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コツノツツハナバチ(マメコバチ)の利用
飼養管理

コナダニ類の生態と防除
コナダニ類の生態
コツノツツハナバチ(マメコバチ)に寄生するコナダニ類

 コツノツツハナバチに寄生するコナダニ類は、植物につくハダニや家の中にいるヒョウダニ、吸血するマダニの仲間とはぜんぜん違います。ツツハナバチ類の巣がなければ生活史を完結(つまり生存)できません。果樹や野菜や人間に害を及ぼすような種類ではありませんのでご安心ください(ダニ・アレルギーの人にはアレルゲンになるのかもしれませんが)。逆に、果樹や野菜や人間に害を及ぼすようなダニ類はコツノツツハナバチを加害したりしません(たまに勘違いされます)

コナダニ類の種類

 コツノツツハナバチを加害する天敵類のうちもっとも恐ろしいのはヒヨドリです。その次を挙げるとしたらコナダニ類Astigmata になるでしょう。コツノツツハナバチに寄生するコナダニ類には2種類(正確には3種類)あります。ニッポンツツハナコナダニChaetodactylus (Chaetodactylus) nipponicusツツハナチビコナダニの一種Tortonia sp.(未記載種)です。以下、このホームページでは和名を省略してそれぞれツツハナコナダニ、ツツハナチビコナダニとして使います(下記の「和名について」の項をご覧下さい)。この2種はコツノツツハナバチに寄生して似たような被害をもたらすのですが、違う分類群に属します。ツツハナコナダニはHemisarcoptoidea(上科) ツハナコナダニ科Chaetodactylidae、ツツハナチビコナダニはAcaroidea(上科) ツツハナチビコナダニ科(仮称)Suidasiidae のコナダニです。
 コツノツツハナバチに寄生するもう1種類のコナダニはChaetodactylus (C.) hirashimai です(和名については後述するとおり)。本種は長野県以西の西南日本から記録されいます。コツノツツハナバチOsmia cornifrons のほかシロオビツツハナバチO. excavata、オオツツハナバチO. pedicornis、イマイツツハナバチO. jacoti の計4種に寄生します(屈ら, 2002)。本種の分布記録から考えると、シロオビツツハナバチがおもな寄主だと推測されます。長野県での分布記録がわずかである(つまりコツノツツハナバチでの寄生記録が少ない)ことも合わせて考えると、コツノツツハナバチが(送粉昆虫として利用されるようになって以降)他の寄主(シロオビツツハナバチなど)と混生した結果、2次的に寄生するようになったのではないかと推測されます。このような理由から、当ホームページではC. hirashimai をコツノツツハナバチの天敵として扱っていません。

和名について

 コツノツツハナバチの生態のページにもあった和名問題です。このホームページでは屈ら(2002)にならってツツハナコナダニ属Chaetodactylus のコナダニC. nipponicus をツツハナコナダニ、ツツハナチビコナダニ属Tortonia のコナダニT. sp. はツツハナチビコナダニと呼ぶことに統一しています。しかし、C. nipponicus は最初は「コナダニの一種Chaetodactylus sp.」と呼ばれており、後にキタツツハナコナダニという和名で呼ばれるようになりました(理由は、本種が本種がおもにコツノツツハナバチ(北日本に偏って分布)を寄主としていることによるものと思われます)。その後、記載(Kurosa, 1987)の少し前からツツハナコナダニと呼ばれるようになっています。しかし、青森県では長い間キタツツハナコナダニと呼ばれてきたため、これが正式和名のように使われています。一方、日本ではツツハナコナダニ属Chaetodactylus から2種が記録されています。C. nipponicusC. hirashimai です。C. hirashimai にはヒメツツハナコナダニという和名が付けられています。本種は西南日本(長野県以西)に分布し、コツノツツハナバチにも寄生することがあります(屈ら, 2002)。このことから考えてC. nipponicus の和名はキタツツハナコナダニとしても良いのかもしれません。少なくとも、ツツハナコナダニ属には2種いるのですから、ツツハナコナダニという和名(=属名そのままの和名)は良くありません。せめて種小名からニッポンツツハナコナダニ(櫛田ら, 1998:正確にはこれと一緒に配布された本文正誤表に記述がある)に改称した方が良いと思います。また、同じ理由でC. hirashimai の方もヒラシマツツハナコナダニに改称した方が覚えやすいと思います。
 一方、ツツハナチビコナダニ属Tortonia の一種T. sp. は未記載のまま(新種だと分かっているにもかかわらず)長く放置されています。一応、ツツハナチビコナダニと呼ばれていますが、属名と同じ和名というのは良くありません。櫛田ら (1998:)はケナガツツハナチビコナダニと呼んでいます。このままケナガツツハナチビコナダニという和名にするか、あるいは正式に記載されてから種小名に合わせて和名を改称するのが良いと思います(Tortonia 属の他の種類と比較して、毛が本当に長いのか怪しいので、とりあえずツツハナチビコナダニの一種と呼んでおく方が良いと思われます)。

1.生活史

 コナダニ類には、卵、幼虫、第1若虫(protonymph)、第2若虫(deutonymph)、第3若虫(tritonymph)、成虫の6つのステージがあります。ツツハナコナダニの第2若虫便乗型(Phoretic deutonymph、またはヒポプスhypopus)とシスト様型(Cyst-like deutonymph)の2種類に分けられます。便乗びんじょう phoresy)とは、寄主(コツノ(マメコ))幼態またはその餌(花粉団子)を食べる寄生者が寄主成虫の体に取り付き、新たな繁殖場所(巣内)に運ばれることを言います。ツツハナコナダニには2タイプの第2若虫がありますが、ツツハナチビコナダニの第2若虫には便乗型しかありません。この便乗型第2若虫は、一時的にツツハナバチ類の成虫の体に取り付き、巣外の空気を吸うことになります。これに対して他のすべての発育ステージ(シスト様型第2若虫を含む)は、ツツハナバチ類の巣の中でのみ見られます。
 2種の生活史は下図のとおりです。

ツツハナコナダニの生活史
越冬態には便乗型とシスト様型の2種類の第2若虫がある(生活史の解釈にはいろいろな見解があり、それを示す図もさまざまです。ここに示した図は、従来の解釈とは異なるかもしれません)
ツツハナチビコナダニの生活史
越冬態には幼虫、第1若虫、第3若虫、成虫と1種類(便乗型)の第2若虫の計5種類のステージがある(ツツハナコナダニの場合と同様にここに示した図は、従来の解釈とは異なるかもしれません)

 第2若虫は、反復繁殖相において餌となる花粉団子が消費され、残り少なくなると発生します。この第2若虫は他の発育ステージと比べて体が硬く、口器が退化しています。そして、絶食条件に長期間耐えることができます。低温条件にも強く、冷蔵庫で保存すると2年以上生存しています。

2.加害された育房

冬季のコツノツツハナバチの巣内部(ツツハナコナダニ加害巣)
 左側の育房には繭(外側に糞(fecal pellet)が付着)が、右側の育房にはツツハナコナダニ便乗型第2若虫が多数見える(育房内には合計数千頭います)。右側の寄生育房にはシスト様型第2若虫もごく僅かに(全体の1%ほど)いますが、これらは仕切壁やヨシ筒の内壁に付着していることが多いので、この写真では分かりません(よく見れば2頭ほど確認できます)。左側の育房は繭があるので健全そうに見えますが、実は繭のまわりにはコナダニが多数(と言っても多くても数百頭まで)います。
 コナダニ類が発生している育房を加害育房(infested cell)と呼びます。寄主(コツノ(マメコ))が死亡してコナダニ類だけが見られる育房を加害死亡育房(写真では右側の育房)、寄主が生存しているのにコナダニ類が存在する育房を加害生存育房(写真では左側の育房)と呼びます。加害生存育房は繭の裏側まで注意深く調べてみないと分からない、という場合が多々あります。加害が認められる巣は、1.すべて加害死亡育房となったもの、2.健全育房と加害死亡育房と加害生存育房の3種類が見られるもの、3.健全育房と加害生存育房の2種類が見られるもの、4.すべて加害生存育房となったもの、の4種類に分けられます。健全育房と加害死亡育房だけからなる巣というのは、通常はほとんど見られません。
冬季のコツノツツハナバチの巣内部(ツツハナチビコナダニ加害巣)
 左側の育房がツツハナチビコナニの加害死亡育房、右側の育房は加害生存育房。この写真では、どちらにもツツハナチビコナダニの姿は見えません。ルーペ(拡大鏡)を通して見て、かろうじて姿が判別できます。ツツハナチビコナダニの加害生存育房は、知らない人が見ればどれも健全な育房に見えます

ヨシ筒の内壁に付着したツツハナコナダニのシスト様型第2若虫。ヨシ筒の内壁(育房内の入口側)に白っぽいシスト様型が数十個体付着しています(ダニより右側の黄色っぽい粉が付着している部分は加害育房内、ダニの左側には仕切壁の跡が見えます)。シスト様型はまったく動かないのでダニの死体のように見えます。しかし、ほとんどの個体は生存しています。 仕切壁に付着したツツハナコナダニのシスト様型第2若虫。発生育房の入口側の仕切壁(=次の育房の底壁)にも数十個体が付着しています。この写真では便乗型第2若虫も2、3個体見える(体に褐色の部分があるので判別できます)

