら、書かなくても生きてはいけるのですから...それがアマチュアの強みであり弱みなのです)

そうやって活動していますとやがて書き方に慣れてくるでしょうし
その会話の途中に別のキャラが混じったら...とか思うかも知れません。
思い付く事はとりあえず表に出さなくても構いませんので
ドンドンやってみる事です。

そこでも一番大切なのは
キャラの性格を破綻させない事...これだけですね。

神の手(作者の力)を使うのはあくまでも「きっかけ」だけに留めて
会話の展開はキャラに任せてテンポ良く進める事が出来れば
読者の頭の中にマンガなりアニメなりのシーンが浮かぶ事でしょう。

私の書き方はあくまでも我流です。
そして食べ物で言えば「ジャンクフード」です。

それに自然に読める作品ですから
大きな展開が無い事もしばしばです。

私の作品はそれで良いと思っています。
名作、大作、有名作品を書いている訳では無く
あくまでも「私が読みたいけど誰も書いてないお話」を書きたいだけですから。
読んだ後に心が温かくなる話...それを書き続けたいだけなんですもの。

それと最後にですが
小説に限らず色々な本を沢山読んで下さい。
知らない事は表現出来ないのが人間ですから
色々な文章を読むと「あ、こんな文章の書き方もあるんだ」と思う事が時々あります。

マンガは絵心(一枚の絵で時間の流れを表現する力)が無ければ駄作を連発しますが
(その昔、子供向けのマンガ入門の本で
一枚の絵の中に「ピッチャーが投げてバッターが打ってボールが飛ぶのを外野が追いかける」
というモノがありました。これはよく考えてみれば
時間軸的におかしいのですが、「これを一枚の絵の中で描けるのがマンガ」と説明していました。
これはアニメ(カットの繋がり)とマンガの違いを明確述べている名文だと今でも思っています)

絵が上手くて設定が面白いのになぜか詰まらないというマンガがあります。
そういう時には大抵マンガのコマ割りがカットの連続になっている事が殆どです。
ですから、ページの割には中身が薄いという感じになりますけど
コマ割りも最終的には才能というかセンスですから...。

さて本題の小説ですが、これ文心が無ければ自分も含めた読む人を惹き付けられる文章は書けません。
それを磨くには多種多様な文章に触れて表現の方法を吸収して下さい。

これは何も小説だけを読めという訳ではありません。
日本語話し言葉、書き言葉の他にも
丁寧語、尊敬語、謙譲語や
「お茶を出す」「お茶を入れる」などの同じ行動を逆に言うことでも成り立つ言葉があったりします。

小説は自分がどれだけの表現方法を持っている(知っている)かが
全てではないかと私などは思ってます。

そう思うと、日本語ってなんだろう?...と思ってしまった様な方は
「日本語の謎を解く/橋本洋介 著」をお奨めします。

最後に...貴方の書きたい事...書きたい話は...何ですか?


2019年3月24日(随時部文章は修正します)
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