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| コツノツツハナバチ(マメコバチ)に寄生するコナダニ類 コツノツツハナバチに寄生するコナダニ類は、植物につくハダニや家の中にいるヒョウダニ、吸血するマダニの仲間とはぜんぜん違います。ツツハナバチ類の巣がなければ生活史を完結(つまり生存)できません。果樹や野菜や人間に害を及ぼすような種類ではありませんのでご安心ください(ダニ・アレルギーの人にはアレルゲンになるのかもしれませんが)。逆に、果樹や野菜や人間に害を及ぼすようなダニ類はコツノツツハナバチを加害したりしません(たまに勘違いされます)。 コナダニ類の種類 コツノツツハナバチを加害する天敵類のうちもっとも恐ろしいのはヒヨドリです。その次を挙げるとしたらコナダニ類Astigmata になるでしょう。コツノツツハナバチに寄生するコナダニ類には2種類(正確には3種類)あります。ニッポンツツハナコナダニChaetodactylus (Chaetodactylus) nipponicus とツツハナチビコナダニの一種Tortonia sp.(未記載種)です。以下、このホームページでは和名を省略してそれぞれツツハナコナダニ、ツツハナチビコナダニとして使います(下記の「和名について」の項をご覧下さい)。この2種はコツノツツハナバチに寄生して似たような被害をもたらすのですが、違う分類群に属します。ツツハナコナダニはHemisarcoptoidea(上科) ツハナコナダニ科Chaetodactylidae、ツツハナチビコナダニはAcaroidea(上科) ツツハナチビコナダニ科(仮称)Suidasiidae のコナダニです。 コツノツツハナバチに寄生するもう1種類のコナダニはChaetodactylus (C.) hirashimai です(和名については後述するとおり)。本種は長野県以西の西南日本から記録されいます。コツノツツハナバチOsmia cornifrons のほかシロオビツツハナバチO. excavata、オオツツハナバチO. pedicornis、イマイツツハナバチO. jacoti の計4種に寄生します(屈ら, 2002)。本種の分布記録から考えると、シロオビツツハナバチがおもな寄主だと推測されます。長野県での分布記録がわずかである(つまりコツノツツハナバチでの寄生記録が少ない)ことも合わせて考えると、コツノツツハナバチが(送粉昆虫として利用されるようになって以降)他の寄主(シロオビツツハナバチなど)と混生した結果、2次的に寄生するようになったのではないかと推測されます。このような理由から、当ホームページではC. hirashimai をコツノツツハナバチの天敵として扱っていません。 和名について コツノツツハナバチの生態のページにもあった和名問題です。このホームページでは屈ら(2002)にならってツツハナコナダニ属Chaetodactylus のコナダニC. nipponicus をツツハナコナダニ、ツツハナチビコナダニ属Tortonia のコナダニT. sp. はツツハナチビコナダニと呼ぶことに統一しています。しかし、C. nipponicus は最初は「コナダニの一種Chaetodactylus sp.」と呼ばれており、後にキタツツハナコナダニという和名で呼ばれるようになりました(理由は、本種が本種がおもにコツノツツハナバチ(北日本に偏って分布)を寄主としていることによるものと思われます)。その後、記載(Kurosa, 1987)の少し前からツツハナコナダニと呼ばれるようになっています。しかし、青森県では長い間キタツツハナコナダニと呼ばれてきたため、これが正式和名のように使われています。一方、日本ではツツハナコナダニ属Chaetodactylus から2種が記録されています。C. nipponicus とC. hirashimai です。C. hirashimai にはヒメツツハナコナダニという和名が付けられています。本種は西南日本(長野県以西)に分布し、コツノツツハナバチにも寄生することがあります(屈ら, 2002)。このことから考えてC. nipponicus の和名はキタツツハナコナダニとしても良いのかもしれません。少なくとも、ツツハナコナダニ属には2種いるのですから、ツツハナコナダニという和名(=属名そのままの和名)は良くありません。せめて種小名からニッポンツツハナコナダニ(櫛田ら, 1998:正確にはこれと一緒に配布された本文正誤表に記述がある)に改称した方が良いと思います。また、同じ理由でC. hirashimai の方もヒラシマツツハナコナダニに改称した方が覚えやすいと思います。 一方、ツツハナチビコナダニ属Tortonia の一種T. sp. は未記載のまま(新種だと分かっているにもかかわらず)長く放置されています。一応、ツツハナチビコナダニと呼ばれていますが、属名と同じ和名というのは良くありません。櫛田ら (1998:同)はケナガツツハナチビコナダニと呼んでいます。このままケナガツツハナチビコナダニという和名にするか、あるいは正式に記載されてから種小名に合わせて和名を改称するのが良いと思います(Tortonia 属の他の種類と比較して、毛が本当に長いのか怪しいので、とりあえずツツハナチビコナダニの一種と呼んでおく方が良いと思われます)。