ツツハナコナダニの便乗型第2若虫(上)とシスト様型第2若虫(下)。どれもダニの頭部を左側に向けてある。写真左側はダニの背面、右側は腹面。
 並べて見ると「体サイズはほぼ同じか、シスト様型の方が少し大きく見える」と思われた人がおられることでしょう。しかし、これは間違いです。実はシスト様型は、第1若虫の外皮を脱ぎ捨てないで、その外皮の内側に留まっているのです。写真をよく見ると、ダニの形をした外皮の内側にやや小さな丸い物体があることが分かります(どちらも乳白色なので分かり難いです)。この丸い物体こそがシスト様型第2若虫なのです。このシスト様型には脚がありませんので、動くことができません
 一方、便乗型第2若虫は淡黄色で、体の前側と後側が褐色になっています。腹部腹面の吸盤域(suctorial plate)はさらに褐色が強くなっています。また、第1若虫の形と比べると脚部がよく発達していることが分かります。第1〜3脚の先端には鋏爪がよく発達し、第4脚には非常に長い剛毛が生えています(このためhairy-footed miteと呼ばれます)。ツツハナチビコナダニの第2若虫も基本的にはツツハナコナダニの便乗型第2若虫と似た特徴をもちますが、第4脚の剛毛はそれほど長くは発達していません。

3.体サイズ

ツツハナコナダニ(左)とツツハナチビコナダニ(右)の便乗型第2若虫。 便乗型第2若虫の体長は、ツツハナコナダニではコツノツツハナバチの糞の幅とほぼ同じ長さです。比較的大きいので(視力が良ければ:糞が見える人には)肉眼でも認識できます。一方、ツツハナチビコナダニでは糞の幅の半分くらいしかありません。本種の寄生育房では、寄主を殺戮できないことが多いので寄主とダニの両方が発育している場合が多くなります。繭があるので一見正常な育房に見えても顕微鏡下で確認するとダニがいっぱい、ということになります。
左上のものは背面が、左下のものは腹面が見えている状態。体色は淡黄色(ツツハナコナダニでは各脚部と胴体の後部の褐色が目立つ)。胴体の後部腹面には吸盤があり、寄生育房を通過する際に寄主(コツノツツハナバチ)成虫に付着し新巣に運ばれる。

 ツツハナコナダニの体サイズ(体長)は、便乗型第2若虫でおよそ390μm(=0.39mm)あります。もう一つの越冬態であるシスト様型第2若虫の体長はおよそ0.30mmです。
 これに対してツツハナチビコナダニの便乗型第2若虫の体長はツツハナコナダニの半分くらいの大きさ、およそ170μm(=0.17mm)しかありません。本種の場合、越冬態には5つのステージがあり、最大のものは成虫で、体長は0.41〜0.54mmあります。しかし、(加害死亡育房について混生比率をみると)全体の1%(平均50頭)ほどしかいません。また、第3若虫は体長およそ0.33mmで20%(平均1000頭)、最も多い第1若虫ではおよそ0.27mmで60%(平均3000頭)です。このようにツツハナコナダニより小さい個体が多いことになり、しかも加害死亡育房より加害生存育房が多くなるという加害の特徴をもつため、ツツハナチビコナダニの発生に気が付かない人が多いのです。
 両種とももっとも体サイズの大きな発育態は成虫です。性比はおよそ0.5で、メスとオスがほぼ同数含まれます(そしてメス成虫は交尾後でしないと産卵しません)。オス成虫はメス成虫より小さく、体長はメスの76-77%ほどです。また、初期繁殖相(第1→第2→第3若虫を経たもの)の成虫は反復繁殖相の成虫(第1→第3若虫を経たもの)より小型です(体長比はおよそ80%)。さらにツツハナコナダニではシスト様型由来の成虫(シスト様型第2若虫→第3若虫を経たもの)は便乗型第2若虫由来の成虫(便乗型第2若虫→第3若虫を経たもの)より小型となります(体長比はおよそ75%)。この成虫の体サイズは、産卵数(繁殖能力)を決める重要な要因でもあります。

4.育房内の個体数

ツツハナコナダニ(左)とツツハナチビコナダニ(右)の寄生育房(越冬期)
寄主が死亡した育房には粉状の花粉カスに混じってコナダニが多数存在します。写真左端の仕切壁に白っぽいシスト様型第2若虫が付着しているのが分かります。

コナダニ類に寄生された育房における便乗型第2若虫の個体数
1個の育房における平均的な個体数を示した図です。実際の個体数は、コナダニ類の進入個体数、育房の大きさ、花粉団子の大きさ、コツノツツハナバチの子孫の性別、寄主の死亡時期などによってかなり変化します。便乗型第2若虫の個体数はツツハナコナダニではオレンジ色、ツツハナチビコナダニでは黄色で示してあります。グレー色の部分は便乗型第2若虫以外の発育態です。

 ツツハナコナダニの加害死亡育房には便乗型第2若虫が多数(2000〜5000個体)存在し、コナダニが淡褐色に見えます。育房内にはシスト様型第2若虫もごく少数(全体の1〜6%ほど、平均 1%:30個体)が存在します。加害生存育房ではシスト様型第2若虫の比率が若干高くなり、平均 2〜3%となります。
 一方、ツツハナチビコナダニに加害死亡育房には幼虫〜成虫までの5つのステージの3,000〜7,000個体が存在します。そのうち便乗型第2若虫は4〜20%、平均で6〜8%(およそ250〜450個体)しか存在しません(シスト様型第2若虫のステージは、本種には存在しません)。便乗型第2若虫以外のステージが大半ということになります。それらは透明に近い乳白色なので、加害された育房内にコナダニが見えたとしても乳白色に見えます。加害された育房の色(通常は淡黄色)は、ほとんど花粉カスによるものです。加害生存育房では越冬態の全個体数は加害死亡育房の1/10程度と少なくなっています。しかし、便乗型第2若虫の比率はやや高くなっており、10〜30%、平均で15〜25%(およそ100個体)います。

5.食性

 ツツハナコナダニとツツハナチビコナダニでは、卵と第2若虫以外のステージのものはツツハナバチ類の貯食した花粉団子を摂食します(第2若虫が摂食しないのは口器がないからです)。これに加えてツツハナチビコナダニでは、寄主幼虫が排泄した糞をも摂食します。このため、越冬期にコツノツツハナバチの巣を切開調査してみると、小さなツツハナチビコナダニが繭の周りを歩行している育房(加害生存育房)が多数見られることがあります。加害生存育房は、加害死亡育房と比べると5〜6倍も多く見られます。ただし糞は栄養価が低いため、花粉団子だけを摂食した時と比べて生存率や成虫の産卵能力が低くなります。この結果、存在する個体数は加害死亡育房の場合の1/10程度と少なくなっています。
 従来、このような加害生存育房の存在が見落とされる傾向があったため、ツツハナチビコナダニ発生による被害はツツハナコナダニによる被害より増加する傾向にあります。コツノツツハナバチが飼養されている果樹園で調査すると、全体のおよそ半数でコナダニ類が2種とも発生しており、半数ではツツハナチビコナダニだけが発生しています。ツツハナコナダニだけが発生している果樹園はありません。
 一方、ツツハナコナダニは寄主の糞を摂食しません。このため育房あたり侵入個体数が少ないと、(寄主を殺戮できなかった場合)寄主の発育にともなう早期の餌量不足によって死亡する危険性が考えられます。ツツハナチビコナダニの場合と異なり加害生存育房の割合は少なく、加害死亡育房は(発生量が少ない場所では)ほぼ同じ割合でしか見られません。これは、ツツハナコナダニが糞を摂食して発育できないため、寄主をできるだけ殺戮するようになっている結果なのかもしれません。

6.便乗型第2若虫の分散・移動

 便乗型第2若虫は、休眠覚醒した寄主(ツツハナバチ類)成虫の体に長時間付着した後に寄主体から脱落し、発育を再開し第3若虫になります。便乗型第2若虫の発育再開(発育の活性化)には寄主体への付着が不可欠で、付着期間ツツハナコナダニでは8〜10日間ツツハナチビコナダニでは11〜13日間あればほぼ十分であるといえます(最短付着期間と最長付着期間は、両種ともそれぞれ1日と20〜21日間。付着してから50%の個体が脱落するまではツツハナコナダニでは5〜6日、ツツハナチビコナダニでは5〜8日。一方、発育活性化率50%となる付着期間は、ツツハナコナダニでは5〜7日間、ツツハナチビコナダニでは6〜8日間。)。この付着期間中に寄主体から何らかの物質(血リンパ?)を十分に吸収することで発育が活性化すると推測されています。もし、(便乗型・シスト様型どちらかの)第2若虫を発育活性化が起こらない状態で寄主の花粉団子に接種しても、第3若虫にならないまま死亡します。「便乗型第2若虫が自ら歩行して寄主の巣内に入り、さらに育房内に侵入して加害する」ということは起こりえません(昔、このような考察をされた論文がありました)

