W-ZERO3を使い始めてからというもの、少々不満に思っていることがあった。それはスタイラスでの入力について。画面を専用のプラスチック製のペンでつつくことによって入力する形式なので、どうしてもこういったペンデバイスからは逃れられないW-ZERO3なのですが、どうもこれが使いにくい。なんせ太さが3ミリという細い物体なのですからして。これはなんとかしたい!で、例によって例のごとくいろいろと調べてみた。鉄製のスタイラスやストラップにつける形の小型のスタイラスペンがいろいろと売られているんですが、どれもこれもどーもしっくりこない。こりゃ駄目かなと思っているとき、ふとマルチペンという物の存在を知ることになった。


★マルチペンとは一本で何でもできるペン

 マルチペンとは、シャープペンシルや各色ボールペンなどがいっしょになっていて、特定の操作をすることによってそれらを切り替えて使うことのできるものです。今までおいらは4色ボールペンくらいしか常用では使ったことがなかったし、それ以外ではシャープペンシルとボールペンを切り替えて使うことのできるマルチペンを一時期使っていた程度。それは本体をねじることによって切り替える方式で、ボディもかなり太いものだったこともあり使い勝手の良いものとは思えなかった。だからすぐ別々に持ち替えることになり、その後も興味を持つこともなかった。でも色々調べていたらいつの間にかマルチペンの世界も進化しまくっていたんですな。


上がセーラー万年筆のクオードアルファ(ブラック)、下がロットリングのフォーインワンインプット

 マルチペンのレフィル(替え芯)については世界各国の文具メーカーから各種発売されていて、日本も例外ではありません。こいつはいいと思ったわけですな。こいつのレフィルにプラスチック棒を削ったスタイラスもどきを作って差し込めばと。

 ただ、さらに色々調べていたらスタイラスについてはロットリングやステッドラーからこういうスタイラス先のレフィルが発売されていたので、それを使うことにした。やっぱ同じ事を考える人は多かったのですな。マルチペンのレフィル規格はどうもゼブラ4Cという統一規格らしく、たいがい互換性があるようなので。

 これはいい。普段からシャープペンシル、ボールペン黒&赤、ペン型消しゴムと複数を持ち歩いているおいらですが、マルチペンなら一本を胸ポケットにでも刺しておけば万事オッケーなんですからして。というわけで、自分に合ったマルチペンを探索することにしたわけです。


★ベースとなるマルチペンはどれが最適か

 そこまで決まったら何をベースにするかである。自分が想定するもっとも理想的な使い方では、シャープペンシル+ボールペン赤+ボールペン黒+スタイラスが共存できて、これらの4つのレフィルが切り替えすることのできるもの。実はこの条件だとかなり選択肢は絞られてくる。多色ボールペンならラミー2000などの有名な物から様々な選択肢があるけど、シャープペンシルが一体となっている物となるとある程度限定されてくる。しかも、スタイラスを入れてなお2色のボールペンが装備可能となると更に少なくなってしまうのだ。ボールペンを黒色のみに我慢するとかも考えましたが、色々吟味した結果、ロットリングのフォーインワンインプットと、セーラー万年筆のクオードアルファ・ブラック(ダークブルー)がもっとも適当ではないかという結論に達した。

 価格はクオードアルファが2千円ほど、フォーインワンインプットが3千500円ほどだった。価格こそ違えど機能的には同じ。どちらにしようかと思ったが、フォーインワンインプットはクオードアルファよりも細身なので手になじみやすいと思ったし、なにより当初の目的であるスタイラス機能がデフォルトで付いているので、こちらを買うことにしたわけだ。


★できのいいフォーインワンインプット…しかし…



 注文してから数日で手元に届いたフォーインワンインプット。非常に作りが良い品物だった。金属製(無塗装部が金色なのでおそらく真鍮)のボディはしっかりとしていて高級感もあるし、操作も容易い。シャープペン+ボールペン黒&蛍光オレンジ+スタイラスと内容も満足。オレンジは赤のレフィルに替えてやればいいし。操作方法は切り替えたいレフィルのインジケーターを上に向けて、ノックボタンを押せばいい。戻したいときにはクリップの上部分を押してやるとレフィルが引っ込むので、再び使いたいインジケーターを上に向けて押すと。仕様を見て思っていたとおり軸も細身で手に馴染むのも非常に好感だった。だが…。