コナダニ類には、卵、幼虫、第1若虫(protonymph)、第2若虫(deutonymph)、第3若虫(tritonymph)、成虫の6つのステージがあります。ツツハナコナダニの第2若虫は便乗型(Phoretic deutonymph、またはヒポプスhypopus)とシスト様型(Cyst-like deutonymph)の2種類に分けられます。便乗(びんじょう phoresy)とは、寄主(コツノ(マメコ))幼態またはその餌(花粉団子)を食べる寄生者が寄主成虫の体に取り付き、新たな繁殖場所(巣内)に運ばれることを言います。ツツハナコナダニには2タイプの第2若虫がありますが、ツツハナチビコナダニの第2若虫には便乗型しかありません。この便乗型第2若虫は、一時的にツツハナバチ類の成虫の体に取り付き、巣外の空気を吸うことになります。これに対して他のすべての発育ステージ(シスト様型第2若虫を含む)は、ツツハナバチ類の巣の中でのみ見られます。 2種の生活史は下図のとおりです。
第2若虫は、反復繁殖相において餌となる花粉団子が消費され、残り少なくなると発生します。この第2若虫は他の発育ステージと比べて体が硬く、口器が退化しています。そして、絶食条件に長期間耐えることができます。低温条件にも強く、冷蔵庫で保存すると2年以上生存しています。
ツツハナコナダニの体サイズ(体長)は、便乗型第2若虫でおよそ390μm(=0.39mm)あります。もう一つの越冬態であるシスト様型第2若虫の体長はおよそ0.30mmです。 これに対してツツハナチビコナダニの便乗型第2若虫の体長はツツハナコナダニの半分くらいの大きさ、およそ170μm(=0.17mm)しかありません。本種の場合、越冬態には5つのステージがあり、最大のものは成虫で、体長は0.41〜0.54mmあります。しかし、(加害死亡育房について混生比率をみると)全体の1%(平均50頭)ほどしかいません。また、第3若虫は体長およそ0.33mmで20%(平均1000頭)、最も多い第1若虫ではおよそ0.27mmで60%(平均3000頭)です。このようにツツハナコナダニより小さい個体が多いことになり、しかも加害死亡育房より加害生存育房が多くなるという加害の特徴をもつため、ツツハナチビコナダニの発生に気が付かない人が多いのです。 両種とももっとも体サイズの大きな発育態は成虫です。性比はおよそ0.5で、メスとオスがほぼ同数含まれます(そしてメス成虫は交尾後でしないと産卵しません)。オス成虫はメス成虫より小さく、体長はメスの76-77%ほどです。また、初期繁殖相(第1→第2→第3若虫を経たもの)の成虫は反復繁殖相の成虫(第1→第3若虫を経たもの)より小型です(体長比はおよそ80%)。さらにツツハナコナダニではシスト様型由来の成虫(シスト様型第2若虫→第3若虫を経たもの)は便乗型第2若虫由来の成虫(便乗型第2若虫→第3若虫を経たもの)より小型となります(体長比はおよそ75%)。この成虫の体サイズは、産卵数(繁殖能力)を決める重要な要因でもあります。
ツツハナコナダニの加害死亡育房には便乗型第2若虫が多数(2000〜5000個体)存在し、コナダニが淡褐色に見えます。育房内にはシスト様型第2若虫もごく少数(全体の1〜6%ほど、平均 1%:30個体)が存在します。加害生存育房ではシスト様型第2若虫の比率が若干高くなり、平均 2〜3%となります。 一方、ツツハナチビコナダニに加害死亡育房には幼虫〜成虫までの5つのステージの3,000〜7,000個体が存在します。そのうち便乗型第2若虫は4〜20%、平均で6〜8%(およそ250〜450個体)しか存在しません(シスト様型第2若虫のステージは、本種には存在しません)。便乗型第2若虫以外のステージが大半ということになります。それらは透明に近い乳白色なので、加害された育房内にコナダニが見えたとしても乳白色に見えます。加害された育房の色(通常は淡黄色)は、ほとんど花粉カスによるものです。加害生存育房では越冬態の全個体数は加害死亡育房の1/10程度と少なくなっています。しかし、便乗型第2若虫の比率はやや高くなっており、10〜30%、平均で15〜25%(およそ100個体)います。
ツツハナコナダニとツツハナチビコナダニでは、卵と第2若虫以外のステージのものはツツハナバチ類の貯食した花粉団子を摂食します(第2若虫が摂食しないのは口器がないからです)。これに加えてツツハナチビコナダニでは、寄主幼虫が排泄した糞をも摂食します。このため、越冬期にコツノツツハナバチの巣を切開調査してみると、小さなツツハナチビコナダニが繭の周りを歩行している育房(加害生存育房)が多数見られることがあります。加害生存育房は、加害死亡育房と比べると5〜6倍も多く見られます。ただし糞は栄養価が低いため、花粉団子だけを摂食した時と比べて生存率や成虫の産卵能力が低くなります。この結果、存在する個体数は加害死亡育房の場合の1/10程度と少なくなっています。 従来、このような加害生存育房の存在が見落とされる傾向があったため、ツツハナチビコナダニ発生による被害はツツハナコナダニによる被害より増加する傾向にあります。コツノツツハナバチが飼養されている果樹園で調査すると、全体のおよそ半数でコナダニ類が2種とも発生しており、半数ではツツハナチビコナダニだけが発生しています。ツツハナコナダニだけが発生している果樹園はありません。 一方、ツツハナコナダニは寄主の糞を摂食しません。このため育房あたり侵入個体数が少ないと、(寄主を殺戮できなかった場合)寄主の発育にともなう早期の餌量不足によって死亡する危険性が考えられます。ツツハナチビコナダニの場合と異なり加害生存育房の割合は少なく、加害死亡育房は(発生量が少ない場所では)ほぼ同じ割合でしか見られません。これは、ツツハナコナダニが糞を摂食して発育できないため、寄主をできるだけ殺戮するようになっている結果なのかもしれません。