ツツハナコナダニの便乗型第2若虫にしがみ付かれたコツノツツハナバチのメス成虫
しがみ付く便乗型第2若虫の個体数は、1〜100頭までの場合がほとんどです(平均で数十頭)。集まる(しがみ付く)部位別では、前翅、前伸腹節、腹部第1背板などに多く見られます。ツツハナチビコナダニと違って平坦な場所にもしっかりと付着できるのが特徴です。 これだけ多数(数百頭)にしがみ付かれると飛べなくなります。このままの何日も飛べず、訪花して吸蜜することができなければ、営巣活動をおこなうことなく死亡してしまいます。地面を歩行しているので、餓死する前に鳥の格好の餌食になるか、アリにさらわれるでしょう。
 しがみ付いた便乗型第2若虫が少ない場合、コツノツツハナバチは営巣活動を行なうことができます。しかし、しがみ付いたコナダニの数が多いと、コツノツツハナバチの子孫が巣内で殺される確率が高くなります。
 ツツハナチビコナダニの便乗型第2若虫にしがみ付かれた場合、飛べなくなることはありません。これは、ツツハナチビコナダニの体が小型であることと、コツノツツハナバチの育房内に存在する便乗型第2若虫の数が少ないためです(加害死亡育房の便乗型第2若虫数は、ツツハナコナダニでは数千個体であるのに対してツツハナチビコナダニではおよそ330個体)。便乗型第2若虫に40個体以上にしがみ付かれた場合には子孫が巣内で殺される可能性が高くなります。
 ツツハナチビコナダニの場合、ハチの体にしがみ付く部位は、寄主の体節上の隙間(各部の節合部や肩板の内側など)が多いようです。体が小型であることがこれを可能にしている訳ですが、これとは別にツツハナコナダニほど鋏爪(と吸盤も?)が発達していないことも関係しているようです。隙間に潜り込んで付着できなければ、(後述するように)まだ脱落したくないのに脱落してしまう危険性が高くなります。ツツハナチビコナダニの場合、しがみ付きは命懸けの大仕事と言えます。

 では、便乗型第2若虫がいつ、どのようにして寄主(ハチ)の体にしがみ付くのか?
 便乗の機会1.もっとも多いのは、休眠覚醒したハチが脱繭し、仕切壁を破壊して越冬巣から出るときです。脱繭したハチが巣から脱出するのには普通、数日を要します。このゆっくりとした越冬巣からの脱出は、コナダニ類にとって好都合なのです。コナダニ類の加害育房をハチが通過する際、便乗型第2若虫はハチ体の付着に適した部位に余裕をもってたどり着くことができます。
 便乗の機会2.次の機会は、越夜のためにメス・オス成虫が便乗型第2若虫が存在する越冬巣に入ったときです。ハチが筒内で長時間過ごすことになるので、この場合にも付着は容易でしょう。
 便乗の機会3.次は、メス蜂がコナダニ類が存在する越冬巣を再利用営巣したときです。巣内清掃時、営巣期間中の巣内休息時など付着する機会はたくさんあります。
 便乗の機会4.最後は、越冬巣で大量に生産された便乗型第2若虫が1.〜3.の機会にしがみ付けなかった場合で、便乗型第2若虫は自ら越冬巣の入口まで歩いて出てきます。そして越冬巣に近接するヨシ筒にまで歩行・分散します。近くのヨシ筒に移れなかった個体は、ポトポトと越冬巣の巣口から落下しています。これらの近くにハチが飛来・着陸すれば、ハチ体にしがみ付くことができそうです。これはツツハナコナダニが大発生したときに起こります。

越冬巣の入口に這い出してきたツツハナコナダニの便乗型第2若虫

 これら4つの機会以外に、いったんしがみついた個体がハチの交尾時に(メス蜂からオス蜂に、あるいはオス蜂からメス蜂に)乗り移ったり、花上や採土場などに脱落した個体が別のハチに乗り移る可能性が指摘されています。しかし、便乗型第2若虫にとってハチの体にしがみ付くことは発育活性化に不可欠なことで、付着期間が不足することは死につながります。いったんしがみ付いた個体がハチの体から離れることはコナダニにとって極めて危険なことです。このため、交尾時や巣から離れた場所(花上や採土場)での再しがみ付きは疑問視されています(コツノツツハナバチでは、寄主から離脱した第2若虫の再しがみ付きは実験によって否定されています。しかし花を媒体とする移動はマルハナバチ類に寄生するヤドリダニ科Parasitidaeの一種Parasitellus fucorum では実験的に証明されています(Schward & Huck,1977;)。コツノツツハナバチに寄生するコナダニ類でも寄主から離脱してしまった第2若虫での追加実験が必要かもしれません)。

7.シスト様型第2若虫の発育活性化

 便乗型第2若虫は寄主体に長時間付着することで発育が活性化されます。これに対して歩行能力のないシスト様型第2若虫の発育活性化はどのようにして起こるのか? 歩行できなければハチ体にしがみ付くことはできませんから、しがみ付きとは別の方法で活性化が起こっています。
 中塚(1986)の実験では、シスト様型第2若虫と休眠覚醒した寄主を狭い場所に(接触させないで)一緒にしておくと発育が活性化されることが分かっています(これを「臭い付け」と呼んでいます)。つまり、休眠覚醒した寄主(ハチ)がもつ特異な化学物質がシスト様型第2若虫に作用して発育活性化が起こっているのです。ハチのもつ化学物質がツツハナコナダニにとって有利に作用している訳で、カイロモン(kairomone)が発育活性化に関与していることになります。
 発育活性化が起こるのには6日以上の同居期間が必要で、10〜11日以上あれば十分となります。同様の同居処理を便乗型第2若虫に行なった場合、発育活性化が起こるのには14日以上の同居期間が必要で、18日以上行なっても4%以下の個体でししか発育は活性化されません。このことは、便乗型第2若虫にとってハチ体にしがみ付くことがいかに重要なのか、そして、シスト様型の場合と同様にハチ体から発する化学物質も発育活性化に関与していることを示しています。
 発育活性化の後、シスト様型第2若虫も第3若虫になります。ここでようやく移動能力が生まれる訳です。しかし、第3若虫には便乗型第2若虫のような「しがみ付き」に適した器官はありません。せっかく第3若虫になっても、越冬巣がメス蜂によって再利用営巣されなければ餓死するしかありません。

8.発育活性化の後の発育

 発育活性化処理を行なった第2若虫は、数日後に第3若虫になります。処理後、第3若虫になるまでの期間は、発育活性化の処理期間が長いほど短くなります。8日間以上処理すると第3若虫になるまでの期間がツツハナコナダニでは3日間、ツツハナチビコナダニでは7日間となります。両期間の合計(=発育活性化処理期間 + 第3若虫になるまでの期間)は、ツツハナコナダニでは発育活性化処理期間が5〜8日間のとき11日間、ツツハナチビコナダニでは同様に4〜7日間のとき14日間と最短になります。ただし、前述のように発育活性化処理の効果が十分となるには、ツツハナコナダニ便乗型で8〜10日間、シスト様型で10〜11日間、ツツハナチビコナダニ便乗型で11〜13日間が必要です。両期間の合計を便乗型で比較すると、ツツハナコナダニでは11〜13日間、ツツハナチビコナダニでは14〜20日間となり、ツツハナチビコナダニでは第3若虫になるまでの期間がかなりばらついていると言えます。
 第3若虫になれば、花粉団子を食べることが可能になります。というより食べなければ餓死してしまいます。第3若虫が絶食に耐えることのできる日数は、ツツハナコナダニ便乗型由来のものでは3〜8日間(平均5日間)、シスト様型由来で2〜5日間(平均3日間)、ツツハナチビコナダニ便乗型由来ではで3〜6日間(平均4日間)です。
 運良く、第3若虫になり、さらに運良く餓死する前に花粉団子の餌にもありつけた場合、花粉摂食後に成虫になります。成虫になるまでの日数は、気温が高くなるほど短くなります。16℃(= コツノツツハナバチの営巣期間中の平均気温)のとき、ツツハナコナダニでは8〜9日、ツツハナチビコナダニでは11〜13日かかります。

9.寄主の殺戮

 寄主を殺戮するコナダニ類の発育ステージは成虫です。ツツハナコナダニとツツハナチビコナダニの成虫は、育房内に寄主の幼態が存在すると、集団で攻撃し(大顎で体表を噛み破って体液を吸液し)殺そうとします。殺される寄主の発育ステージは多くの場合、です。2齢幼虫(ハチ類の場合、卵の中で1齢幼虫となり、孵化して現れるのは2齢幼虫です)や、稀に発育初期の3齢幼虫まで殺されることがあります。

コナダニ類の第3若虫と殺戮される寄主幼態(卵と第2齢幼虫)の発育日数の比較
寄主育房で花粉団子を摂食した第3若虫は、成虫となり寄主幼態を攻撃します。図のように、第3若虫として寄主育房に侵入できた場合には、余裕をもって寄主幼態を殺戮できます。しかし、もし便乗型第2若虫として寄主体から育房内に脱落・侵入した場合には、第3若虫になるまでの期間(ツツハナコナダニでは3日間、ツツハナチビコナダニでは7日間)がさらに必要となります。それでもツツハナコナダニの場合には寄主はまだ卵〜第2齢幼虫なので、まだ十分な余裕があります。しかし、ツツハナチビコナダニの場合には寄主は第3〜4齢まで発育していることになり、殺戮に失敗することになります。

