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日々の慌しさの中で、気がつくと呼吸は浅くなり、自分の事で精一杯で、周囲への思いやりだとか気遣いも忘れがち。そんな時、乱れた呼吸を整え、いつもの優しさとか五感を取り戻させてくれるレコード達、名付けて「調息盤」。今回から、遠く離れたガールフレンドとの往復書簡形式でご紹介いたします。 距離は離れても、心は近い(はず)。 |
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大舘健一様 |
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佐野友宇子 様 |
■Birgit Lystager『Ready to meet
you』 12月生まれの僕としては、やっぱり冬が一番。冬はつとめて。窓に向かって、お気に入りの椅子に腰掛けて、挽きたての珈琲をすする。休日の朝だけの唯一の楽しみ。まさに「this happy morning」(B-2)。最近再発されたアルバムの方が"冬"なジャケットだけど。 |
■Baden Powell『Images on
Guitar』 一週間の中で一番ゆっくりと時間が流れてる(気がする)休日の午前中。やらなきゃいけないことの数々を考え出すと、途端に呼吸が浅くなってくるけど、そんな時はこれ。「ATE-EU」のイントロが流れ出し、Janineの声が部屋の空気の空気に溶け出した途端に、すうっと力が抜けてくる。 |
■Various
Artist『Brasil!』 何故だか毎年夏よりも、冬の方がブラジル音楽聴いてる気がする。音楽の持つ熱と、部屋の空気の冷たさとがちょうど合うのかな。土の臭いというか。大地の奥底から沸きあがってくるエネルギーがいっぱい詰まってる。裸足で土の上に立ったら、ちょうど地球の裏側にあるブラジルの鼓動が伝わってくるかもしれない。 |
■Various Artist『FOLKLORE e BOSSA NOVA DO
BRASIL』 もうこうなったら止まらない。気がつくと立ち上がって、部屋の中を独りサンバカーニバル。次から次へとレコードをターンテーブルの上へ。体内のアドレナリン濃度もいよいよピークに達したら、「Tristeza」で感動のフィナーレ。そうさ、僕らはみんな生きている。 |
■Elis & Toots『Honey suckle Rose Aquarela
do
Brasil』 部屋の温度もすっかり上がってきた。冷めた珈琲とタバコで、ちょっとクールダウンするなら、コレ。tootsのハーモニカは陽だまりに良く似合う。 |
■『あたらしい憲法のはなし』 そろそろ一仕事。というわけで、部屋の片付け。本棚を整理していたらこんな本が出てきた。1947年に文部省が発行した中学社会科教科書。憲法9条の戦争放棄について、「世の中に、正しいことぐらい強いものはありません。」と書いてある。高校生の頃、この本のコピーを読んで「憲法」とか「国際平和」という言葉に惹かれて法学部目指したんだっけ。 |
■CPD『www.c-p-d.org』 自分のことで精一杯なのに「世界」のことなんて恐れ多いななんて、今では学生時代の夢はあっさりあきらめてしまった。かといって、何もしないのは最低だと思ったので、反戦デモへ。"世界同時多発デモ"。行進の列の中、僕のすぐ前を歩く白人の男の子が「戦争反対」とカタコトの日本語で唱えている姿を見たら、(その声はあまりにも小さく‐沿道から冷たい視線をなげかける若者にも聞こえないくらいに小さく‐頼りない声だったけど、)涙が溢れてきた。止まらなかった。 |
■Bob Dylan『THE TIMES THEY ARE
A-CHANGIN'』 「あらゆる恐怖を頭で考え、辱め、批判する人々よ、顔から覆いを取りなさい。今は泣くべき時ではない。」(The Lonesome Death of Hattie Carroll) 90年代以降世界中で起こる悲しい事件。どれも「今」起きていることでありながら、何となく遠い世界の出来事のような感じ。自分の目で見ること、自分の頭で判断することをしていないせいだろうか。マスコミというフィルターを通じ、僕の中にいろいろな事実、数字、声、血、悲しみ、涙、怒りが流れ込んでくる。気がつくといつも僕の頭の中ではこの曲が流れてた。 |
■PULP『MIS-SHAPES』 調息盤的プロテストソング。僕らの意見を聞かないからって、力ずくで説き伏せようなんて思ってない。ただ僕らが歌うのを邪魔しないで。インナースリーブに小さく書かれた「We shall prevail. Live on」の文字。等身大の、控えめな抵抗。 |
■Nobuyoshi
Araki『skyscapes』 大切な人のことを思うと「空」を見上げてしまう。「この世界で唯一完璧なのは空だけだ」。誰が言ったか忘れたけど、自分のためにも、大切な人のためにも、この「空」がいつまでも青くあることを願う。 |
■Mari Kumamoto『Mari Plays
Mompou』 街中の桜も、遠くから見るとつぼみの辺りがピンクに色づいて見える。花の生命が硬いつぼみの中で、開花の時を待っているのだろうか。「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」。スペイン生まれの作曲家フェデリコ・モンポウによる「ショパンの主題による変奏曲」を聴きながら、佐野さんと今年の桜を眺めたい。 |
では、今年こそ満開の桜の下で会いましょう。 |
■Carole King『music』 music plays inside my head over and over and over again my friend, there's no end to the music |
大舘健一 世界同時多発デモを歩いている最中の大舘さんより電話をもらいました。携帯電話より聞こえてくる彼の声は、少しふるえていて、そしてなによりも誇らしげでした。戦争に反対する心を持つ者が、自分の意志で何らかの行動をするか、それともしないのか。それは小さな違いのように思えて、もしかすると大きな違いを生むのだろうと思います。「等身大の、控えめな抵抗」と記す気持ちの重たさと強さを感じます。 読者の皆さんと大舘さんにお詫びをしなければなりません。大舘さんの文章は、2003年2月に書かれたものです。日本時間2003年3月18日に行われたブッシュ大統領の最後通告演説よりも、1ヶ月近く前に書かれたものであることを、ここに記させていただきます。掲載が遅れましたことを、ここにお詫びいたします。(大江田) |