便乗型第2若虫は、休眠覚醒した寄主(ツツハナバチ類)成虫の体に長時間付着した後に寄主体から脱落し、発育を再開し第3若虫になります。便乗型第2若虫の発育再開(発育の活性化)には寄主体への付着が不可欠で、付着期間はツツハナコナダニでは8〜10日間、ツツハナチビコナダニでは11〜13日間あればほぼ十分であるといえます(最短付着期間と最長付着期間は、両種ともそれぞれ1日と20〜21日間。付着してから50%の個体が脱落するまではツツハナコナダニでは5〜6日、ツツハナチビコナダニでは5〜8日。一方、発育活性化率50%となる付着期間は、ツツハナコナダニでは5〜7日間、ツツハナチビコナダニでは6〜8日間。)。この付着期間中に寄主体から何らかの物質(血リンパ?)を十分に吸収することで発育が活性化すると推測されています。もし、(便乗型・シスト様型どちらかの)第2若虫を発育活性化が起こらない状態で寄主の花粉団子に接種しても、第3若虫にならないまま死亡します。「便乗型第2若虫が自ら歩行して寄主の巣内に入り、さらに育房内に侵入して加害する」ということは起こりえません(昔、このような考察をされた論文がありました)。
では、便乗型第2若虫がいつ、どのようにして寄主(ハチ)の体にしがみ付くのか? 便乗の機会1.もっとも多いのは、休眠覚醒したハチが脱繭し、仕切壁を破壊して越冬巣から出るときです。脱繭したハチが巣から脱出するのには普通、数日を要します。このゆっくりとした越冬巣からの脱出は、コナダニ類にとって好都合なのです。コナダニ類の加害育房をハチが通過する際、便乗型第2若虫はハチ体の付着に適した部位に余裕をもってたどり着くことができます。 便乗の機会2.次の機会は、越夜のためにメス・オス成虫が便乗型第2若虫が存在する越冬巣に入ったときです。ハチが筒内で長時間過ごすことになるので、この場合にも付着は容易でしょう。 便乗の機会3.次は、メス蜂がコナダニ類が存在する越冬巣を再利用営巣したときです。巣内清掃時、営巣期間中の巣内休息時など付着する機会はたくさんあります。 便乗の機会4.最後は、越冬巣で大量に生産された便乗型第2若虫が1.〜3.の機会にしがみ付けなかった場合で、便乗型第2若虫は自ら越冬巣の入口まで歩いて出てきます。そして越冬巣に近接するヨシ筒にまで歩行・分散します。近くのヨシ筒に移れなかった個体は、ポトポトと越冬巣の巣口から落下しています。これらの近くにハチが飛来・着陸すれば、ハチ体にしがみ付くことができそうです。これはツツハナコナダニが大発生したときに起こります。
これら4つの機会以外に、いったんしがみついた個体がハチの交尾時に(メス蜂からオス蜂に、あるいはオス蜂からメス蜂に)乗り移ったり、花上や採土場などに脱落した個体が別のハチに乗り移る可能性が指摘されています。しかし、便乗型第2若虫にとってハチの体にしがみ付くことは発育活性化に不可欠なことで、付着期間が不足することは死につながります。いったんしがみ付いた個体がハチの体から離れることはコナダニにとって極めて危険なことです。このため、交尾時や巣から離れた場所(花上や採土場)での再しがみ付きは疑問視されています(コツノツツハナバチでは、寄主から離脱した第2若虫の再しがみ付きは実験によって否定されています。しかし花を媒体とする移動はマルハナバチ類に寄生するヤドリダニ科Parasitidaeの一種Parasitellus fucorum では実験的に証明されています(Schward & Huck,1977;)。コツノツツハナバチに寄生するコナダニ類でも寄主から離脱してしまった第2若虫での追加実験が必要かもしれません)。
便乗型第2若虫は寄主体に長時間付着することで発育が活性化されます。これに対して歩行能力のないシスト様型第2若虫の発育活性化はどのようにして起こるのか? 歩行できなければハチ体にしがみ付くことはできませんから、しがみ付きとは別の方法で活性化が起こっています。 中塚(1986)の実験では、シスト様型第2若虫と休眠覚醒した寄主を狭い場所に(接触させないで)一緒にしておくと発育が活性化されることが分かっています(これを「臭い付け」と呼んでいます)。つまり、休眠覚醒した寄主(ハチ)がもつ特異な化学物質がシスト様型第2若虫に作用して発育活性化が起こっているのです。ハチのもつ化学物質がツツハナコナダニにとって有利に作用している訳で、カイロモン(kairomone)が発育活性化に関与していることになります。 発育活性化が起こるのには6日以上の同居期間が必要で、10〜11日以上あれば十分となります。同様の同居処理を便乗型第2若虫に行なった場合、発育活性化が起こるのには14日以上の同居期間が必要で、18日以上行なっても4%以下の個体でししか発育は活性化されません。このことは、便乗型第2若虫にとってハチ体にしがみ付くことがいかに重要なのか、そして、シスト様型の場合と同様にハチ体から発する化学物質も発育活性化に関与していることを示しています。 発育活性化の後、シスト様型第2若虫も第3若虫になります。ここでようやく移動能力が生まれる訳です。しかし、第3若虫には便乗型第2若虫のような「しがみ付き」に適した器官はありません。せっかく第3若虫になっても、越冬巣がメス蜂によって再利用営巣されなければ餓死するしかありません。