 体表(卵の場合は卵殻)を傷つけられた寄主幼態は体液を吸われて死亡します。体表面に穴をあけて体液を吸うとしてもコナダニ類は体が小さいので、集まってきたコナダニ類の個体数が少なければ殺されないで次のステージに発育できる可能性が生じます。集まってきたコナダニ類の個体数が多いほど、そして寄主の発育ステージが若いほど殺される確率が高くなります。寄主幼態を100%殺戮できる個体数(平均)は、ツツハナコナダニでは32〜38個体以上、体が小さいツツハナチビコナダニでは40個体以上となります。両種コナダニ類とも個体数が40〜50個体以上になると、ほとんどの場合、殺戮に成功します。
 コナダニ類の成虫は、寄主幼態を殺戮すると(しなくても)交尾・産卵し、反復繁殖相が始まります。寄主が死亡していれば数ヵ月のうちに花粉団子は消費されます。盛夏〜翌早春まで、この育房はダニと花粉カスでいっぱいの状態が続きます。

10.巣内における加害部位の規則性
 できればメス蜂にしがみ付きたいツツハナコナダニ
    VS しがみ付けるならオスでも構わないツツハナチビコナダニ


 コナダニ類による加害が見られる巣は、完成巣で多いのか、あるいは未完成巣で多いのか?と疑問に思われる人がおられるかもしれません。答えは「マメコバチの営巣期間が平均的に短い個体群(営巣1メスあたりの営巣本数が1.5本程度)では未完成巣での加害率が高くなる。そして営巣期間が長くなれば、第1本目の未完成巣率が高ければ未完成巣での加害率が高くなり、第1本目の未完成巣率が低ければ完成巣での加害率が高くなる」となります(この傾向は、ツツハナコナダニによる加害が多いときにはっきりします。しかし、ツツハナチビコナダニの加害率が高くなれば、この傾向は弱くなります。さらに個体群全体でのコナダニ類発生率が高いときや、越冬巣の営巣再利用率が高いときにも、傾向が出にくくなります。このような傾向は、便乗型第2若虫経由の加害発生が第1本目の巣筒に集中して起こることに起因し生じています。
 巣内における加害発生部位にも規則性があります。これは、コナダニ類の第2若虫便乗期間と便乗後期間、第3若虫の耐絶食期間によって説明することができます(下図のとおり)。ツツハナコナダニでは第1本目の巣筒の第1〜3育房に加害が集中します。第2本目では加害は生じにくいものの、発生した場合には奥側の育房に加害が集中します。一方、ツツハナチビコナダニでは第1本目の巣筒の第4〜6育房までに加害が集中します。第2本目以降では奥側の育房に加害が集中します。発生頻度は第2本目では第1本目よりより発生は少ないものの普通に加害が起こります。第3本目での加害発生はさらに少なくなります。

コナダニ類の便乗期間とその後の発育と寄主(コツノツツハナバチ)の営巣活動推移との関係コツノツツハナバチの活動推移は、前営巣期間:7〜14日間、巣筒1・2本目の産卵数:8個、3本目:6個、1本目の子孫のメス率:0.5、2本目:0.375、3本目0.33、産卵間隔:15卵/貯食日数10日/営巣日数15日、育房作製コスト♀:♂=1:0.65、幼態の発育温度16℃として作図した。寄主成虫(メス蜂)が巣から脱出する日に便乗開始した場合、ツツハナコナダニでは前営巣期間または第1〜3育房作製時に寄主体から脱落することになる。ツツハナチビコナダニの場合、同様に前営巣期間または第4〜6育房作製時までに寄主体から脱落することになる。
 前営巣期に寄主体からヨシ筒内に脱落した場合、便乗後期間と第3若虫での耐絶食期間を加えた期間までにその筒が営巣利用されれば餓死を免れる。。ツツハナコナダニの場合、寄主の前営巣期が長引けば、脱落した筒が2本目として利用されたのでは餓死してしまうことが起こりうる。前営巣期が早く終われば第2本目の営巣期前期まで耐えることが出来る。ツツハナチビコナダニの場合、寄主の前営巣期が長引いても、脱落した筒が2本目として利用されれば餓死を免れる場合が多いと言える。もし、前営巣期が早く終われば第3本目の営巣期初期までの耐えることが出来る。
 この図から、両種とも比較的早い時期に寄主から脱落していると言えます。もう少し長く便乗していれば、巣筒の中央部あたりに脱落できてちょうど良さそうに思えます。しかし、自然界での寄主の一番の天敵は鳥類です。鳥類によるコツノツツハナバチの捕食圧は、巣から出現した後の比較的早い時期に高くなっています。いつまでも寄主に便乗していたのでは、自分たちも鳥の胃袋行きとなってしまうのです。

コツノツツハナバチの営巣開始時期とコナダニ類発生頻度。1999年にマメコ研の圃場で調査。コナダニ類の付着数を少なくした種巣を使用した(種巣は営巣期間中に処分)。営巣期間中、定期的にハチが花粉荷を搬入している巣にマークを施し、冬季に新巣を切開調査した。
 ツツハナコナダニは営巣期前半の巣でのみ発生し、ツツハナチビコナダニは営巣期末期の巣でも僅かに発生していることが分かる。
巣筒内における寄主コツノツツハナバチの育房順とコナダニ類の発生頻度。1999年に宮城県大郷町のオウトウ園で調査。園地に巣箱を新たに設置し、コナダニ類の付着数を少なくした種繭を使用した。発生頻度は、加害死亡育房と加害生存育房を含めたもの。
 発生位置は、ツツハナコナダニは巣筒の奥側の育房に集中し、入口側にも少し発生しています。ツツハナチビコナダニでは中央部の育房によく発生し、最奥部や入口側にも少し発生しています。発生位置が特定の位置に集中しないことのおもな理由は、便乗する機会(寄主の性別やタイミング)が異なることだと考えられます。
ツツハナコナダニによる加害死亡が最初に出現した育房の位置。2006年に山形県東根市の果樹園で飼養したもので調査。設置2年目の巣で、再利用率は約80%(新巣20%)のもの。ほとんど再利用巣なので一番奥の第1育房で死亡が多いのは理解できます。しかし、何故か第2育房の方が死亡率は高くなっています。放飼した年や時期、場所、寄主が違っても同様の傾向がみられます。新巣で(コナダニ初期密度を調節して)調査するとこの傾向はより顕著なものとなります。

ツツハナコナダニによる加害死亡が育房 I または II に発生した巣についての発生頻度左図と同調査地の別の巣箱での調査。巣の管理状態は左図のものとほぼ同じもので、ツツハナチビコナダニも発生した巣は調査対象から除外した。第2育房のみ、あるいは第2・3育房で寄主殺戮に成功することが多いと言えます。この傾向は、(上述した)寄主の営巣推移とコダナニ便乗期間とその後の発育の関係では説明しきれません。これを解明するためには、巣内でのコナダニ類の行動観察が必要となります。

ツツハナコナダニがなぜ第2育房で寄主を殺戮するのか?
 上述した(寄主の営巣推移とコダナニ便乗期間とその後の発育の関係の)ように、営巣開始前に寄主から脱落することが多いはずです。そうすると第1育房のみ、あるいは第1育房から連続して加害死亡が発生するはずです。しかし、実際には上の図のように第2育房のみ、あるいは第2育房以降で加害死亡が多く発生しています。
 この仕組み(巣の中で何が起こっているのか)はまだ良く分かりません。しかし適応的意義だけは理解できます。第1育房の寄主を殺戮してしまったら、子孫は翌年に第1育房内に取り残されて(便乗できるハチに巡り会えず)全滅することになります。第2育房であれば、第1育房からハチが通過してくれるので便乗できます(ただし第1育房のハチが他の天敵類に加害されなければですが)。また、自然界では人間が用意してくれるヨシ筒のような長い既存孔は少ないはずです。ですから寄主は1個の巣にたくさんの育房を作れません。ツツハナコナダニにとっては最低限2個育房を作ってくれさえすれば良いのです。また、寄主は巣筒の奥側にメス育房を配列する習性をもちますので、第2育房を殺戮すれば子孫がメス蜂に便乗できる確率が高くなります。


 以上のような加害発生部位の規則性は、ツツハナコナダニでは顕著で、ツツハナチビコナダニでははっきりしない場合の方が多くなります。この理由は、ツツハナチビコナダニの場合、1.寄主のオスに便乗し新巣に運ばれる機会が多いこと、2.第2若虫の「便乗期間+便乗後期間」が長いため、(もしオス蜂に便乗し新筒内に運ばれた場合でも)メス蜂に営巣利用されるまで長期間待つことが可能なことにあります。これに対してツツハナコナダニでは、オス蜂に早くから便乗することは餓死する恐れがあるので危険なことなのです。
 ツツハナチビコナダニの第2若虫が寄主のオスに便乗することが多いのは何故か? これは、第1本目での発生位置が第4〜6育房にまで及ぶため、オス育房に発生する確率が高くなるためです。また、寄主幼態を殺戮できなくても(第2若虫の個体数が少ないことと第3若虫の発育日数との関係で殺戮できないことの方が多い)、生存上問題ないこととも関係しています。ツツハナチビコナダニは花粉団子だけでなく糞食でも生存できるため、寄主を殺戮しようとする行動が弱いのかもしれません。