 フォーインワンインプットは非の打ち所のない物かと思われたが、使用していくにつれて重要な問題が浮上してきた。それは重さの問題…。

 フォーインワンインプットは30グラムもあるのですな、これが。購入時はたかがペンと考えて重さの問題は特に気にしたことがなかったのですが、W-ZERO3をだらだらと使うとき、これが問題になってくる。椅子に座ったりして使うときには別に良いのですが、ベッドに寝転がりつつだらだらと使用したいときにはペンの角度が水平状態になってしまうため、重さがあると軸部分がつられて下がってしまい、これを持ち替える必要が出てくる。これがけっこうめんどい。

 いや、普通に椅子に座って物書きをするときでもけっこう気になるレベルの重さでもある。なんせ普段使っていたペン類は8グラム程度。一番重い4色ボールペンですら11グラム、極太のマジックなどですら20グラム程度なのだからして。30グラムという重量はその細身のボディも相まって、かなりの違和感を感じる結果となってしまった。


★軽いマルチペンが欲しい

 この失敗を教訓として、二番候補であったクオードアルファの重量を調べてみた。オフィシャルの情報では16グラム。でもこれは本体のみの重さであってレフィルも含めた重さではないことはフォーインワンの時に学習済み。で、だいたい20グラム程度なんではなかろうかと目星をつけてみた。家にあるペンをいろいろと握ってみて、その程度ならぎりぎり違和感を感じないであろうと判断し、クオードアルファを追加購入することにした。


セーラー万年筆のクオードアルファ(上がブラック、下がダークブルー)

 ネットで注文してから二日で到着。便利な時代ですよ本当に。で、結果としては大正解。実際に計測してみたところ、重さは21グラムでほぼ予想通りだった。差はフォーインワンよりたかが9グラム軽いだけですが、違和感はほとんど感じません。もちろん質感は価格が倍するフォーインワンと違い、価格なりの作りではあるが。本体はプラスチックボディなので剛性を確保するためなのか少々太めの本体となっているが、グリップ部分はほぼ同じなので全く問題はなかった。グリップが同じなのに軽いので違和感の軽減に役立っている模様。フォーインワンと真逆のチープさが軽さとなって逆に良い点となって作用したわけですな。

 ちなみにクオードアルファにはクオードアルファメタリックという物もあるが、こちらは握りの部分がプラスチックではなくゴム製となっているし、少し握りが太すぎることから敬遠した。ゴム製のグリップだと手脂が付いてしまったときに拭き取ることが難しいのであまり好きじゃない。それに見た目も派手すぎて好みに合わなかったし。しかしそういうのが好みという人はそっちを選択するといいかもしれん。



 さて、念願かなって条件にかなうマルチペンを購入したところで前述のロットリング製スタイラスレフィルを交換してやる。元のボールペンを引っこ抜いて入れ替えるだけの簡単な物です。そして、更に普段から使い慣れているボールペンと同じ物であるパイロット製のHI-TEC-Cスリムス用レフィルも入れてやることにしました。元のレフィルは出先でHI-TEC-Cのインクが切れたときのバックアップ用としてケースに入れて鞄の中に忍ばせておくとしましょう。



 ただ、やはり一長一短はある。クオードアルファは軽くて非常に使いやすいが、チープゆえに筆記中に問題もある。文字を書いているときに、レフィルがカチャカチャと鳴ってしまうのだ。それほど大きな音ではないとはいえ、ペンを振るたびにカチャカチャと硬質な物がぶつかるような音が鳴るのは少々鬱陶しい。フォーインワンのほうは金属ボディの効果もあるのか、しっかりとした感触でカチャカチャ音はセレクタ部分以外からはほとんど発生しない。文房具にも性能って物がある訳なんですな。