発育活性化処理を行なった第2若虫は、数日後に第3若虫になります。処理後、第3若虫になるまでの期間は、発育活性化の処理期間が長いほど短くなります。8日間以上処理すると第3若虫になるまでの期間がツツハナコナダニでは3日間、ツツハナチビコナダニでは7日間となります。両期間の合計(=発育活性化処理期間 + 第3若虫になるまでの期間)は、ツツハナコナダニでは発育活性化処理期間が5〜8日間のとき11日間、ツツハナチビコナダニでは同様に4〜7日間のとき14日間と最短になります。ただし、前述のように発育活性化処理の効果が十分となるには、ツツハナコナダニ便乗型で8〜10日間、シスト様型で10〜11日間、ツツハナチビコナダニ便乗型で11〜13日間が必要です。両期間の合計を便乗型で比較すると、ツツハナコナダニでは11〜13日間、ツツハナチビコナダニでは14〜20日間となり、ツツハナチビコナダニでは第3若虫になるまでの期間がかなりばらついていると言えます。 第3若虫になれば、花粉団子を食べることが可能になります。というより食べなければ餓死してしまいます。第3若虫が絶食に耐えることのできる日数は、ツツハナコナダニ便乗型由来のものでは3〜8日間(平均5日間)、シスト様型由来で2〜5日間(平均3日間)、ツツハナチビコナダニ便乗型由来ではで3〜6日間(平均4日間)です。 運良く、第3若虫になり、さらに運良く餓死する前に花粉団子の餌にもありつけた場合、花粉摂食後に成虫になります。成虫になるまでの日数は、気温が高くなるほど短くなります。16℃(= コツノツツハナバチの営巣期間中の平均気温)のとき、ツツハナコナダニでは8〜9日、ツツハナチビコナダニでは11〜13日かかります。
寄主を殺戮するコナダニ類の発育ステージは成虫です。ツツハナコナダニとツツハナチビコナダニの成虫は、育房内に寄主の幼態が存在すると、集団で攻撃し(大顎で体表を噛み破って体液を吸液し)殺そうとします。殺される寄主の発育ステージは多くの場合、卵です。2齢幼虫(ハチ類の場合、卵の中で1齢幼虫となり、孵化して現れるのは2齢幼虫です)や、稀に発育初期の3齢幼虫まで殺されることがあります。
体表(卵の場合は卵殻)を傷つけられた寄主幼態は体液を吸われて死亡します。体表面に穴をあけて体液を吸うとしてもコナダニ類は体が小さいので、集まってきたコナダニ類の個体数が少なければ殺されないで次のステージに発育できる可能性が生じます。集まってきたコナダニ類の個体数が多いほど、そして寄主の発育ステージが若いほど殺される確率が高くなります。寄主幼態を100%殺戮できる個体数(平均)は、ツツハナコナダニでは32〜38個体以上、体が小さいツツハナチビコナダニでは40個体以上となります。両種コナダニ類とも個体数が40〜50個体以上になると、ほとんどの場合、殺戮に成功します。 コナダニ類の成虫は、寄主幼態を殺戮すると(しなくても)交尾・産卵し、反復繁殖相が始まります。寄主が死亡していれば数ヵ月のうちに花粉団子は消費されます。盛夏〜翌早春まで、この育房はダニと花粉カスでいっぱいの状態が続きます。
VS しがみ付けるならオスでも構わないツツハナチビコナダニ コナダニ類による加害が見られる巣は、完成巣で多いのか、あるいは未完成巣で多いのか?と疑問に思われる人がおられるかもしれません。答えは「マメコバチの営巣期間が平均的に短い個体群(営巣1メスあたりの営巣本数が1.5本程度)では未完成巣での加害率が高くなる。そして営巣期間が長くなれば、第1本目の未完成巣率が高ければ未完成巣での加害率が高くなり、第1本目の未完成巣率が低ければ完成巣での加害率が高くなる」となります(この傾向は、ツツハナコナダニによる加害が多いときにはっきりします。しかし、ツツハナチビコナダニの加害率が高くなれば、この傾向は弱くなります。さらに個体群全体でのコナダニ類発生率が高いときや、越冬巣の営巣再利用率が高いときにも、傾向が出にくくなります)。このような傾向は、便乗型第2若虫経由の加害発生が第1本目の巣筒に集中して起こることに起因し生じています。 巣内における加害発生部位にも規則性があります。これは、コナダニ類の第2若虫便乗期間と便乗後期間、第3若虫の耐絶食期間によって説明することができます(下図のとおり)。ツツハナコナダニでは第1本目の巣筒の第1〜3育房に加害が集中します。第2本目では加害は生じにくいものの、発生した場合には奥側の育房に加害が集中します。一方、ツツハナチビコナダニでは第1本目の巣筒の第4〜6育房までに加害が集中します。第2本目以降では奥側の育房に加害が集中します。発生頻度は第2本目では第1本目よりより発生は少ないものの普通に加害が起こります。第3本目での加害発生はさらに少なくなります。
