For Whom the Fool Exists?

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●これぞアメリカの英知!? プロレスは痛快エンタテインメントの巻き スズキの助

 この1年、私がはまってしまったのは全くもってアメリカ的なもの。それは音楽でもなく映画でもなく、何を隠そうワールド・レスリング・エンタテインメント(WWE)! なに〜、ぷろれすぅ〜? とか言わんといて。WWEは、ここ数年アメリカで大人気のテレビ番組。全米から集まった、身体能力に長けてしかも口も達者で、大見得を切れる美丈夫たちが、毎週毎週あの手この手でお客を楽しませてくれる。ま、寸 劇付きレビューと思ってください。プロレスもあるけど、レスラー同士の場外での確執とか、新参者が旧体勢をかき回すとか……定石も盛りだくさん。人種や性別に関する不用意な発言や行動までも利用して、ストレス溜まりーのの一般人を解放している(……はず)。

 あくまでWWEファンなのね、私。プロレスについては全くの音痴で、幼少の頃、婆ば(ウチでは祖母のことをこう呼んでいた)が猪木や馬場にいくら闘魂を燃やしても、それを横目に私は将棋をしていたくらいだったんで。その後は音楽や映画にかまけて、完全なインドア派。なのになのに、テレビ視聴オンリーの武闘派?へとこの1年で変貌してしまったのである。ネットで写真集やらDVDを漁り、挙げ句の果てにロック様の自伝まで読んだりして、内心、マクマホンのオフィス・フィギュアをお部屋に飾りたいくらいなの。

 初めに舞い上がってしまったのは、ハーディーズのはしご戦。それからロック様のスタンダップ・コメディアンばりの口上にやられ(ピープルズ・エルボーを決めるときの一瞬のタメも好き)、カート・アングルの負け惜しみやらエッジの美しいけど長すぎる顔やら、挙げたらキリがないのである。現在のお気に入りは、ロープから飛びまくるルチャ系の人気仮面レスラー、レイ・ミステリオ。WCW時代、だっさーいオー バーオールを着たミステリオのイケてない素顔を見てしまっても、私の崇拝は止まない。加えて、あのドリフ的な展開。徹底して馬鹿らしく、お下劣で、場外でのレスラー同士の敵対シーンのみならず結婚や女房の妊娠まで話のネタにしてしまう見上げた根性。 三拍子揃っている。ステキ。漫才師兼抜群のアスリートたちと、MTVの手法やハリウッドの脚本家などの才能を総動員した、アメリカ製“ザッツ・エンタテイン メント”を堪能しているわけである。

 もちろん、全部スクリプトに書いてある作り事なのは承知の上。ダッドリーズが敵を粉砕するのに使うテーブルは薄いベニア板製だし、乱闘用の折り畳みイスだってペラペラだ。リアルじゃないと申される御仁もおいででしょうが、作り物におけるリアルさって別に本当に殴り合いをすることではないわけです、ハイ。たとえるなら、チャンバラ映画の殺陣の美しさに感じ入るというか。見ているうちに虚構と現実のせめぎ 合いに巻き込まれ、れれれっ、これマジっ!?となっている自分を面白がっていたりするわけなのです。

 日本では12月に放映された特番『Survivor Series』のメイン戦なんかまるでその典型。腰の負傷から引退していたショーン・マイケルズが復帰、昔の盟友HHHといがみ合いを繰り広げるというストーリーの(一旦の)幕引きとして、計6人で闘う一種のケイジ・マッチが用意された。他の参戦者は、ま、当て馬ですわな。でもね、実際に飛んだり跳ねたり、蹴ったり固められたり、生身の身体を酷使してヘロヘロになり ながらも、レスラーたちはきちんと演じ続ける。しかも、生放送。ジャッキー・チェンばりに凄い。特にマイケルズは秀逸。37歳のベテランながら、お客が期待する以上のことをこれでもか、とやってみせる。お前らが思うほど俺はアマちゃんじゃねぇ、とばかりに続く。え〜まだやれるのぉ〜、と思ってからも長い。このメイン戦が終わった後の「どうだ、俺を見ろ」と言わんばかりの表情がまた素晴らしかった(そうそう、レスラーは試合が終わった後のちょっとした瞬間、気を抜いて素の表情を見せることが多いかも〜)。彼が“show stopper”と呼ばれる、千両役者たるゆえんなわけです。

 もともと、カンフー、チャンバラ、おバカ映画、漫才、コメディ好きな私。お馬鹿なことに命を懸ける人をどうも邪険にできない性分らしい。んっ、それって私の好きなものの要素が、ぜ〜んぶWWEに集約されてるってことなのかしら。もしや、髷を振り乱しながら土手を駆け抜ける阪妻に見とれたり、闘いの前に弁髪をフっと揺らすリー・リンチェイを美しいと思ったりしているのと同じことなのかしらん!?

 ひとりで突っ走った原稿を書いたお詫びにどーぞ!の用語集
★WWE:WWFから改名してWorld Wrestling Entertainmentとなった今やアメリカ随一のプロレス団体。祖父の代から興行師という筋金入りヴィンス・マクマホン・ジュニアがオーナー。『Raw』(ライヴ放映)と『SmackDown!』(録画)の2枚看板がベース。American Soap Opera(アメリカ風メロドラマ)とも言われる。月に1度、ペイ・パー・ビューによる有料の特番イベントがあり、これで盛り上がるわけ。最近の日本の格闘技イベントも演出方法などずいぶん影響を受けていると思う。★WCW:レスラーの移籍合戦を繰り返していたライバル団体だったがWWEに買収され、消滅。★Superstars:文中で挙げた現ヘヴィ級王者のHHH(トリプル・エイチ)、カナダ出身のEdge(エッジ)、オリンピックのレスリング金メダリストのKurt Angle(カート・アングル)などを含め、人気男性レスラーのこと。女性レスラーは“Divas”。ハーディーズ(いまはペア解消)とダッドリーズはともに兄弟ペア。★The Rock(ロック様):WWEで最も人気が高い、ハワイ人と黒人の血を引くレスラー。決め技はピープルズ・エルボー&ロック・ボトム。『ハムナプトラ2』のスコーピオン・キング役で映画界に進出。最近は俳優業が忙しくてプロレスはお留守。★Shawn Michaels(ショーン・マイケルズ):別名HBK(Heart Breaking Kid)。昨年、復活した元WWEチャンプ。ベテラン勢には他に日本でも有名なリック・フレアーやハルク・ホーガンなどもいる。★Ladder Match(はしご戦):文字通りリングに3mはあるかという脚立を持ち込んで闘う。タイトル戦の場合、ベルトをリング中央に吊し、それを奪った者が勝つ。★ルチャ:メキシコ系の空中殺法を得意とする覆面レスラーのこと。サンディエゴ出身の、ロープを使った美麗な技が特長のレイ・ミステリオはその典型。★Cage Match:リング周りを檻(ケイジ)で囲い、闘う。金網マッチもその一種だが、ケイジの種類はさまざま。






 アメリカ買付中のモーテルで、くり返しTVを見る機会がありました。松永クンが、WWEの大ファンなのです。「レスラーは試合が終わった後のちょっとした瞬間、気を抜いて素の表情を見せる」というくだり、わかる気がします。
 高校時代2年間をアメリカ中西部で過ごし、濃密なアメリカ体験を持つスズキの助さん。なかなか見えてこないアメリカのホントを、すこしづつ語ってもらえるとうれしいと思っています。よろしく、スズキの助さん。(大江田信)


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