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調息盤   大舘健一

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迷うほどの選択肢があるわけじゃなく、何となくこれを選べばいいんだろうなってことはわかっているんだけど、決められない。正しい順番に並べることもできる。でも、まるっきり逆の順番にしてみたい。


正直なところマヨッテルし、そのせいでかなりマイッテル。


真っ白いキャンパスにただ闇雲にたくさんの点ばかりを描いて、一つ一つの点が全くつながってこない。点で埋め尽くされて、しまいには真っ黒く塗りつぶされていく。線が、輪郭が立ち上がってこないんだよ。像を結ばないの。


Just out of focus - ちょっとピンぼけ。


春の陽気のせいか、それとも29歳のせいか。


欲望にまかせて食い散らかしてる感じだけど、まだまだ満腹じゃなし。
ガツガツ、ムシャムシャいくしかないのかな。



■行定勲『きょうのできごと

■行定勲『きょうのできごと』
タンタンとした毎日。でも、それなりに悲喜こもごもで。そうやって人は生きていく。僕も生きていく。


Ben Watt『Buzzin'fly Volume 01』

Ben Watt『Buzzin'fly Volume 01』
美しい。スタイルは変われど、やはり「North Marine Drive」のBenだ。体感温度というか距離感覚というか、とても居心地がいい。友達になれそうな気がする。


>■『ppcm』

■『ppcm』
凝ったディテールの中にユーモアのセンスを忘れないところも好きだけど、何と言っても着心地だと思う。身に着ける度に皮膚へ伝わってくる心地よい刺激が、忘れていた自分のカラダを思い出させる。10年間の活動を2004A/Wで終了してしまうことがとても残念。同時代に生き、リアルタイムで彼らの服を着ることができたことに感謝。


■『Ludwig Reiter』

■『Ludwig Reiter』
映画『春にして君を想う』。年老いたカップルが生まれ故郷を目指して老人ホームを抜け出したときに履いていたお揃いの白いスニーカー。荒木経惟が写した陽子夫人のスニーカー。もう誰にも履かれることはなく、玄関に脱ぎ捨てられたまま。
僕にとってのスニーカーは「生きている」ことの象徴。


■NODA・MAP『透明人間の蒸気(ゆげ)』

■NODA・MAP『透明人間の蒸気(ゆげ)』
広がる美しい砂丘。足跡を残すためにそこへ行くのか、それとも足跡を消すために行くのか。でも足跡は消えても言葉は消えない。最初から見えないんだから。


■N.Philbert『音のない世界で』

■N.Philbert『音のない世界で』
冒頭の手話による"詩の四重奏"。全身から発せられる音にならない「声」は僕が今までに聞いたどんな言葉よりも力強く生命力に溢れていた。ベートーヴェンの交響曲第9番が聞こえてた。聞こえるはずもないんだけど、"聞こえちゃった"っていうのが本当のところ。


■谷川俊太郎『智慧の実を食べよう』

■谷川俊太郎『智慧の実を食べよう』
「ノンセンスは人生の手ざわりを教える」。意味よりも先に存在がある。言葉の意味ばかり追ってしまっているのが、まさに僕。まだまだだね。


■Glenn Gould『平均律クラヴィーア曲集第1巻』

■Glenn Gould『平均律クラヴィーア曲集第1巻』
ボイジャー1号に載せられて太陽から135億キロ離れた宇宙空間を漂っているのは「第2巻」。でも、第1番のプレリュードが始まった途端に、僕を縛り付けている重力と時間から解放されていくような気がしてくる。

 

■佐内正史『鉄火』

■佐内正史『鉄火』
「発見とは発見の前に発見すること」(青山二郎)。心の中のイメージを、目の前の現実を被写体としてシャッターで切り取る。懐かしさが、厳しさが、光が溢れている。

 

■畠山美由紀『Wild and Gentle』

■畠山美由紀『Wild and Gentle』
「好きだ」とは何回でも言える。でも、「愛している」とは言えない。その言葉の意味がいまだによくわからないから。何となく口にしているうちに、わかってくるのかもしれないけど、簡単に口にしてはいけないような気がするから、言わない。その代わりにこのレコードを君に聴かせてあげよう。

 

■鷺沢萌『愛してる』

■鷺沢萌『愛してる』
「思ったり感じたりした者の勝ちだ」。いい言葉だと思う。10代の頃この言葉と出会ってから、ずっと支えられてきた。空回りばかりしてる僕だけど、それも愛嬌。そのうちカチッと歯車がかみ合う時がくるはず。きっとね。

 

■船越桂『船越桂全版画集1997-2002』

■船越桂『船越桂全版画集1997-2002』
その目はどこを見ている?どこでもない。自分を見つめている。自分と向かいあっている。

 

 



To 大舘健一 さん
 「ガツガツ、ムシャムシャ」の素敵な釣果を、そっと見せてもらいました。毎日、足を通すスニカーとのつきあいのような音楽。音楽を聴くということは、音楽を聴くことだけにとどまらず、自分中のさまざまな歯車と響きあうことになる。そんな音楽との関わり合い方が少しずつ浮かび上がって来るようです。併せて仕事に忙殺されている日々の中で、この「調息盤」を書くことが楽しみと、とてもうれしい言葉をもらいました。(大江田)

 
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