以上のような加害発生部位の規則性は、ツツハナコナダニでは顕著で、ツツハナチビコナダニでははっきりしない場合の方が多くなります。この理由は、ツツハナチビコナダニの場合、1.寄主のオスに便乗し新巣に運ばれる機会が多いこと、2.第2若虫の「便乗期間+便乗後期間」が長いため、(もしオス蜂に便乗し新筒内に運ばれた場合でも)メス蜂に営巣利用されるまで長期間待つことが可能なことにあります。これに対してツツハナコナダニでは、オス蜂に早くから便乗することは餓死する恐れがあるので危険なことなのです。 ツツハナチビコナダニの第2若虫が寄主のオスに便乗することが多いのは何故か? これは、第1本目での発生位置が第4〜6育房にまで及ぶため、オス育房に発生する確率が高くなるためです。また、寄主幼態を殺戮できなくても(第2若虫の個体数が少ないことと第3若虫の発育日数との関係で殺戮できないことの方が多い)、生存上問題ないこととも関係しています。ツツハナチビコナダニは花粉団子だけでなく糞食でも生存できるため、寄主を殺戮しようとする行動が弱いのかもしれません。
ツツハナコナダニでは便乗型第2若虫がシスト様型より圧倒的に多く、メス育房に多く発生するように適応しています。主要な繁殖戦略は、寄主のメス蜂に便乗して効率よく分布を拡大することです。そしてごく僅かなシスト様型を生産することにより、越冬巣が再利用された場合にも確実に次世代を残せるようになっています。 一方、ツツハナチビコナダニでは便乗できないステージが多いので、越冬巣が再利用されるのを待つという一見、非効率的な戦略が中心です。しかし、人手の加わらない自然状態ではマメコバチの営巣基は非常に限られているため、実は効率的なのかもしれません。そして便乗型第2若虫を僅かに生産し、メス蜂への便乗(=確実に子孫を残せる)だけでなくオス蜂にも便乗して分布を拡大しています。オス蜂への便乗は、子孫を残せるかが不確実なので、この戦略への投資(便乗型第2若虫の生産数)は僅かとなっています。 |
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防除方法には、薬剤(農薬など)を使う化学的防除法と薬剤を使わない物理的防除法があります。他の生物を利用する生物的防除法も考えられますが、研究報告例はありません。化学的防除法は簡便ですが、人体などへの影響を考慮するとあまり採用したくないものです。生物的防除法が開発される可能性がゼロだとは言いませんが、簡便な物理的防除法があるのならばコストをかけてまで開発することもないでしょう(マメコ研では数種類の生物的防除法が利用できると考えていますが、こういう理由から研究を中断しています)。
エンドスルファンEndosulfan(ベンゾエピン)乳剤は、商品名マリックス乳剤(30%)として販売されている殺虫剤です(急性毒性の区分は毒物です)。この農薬を使用したツツハナコナダニ防除法は、青森県りんご試験場の元場長の山田雅輝博士が開発されました。しかし、この農薬は水質汚濁性農薬としても有名で、現在では使用を禁止されている地域もあります(例えば長野県内では全域使用禁止)。また、この農薬の成分は、内分泌攪乱作用が疑われる化学物質(環境ホルモン)として疑われる化学物質としてリストアップされています。ですから、使用が禁止されていない地域であってもこの農薬を使用してツツハナコナダニ防除を行なうことはお勧めできません。しかし、とりあえずどうやって処理するのか、その方法を解説しておきます。 処理は60ppm(マリックス乳剤5000倍)の低濃度で行ないます。処理倍率を間違えて高濃度で処理すると、コツノツツハナバチが死亡することがあります。 1a. 設置前のヨシ筒を処理する方法 処理は、コツノツツハナバチが飛翔活動を開始する1週間ほど前に行ないます。新しく営巣させる予定のヨシ筒と薬液(5000倍液)を多量に準備します。次に、薬液を入れた容器にヨシ筒を浸漬させます。このとき、薬液がヨシ筒内部に十分に入り込むようにヨシ筒を上下に揺り動かします。筒内部が完全に薬液で濡らした後、筒の入口を下に向けて振って、薬液を筒内部から出します。この後、倉庫内などにヨシ筒を広げて置き、筒内部を乾燥させます(乾燥するまでに数日かかります)。十分に乾燥したら、ヨシ筒を巣箱に設置します。 このように処理されたヨシ筒をコツノツツハナバチは嫌うことなく営巣利用し、ツツハナコナダニはごく僅かしか発生しなくなります。ハチの子孫がマリックス乳剤5000倍の影響で死亡することはありません。 しかし、この処理の後には大量の廃液が出ることになります。水質汚濁性の強い農薬ですから、その処理に困ることになります。ですから、この方法は使用しないようにしてください(未だにこの処理方法がマリックス乳剤の使用方法として記載されていること自体、問題だと思うのですが・・・)。 1b. 脱繭が始まる前の繭に散布する方法 処理は、コツノツツハナバチの越冬期間中(できれば3月、飛翔活動開始の1ヵ月前)に行ないます。作業はできれば10℃以下の場所で行ないます。前年に営巣されたヨシ筒を切開し、繭を取り出します。薬液(5000倍液)は小型の農薬噴霧器(家庭園芸用の1〜2リットル程度を散布するタイプ)に作ります。繭を新聞紙などの上に広げて並べておき、薬液を繭全体が軽く濡れる程度散布します。そのまま繭が乾燥するまで(夜、凍らない場所に)置いておきます(乾燥するまでに1〜2日かかります。)。処理する繭の量にもよりますが、1リットルの薬液でも相当量の繭を処理できますので、薬液を作り過ぎないよう極少量ずつ作って処理するようにします(薬液を作りすぎても、捨てることのできる場所はないと思ってください)。