 当面は両方を併用してみて、どちらをメインとすべきなのか判断してみようかなと。自宅での使用やベッドでごろごろの際にはクオードアルファを使用し、外出用にはフォーインワンという使い分けも良いと思う。

 また、マルチペンは4種型ではなく3種型なら意外と選択肢は多くなる。3種型なら日本製だけでもかなりの数があり、よりどりみどり。金属製の物が好きならステッドラー927AGLシリーズは重さが14グラム(実測値は不明)でアルミボディだったりする。赤ボールペンを持たないという割り切りができればこういうのも良いかなと思うのだが…。ステッドラー927AGシリーズは4色で18グラムだが、少々グリップ部分の形状が異質で使いづらそうなのがネックだったので除外していた。でも、そのうちにステッドラーのシリーズも試してみたいと思う。(ちなみに絶版の927PシリーズはクオードアルファのOEM版らしい)


★安いのに出来の良い927AGL(マルシャンJP)



 ステッドラー927シリーズ。どうせならこれはと思った奴はもう買っちまえとってことで、けっきょく買ってしまった。こちらは3種選択タイプの927AGL。注文してから翌日には届いてしまった。イソターネッツ恐るべし。

 さっそく開封して使用してみましたが、これは価格の割になかなかの出来で驚いた。セレクタの動作は確実。フォーインワンのしっかり感と比較すると、多少のカチャカチャ感は存在しますが、クオードアルファほどではありませんでした。ボディはアルミ製のようで非常に軽く、たったの13グラムでした。30グラムもあるフォーインワンを使ったあとに持つとメチャクチャ軽く感じます。だからといってクオードアルファで感じたようなチープな印象は全くなく、金属ボディのために高級感も中々にあります。

 グリップ部分にはエンボス加工がなされていて、簡単な滑り止め加工になっています。全長も一般的なマルチペンと比較しても短いレベルの13.2センチ程度。非常にコンパクトなため、底の浅いポケットにも楽に収まりますな。これはいい。

 価格も2000円とクオードアルファよりも安く、もう文句なんて全く出てこないほどの出来なのですが、レフィルが3種選択タイプなんですよね。残念。




 こちらは4種選択タイプの927AG。927AGLとの違いはレフィルの数のほか、全長が14.7センチでグリップ部分がふくらんでいるという点です。重さは18グラムでじゅうぶんに軽い。グリップ部分が多少太め(1.1センチ)なので、より軽く感じるということもあるかもしれません。しかし、おいらはあまり太いグリップが好きなタイプではないので少々残念。

 やはり事前に感じていた印象は間違いなかったようで、おいらの手には少々使いづらい。927AGLのボディのまま4種選択タイプのマルチペンにしてくれたら理想的なんですが。ボディの細い部分は927AGLと同一なので、デザインを無視すればできるはずなんですがね。何とか加工してやれんかしらん。

 価格は3000円程度で、使用感は927AGLとあまり変わりません。ただ、筆記時に多少カチャカチャ音が鳴るのは不思議。同構造の927AGLは全然鳴らないのに。でもまぁ太いグリップでも違和感を感じない人の場合にはこれを勧めていいと思います。ほんと細ボディだったら何も文句ないのになぁ。




 けっきょく5本もマルチペンを買ってしまったわけですが、一番気に入ったのはステッドラーの927AGLでしたな。4種選択タイプではないという欠点はあるものの、その軽さとコンパクトボディは非常に使いやすい。赤ボールペンは必要だとはいえ使用頻度はそれほど多くはないので、927AGを鞄の中に入れておき927AGLをメイン使用って事で。


★総評

 使ってみての総評としてはフォーインワンは出来は良いが真鍮のボディは重すぎて使えない。クオードアルファは作り込みの甘いオモチャ。927AGシリーズがトータルバランスで非常に優れた物といったところ。この中でのおすすめは間違いなく927AGか927AGLになりますね。