便乗する寄主の性別と、便乗発生の時期と頻度の関係
便乗の機会 ツツハナコナダニ ツツハナチビコナダニ
寄主メス蜂 寄主オス蜂 寄主メス蜂 寄主オス蜂
越冬巣から脱出 2AA 1AB 2A 1A
越冬巣での越夜 4C 3C 4C 3BC
越冬巣再利用 5AB - 5AB -
越冬巣の入口 4〜6C 4〜6C 4〜6C 4〜6C
便乗型以外のステージによる加害発生
ツツハナコナダニ
(シスト様型第2若虫)
ツツハナチビコナダニ
(幼虫、第1・3若虫、成虫)
越冬巣再利用 5AB - 5AA -
 数字1、2、3・・・は、発生時期の早い順を示す。記号AA、A、B、Cは、発生頻度が高い順を示す。

 ツツハナコナダニでは便乗型第2若虫がシスト様型より圧倒的に多く、メス育房に多く発生するように適応しています。主要な繁殖戦略は、寄主のメス蜂に便乗して効率よく分布を拡大することです。そしてごく僅かなシスト様型を生産することにより、越冬巣が再利用された場合にも確実に次世代を残せるようになっています。
 一方、ツツハナチビコナダニでは便乗できないステージが多いので、越冬巣が再利用されるのを待つという一見、非効率的な戦略が中心です。しかし、人手の加わらない自然状態ではマメコバチの営巣基は非常に限られているため、実は効率的なのかもしれません。そして便乗型第2若虫を僅かに生産し、メス蜂への便乗(=確実に子孫を残せる)だけでなくオス蜂にも便乗して分布を拡大しています。オス蜂への便乗は、子孫を残せるかが不確実なので、この戦略への投資(便乗型第2若虫の生産数)は僅かとなっています。

コナダニ類の防除方法

 防除方法には、薬剤(農薬など)を使う化学的防除法と薬剤を使わない物理的防除法があります。他の生物を利用する生物的防除法も考えられますが、研究報告例はありません。化学的防除法は簡便ですが、人体などへの影響を考慮するとあまり採用したくないものです。生物的防除法が開発される可能性がゼロだとは言いませんが、簡便な物理的防除法があるのならばコストをかけてまで開発することもないでしょう(マメコ研では数種類の生物的防除法が利用できると考えていますが、こういう理由から研究を中断しています)

1.エンドスルファン(ベンゾエピン)乳剤処理法

 エンドスルファンEndosulfan(ベンゾエピン)乳剤は、商品名マリックス乳剤(30%)として販売されている殺虫剤です(急性毒性の区分は毒物です)。この農薬を使用したツツハナコナダニ防除法は、青森県りんご試験場の元場長の山田雅輝博士が開発されました。しかし、この農薬は水質汚濁性農薬としても有名で、現在では使用を禁止されている地域もあります(例えば長野県内では全域使用禁止)。また、この農薬の成分は、内分泌攪乱作用が疑われる化学物質(環境ホルモン)として疑われる化学物質としてリストアップされています。ですから、使用が禁止されていない地域であってもこの農薬を使用してツツハナコナダニ防除を行なうことはお勧めできません。しかし、とりあえずどうやって処理するのか、その方法を解説しておきます。
 処理は60ppmマリックス乳剤5000倍)の低濃度で行ないます。処理倍率を間違えて高濃度で処理すると、コツノツツハナバチが死亡することがあります。

1a. 設置前のヨシ筒を処理する方法

 処理は、コツノツツハナバチが飛翔活動を開始する1週間ほど前に行ないます。新しく営巣させる予定のヨシ筒と薬液(5000倍液)を多量に準備します。次に、薬液を入れた容器にヨシ筒を浸漬させます。このとき、薬液がヨシ筒内部に十分に入り込むようにヨシ筒を上下に揺り動かします。筒内部が完全に薬液で濡らした後、筒の入口を下に向けて振って、薬液を筒内部から出します。この後、倉庫内などにヨシ筒を広げて置き、筒内部を乾燥させます(乾燥するまでに数日かかります)。十分に乾燥したら、ヨシ筒を巣箱に設置します。
 このように処理されたヨシ筒をコツノツツハナバチは嫌うことなく営巣利用し、ツツハナコナダニはごく僅かしか発生しなくなります。ハチの子孫がマリックス乳剤5000倍の影響で死亡することはありません。
 しかし、この処理の後には大量の廃液が出ることになります。水質汚濁性の強い農薬ですから、その処理に困ることになります。ですから、この方法は使用しないようにしてください(未だにこの処理方法がマリックス乳剤の使用方法として記載されていること自体、問題だと思うのですが・・・)。

1b. 脱繭が始まる前の繭に散布する方法

 処理は、コツノツツハナバチの越冬期間中(できれば3月、飛翔活動開始の1ヵ月前)に行ないます。作業はできれば10℃以下の場所で行ないます。前年に営巣されたヨシ筒を切開し、繭を取り出します。薬液(5000倍液)は小型の農薬噴霧器(家庭園芸用の1〜2リットル程度を散布するタイプ)に作ります。繭を新聞紙などの上に広げて並べておき、薬液を繭全体が軽く濡れる程度散布します。そのまま繭が乾燥するまで(夜、凍らない場所に)置いておきます(乾燥するまでに1〜2日かかります。)。処理する繭の量にもよりますが、1リットルの薬液でも相当量の繭を処理できますので、薬液を作り過ぎないよう極少量ずつ作って処理するようにします(薬液を作りすぎても、捨てることのできる場所はないと思ってください)。乾燥させた繭は、その後、野外と同じ温度で保管します。処理後の繭の保管方法を誤らなければ、コツノツツハナバチは正常に脱繭し、それまでにツツハナコナダニは死亡していますので、コツノツツハナバチの体にしがみ付くことはほとんどありません。
 薬液を繭に噴霧する代わりに、繭を薬液に数秒間浸漬することもできますが、廃液処理に困ることになるので、噴霧した方がよいでしょう。

1c. 前営巣期に処理する方法

 この処理は、巣箱(巣箱内のコツノツツハナバチの古巣)に対して行なうことになります。普通は巣箱の置いてある果樹園内で薬液を散布することになりますので、厳密には登録のあるリンゴでのみ処理が可能です。リンゴ以外の果樹園では、巣箱を果樹園の外に出して行えば大丈夫だとは思いますが、登録作物か否か、そして総使用回数を確認してから行なって下さい。
 処理は、コツノツツハナバチの飛翔活動が始まってから、営巣活動開始の数日後までの間に行ないます。処理可能な期間は、およそ3週間(遅放飼する場合には2週間)あります。この頃に、古巣からマメコバチが体にツツハナコナダニ便乗型第2若虫を付けて出てきます。また、コツノツツハナバチの体にしがみ付けなかった便乗型第2若虫は、古巣の置くから筒の入口まで這い出してきます。これらを少しでも殺すことを目的に薬液(5000倍液)を散布します。前記のような小型の農薬噴霧器を使い、巣筒内部がしっかりと濡れるように薬液を古巣の入口に向かって慎重に散布します。処理回数は多いほど良いのですが、マリックスの総使用回数が2回以内と制限されていますので、2回行ないます。リンゴで遅放飼する場合には、巣筒を設置してから数日後とリンゴが開花する数日前の2回、遅放飼しない場合には、ソメイヨシノ桜が開花する5日ほど前と桜の開花日頃の2回が良いと思います。もし使用回数の制限がないのであれば、コツノツツハナバチの飛翔活動が見られた日には毎日でも散布したいところです。
 処理する時期には天気が良ければ日中はコツノツツハナバチが飛翔活動を行なっています。コツノツツハナバチは、内部が濡れた筒に入るのを嫌がります。また、散布液が体にかかって濡れると、しばらく飛翔活動ができなくなります。このため、コツノツツハナバチの飛翔活動が終わった夕方に(ヨシ筒の内部にハチがすべて戻ってから)散布することが勧められています。もし、夕方に散布する時間がない時には、日中(飛翔活動が終わる頃までには散布液が乾くような時間帯:お昼前後)に散布しても構いません。天気が良ければ、散布液で濡れた筒でも1時間前後で乾きます。
 この処理の目的は、ツツハナコナダニによる被害を軽減することで、ツツハナコナダニが既に大発生している場合には、十分な効果は期待できません。これは、巣筒の奥にまで薬液がかからないため、ツツハナコナダニを完全に殺すことができないためです。
 この処理は、本来はツツハナコナダニが発生している古巣に対して行なうものですが、新しいヨシ筒を浸漬処理していない場合には、これらに対して行なっても構いません。ただし、上記と同様に被害を軽減することしかできません。


2.その他の薬剤で処理する方法

 エンドスルファン(ベンゾエピン)乳剤は危険性の高い農薬で使用しにくいため、秋田県果樹試験場ではDDVP乳剤(3000倍液)やプロチオホス水和剤(商品名:トクチオン水和剤、10000倍液)を使ったツツハナコナダニの防除方法を開発しています。しかし、現在までに農薬登録がされていないので、ここでは解説しません。詳細はnetで検索すれば見れます。エンドスルファンほどの危険性はないものの、農薬登録されたとしてもあまりやりたくない方法です。エンドスルファンと同様に処理濃度を誤るとコツノツツハナバチが死亡する危険性もあります。