乾燥させた繭は、その後、野外と同じ温度で保管します。処理後の繭の保管方法を誤らなければ、コツノツツハナバチは正常に脱繭し、それまでにツツハナコナダニは死亡していますので、コツノツツハナバチの体にしがみ付くことはほとんどありません。 薬液を繭に噴霧する代わりに、繭を薬液に数秒間浸漬することもできますが、廃液処理に困ることになるので、噴霧した方がよいでしょう。 1c. 前営巣期に処理する方法 この処理は、巣箱(巣箱内のコツノツツハナバチの古巣)に対して行なうことになります。普通は巣箱の置いてある果樹園内で薬液を散布することになりますので、厳密には登録のあるリンゴでのみ処理が可能です。リンゴ以外の果樹園では、巣箱を果樹園の外に出して行えば大丈夫だとは思いますが、登録作物か否か、そして総使用回数を確認してから行なって下さい。 処理は、コツノツツハナバチの飛翔活動が始まってから、営巣活動開始の数日後までの間に行ないます。処理可能な期間は、およそ3週間(遅放飼する場合には2週間)あります。この頃に、古巣からマメコバチが体にツツハナコナダニ便乗型第2若虫を付けて出てきます。また、コツノツツハナバチの体にしがみ付けなかった便乗型第2若虫は、古巣の置くから筒の入口まで這い出してきます。これらを少しでも殺すことを目的に薬液(5000倍液)を散布します。前記のような小型の農薬噴霧器を使い、巣筒内部がしっかりと濡れるように薬液を古巣の入口に向かって慎重に散布します。処理回数は多いほど良いのですが、マリックスの総使用回数が2回以内と制限されていますので、2回行ないます。リンゴで遅放飼する場合には、巣筒を設置してから数日後とリンゴが開花する数日前の2回、遅放飼しない場合には、ソメイヨシノ桜が開花する5日ほど前と桜の開花日頃の2回が良いと思います。もし使用回数の制限がないのであれば、コツノツツハナバチの飛翔活動が見られた日には毎日でも散布したいところです。 処理する時期には天気が良ければ日中はコツノツツハナバチが飛翔活動を行なっています。コツノツツハナバチは、内部が濡れた筒に入るのを嫌がります。また、散布液が体にかかって濡れると、しばらく飛翔活動ができなくなります。このため、コツノツツハナバチの飛翔活動が終わった夕方に(ヨシ筒の内部にハチがすべて戻ってから)散布することが勧められています。もし、夕方に散布する時間がない時には、日中(飛翔活動が終わる頃までには散布液が乾くような時間帯:お昼前後)に散布しても構いません。天気が良ければ、散布液で濡れた筒でも1時間前後で乾きます。 この処理の目的は、ツツハナコナダニによる被害を軽減することで、ツツハナコナダニが既に大発生している場合には、十分な効果は期待できません。これは、巣筒の奥にまで薬液がかからないため、ツツハナコナダニを完全に殺すことができないためです。 この処理は、本来はツツハナコナダニが発生している古巣に対して行なうものですが、新しいヨシ筒を浸漬処理していない場合には、これらに対して行なっても構いません。ただし、上記と同様に被害を軽減することしかできません。
エンドスルファン(ベンゾエピン)乳剤は危険性の高い農薬で使用しにくいため、秋田県果樹試験場ではDDVP乳剤(3000倍液)やプロチオホス水和剤(商品名:トクチオン水和剤、10000倍液)を使ったツツハナコナダニの防除方法を開発しています。しかし、現在までに農薬登録がされていないので、ここでは解説しません。詳細はnetで検索すれば見れます。エンドスルファンほどの危険性はないものの、農薬登録されたとしてもあまりやりたくない方法です。エンドスルファンと同様に処理濃度を誤るとコツノツツハナバチが死亡する危険性もあります。
物理的防除法の一つになります。この方法は、コツノツツハナバチの幼態が繭内で前蛹となっている時期(仙台では7月10日頃)に巣(繭)を高温(30〜42℃)で処理するというものです。前記のエンドスルファン(ベンゾエピン)乳剤による処理方法と同様に、青森県りんご試験場の元場長の山田雅輝博士が開発されました。 処理期間の長さは、高温であるほど短くて済み、30〜32℃では40〜60日、40℃では60時間、41℃では24時間、42℃では20時間でよいとされています。この高温処理によってコツノツツハナバチの前蛹は死亡することなくツツハナコナダニだけが死亡するようです。 この方法は、処理効果は高いものの実用化されていません。これは、この時期に巣を切開して繭を取り出すことが困難であるため(時間的に無理があること、繭を取り出す作業によってコツノツツハナバチの前蛹が死亡する危険性があることが理由です)、巣筒ごと処理する必要があり、大きな処理スペース(大型の処理施設、恒温器)が必要となるためです。また、処理中に機械が故障して高温になると、コツノツツハナバチも死ぬ危険性があります。このような理由から、この防除法が広く普及する見込みはありません。
巣を切開して取り出した繭を『ふるい』にかけてコナダニ類を除去するという方法が長野県などでは以前から行なわれています(2006年5月2日の日本農業新聞の記事など)。しかし、この方法ではコナダニ類を除去することはできません。むしろコナダニ類が付着していない健全な繭にまでコナダニ類を付着させてしまうことになります。こういう方法が未だに指導されているとしたら、大変残念なことです。