ロットリング
フォーインワン・インプット
セーラー万年筆
クオードアルファ・ブラック
ステッドラー
アヴァンギャルドライト927AGL
長所金属ボディ(おそらく真鍮)の重厚な作り。細身。3千500円程度という価格にしてはなかなか高級感がある。プラスチックボディのため21グラムと比較的軽め。2千円以下で買えるお手軽さ。セレクタが確実に動作し、思った通りのレフィルが出てくる。動作が確実。アルミボディなのに13グラムと普通のシャープペン並みに軽い。同系OEM品のセーラー万年筆マルシャンJPやプラチナDOUBLE3ACTIONなら価格が1000円程度と安い。
短所30グラムという重さでトップヘビーな感触であり、すらすらと物を書けるような感じではない。ペンを傾けた状態でレフィルを選択しようとすると思った物が出ないことがある。いかにもオモチャっぽい外観。レフィル選択時にまれに引っかかるような感触がある。かすかだが筆記時にカチャカチャ音がする。フォーインワンと比較すると作りが雑。3種選択タイプ。(927AGは4種選択タイプだがグリップが少々太め)クリップ部分の加工が少々雑。927AGLは問題ないのだが、927AGは筆記時にカチャカチャ音が少し鳴る。
評価70点
作りは良いが、やはり重さが大きな減点対象。
50点
機能は満足だがオモチャといった感はどうしても否めない。
90点
927AGLは総じて良好。927AGは実に惜しい出来。

 だがしかし、3種選択タイプでもいいと割り切ってしまうと、他にもいろいろと試したい物が出てきて困った。日本製だけでもけっこうな数があったり…。今回検討した中ではこの通り。

●ロットリング・フォーインワン(試用済み)
●セーラー万年筆・クオードアルファ(試用済み)
●ステッドラー・927AG、927AGL(試用済み)

●セーラー万年筆・マルシャンJP(927AGLのOEM元の品?らしいが、グリップ部の加工が気に入らなかったので敬遠)
●三菱鉛筆・セレクト3&1(4種タイプだが、ラバー?で太いグリップのため敬遠)
●三菱鉛筆・セレクト3(3種タイプ、グリップ形状が好みではなかったので敬遠)
●三菱鉛筆・エクシードMSE-2001EX(3種タイプ、良いとは思ったが927AGよりわずかに重かったので今回はパス)
●プラチナ・DOUBLE 3 ACTION(マルシャンJPと同じくOEM品?らしいが、グリップ部の滑り止め加工がなかったので敬遠)
●プラチナ・DOUBLE 4 ACTION(4種タイプ、軸経や材質などは気に入ったが、重量過多・装飾華美のため敬遠)
●ラミー・トライペン(1万円クラスなので、試しに買うには高すぎる)

 この中ではグリップ部分の加工が気に入ったならセーラー万年筆のマルシャンJPが一番良いんですがね。マルシャンJPはヤスリ状の滑り止め加工がなされているので、どうもおいらのグっと握り込むタイプの手には馴染まないと思うので敬遠しましたが。(実際に使ったわけではないので断言はできませんけどね)しかし価格がステッドラー版の半額で1000円程度と安いのに、仕様は同じアルミボディのしっかりとしたつくりなのが非常によろしい。

 価格から推察するにクオードアルファと共にセーラー万年筆かプラチナなど、どこぞの日本メーカーが開発した物をOEMとしてステッドラーに流しているのだと思いますが本当のところはどうなんだろ。こういったマルチペンなんてギミックの物は日本のお家芸だしなぁ。(ちなみにクオードアルファのステッドラー版は927Pとして販売されていました)…というか、よくよく調べてみたら、927シリーズもロットリングのフォーインワンをはじめとした他のマルチペンも日本製。どうやらこの手の製品はそろいもそろって日本製のOEMらしいんで、同一デザインの製品を見つけたなら日本メーカーのを買っておいた方が同品質で安くつくようだ。

 他にも切り替えには振り子式やロータリー式など様々な種類があったりして、これらの使用感もかなり違ってくるのかもしれない。ここで紹介した物は全部振り子式なので、今度はロータリー式のを買おうかしらん。いやー、なんかハマったくさいので、今後もいろいろとマルチペンを試してみたい。




 というわけで、今のおいらの愛用マルチペンはステッドラーの927AGL。