3.熱処理法

 物理的防除法の一つになります。この方法は、コツノツツハナバチの幼態が繭内で前蛹となっている時期(仙台では7月10日頃)に巣(繭)を高温(30〜42℃)で処理するというものです。前記のエンドスルファン(ベンゾエピン)乳剤による処理方法と同様に、青森県りんご試験場の元場長の山田雅輝博士が開発されました。
 処理期間の長さは、高温であるほど短くて済み、30〜32℃では40〜60日、40℃では60時間、41℃では24時間、42℃では20時間でよいとされています。この高温処理によってコツノツツハナバチの前蛹は死亡することなくツツハナコナダニだけが死亡するようです。
 この方法は、処理効果は高いものの実用化されていません。これは、この時期に巣を切開して繭を取り出すことが困難であるため(時間的に無理があること、繭を取り出す作業によってコツノツツハナバチの前蛹が死亡する危険性があることが理由です)、巣筒ごと処理する必要があり、大きな処理スペース(大型の処理施設、恒温器)が必要となるためです。また、処理中に機械が故障して高温になると、コツノツツハナバチも死ぬ危険性があります。このような理由から、この防除法が広く普及する見込みはありません。

4.『ふるい』処理法

 巣を切開して取り出した繭を『ふるい』にかけてコナダニ類を除去するという方法が長野県などでは以前から行なわれています(2006年5月2日の日本農業新聞の記事など)。しかし、この方法ではコナダニ類を除去することはできません。むしろコナダニ類が付着していない健全な繭にまでコナダニ類を付着させてしまうことになります。こういう方法が未だに指導されているとしたら、大変残念なことです。

5.砂中攪拌処理法

5. 砂を入れた容器でコナダニ類を擦り落とす方法
 巣を切開して取り出した繭を、砂を入れた桶などの容器に入れて、その容器を揺すって繭表面に付いたコナダニ類を砂で擦り落とすという方法です。この方法も長野県などでは行なわれているようです。しかし、『ふるい』による方法と同様に十分な効果が期待できないだけでなく、被害を拡大させる結果(= 健全繭への新たなコナダニ類の付着)になりかねません。『ふるい』よりは まし かもしれませんが労力ほどの効果は期待しない方がよいでしょう。

なぜコナダニ類が繭から取れにくいのか?

繭の構造 繭におけるコナダニ類の分布
 繭は、ゆるやかに紡がれた繭糸外層と緻密に紡がれた繭糸内層とに分けられます(『コツノツツハナバチの繭の構造』の項に詳細な解説があります)。外層と内層との間にはコナダニ類が入ることのできる隙間があり、特に繭の前頂部(左上の図の矢印で示した部分:ハチの頭がある側の出っ張っている部分の周辺部)ではその空間が大きく、多数のコナダニ類が隠れていることがあります。このような部位に隠れているコナダニ類はふるい処理などでは除去することができません。

 繭の数量が少ない場合(または、どうしても繭の頭部を切開して生死・性別を確認する必要がある場合、つまり調査研究している場合)は、1個ずつ指で繭糸外相を繭の後ろ側から前側に向かって擦り剥がします。最後に小突起部分を手のひらに(20〜30回くらい)擦り付けて、小突起周辺の繭糸を完全に剥がし、コナダニ類が隠れられる空間をなくすようにします。繭が乾燥している場合、指を水で濡らしてから繭擦りを行なうと、繭糸が剥がれやすくなります。

コナダニ類の数が加害生存育房における平均的な個体数(ツツハナコナダニでは400個体、ツツハナチビコナダニでは100個体)より若干少なくなるように調節して未処理のメス繭(巣を切開して取り出しただけの繭)に接種し、1日安置し、その繭を数センチ上から1回落とした後に繭を顕微鏡下に持って行き、カウントした結果。巣を切開して繭を集める際、加害生存育房の繭とコナダニ類が発生していない繭とを混ぜることになるので(加害死亡育房のコナダニ類をわざわざ繭に混ぜるような人はいない?)、実験では加害生存育房の平均的な個体数より少なく接種するようにした。繭表面を歩行している個体より外層下にいる(あまり動かない)個体の方が多い。この傾向は体サイズが小さいツツハナチビコナダニで顕著。物理的防除では、この外層下に存在するコナダニ類をいかにして除去するかがポイントとなる。

ツツハナコナダニにおける防除処理効果の比較 ツツハナチビコナダニにおける防除処理効果の比較
 各処理とも前記のようにコナダニ類を接種し1日安置した後に行なった。「ふるい処理」は、目合2mmのふるいに繭を入れて2分間ふるった結果。「砂中攪拌&ふるい処理」は、砂を入れた容器(たらい)に繭を入れ、手で1分間砂と繭を掻き混ぜた後にふるいに移し1分間ふるった結果、「砂揉み&ふるい処理」は、砂を入れた容器に繭を入れ、両手で砂と繭を適量取り1分間揉み擦った後にふるいに移し1分間ふるった結果、「洗浄処理」は下記のとおり。図中の赤色ラインは、便乗型第2若虫が寄生したときにコツノツツハナバチの幼態を100%殺戮できる個体数を示す。同様に黄色ラインは50%殺戮できる個体数を示す。
 この図から、「繭洗浄処理」の除去能力が極めて高いことが分かる。また、ツツハナコナダニの寄生密度を寄主が殺戮されにくいレベルまで下げることは、他の物理的防除法では困難であることが分かる。そして「ふるい処理」では両種コナダニ類ともほとんど除去できていない。また、ツツハナチビコナダニでは寄主が殺戮されにくいレベルまで下げることは容易?のように見える。しかし本種では、もともと大発生しない段階では加害しても殺戮が起こりにくいので、個体数を少々減らした程度では何の処置もしないのと大差ないのかもしれません。
 防除処理の方法を選択する際に重要なのは、何割除去することが可能か?ではなく、除去しきれなかった個体がどれくらい残っているのかです。たとえば、1個の繭に5000頭もの大量のツツハナコナダニを接種して「ふるい処理」すれば、9割以上除去できるでしょう。しかし、繭の外層下にはまだ250頭以上残っているはずです。250頭の便乗型第2若虫とは、7匹以上のコツノツツハナバチ幼態を殺戮できるほどの数になります。これが新巣1本の中に運ばれれば、半分以上の子孫が殺される可能性があります(1本の巣の平均育房数は11個です)


6.繭洗浄処理法

 上記のような処理方法には、それぞれさまざま問題点があり、一般の農家さんには行ない難いと言えます。マメコバチ研究所でも上記の方法を含めてさまざまな方法を試してきました。上記の方法以外にもコナダニ類(ツツハナコナダニだけでなくツツハナチビコナダニも)を完全防除できる方法は見つかっていますが(たとえば繭を火であぶる!ことも有効でした)、手順が煩雑であったり高コストであるなどで、完全防除済みのコツノツツハナバチを販売できるまでには至っておりません(また、コツノツツハナバチ利用地域では、もともと自然のコツノツツハナバチが近くに生息している場合がほとんどで、そのような自然の(コナダニ類に便乗された)コツノツツハナバチの移入が起こる可能性が高いところにコナダニ類完全フリーの状態で出荷しても仕方ないと考えます)。しかし、コナダニ類の発生量がきわめて低いレベルになるような処理を施して『種繭』を出荷しております。また、『種巣』もこのような処理を施した種繭を元に生産したもので、さらに巣筒を切開検査してから出荷しております。
 ここでは、マメコバチ研究所で試したさまざまな方法のなかから、一般の農家さんにでも簡便かつ安全にできる方法として『繭洗浄法』をご紹介いたします(特許等出願するつもりはありませんが、他のコツノツツハナバチ販売業者の方にはご使用を控えていただきたいものです)
 この処理方法は、(JA仙台利府支店での講演・実演を取材され)日本農業新聞(2006年12月12日)に掲載されました。記事やこのHPを読まれただけでは分からない点がありましたら、e-mailで問い合わせください。分かり難い箇所をご指摘いただければ、加筆修正したいと思います(しばらくの間、このページは頻繁に更新する予定です)。

