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調息盤   大舘健一

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 日々の慌しさの中で、気がつくと呼吸は浅くなり、自分の事で精一杯で、周囲への思いやりだとか気遣いも忘れがち。そんな時、乱れた呼吸を整え、いつもの優しさとか五感を取り戻させてくれるレコード達、名付けて「調息盤」。今回から、遠く離れたガールフレンドとの往復書簡形式でご紹介いたします。 距離は離れても、心は近い(はず)。


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大舘健一様

こんにちは。お元気ですか。
いつの間にか、すっかり夏です。
去年も夏を経験したはずなのに、その前の年も夏を経験したはずなのに。
その前の前の年も夏を経験したはずなのに、まるで初めて経験するような夏です。
私はちっとも夏になれることができません。
ただただ、静かに、夏が去っていくことを息を潜めて待つだけです。
夏になれることができたなら私はどれだけ幸せな人生を送れただろうと考えることがあります。
でもまあ、考えたところでどーにかなるもんでもないし、今までの人生の中の夏を取り返せるわけでもないので、考えはじめて3分たったころには、はっと我にかえり、夏になれない自分を受け入れる努力をし始めるのですが。
夏はみんなに平等にやってきているはずなのになぜ夏の思い出がいっぱいある人と、全くない人に別れるのでしょうか。
夏=サザン、なんていえる人はきっと夏の思い出をいっぱい持っているんだろうな。
その次に夏の思い出を持っている人は、「夏といったらなーんだ?」と聞かれたらチューブって答えるはずだ。
私もそんな人になりたかった。
サザン的夏の思い出、チューブ的夏の思い出。
作りたかった…。
あれ? 一体何の話をしていたんだっけ。
夏はやっぱりだめみたい。
夏が終る頃、またゆっくりと手紙を書きます。
それまでの間、調息盤で息継ぎのタイミングをはかりながら、こっそりと過ごします。
それでは、また。

佐野友宇子


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佐野友宇子 様

ご返事が遅くなり、ごめんなさい「夏の思い出が全くない」なんて、嘘はダメ。行間から男性の影が覗いてる。
その人は一体どんな男性だったのかしらん?きっと、夏が来るたびに思い出すほど素敵な男性だったに違いない。そんな彼に嫉妬しつつ、僕の"1人ぼっちの"夏を飾ってくれた「調息盤」たちをご紹介。



■Hugo Motenegro『Hugo Montenegro's DAWN OF DYLAN』

■Hugo Motenegro『Hugo Montenegro's DAWN OF DYLAN』
この夏はどういうわけかBob Dylanばかり聴いてた。Dylanに憧れてタバコを吸い始めたけど、世間に不満があるわけでもなかったので、ギターは握らなかった。
でも、僕が大学時代に国際人権法を専攻したのはDylanの影響かも?「あの頃の僕は今よりずっと老けていて、今の僕はあの頃よりずっと若い」。沁みる。


■Choro azul『Choro azul』

Choro azul『Choro azul』
久々の"なんちゃって"DJはNorthern Brightのメンバーをゲストに迎えた『PROP』@新宿OTO。夏らしくラテン系の踊れる曲を選曲したけど、唯一「調息盤」的だったのはChoro azul「MINHA」かな。大好きな曲を大きな音でかけるのは楽しい。でも、ホントは大好きな曲を仲間達に聴かせるのが一番の楽しみ。ちなみに今年の冬は「調息」という名のラウンジ・パーティーを計画中。


■金谷ホテル

■金谷ホテル
27歳。すごく中途半端な気分。大した不満もないけれど、かといって満足しているわけでもない。根拠もなく30代に憧れつつ、ちょっと背伸びがしたかったので、日光へ。1人ぼっちのプチ・ヴァカンス。多くの著名人が宿泊した老舗リゾートホテルは、一見の若造にも決して敷居は高くなく、着古したHarris Tweed のジャケットのように懐かしさと優しさで包んでくれた。早く一人前の大人になりたい。


■Mr Untel『TATI LES REMIXES DE MR UNTEL』

■Mr Untel『TATI LES REMIXES DE MR UNTEL』
さて、ヴァカンスと言えば、ジャック・タチ『僕の伯父さんの休暇』。ユロ氏同様、僕もおんぼろ自動車(たまにエンストするけど、まだまだ走行距離は3万キロ)を操り、金谷ホテルから戦場ヶ原へドライブ!途中のいろは坂では軽快な音楽と裏腹に、僕の車の後ろは大渋滞。


■Determinations『Full of DETERMINATIONS』

■Determinations『Full of DETERMINATIONS』
毎週末ライブやクラブに繰り出してた。TOKYO JAZZ2002でのオマーラ・ポルトゥオンドの熱唱もよかったけど、夜風にあたりながらビール片手に聴いたデタミネーションズがやっぱり一番かな。みんなで歌った「under my skin」がこの夏のベスト・トラック。2002年の夏と、大好きな仲間達の笑顔に乾杯!

奥手の僕にとって、夏の夜は女の子を口説くのには短すぎる。本当に言いたいことは、一言で済むんだけどね。あれこれ言葉を並べているうちに夜が明けちゃうんだ。だんだん夜の長くなるこれからの季節が、僕にはおあつらえ向き。
まずは口説く相手を探すことが、この秋のテーマ。
それとも友宇子さんを口説くのが、この連載のテーマ?
どっちだと思います?






大舘健一   たまに息を切らす愛車のローバー・ミニのほか、最近は2輪の自転車も自宅の駐車場仲間に加わったそうです。多摩地区を斜めに横断する緑地帯の自転車道を爽快に走る日曜日をすごすこともあるとか。先日のアイルランド出張など仕事に忙殺されているようですが、充実した休日の過ごし方は、実に大舘流。なんと本当に佐野さんからお返事が届いてしまいました。さらに次回が楽しみになりました。(大江田)
 

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