5. 砂を入れた容器でコナダニ類を擦り落とす方法 巣を切開して取り出した繭を、砂を入れた桶などの容器に入れて、その容器を揺すって繭表面に付いたコナダニ類を砂で擦り落とすという方法です。この方法も長野県などでは行なわれているようです。しかし、『ふるい』による方法と同様に十分な効果が期待できないだけでなく、被害を拡大させる結果(= 健全繭への新たなコナダニ類の付着)になりかねません。『ふるい』よりは まし かもしれませんが労力ほどの効果は期待しない方がよいでしょう。
上記のような処理方法には、それぞれさまざま問題点があり、一般の農家さんには行ない難いと言えます。マメコバチ研究所でも上記の方法を含めてさまざまな方法を試してきました。上記の方法以外にもコナダニ類(ツツハナコナダニだけでなくツツハナチビコナダニも)を完全防除できる方法は見つかっていますが(たとえば繭を火であぶる!ことも有効でした)、手順が煩雑であったり高コストであるなどで、完全防除済みのコツノツツハナバチを販売できるまでには至っておりません(また、コツノツツハナバチ利用地域では、もともと自然のコツノツツハナバチが近くに生息している場合がほとんどで、そのような自然の(コナダニ類に便乗された)コツノツツハナバチの移入が起こる可能性が高いところにコナダニ類完全フリーの状態で出荷しても仕方ないと考えます)。しかし、コナダニ類の発生量がきわめて低いレベルになるような処理を施して『種繭』を出荷しております。また、『種巣』もこのような処理を施した種繭を元に生産したもので、さらに巣筒を切開検査してから出荷しております。 ここでは、マメコバチ研究所で試したさまざまな方法のなかから、一般の農家さんにでも簡便かつ安全にできる方法として『繭洗浄法』をご紹介いたします(特許等出願するつもりはありませんが、他のコツノツツハナバチ販売業者の方にはご使用を控えていただきたいものです)。 この処理方法は、(JA仙台利府支店での講演・実演を取材され)日本農業新聞(2006年12月12日)に掲載されました。記事やこのHPを読まれただけでは分からない点がありましたら、e-mailで問い合わせください。分かり難い箇所をご指摘いただければ、加筆修正したいと思います(しばらくの間、このページは頻繁に更新する予定です)。 繭洗浄処理は、コツノツツハナバチの脱繭時に体にしがみ付く(ツツハナコナダニとツツハナチビコナダニの)便乗型第2若虫の個体数をコツノツツハナバチの幼態が殺戮されにくいレベルまで減らすことを目的としています。この処理によるコナダニ類の除去率は(手順どおりに適切に行なえば)99%以上になります(ただし、上記のように除去率には意味がありません)。100%ではありませんので、ごく僅かなコナダニ類が残存します(残存しているものには、死亡個体と生存個体の両方があります。また、除去率が100%になることもあります)。残存個体数(平均±SD、n = 10)はツツハナコナダニでは12±6.3頭(うち生存個体は2.8±2.5)、ツツハナチビコナダニでは0.2±0.3頭(すべて死体)でした。これだけの数のコナダニ類が寄主1育房に進入したときの寄主死亡率は、ツツハナコナダニでは9.1〜16.3%(ツツハナチビコナダニではゼロ)とになると予測されました(このツツハナコナダニでの値は非常に高いように思えます。しかし、1メスの果樹園での産卵数を14とすると、子孫の死亡率は0.65〜1.16%にしかなりません)。しかし、この実験は大量のコナダニ類を繭にまぶして行なったものです。実際の巣筒切開&繭洗浄処理では、処理繭に付着しているコナダニ類の合計数は非常に少なくなるはずです。ですからツツハナコナダニでも残存個体数は1以下になる(平均生存個体は限りなくゼロにちかくなる)場合がほとんどだと思われます。 ところで、従来、なぜ繭を洗うという方法が考案されなかったのか?と疑問に思われる方がおられることでしょう。おそらく繭を濡らすことが繭内への浸水や、内部のハチの窒息死につながることを心配されたせいでしょう。マメコ研では繭の浸水試験の結果と、休眠状態のコツノツツハナバチの呼吸量を考慮した結果、以下のように洗浄処理を行なえば繭内のハチに悪影響はないと判断しました(そして何年間も放飼試験を行なって問題なく脱繭・営巣することを確認しています)。
繭洗浄の手順は、要約すると下表次のようになります。1.は下準備で、通常行なわれている『巣筒の切開』作業と同じです。2.が繭洗浄処理となります。3.以降は『巣筒の切開』に続いて通常行なわれているとおりの作業です。
繭洗浄処理は、ツノツツハナバチOsmia taurusの繭でも行なうことができます。しかし、ツノツツハナバチの場合、繭がコツノより柔らかいので上記の「こすり洗い」と「すすぎ洗い」をできるだけ優しく行なってください。ただし、繭がどうしても変形してしまう(巣から取り出した時点でも変形する場合が多い)ため、処理効果はコツノの場合より低下します。 工事中