 繭洗浄処理は、コツノツツハナバチの脱繭時に体にしがみ付く(ツツハナコナダニとツツハナチビコナダニの)便乗型第2若虫の個体数をコツノツツハナバチの幼態が殺戮されにくいレベルまで減らすことを目的としています。この処理によるコナダニ類の除去率は(手順どおりに適切に行なえば)99%以上になります(ただし、上記のように除去率には意味がありません)。100%ではありませんので、ごく僅かなコナダニ類が残存します(残存しているものには、死亡個体と生存個体の両方があります。また、除去率が100%になることもあります)。残存個体数(平均±SD、n = 10)はツツハナコナダニでは12±6.3頭(うち生存個体は2.8±2.5)、ツツハナチビコナダニでは0.2±0.3頭(すべて死体)でした。これだけの数のコナダニ類が寄主1育房に進入したときの寄主死亡率は、ツツハナコナダニでは9.1〜16.3%(ツツハナチビコナダニではゼロ)とになると予測されました(このツツハナコナダニでの値は非常に高いように思えます。しかし、1メスの果樹園での産卵数を14とすると、子孫の死亡率は0.65〜1.16%にしかなりません)。しかし、この実験は大量のコナダニ類を繭にまぶして行なったものです。実際の巣筒切開&繭洗浄処理では、処理繭に付着しているコナダニ類の合計数は非常に少なくなるはずです。ですからツツハナコナダニでも残存個体数は1以下になる(平均生存個体は限りなくゼロにちかくなる)場合がほとんどだと思われます。
 ところで、従来、なぜ繭を洗うという方法が考案されなかったのか?と疑問に思われる方がおられることでしょう。おそらく繭を濡らすことが繭内への浸水や、内部のハチの窒息死につながることを心配されたせいでしょう。マメコ研では繭の浸水試験の結果と、休眠状態のコツノツツハナバチの呼吸量を考慮した結果、以下のように洗浄処理を行なえば繭内のハチに悪影響はないと判断しました(そして何年間も放飼試験を行なって問題なく脱繭・営巣することを確認しています)。

どのような繭を洗浄するのか
マメコ研のコツノツツハナバチを導入した場合 導入した年度には、繭洗浄を行なう必要はありません。
導入2年目には、初年度に設置したヨシ筒の一部を切開し、コナダニ類の発生状況を確認します。
・発生していれば、残りの巣も全部割って繭を取り出します。
・発生数がごく僅かであれば、翌年(3年目)に洗浄を行なっても構いません。
・発生がゼロであれば、翌々年にまた確認します(4年目はヨシ筒連続使用の限界ですので、繭洗浄しないにしてもヨシ筒を全部切開して下さい)。
基本的に1年おきに確認作業(&繭洗浄)を行ない、ヨシ筒の連続使用を2年までとすれば、大半の天敵類の発生を低いレベルで抑えることができます。
洗浄処理を行なった繭は、切開しなかったヨシ筒(がある場合にはそれ)とは別の場所(巣箱)での放飼に使います(その切開しなかったヨシ筒は、冬季にかならず割って繭洗浄を行ないます)。
洗浄処理を行なった繭を放飼に使用した場合、その年度にその巣箱のものを繭洗浄する必要はありません。
その他のコツノツツハナバチの場合 工事中
理 由
 洗浄処理を行なった繭を設置(放飼)した巣箱では、その年のコナダニ類発生はごく僅かになります。しかし、2年目には種巣(1年目に作られた巣筒の)再利用によって発生が増える可能性があります。このため、2年目の冬には巣筒の切開・確認作業が必要になるのです。
 また、近くに自然営巣している、あるいは健全でない飼育個体群(たとえば隣の果樹園で飼養されたもの)がある場合、かならずコナダニ類に便乗されたハチが飛来・営巣します。例えば、汚染巣箱から50〜60mくらい離れた場所の巣箱に放飼しても、2〜3割の巣で発生することがあります。

 繭洗浄の手順は、要約すると下表次のようになります。1.は下準備で、通常行なわれている『巣筒の切開』作業と同じです。2.が繭洗浄処理となります。3.以降は『巣筒の切開』に続いて通常行なわれているとおりの作業です。

繭洗浄の手順(要約) 所要時間(期間)
1. 巣筒の切開(繭 集め) (晩秋〜)
2.-1 繭の浸漬 3分間
2.-2 繭のこすり洗い 3分間
2.-3 繭のすすぎ洗い 3分間
2.-4 繭の乾燥 半日〜2日間
3. 繭の保管 (春まで)
4. 放飼 -
 繭洗浄は、繭の外層を除去し、汚れとともにコナダニ類を洗い落とす作業です。このことを意識して作業してください。また、ほとんどの防除処理方法に言えることですが、処理方法を誤るとコナダニ類だけでなく繭内のコツノツツハナバチまで殺してしまう危険性があります。少しでも分からない(心配な)点があったら、その問題点を解決してから処理するようにして下さい。

処理時期 巣筒の切開 『巣筒の切開』の項をご覧ください。
繭洗浄 繭の洗浄は、できればソメイヨシノ桜が開花する6〜3週間前に完了するように行ないます(東北地方北部などでは4月上旬まで作業可能。宮城県仙台市近辺では11月10日〜3月15日、遅くとも3月25日までに)。処理時期が遅すぎると、脱繭反応が促進されて洗浄・乾燥中にハチが歩き回ることになってしまいます。
処理を行なう場所など - ・巣の切開と繭の洗浄は、果樹園から以外(300m以上離れた場所)で行ないます。
・洗浄には冷水を使用しますので、水道の蛇口のある場所が必要です(水の種類は、水道水でも問題ありません)。
・巣切開時に出るゴミは果樹園から遠く離れた場所に処分してください(可燃ゴミとして出すか焼却処分)。
・洗浄時に出る廃液も、果樹園から300m以上離れた場所に捨てるようにします。
処理に必要な材料 巣筒の切開 『巣筒の切開』の項をご覧ください。
繭の洗浄
(2.-1〜3)
たらい やバケツ 適当な大きさのもの。なければ適当な大きさの容器で良い(下記のボールでも可)。
ボール(ステンレス製など) ザルに合ったサイズのもの。材質はステンレスでなくてもプラスチックでも良いが、ステンレスの方が重くて安定する。たとえば直径28cmのザルであれば、直径30cmのザルなど。この大きさであれば、一度に繭1000個くらいを処理できます。なければ、ザルが入る大きさの容器(水を貯められるもの)であれば良い。
ボール型のザル
これだけが必需品)
台所用品のザルです。ステンレス製のザルであればボールに合ったサイズのものが簡単に入手できます。目合2〜3mmのもの。網目が粗い方が繭がきれいになるので良い。同じ目合の「ふるい」を使うことが出来なくもないが、底がボール型でないと処理しづらい。
ペンキ塗り用のハケ 適度な硬さのハケ。たとえば70mmの万能刷毛というタイプ。なければ手で処理しても良いが、冷水で処理するので手が冷たくなる。
網杓子 目合2〜3mmのもの。網目が粗い方がゴミが通り抜けやすいので良い。繭をすくい上げるために使用する。なければ手ですくっても良いが、冷水で処理するので手が冷たくなる。
繭の乾燥(2.-4)
大きな箱 繭を並べて乾燥させるので、底の浅い、面積の大きな箱がよい。たとえば育苗箱、調理用バットなど。100平方センチの面積があれば繭100個ほどを広げて乾かすことが出来ます。集まった繭の量に合わせて、必要な箱数を用意してください。
新聞紙 箱の上に敷きます。吸水性が良ければ紙製でなくても良い(たとえばバスタオルでも可)が、新聞紙が使いやすい。
繭の保存 『巣筒の切開』の項をご覧ください。
放飼 『巣筒の切開』の項をご覧ください。

繭洗浄の手順(詳細)
手順1. 巣の切開 巣を切開して健全そうに見える繭を集めます。繭は仕切壁や糞が付着していても良い。念のためツツハナコナダニが周りに付いている繭は別の容器に集める。ツツハナチビコナダニについては、無視しても良い。巣切開時に繭に穴を開けたり(ナイフで傷つけたり)、繭を変形させたりしないように注意すること。このような繭では洗浄処理によって繭内のコツノツツハナバチが死亡したり、繭糸外層が剥がれにくくなります(つまりコナダニが除去できない)。手順の詳細については、『巣筒の切開』の項を参照。
手順2. 繭の洗浄 -
2.-1 繭の浸漬 集めた繭を適量(1回に処理する分量)だけ たらい やバケツのような容器に移し、容器に冷水を入れます。繭が浮いた状態になります。そのままにしておくと繭の表面が水をはじくため、水に馴染ませるために浮いている繭を掻き混ぜます(擦る必要はありません)。およそ3分間続けると、土壁が吸水して繭から外れやすくなります。大きなゴミ(ヨシ筒の破片など)が浮いていたら取り除いておくと良いです。
2.-2 繭のこすり洗い 繭を網杓子などですくい上げ、ボール型のザルに移し入れます。ザルをボールの上にセットし、繭が全部浮く高さより少し上まで冷水を貯めます。次にハケを使って繭をザルの網に擦り付けるように繭を潰さないようにやさしく混ぜます。繭表面の繭糸外層を汚れとともに除去するよう意識して行なってください。およそ3分間続けると、すべての繭がきれいになります。
2.-3 繭のすすぎ洗い 網杓子などで繭をザルからすくい上げ、別のザルに移し入れます(同じザルを使う場合には、いったん繭を別の容器に入れておき、ザルをよく洗ってからにします)。水道水を流し当てながら繭を掻き混ぜて、繭表面に付着している細かいゴミ(糞やコナダニ類など)を洗い落とします。およそ3分間も続けるとゴミはほとんど流れ落ちます。
2.-4 繭の乾燥 予め大きな箱に新聞紙を敷いておき、その上によく水切りした繭を重ならないように薄く並べます。繭を並べた箱を無加温の場所(日光の当たらない場所。強風で飛ばされない場所。凍らない場所:3〜10℃程度)に置きます。半日〜2日もすれば繭表面が完全に乾きます。乾きが遅いと感じられたときには、キッチンペーパーなどで繭を拭いて乾きやすくします。早く乾かすために扇風機で風を当てても良いです。乾燥中にネズミなどの動物に繭が食べられることがあるので、注意してください。
手順3. 繭の保存 繭の表面が乾いたら、集めて保存容器に入れます。春の放飼作業に移行するまでは、野外と同じ温度の場所(高温にならない場所、極端に乾燥しない場所)に保管します。乾燥しないうちに容器に集め入れると、繭にカビが生えることがあります。手順の詳細については、『巣筒の切開』の項を参照。

