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調息盤   大舘健一

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 日々の慌しさの中で、気がつくと呼吸は浅くなり、自分の事で精一杯で、周囲への思いやりだとか気遣いも忘れがち。そんな時、乱れた呼吸を整え、いつもの優しさとか五感を取り戻させてくれるレコード達、名付けて「調息盤」。今回から、遠く離れたガールフレンドとの往復書簡形式でご紹介いたします。 距離は離れても、心は近い(はず)。



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佐野友宇子 様
関東地方は今日も雨が降っています。 せっかくの日曜日だから、久しぶりに鎌倉まで来てみたのに。ようやく駐車場を見つけて、歩き出した途端に雨が降ってきた。
雨は嫌いだっけ?
小さい頃暮らしていた家は、築30年以上経った一階建ての日本家屋。屋根から伝わる雨音で、外の様子が手に取るようにわかったものです。その頃の僕は野球少年。週末は小学校の校庭で一日中練習だったのですが、とにかくその練習が嫌いだった。 何せ、最近の科学的トレーニングが流行る前の「根性」全盛の頃でしたから。だから、雨で練習が中止になるのが一番嬉しかった。日曜日の明け方、屋根越しに聞こえてくる雨の音を聞くと、もう落ち着いて目を閉じていることができず、暗闇の中「練習中止」の連絡網が回ってくるのを待ってたものです。練習中止が決まると、今度は 雨が上がらないかと雨音の変化に神経を集中しつつ、誰の家に遊びに行こうかなんてアレコレ考えて。

そのせいか今でも、雨の音を聞くとそわそわしてしまう。雨が上がったら、誰と会おうか。どこへ出かけようか。濡れるのは嫌だけど、こうして雨の音を聞いてるとだんだん気分が高揚してくるのがわかる。

というわけで、雨の鎌倉からおくる調息盤。軒先に隠れ、徒然なるままに。


■SADE『PROMISE』

■SADE『PROMISE』
イントロに雨の音が入ってるのは「SWEETEST TABOO」だったよね。「都会的」とか思ってたけど、古都の街並みにもよく似合う。でも、「丸々とした笑顔」(by 大江田さん)の僕にはちょっと気取りすぎでしょうか?


■rotring & ROHODIA

rotring & RHODIA
仲間からは「小話の湧き出る泉」なんて呼ばれてたりもするけど、仕事の忙しさもあいまって、頭は常に冴えまくり。思い浮かんだことは即座に書き留めておかないと、 すぐに頭の中がパンパンに膨れ上がってしまう。PDAとかも便利そうだけど、自分の手で書く方がよりリアルかつ直感的で好き。 この手紙も雨宿りしながら、RHODIAに書き付けてます。インクが滲んじゃったのはもちろん涙のせいではなく、吹き込む雨のせい。


■Gary McFarland『SIMPATICO』

■Gary McFarland『SIMPATICO』
目の前を、高校生らしき二人乗りのバイクが勢いよく走り抜ける。「Born to be wild」なんて口にするのも似合わない、私大文系な僕としてはやはりコレ。YAMAHAのバイクがカッコいい。Big BearにまたがるG.Szaboのぎこちなさが何ともいい味出してます。この季節だと「cool water」が心地よい。


■echobelly『I can't imagin the world without

■echobelly『I can't imagin the world without me』
古典では、よく「降る」と「経る」を掛けたりするけど、雨音を聴いているといろんなことを思い出す。まだまだ人生を振り返ってる年齢ではないけど、たまには一休みして過ぎ去った過去を思い出してみてもいいでしょ?1995年、遅れて来た僕の思春期 。当時の僕のテーマ曲。まずは自分を好きにならなくちゃね。自分を大事にできない人は、他人を大事にできるはずがないってのが、僕の持論。ただのエゴかな?


■MARTIN DENNY『HAWAII』

■MARTIN DENNY『HAWAII』
そろそろ雨は勢いを弱め、空も少しずつ明るくなってきた。B面1曲目の「HERE IS HAPINESS」はまさにそんな場面にぴったり。"光アレー"とそっと唱えると、鳴り響く鐘の音ともに、雲の切れ間から光がさしてくる。

さっきから道路を挟んで向かいにある、床屋さんのトリコロールのネオンが気になって仕方がない。せっかくだから髪を切ってこようかな。夏も近いので、やっぱりここはボウズですかね?
返事が届く頃には、きっと夏。
今年の夏の予定でも教えてください。
では。ごきげんよう。





大舘健一  遠い海辺の街にも、緑濃い山並のひっそりとした街にも、愛車のローバー・ミニを駆って、ひょいと出かけるバイタリティの持ち主。旅も音楽も読書も熱心な全開の20代。バッチリ忙しいはずなのに、どこで時間を作るのか、今回は新形式による調息盤紹介にチャレンジしてくれました。さて佐野さんからは、どんなお返事が届くことでしょう。次回をお楽しみに。(大江田)
 

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