上に「繭は、ゆるやかに紡がれた繭糸外層と緻密に紡がれた繭糸内層とに分けられます」と書きました。つまり外層と内層の2層構造ということです。しかし、より厳密に分ければ外層、内層、最内層の3層構造であるといえます(または、外層、中層、内層の表現が良いのかもしれません)。 外層(outer layer)は白っぽい非常に細い糸で柔らかく、やや膜状となり、より下の層を被覆しています(この層をさらにもう1層に細分し、4層構造とすることがあります)。また、外側では糞と一緒に紡がれています。被覆がゆるく隙間が多いため、コナダニ類はこの層の下に潜り込むことができます。また、繭を指で擦るとこの層は容易に剥ぎ取れます。この層は水をはじき易いことも特徴の一つです。繭洗浄処理のときには、最初に吸水性のある内層によく水に馴染ませることで外層を剥がれやすくしています。 内層(middle layer)は、少し光沢のあるコルク色(少し明るい茶色?)のやや太い糸で、最内層をぴったりと被覆しています。この内層には吸湿性があります。また、指で擦ってもなかなか剥ぎ取れません。剥ぎ取るためにはナイフなどで少しずつ削ぎ落とす必要があります(ここまでする人はいないでしょうから、繭洗浄処理の解説では2層として記述してきました)。それくらいぴったりと最内層に張り付いているので、この層より下にはコナダニ類は入ることができません。 最内層(inner layer)は黒褐色(濃い紫色)の硬い皮状の層です。3層のなかでは最も密度の高い層となっています。この層は顕微鏡下で見ると、非常に細い糸がタンパク質のようなもので固められていて、やや光沢をもっています(そしてハチがいる内側の面は非常に強い光沢をもちます)。ですから肉眼レベルでは繭糸でできているようには見えません(混入している繭糸は少なく、ほとんどタンパク質様物質でできているのか?)。コツノツツハナバチの繭を指で押すと「パリパリ」と反発するときの音がしますが、その音はこの最内層から出ています。この硬い皮状の最内層が繭内のハチを保護する最も重要な部分です。繭に針を刺そうとしてもなかなか刺さらないのはこの硬い層があるからです。ザルの網目に繭を押し付けるようにして洗浄しても繭が潰れにくいのは、この層のおかげです。そして繭を水に数時間浸しても繭内に浸水することがないのも、この層の存在によるものです(それでも繭を長時間水に漬けておくと、この層は次第に柔らかくなってきます)。そしてこの層は空気も通しません(たぶん)。 今度は、水も通らないほど密閉されているのにどうして内部のハチが呼吸できるのか?との疑問をもつ人が出てくるかもしれません。それにお答えします。繭は一見、俵型に見えます。しかしよく見ると後部は半円形、前部は紡錘形となっており、前部の先端には白っぽい(肌色の)小突起(cocoon nipple)があります(上にある写真「繭糸内層」をご覧ください)。この小突起は外層を剥ぎ取ると良く分かります(このときの直径は2mmほど)。さらに内層を剥ぎ取ると、最内層にも肌色の小突起部分(直径0.8〜0.9mm)があることが分かります。この小突起部分の糸は細く、外層のものに似ています。そして比較的柔らかく紡がれています。小突起の糸を顕微鏡下で微針を使って剥いでいくと、やがて最内層には丸い小さな穴(直径0.6mmほど)が開いていることが分かります。これが内部のハチにとっての空気穴となっているのです。この穴となる場所の外部に厚く盛り上げるように紡いで小突起が作られ、穴が柔らかい糸で塞がれていたのです(というより、最内層を作るときに分泌されるタンパク質様物質?が小突起部には少ししか塗られないため繭糸が皮状にならない?)。小突起は繭糸でやさしく保護された空気の通り道なのです。ここは厚い繭糸層なので水が通過して繭内に入るためには、相当の圧力(または時間)が必要となります。繭内にはハチとともにたくさんの空気が入っていますから、水に漬けてもいつまでも浮いています。この状態では圧力はそれほどかかっていませんので、なかなか浸水しないのです(しかし1日以上水に漬かっていると、小突起部の繭糸は吸水していき、じわじわと繭内に浸水してきます。ハチが溺れるほどの浸水は、2日くらい水に漬かっていた程度では稀にしか起こりません。ただし、営繭する場所(地域)によっては、あるいは細い筒で生産された♀繭では繭糸層が通常より薄くなることがあります。この場合には浸水が早まります)。ですから、繭内に浸水してハチが溺死するより先に空気が遮断されて窒息することになります(ただし、繭によっては比較的早くから浸水するものが時々みられ、この場合には溺死ということになります)。 では、洗浄処理によってで繭内のハチが窒息死することはないのか?という疑問が生じます。少し上に、「繭内にはハチとともにたくさんの空気が入っていますから」と書きました。これがハチが窒息しない1番目の理由です。2番目は、越冬期のハチは休眠状態にあり(ほとんど動かないため)呼吸量が少ないので大丈夫だということです(5℃で休眠しているメス蜂の呼吸量は、人間の2千万分の1程度の極微量です)。洗浄処理を冬から早春のまだ早い時期までの間に行なうのは、休眠がまだ完全には覚醒していない時期だからです。この時期であれば1、2日くらい繭が完全に乾燥していなくても窒息死しません。しかし、休眠状態にあるとはいえ高温にさらされると呼吸量が多くなります(5℃の状態から温度が5〜6℃上昇しただけで呼吸量が倍増します)。洗浄の際に繭を冷水で処理し、無加温で乾燥させるのは、呼吸量増加を防ぐためです。いずれにせよ窒息死が心配なら、繭(厳密には小突起部分)を少しでも早く乾燥させるようにした方がよいでしょう。
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