 繭洗浄処理は、ツノツツハナバチOsmia taurusの繭でも行なうことができます。しかし、ツノツツハナバチの場合、繭がコツノより柔らかいので上記の「こすり洗い」と「すすぎ洗い」をできるだけ優しく行なってください。ただし、繭がどうしても変形してしまう(巣から取り出した時点でも変形する場合が多い)ため、処理効果はコツノの場合より低下します。

 工事中

未処理の繭・・・コナダニが歩いているのが分かりますか? 未処理の繭(拡大)・・・コツノツツハナバチの糞とともに大きなツツハナコナダニと小さなツツハナチビコナダニが見えます。
未処理の繭(さらに拡大)・・・繭糸外層下にツツハナコナダニが数頭確認できます。 「ふるい」処理後の繭・・・左上の写真と比べて少しきれいになったように見えます。しかしコナダニが歩いているのが分かります。繭糸外層は少しも取り除けていません。
砂揉み&「ふるい」処理後の繭・・・繭糸外層が擦られて薄く残っています。ここにもコナダニが数頭確認できます。 砂揉み&「ふるい」処理後の繭(拡大)・・・矢印の先にツツハナコナダニがいます。繭糸外層が残っているその下にはコナダニがいるのです。
洗浄処理後の繭・・・外層がかすかに残っています。ここまで外層を取り除けば、コナダニが隠れる場所はありません。右の写真と比べてみてください。1個ずつ外層を手作業で剥ぎ取らなくても、洗浄処理によってそれに近い状態にできるのです。 繭糸内層(指で外層を完全に擦り取ったもの)・・・この状態に近いほどコナダニが落ちやすい。他の処理繭と比べて見てください。左側にあるのが「小突起」。
洗浄処理後の繭(拡大)・・・繭糸外層の残骸が確認できます。ここまで外層が剥ぎ取れれば、コナダニ類が隠れる場所はありません。 ツツハナコナダニに便乗されたコツノツツハナバチのオス・・・きちんと処理すればこのようなハチは見られなくなります。

コツノツツハナバチ(マメコバチ)の繭の構造
 繭を水に漬けても内部のハチは死なないの?という疑問を解消するには、繭の構造をより詳細に知る必要があります。以下、知らなくても良いことですが、読みたい方はどうぞ。

 上に「繭は、ゆるやかに紡がれた繭糸外層と緻密に紡がれた繭糸内層とに分けられます」と書きました。つまり外層と内層の2層構造ということです。しかし、より厳密に分ければ外層、内層、最内層の3層構造であるといえます(または、外層、中層、内層の表現が良いのかもしれません)。

 外層(outer layer)は白っぽい非常に細い糸で柔らかく、やや膜状となり、より下の層を被覆しています(この層をさらにもう1層に細分し、4層構造とすることがあります)。また、外側では糞と一緒に紡がれています。被覆がゆるく隙間が多いため、コナダニ類はこの層の下に潜り込むことができます。また、繭を指で擦るとこの層は容易に剥ぎ取れます。この層は水をはじき易いことも特徴の一つです。繭洗浄処理のときには、最初に吸水性のある内層によく水に馴染ませることで外層を剥がれやすくしています。
 内層(middle layer)は、少し光沢のあるコルク色(少し明るい茶色?)のやや太い糸で、最内層をぴったりと被覆しています。この内層には吸湿性があります。また、指で擦ってもなかなか剥ぎ取れません。剥ぎ取るためにはナイフなどで少しずつ削ぎ落とす必要があります(ここまでする人はいないでしょうから、繭洗浄処理の解説では2層として記述してきました)。それくらいぴったりと最内層に張り付いているので、この層より下にはコナダニ類は入ることができません。
 最内層(inner layer)は黒褐色(濃い紫色)硬い皮状の層です。3層のなかでは最も密度の高い層となっています。この層は顕微鏡下で見ると、非常に細い糸がタンパク質のようなもので固められていて、やや光沢をもっています(そしてハチがいる内側の面は非常に強い光沢をもちます)。ですから肉眼レベルでは繭糸でできているようには見えません(混入している繭糸は少なく、ほとんどタンパク質様物質でできているのか?)。コツノツツハナバチの繭を指で押すと「パリパリ」と反発するときの音がしますが、その音はこの最内層から出ています。この硬い皮状の最内層が繭内のハチを保護する最も重要な部分です。繭に針を刺そうとしてもなかなか刺さらないのはこの硬い層があるからです。ザルの網目に繭を押し付けるようにして洗浄しても繭が潰れにくいのは、この層のおかげです。そして繭を水に数時間浸しても繭内に浸水することがないのも、この層の存在によるものです(それでも繭を長時間水に漬けておくと、この層は次第に柔らかくなってきます)。そしてこの層は空気も通しません(たぶん)
 今度は、水も通らないほど密閉されているのにどうして内部のハチが呼吸できるのか?との疑問をもつ人が出てくるかもしれません。それにお答えします。繭は一見、俵型に見えます。しかしよく見ると後部は半円形、前部は紡錘形となっており、前部の先端には白っぽい(肌色の)小突起(cocoon nipple)があります(上にある写真「繭糸内層」をご覧ください)。この小突起は外層を剥ぎ取ると良く分かります(このときの直径は2mmほど)。さらに内層を剥ぎ取ると、最内層にも肌色の小突起部分(直径0.8〜0.9mm)があることが分かります。この小突起部分の糸は細く、外層のものに似ています。そして比較的柔らかく紡がれています。小突起の糸を顕微鏡下で微針を使って剥いでいくと、やがて最内層には丸い小さな穴(直径0.6mmほど)が開いていることが分かります。これが内部のハチにとっての空気穴となっているのです。この穴となる場所の外部に厚く盛り上げるように紡いで小突起が作られ、穴が柔らかい糸で塞がれていたのです(というより、最内層を作るときに分泌されるタンパク質様物質?が小突起部には少ししか塗られないため繭糸が皮状にならない?)。小突起は繭糸でやさしく保護された空気の通り道なのです。ここは厚い繭糸層なので水が通過して繭内に入るためには、相当の圧力(または時間)が必要となります。繭内にはハチとともにたくさんの空気が入っていますから、水に漬けてもいつまでも浮いています。この状態では圧力はそれほどかかっていませんので、なかなか浸水しないのです(しかし1日以上水に漬かっていると、小突起部の繭糸は吸水していき、じわじわと繭内に浸水してきます。ハチが溺れるほどの浸水は、2日くらい水に漬かっていた程度では稀にしか起こりません。ただし、営繭する場所(地域)によっては、あるいは細い筒で生産された♀繭では繭糸層が通常より薄くなることがあります。この場合には浸水が早まります)。ですから、繭内に浸水してハチが溺死するより先に空気が遮断されて窒息することになります(ただし、繭によっては比較的早くから浸水するものが時々みられ、この場合には溺死ということになります)
 では、洗浄処理によってで繭内のハチが窒息死することはないのか?という疑問が生じます。少し上に、「繭内にはハチとともにたくさんの空気が入っていますから」と書きました。これがハチが窒息しない1番目の理由です。2番目は、越冬期のハチは休眠状態にあり(ほとんど動かないため)呼吸量が少ないので大丈夫だということです(5℃で休眠しているメス蜂の呼吸量は、人間の2千万分の1程度の極微量です)。洗浄処理を冬から早春のまだ早い時期までの間に行なうのは、休眠がまだ完全には覚醒していない時期だからです。この時期であれば1、2日くらい繭が完全に乾燥していなくても窒息死しません。しかし、休眠状態にあるとはいえ高温にさらされると呼吸量が多くなります(5℃の状態から温度が5〜6℃上昇しただけで呼吸量が倍増します)。洗浄の際に繭を冷水で処理し、無加温で乾燥させるのは、呼吸量増加を防ぐためです。いずれにせよ窒息死が心配なら、繭(厳密には小突起部分)を少しでも早く乾燥させるようにした方がよいでしょう。

繭の最内層・・・ナイフで内層の繭糸を削ぎ落としたもの。繭が濃い紫色に見える。小突起(左側先端部分)は、かなり小さくなる。 最内層(拡大)・・・皮状で、とても繭糸でできているようには見えない。顕微鏡下で針先で削って見ると繭糸が含まれていることが確認できる。
最内層の先端にある小突起部の穴・・・小突起の繭糸を針先で剥いでいくと確認できる。内部のハチにとっては唯一の空気穴となっている。 小突起部の穴(拡大)・・・最内層が少し盛り上がり、中心部に直径0.6mmの穴がある。この部分の繭糸だけは最内層のように皮状にはなっていない。


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